理 容 業-1996年
1.概況
1996年
(1) 事業所数はわずかながら減少 〜小零細規模中心で店主も高齢化の傾向〜
平成6年の全国の理容業の事業所数は、126,026件となっており、昭和 61年をピークにわずかながら、減少傾向にある。1事業所当たりの平均従業 者数は、2.1人で、従業者規模別にみると「2人以下」が、全体の78.7% を占め、「4人以下」では、95.1%に達し、家族従業者を中心にした小零 細規模の業態がほとんどを占めている。
経営実態を「理容業経営実態調査」(全国理容業環境衛生同業組合連合会(以 下「全理連」という)7年度調査)からみると、店主の平均年齢は、54.4 才となっており、60才以上が3割近くを占め、高齢化の実態がみられる。施 設面積は平均で8.6坪、設置椅子台数は平均2.8台、実働椅子台数は2. 3台で63年以降初めて2.5台を割った。又、営業時間は、全国平均で10 時間34分と昭和63年をピークに若干ながら減少を続けてきているが、平成 9年度からの週40時間への法定労働時間の引下げを目前にし、時短が急務の 課題となっている。なお、地域・規模別でみるると、都市よりも郡部、実働椅 子が少ない方が、営業時間が長くなる傾向にある。
(2) 家計消費支出は減少傾向
    「家計調査年報」(総務庁)によると、平成7年における1世帯当たりの年間支出 額は9,370円で、平成5年をピークに若干減少傾向にある。また、5年前(平成 2年)からの伸び率は、14.8%となっているが、この間の消費者物価の伸び率、 (15.8%)を考慮するとほとんど実質的な成長はなく、成熟化の状態にある。
 
事業所数の推移 (単位:件,%)
調査年
従業者規模別
合 計
(参考)
美容業の
事業所数
1〜4人
5人以上
昭和56年
〈96.1〉
122,478
〈3.9〉
5,028
〈 100.0〉
127,506

139.219
昭和61年

〈95.3〉
122,159

〈4.7〉
6,044
〈100.0〉
128,203

156.095
平成3年
〈95.0〉
120,645
〈5.0〉
6,333
〈100.0〉
126,978

164.554
平成6年
〈95.1 〉
119,909
〈4.9〉
6,117
〈100.0〉
126,026

167.565
理容師数

248,906

250,551

250,892

252,705
資料:総務庁「事業所統計調査」(平成6年は名簿整備調査)及び 「衛生行政業務報告」(厚生省) (注) 〈 〉内は構成比である。
2.最近の動向

 

生活水準の向上にともない、ヘアモードに対するニーズの個性化・ファッション化 が進み、近年、男女を問わず若年層における理容店離れ、美容店志向が高まり、理容 店における業態も、従来型のポピュラーショップから高級専門店(ハイグレードスペ シャルショツプ)、チェーン店を主体とした低料金志向の総合理容センター等多岐に 分かれてきている。また、既存店においても、毛髪及び肌の保全、マッサージサービ スを行うなど、サービスの複合化により、利用者ニーズへのきめ細かな対応を図る傾向にある。
(1) 立地条件の多様化
    「理容業利用者動向調査」(全理連7年12月調査)によると、理容店舗の立地条 件は住宅街が47.7%と約半数を占め、次いで商店街36.4%となっているが、 一方、郊外のロードサイドないし大型商業施設内に出店している店舗も10.8%あ り、生活スタイルや顧客ニーズの変化に対応した、立地条件の多様化がみられる。
(2)

多様化・個性化する利用者ニーズ

 
  「平成7年度環衛業に係る消費生活調査報告書」((財)東京都環境衛生営業指導 センター)から利用者サイドのニーズを探ってみると以下のとおりである。
若年層を中心にした「理容」離れと顧客ニーズの二極分化
   調髪の利用先をみると、全体では、80.4%が理容店となっているが、10 〜30才台では、全体の平均を下回り、20才台では、69.4%にとどまって いる(美容店の利用が30.6%)。 次に、目的別の利用状況をみると、「カット・洗髪・顔剃り」のいわゆる「総 合調髪」が8割近くを占めるが、若年層では、「カットのみ」の目的も3割を超 え、「適当な利用時間」についても、10才台で30〜40分の短時間志向が5 割を超える(全体は39.9%)など、若年層を中心に「定番サービス離れ」の 傾向もみられる。
ハードからソフトへ
    理容店の選定基準は、理容業が日常生活に密着した業種であることから、「近 くて便利」が68.1%と圧倒的割合を占めているが、以下の項目をみると「イ メージどおりの仕上げ」25.1%、「待たない・仕上げが早い」19.6%、 「応対が良い」17.8%となっており、「技術・サービス」にかかる評価基準 が重視されている。次に年齢別の切り口でみると、30〜50才台については、 「安心感・応対」といった付加的価値に関心が高いのに対し、10〜20才台は 「安い」等の直接的価値に重きがおかれている点が特徴である。
 

  今後のサービスへのニーズをみると、高齢層では「くつろぎ」志向や割引制度 への関心が高く、20才台では「おしゃれ」志向が目立っている。全般 的には一 定水準の「技術・安全性の確保」を前提にした低料金志向、即ち、コストパフォ ーマンスの高いサービスが求められる傾向にあり、「予約制の導入」、「顧客カ ルテの採用」等きめ細かな経営態勢が必要となってきている。

(3)

重要度増す福祉理容

 高齢化社会の進展に伴い、地域社会の日常生活に密着した理容業に対して高齢者・ 障害者向けのきめ細かいサービス(ケア)が社会的ニーズとして出されている。

 「福祉理容実態調査」(全理連平成8年3月調査)によると、7年度に地方自治体 の予算措置により、福祉理容を行った組合は、全国で31都道府県組合(290自治 体)にのぼる。福祉理容の概要は、65才ないし70才以上を中心にした「高齢者」、 「寝たきり老人」、「心身障害者」を主な対象者とし、調髪料金の一部ないし全額を 自治体が補助する仕組みとなっているが、地方自治体の福祉予算の見直し等の動きも あり、ここ数年は緩やかな拡大にとどまっている。理容業においては、料金設定の検 討、営業施設・設備の改善等、各環衛組合と連携をとった取組みが今後必要性を増してきている。

3.経営上のポイント

 

(1) コミュニケーション・技術・清潔感へのこだわり
   前出の「理容業利用者動向調査」から利用者の「こだわり」度(〈参考〉参照。)を みると、「清潔感、待ち時間」、「カット及びセット技術」、「注文を丁寧に聞いて くれる」、「従業員の話題・人柄」、「似合うヘアスタイルのアドバイス」といった 項目に利用者のこだわりがうかがえる。つまり、顧客と店のコミュニケーションをベ ースにした技術・施設への信頼感の醸成が、お客様を顧客へ成長させていく経営のキ ーファクターのひとつといえる。又、理容の基本的技術のひとつとされる「カット」 にしても、単に髪を切るという機能的価値の追求を一歩踏み出し、ヘアスタイルとい うデザインの創造や顧客の魅力アップにつながるヘアスタイルの提案等が経営の差別 化を図る上で重要となってきている。さらに、今日、年齢を問わずニーズの高まって きている頭髪・頭皮・毛髪の保全にみられるような、髪をとおした健康管理ともいえ る「ヘア・ドクター」や「クリニック」的な役割が求められる傾向にある。
 

(参考)利用者の「こだわり」度(「こだわる」との回答が多かった項目を抜粋)
(単位:%)
項 目
こだわる 全く
こだわ
らない
不明
  とても
こだわる
少し
こだわる
衛生・消毒や清潔感
78.5
37.4
41.1
9.0
12.5
カット技術
77.6
33.7
43.9
13.3
9.1
混雑度や待ち時間
69.0
21.0
48.0
15.2
15.8
注文を丁寧に聞いてくれる
68.5
31.3
37.2
15.8
15.7
従業員の話題や人柄
68.4
24.7
43.7
17.3
14.2
セット技術
65.5
23.9
41.6
20.4
14.0
似合うヘアスタイルのアドバイス
61.4
21.0
40.4
21.6
17.1
毛髪・頭皮・肌の悩み相談
49.1
11.4
37.7
29.6
21.4
店のインテリア
47.6
6.8
40.8
35.5
16.9
(2) 理容業におけるTQCの実践
    理容業においては、技術の提供はもとより、きめ細やかな心配りによる顧客サービ スが経営上の重要なポイントといえる。 このため、日頃から「技術」、「接客」、「サービス」の向上に努める必要がある が、その手法の1つにトータルQCの実践がある。「技術」面では、基本技術や応用 技術の習得を土台とした顧客のニーズに沿った技術の提供、「接客」面 では表情(笑 顔)・身嗜み(清潔感)・言葉(分かりやすさ)の三位 一体となった「顧客の立場に たった応対」、さらに「サービス」面では、テーブル・椅子、雑誌・カタログ等の設 置に工夫を凝らし、顧客にくつろぎと楽しさを誘う「客待ち」空間の演出や、新規顧 客へのカウンセリングといったものがこれに相当すると言える。
4.繁盛店の事例
(1) スピードと質(技術)の両立による経営
 

  A店は、創意工夫により、スピーディーで仕上がりの良い理容サービスの提供を通 し、顧客の信頼感の獲得と口コミによる新規顧客の開拓により、発展を遂げている企 業である。

 ヘアスタイルの多様化が進むなかで、一顧客当たりの所要時間が長くなり、経営効 率が低下する傾向にあったが、スピードパーマ(パーマ液と酸性カラー液を混ぜるこ とによるパーマとヘアカラーの同時技術)の開発により、2時間から40分へ所要時 間を短縮し、時間あたりの付加価値を向上させた。

  一方、時間をかけて心身をリフレッシュしてもらうコースと無駄 を省いた短時間コ ースに分けた方式を設定し、幅広く顧客ニーズに応えることに成功している。

(2) 顧客の特性に合わせたきめ細かな技術サービスの展開による経営
   肌の強さは人それぞれで違うが、B社は、顧客の肌の強さにかかるデータの蓄積管 理とシェービング技術の研鑽、季節・気候を考慮したきめ細かいサービスにより、顧 客の満足感を高める経営で成果を収めている。具体的には、肌の弱い人には、レザー によるシェイビングを行うと出血等の事態も起こりうるため、自店で開発した電子レ ザーにより対応。また、手の冷たい従業員が、お客様の顔に手を沿えると不快感を与 えることもあり、シェービングハンドをはめることを励行。さらに、シャンプーサー ビスについてもシャンプーボールにドライヤーを取付け髪まで乾かすことができるよ うにし、風邪気味やロング・ヘアの顧客にきめ細かい対応を図っている。
【業界豆知識】

●理容師法・美容師法の改正
  近年の科学技術の進歩、消費者ニーズの高度化等に対応し、理・美容師に高度な 技術や一層の衛生水準向上への配慮が求められているところから、理・美容師の資 質向上等のため、平成7年6月に目的規定の新設、免許権者、試験・受験資格等の 改正が行なわれた(法律の施行は平成10年度からとなる。)。

 主な内容は、養成施設への入所資格を中学卒業から、高等学校卒業に引き上げ( 中学卒業者へは厚生省令で経過措置を設けることとなっているが、内容は未定)、 養成施設での修学期間を1年間から2年間とする(従来行われていた実地習練は廃 止)、免許権者を都道府県知事から厚生大臣に改めるというもので、理美容師の資 質の向上と併せて社会的地位の向上を図ろうとする点がねらいである。

 

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