食肉・食鳥肉販売業-2005年
1 概況
2005年
(1)
主婦の買物に最も密着した生鮮3品専門店
  食肉専門小売店は、いわゆる生鮮3品専門小売店の一角を占め、野菜、鮮魚専門小売と並び、家庭料理の素材を提供するもので、主婦の買物に最も密着した専門店である。
 戦後、食の洋風化や日本経済の成長に伴う所得水準の高まりから、消費生活の高度化が進み、食肉消費量 は従来の豚肉に加えて牛肉の消費量が急速に拡大した。特に豚肉の消費が主体であった地方にも牛肉の消費が普及していったため、食肉専門小売店は全国的に増加していった。
(2)
主婦の購買慣習の変化で食肉小売業が激減
  ところが、供給側における流通機構の改革を背景としたスーパーなど大型店の増加、一方、家計部門では共稼ぎ世帯の増加に伴い、主婦の生鮮3品を用いた料理機会の後退や、外食産業の発展による外食・中食の増加などから食肉の消費量 が後退し、家計部門の食肉購買量は減少していった。
 また、主婦の買物行動も、日・祭日にスーパーで生鮮3品までを含めたワンストップショッピングによるまとめ買いに変化していったため、大型小売店と生鮮3品の専門小売店との間で業態間競争が激化し、旧来型の食肉小売店は、厳しい経営環境に置かれ、淘汰と経営合理化の時代を迎えている。「商業統計表」(通 産省)により、生鮮3品専門店について、最も隆盛を誇っていた昭和51年の店舗数と最近年の平成16年と比較してみると、次のようになるが、最も減少しているのは食肉小売業である。

 

生鮮3品専門店の店舗数の推移
(単位:店、%)
 
昭和51年
平成16年
減少数
減少率
野菜果実小売業
66,195
20,450
45,745
69.1
鮮魚小売業
58,057
17,917
40,140
69.1
食肉小売業
43,836
9,827
34,009
77.6
(3)
米国産牛肉の牛海面状脳症(BSE)感染症牛が、食肉販売店を直撃
 最近では2001年の米国産牛肉の牛海面状脳症(BSE)感染症牛の発見を皮切りに、2003年12月に再度問題が発生し米国産牛肉の輸入禁止となった。その後2005年12月12日に2年ぶりに輸入再開となった。しかし、平成16年1月20日成田空港の検査手続きの際、牛海面 状脳症(BSE)対策で除去が義務付けられている牛の脊柱が見つかり、政府はわずかの日数で再び米国産牛肉の輸入停止に踏み切った。牛肉の供給不足が食肉販売店を直撃、国内産の牛肉の価格上昇、牛肉から豚肉への需要のシフトで豚肉の価格も上昇するなど、食肉販売店は米国産牛肉事件に振り回され続けている。また、家計部門も食肉類の価格上昇により、購買の減少、家計支出負担の増大多大の影響を被っている。また、牛丼店の牛丼販売停止など業務用にも大きな影響を与えている。
 平成16年7月27日、政府は米国産牛肉の輸入を課題として残したまま再開することを決定し、8月から国内流通 開始に踏み切った。が、外食産業や食肉小売業界では、取り扱いに慎重な業者が多い。
2 食品衛生法に見る食肉販売業の仕組み
(1)
食品衛生法に沿った営業への取り組みが必要
 食肉販売店は、生の食品を取り扱うだけに、清潔で衛生的な営業を行わなければならない。孫ために、食品衛生法が制定されている。食品衛生法は、食料が十分にない戦後の混乱期時代の昭和22年12月に施行されている。その目的は、食品の安全性の確保のために、公衆衛生の見地から必要な規制、その他の措置を講ずることにより、飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、それにより国民の健康の保護を図ることにある。そこで、公衆衛生に与える影響が著しい34業種については、食品取り扱い、飲食などについて細かい規則を定めている。また、食品、添加物、器具、容器包装等を対象に、衛生について規則や基準が定められている。
(2)
営業許可
  食肉小売店のように公衆衛生に与える影響が大きい営業は、新規開業の際には、営業所ごとに、その営業所を管轄する都道府県知事(保健所設置市または特別 区にあっては、市長または区長)の営業許可が必要である。許可は5年を下らない有効期間等の必要な条件がつけられる。また、都道府県知事が業種ごとに定めた施設を設置することが条件となっている。このほか、食肉販売業では、都道府県知事が定める基準により「食品衛生責任者」を置かなければならない。
(3)
食品等に対する規制
 先に食品等に対する規制について記述したが、具体的にどのような規制があるのか、下記に列挙してみよう。
次の事項に該当する不衛生食品等は、販売が禁止されている。
@
腐敗、変敗したもの、または未熟なもの
A
有毒、有害な物質が含まれ、もしくは付着し、またはこれらの疑いのあるもの
B
病原微生物により汚染されているものや、その疑いのあるもので、人の健康を損なう恐れのあるもの
C
不潔、異物の混入、添加などにより、人の健康を損なう恐れのあるもの
厚生労働大臣が定めた規格、基準が決められた食品等については、基準に合わない方法による製造、加工、使用、調理、販売、規格に合わない食品等の製造、輸入、加工、販売等は禁止されている。主な規格基準の内容は、次のとおりである。
@
食品(成分規格、製造基準、加工基準、調理基準、保存基準)
A
添加物(成分規格、保存基準、製造基準、使用基準)
B
器具および容器包装(材質別規格、用途別 規格、製造基準)
表示の基準が定められている場合には、喜寿に合う表示のないものは、販売したり、販売の用に供するために陳列したり、」または営業上使用したりしてはならない。
販売の用に供し、または営業上使用する食品等を輸入しようとする者は、厚生労働大臣に届出しなければならない。
(4)
食品監視委員の監視・指導
 都道府県の保健所には、食品衛生に関する専門知識を有する食品監視委員が配置されており、営業施設に対し、監視・指導を行っている。
3 食肉販売業の特性
「環境衛生関係営業実態調査」(厚生労働省 平成16年度)により、食肉販売業の特性を見てみよう。
・組織
個人経営39.1%(平成11年55.0%)、株式会社26.7%(同14.1%)、有限会社31.3%(同28.6%)で、平成11年に比べ個人企業の構成比が減り、株式会社が2倍弱に増えている。
・業態別組織
小売専業では個人経営が小売業全体の58.3%を占めている。一方、卸売り専業では、株式会社が卸売業全体の55.8%を占め、対称的な構成となっている。
・卸、小売業の割合
最も多いのは、卸・小売業兼業で全体の59.3%を占めている。小売業のみは33.2%で全体の3分の1、卸業のみは7.5%で少ない。
・店舗の種類
独立店舗84.1%、公設・私設市場内6.9%、百貨店・スーパーマーケット内6.6%。独立店舗を経営主体別 に見ると、個人経営が40.1%で最も多い。
・経営者の年齢
60歳代41.7%で最多。50歳代で「後継者あり」54.5%、60歳代65.4%、70歳代以上81.0%と、高年齢になるにつれ「後継者あり」が多くなっている。
・1日の営業時間
各業態とも10〜12時間が最も多い。特に、小売業は小売業全体のうち10〜12時間営業が62.6%と最も多い。
4 食鳥肉売業の特性
食鳥販売業について、食肉販売業と同じ環境衛生関係営業実態調査」((厚生労働省 平成16年度)の資料により特性を見てみよう。
・組織 個人経営40.9%、(平成11年63.1%)、株式会社37.6%(同13.7%)、有限会社19.9%(同22.0%)となっており、平成11年に比べ個人企業割合が大幅に減少している半面 、株式会社の構成比が高まっている。
・業態別組織 小売専業では個人経営が小売業全体の57.9%を占めている。一方、卸売り専業では、株式会社が卸売業全体の69.4%を占め、食肉小売業と同じように対称的な構成となっている。
・卸、小売業の割合 最も多いのは、卸・小売業兼業で全体の48.6%を占め、小売業のみは31.5%となっている。卸売業のみは19.9%と食肉販売業の7.5%より多い。
・店舗の種類 独立店舗69.6%、百貨店・スーパーマーケット内13.8%、公設・私設市場内12.7%で、食肉販売業に比べ百貨店・スーパーマーケット内や公設・私設市場内の立地の構成比が高くなっている。独立店舗を経営主体別 の構成比で見ると、個人経営が43.7%で最も多い。
・経営者の年齢 60歳代が46.4%で最多。50歳代で「後継者あり」は59.5%、60歳代54.8%、70歳代以上76.5%と、食肉販売業と同様に高年齢になるにつれ「後継者あり」が多くなっている。
・1日の営業時間 各業態とも10〜12時間未満が最も多い。特に、小売業は小売業全体のうち10〜12時間営業が61.4%と最も多い。
5 従業者規模別に見た事業所数
(1)
 平成16年の食肉小売業(卵・食鳥肉小売を含む)の事業所数は14,874店で13年に比べ4,293店減少(22.4%減)している。3年以降は2桁台の減少率で推移していたが、13年に下げ止まりに転じたが、16年は再度大幅に減少している。
(2)
 従業者規模別では、1〜4人規模は11,278店で13年に比べ3,227店減少(22.2%減)している。5人以上は3,596店で13年に比べ1,066店減少(22.9%減)となっており、各規模とも13年に比べ減少している。
食肉小売業の事業所数の推移
(単位:店、%)
調査年 従業者規模別 合計
1〜4人 5〜9人 10〜19人 20人以上
平成8年 (78.2)
18,540
(16.4)
3,878
(4.1)
973
(1.3)
311
(100.0)
23,702
  11年 (77.6)
14,872
(16.5)
3,152
(4.3)
815
(1.6)
313
(100.0)
19,152
  13年 (75.7)
14,505
(17.4)
3,342
(5.1)
983
(1.8)
337
(100.0)
19,167
  16年 (75.8)
11,278
(17.4)
2,585
(5.1)
763
(1.7)
248
(100.0)
14,874
注 ( )内は構成比である。
資料:総務省「事業所・企業統計調査」

 

6 最近の食肉、食鳥肉の消費動向
(1)
牛肉の支出金額は低水準で一進一退で推移
 総務省「家計調査年報」によると、牛肉は平成17年21,324円で前年に比べ1.9%増となっている。支出水準のピークは、平成3年36,779円の58%にまで落ち込んでいる。12年以降の支出は、年間支出20,000円の低水準を中心にして一進一退で推移している。
 牛肉は昭和56年に豚肉の支出金額を追い抜き、それ以降、生活水準の向上と輸入自由化により消費の増加がみられ、右上がりの増勢トレンドをたどったが、平成3年36,779円をピークに傾向的に下降をたどっている。牛海綿状脳症(BSE)発見の厚生大臣の発表が平成13年11月21日であり、それ以前から牛肉支出が長い期間にわたって減少していることは、牛肉に対する消費者の購買態度、嗜好に大きな変化が生じているといえよう。
(2)
牛肉の支出を上回る豚肉の支出
 平成17年の豚肉の支出金額は23,191円で、前年に比べ0.7%と微減。16年が前年比9.2%増と大幅に伸びたのに比べ様変わりしている。しかし、12年以降、毎年牛肉の支出額を上回って推移している。牛肉の支出が13年以降支出水準を低めているが、この間豚肉が牛肉の代替需要の役割を果 たしているという見方が出来る。
(3)
高い伸び率の鳥肉支出
 平成17年の鶏肉支出金額は、10,749円で前年に比べ6.9%増加している。ただし、支出水準は昭和57年の15,111円を頂点にして、昭和63年12,230円と12,000円台へ、さらに5年には11,800円へ、12年以降はほぼ10,000円台へと、支出水準が低下している。
(4)
都市別格差が著しい食肉支出
 平成17年の1世帯当たりの種類別年間消費支出(総務省「家計調査年報」)を都市別 にみると次のとおりになっている。
牛肉
 支出が多い順にみると、1位徳島市41,013円、2位神戸市39,829円、3位 和歌山市38,413円である。徳島市41,013円は全国平均の1.9倍になる。
 半面少ない順にみると,札幌市6,933円、次いで長野市8,643円、前橋市9,306円となっている。となっている。これらの都市の支出は、全国平均の3割強から4割強の水準に過ぎない。また最多支出の徳島市の約5分の1程度に過ぎない。
 牛肉の支出は、概して東日本の北海道、東北、北関東、信越などの都市で支出が少なく、一方、西日本では、津市、大津市を境に大分市までの地域に支出の多い都市が分布している。牛肉の支出は、西高東低が鮮明に色分けされているうえ、都市間の支出格差が著しい。
豚肉
 支出の多い順に、1位仙台市26,744円、2位福島市26,387円、3位 川崎市26,347円となっている。少ない順では、津市16,906円、岡山市17,467円、3位 高知市17,965円となっている。最多支出の仙台市は、全国平均の1.1倍、最少支出の津市は全国平均の7割の水準である。豚肉は牛肉と異なり都市間格差は少ないものの、総じて東高西低の傾向にある。
鶏肉
 最も支出金額が多いのは、1位北九州市15,319円、2位福岡市で14,760円、大津市13,851円の順となっている。少ない順では、長野市6,622円、新潟市7,306円、富山市7,454円となっている。鶏肉の年間支出金額が10,000円以上の都市をみると、東日本ではさいたま市、千葉市、東京都区部、横浜市、川崎市の5都心のみに過ぎない。しかし、静岡市以西では、静岡市、津市、那覇市を除く25市が年間10,000円以上支出している。特に大津市、京都市、大阪市、神戸市、奈良市、和歌山市は近畿周辺の都市は、支出金額が12,000円台から13,800円台の間にあり、全国平均10,749円を上回る都市が分布している。また、九州でも8都市のうち長崎市以外が13,000円台から15,000円台の支出に集中しており、関西、九州では鶏肉に対する嗜好が極めて高い。
7 食肉販売業、食鳥肉販売業の経営上の問題点
(1)
食肉販売業
 厚生労働省「平成16年度生活衛生関係営業経営実態調査」(平成16年10月1日現在)による食肉小売業の経営上の問題点(複数回答)は、1位 「顧客数の減少」79.1%、2位「施設・設備の老朽化」42.6%、3位 「立地条件の悪化」41.3%、4位「諸経費の上昇」33.0%、5位 「後継者難」20.4%である。1位の「顧客数の減少」は2位を大きく引き離しており、ますます競争が激化していることを反映している。それに伴って、自店の経営環境が悪化していることを訴えている。
 今後の経営方針を見ると、1位は「顧客サービスの充実」45.7%、2位 は「銘柄肉等の品揃え」40.0%、3位「専門店化・高級店化」36.1%、4位 「施設・設備の改装」31.7%、5位が「広告宣伝等の強化」の順となっている。対応策は、目先の戦術強化を優先している。
(2)
食鳥肉販売業
 厚生労働省の同じ経営実態調査(平成16年10月1日現在)で食鳥肉小売業の経営上の問題点(複数回答)を見ると、1位 「顧客数の減少」87.7%、2位「立地条件の悪化」31.6%、3位 「諸経費の上昇」29.8%、4位「施設・設備の老朽化」28.1%となっている。食鳥肉小売業では、1位 「顧客数の減少」に次いで「立地条件の悪化」が2位になっており、食肉小売業に比べ経営がより厳しい面 がうかがわれる。今後の経営方針は、食肉販売業と同じである。

 

資料

  1. 総務省「事業所・企業統計調査」
  2. 総務省「家計調査年報」
  3. 金融財政事情「企業審査事典」
  4. 国民生活金融公庫「生活関連企業の景気動向等調査」  
  5. 中央法規「生活衛生関係営業ハンドブック2005」
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