理 容 業-2001年
1 概況
2001年
(1) 事業所数はわずかながら減少、小零細規模中心で店主も高齢化
   平成11年の全国の理容業の事業所数は、123,940件となっており、昭和61年をピークに微減状態で推移していたが、11年は8年の0.4%減を上回る1.3%減となった。従業者数は250,399人で8年に比べ8.6%減となり、美容業の1.7%増と対照的である。1事業所当たりの従業者数は2.0人で8年の2.2人よりわずかに減少している。
 平成8年から11年までの新設事業所数は5,146件であり、これに対して廃業事業所数は6,745件となり、新設事業所数を1,599件も上回っている。開業率は1.5%、廃業率2.0%と廃業率の方が高くなっている。
  平成11年の法・個人別事業所数は、個人が117,721件(構成比95.0%)、法人は6,162件(同5.0%)となり、圧倒的に個人が多い。平成8年に比べると個人が1.3%減、法人も1.4%減と法・個人ともほぼ同じ割合で減少している。
 従業者規模別でみると、4人以下の小規模店は全体の95.2%となっており、8年の94.4%に比べ増えている。8年と比べた増減率では、全部の規模で減少しているが、4人以下が0.5%の微減に対し5人以上の規模はいずれも10%以上減少しており、なかでも20〜29人は37.9%減、50〜99人も50.0%減と大幅に減少している。
   理容師の免許件数は、昭和63年をピ−クに減少していったが、平成7年に再度増え、9年度(年が年度に変更)は前年に比べ比16.3%増と大きく伸びた。10年度には逆に9.1%も減少、そして11年度には過去最高の6,092件となり、前年に比べ28.9%増と再び大幅に増え、9年度以降の増減率は異常な変化をたどっている。これに対して事業所数は減少傾向にあるので、新規理容師の増加は、開業予備者が増えていることを意味し、今後、新規に開業するのか、それによって競争が激しくなり、新陳代謝が促進されるのか注目されるところである。これは、美容業界でも同様な傾向にあり、11年度の美容師の新規免許件数は27,894件と急増しており過去最高となっている。前年に比べると過去にはみられなかった69.5%増と異常な伸びを示している。(厚生労働省「衛生行政業務報告」)
 経営実態を「理容業経営実態調査(平成7年度調査)」〔全国理容業環境衛生同業組合連合会(以下「全理連」という〕)でみると、店主の平均年齢は、54.4歳となっており、60才以上が3割近くを占め、高齢化の実態がみられる。施設面 積は平均28.4?(8.6坪)、設置椅子台数は平均2.8台、実働椅子台数は2.3台で63年以降初めて2.5台を割った。また、営業時間は、全国平均で10時間34分と昭和63年をピークに若干ながら減少を続けてきているが、平成9年度の週40時間への法定労働時間の引下げで、時短が急務の課題となっている。なお、地域・規模別 でみると、都市よりも郡部、実働椅子台数が多いよりも少ない方が、営業時間が長くなる傾向にある。
理容業の事業所数の理容師数の推移
(単位:件,%)
調査年 従業者規模別 事業所数

合計
理容師数

(人)
(参考)
美容業の
事業所数
1〜4人 5人以上
昭和61年 (95.3)
122,159
( 4.7)
6,044
(100.0)
128,203

250,551

156,095
平成3年 (95.0)
120,645
( 5.0)
6,333
(100.0)
126,978

250,892

164,554
平成6年 (95.1)
119,909
( 4.9)
6,117
(100.0)
126,026

252,705

167,565
平成8年 (95.0)
118,586
( 5.0)
6,978
(100.0)
125,564

252,330

171,602
平成11年 (95.2)
117,936
( 4.8)
6,978
(100.0)
123,940

250,987

173,978
資料:総務省「事業所・企業統計調査」及び厚生労働省「衛生行政業務報告」
(注) ( )内は構成比である。
(2) 売上高の波動もたらす利用回数の変動
 「家計調査年報」(総務省)により、1世帯当たり年間の理髪への支出金額をみると平成12年は8,023円で前年に比べ4.5%減となっており、バブル崩壊過程の5年をピ−クにほぼすう勢的に後退している。
 1世帯当たり1年間の利用回数は、昭和50年から54年までは4.0回台で安定していた。しかし、55年以降は、昭和62、63年に多少の上昇はあるが、傾向として平成元年の3.2回まで緩やかに後退した。元年を底に回数が増え始めたが長続きせず、4年の3.6回をピ−クに再度減少に転じ、12年には過去最低の2.5回にまで落ち込んでいる。昭和50年代前半の4.0回に比べると、1.5回も減少していることになる。
 1回当たりの料金は、昭和50年代以降、毎年わずかではあるが上昇してきたが、平成12年は3,131円と前年の3,135円に比べ初めて低下している。
(3) 支出が少い南国の都市
 都市別にみると、理髪料金が10,000万円(全国平均9,114円)を超えているのは山形市、前橋市、金沢市、山口市の4市に過ぎず、一方支出がもっとも少ないのは那覇市で3,775円、次いで長崎市、宮崎市、北九州市、鹿児島市の順となっているが、これら4市の支出金額は6,000円台であり、全国平均に比べ25〜30%少ない。
2 最近の動向
 生活水準の向上にともない、ヘアモードに対するニーズの個性化・ファッション化が進み、近年、男女を問わず若年層における理容店離れ、美容店志向が高まり、理容店における業態も、従来型のポピュラーショップから高級専門店(ハイグレード・スペシャルショツプ)、チェーン店を主体とした低料金志向の総合理容センター等多岐に分かれてきている。また、既存店においても、毛髪および肌の保全、マッサージサービスを行うなど、サービスの複合化により、利用者ニーズへのきめ細かな対応を図る傾向にある。
(1) 立地条件の多様化
 「理容業利用者動向調査」(全理連平成7年12月調査)によると、理容店舗の立地条件は住宅街が47.7%と約半数を占め、次いで商店街が36.4%となっているが、一方、郊外のロードサイドないし大型商業施設内に出店している店舗も10.8%あり、生活スタイルや顧客ニーズの変化に対応した立地条件の多様化がみられる。
(2) 多様化・個性化に変化する利用者ニーズ
 「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成7年度)」〔(財)東京都環境衛生営業指導センター〕により利用者サイドのニーズを探ってみると以下のとおりである。
若年層を中心にした「理容」離れと顧客ニーズの二極分化
 男性の調髪の利用先割合をみると、男性全体では理容店が80.4%がとなっているが、10〜30歳代では69〜76%と全体を下回り、24〜31%が美容院を利用している。とくに20歳代では理容店の利用割合が69.4%と年齢別 階層の中で最低であり、逆に美容院の利用が30.6%ともっとも多い。
 目的別の利用状況では「カット・洗髪・顔剃り」のいわゆる「総合調髪」が8割近くを占めるが、若年層では「カットのみ」の目的が3割を超える。「適当な利用時間」についても、10歳代では30〜40分の短時間志向が男性全体の39.9%を超え53.8%になるなど、若年層を中心に「定番サービス離れ」の傾向がみられる。
ハードからソフトへ
  理容店の選定基準は、理容業が日常生活に密着した業種であることから、「近くて便利」が68%と圧倒的割合を占め、次いで「イメージどおりの仕上げ」25%、「待たない・仕上げが早い」19%、「応対が良い」17%となっており、料金よりも利便性や技術・サービスにかかる評価基準が重視されている。次に年齢別 の切り口でみると、30〜50歳代については、「安心感・応対」といった付加的価値に関心が高いのに対し、10〜20歳代は「安い」等の直接的価値に重きがおかれている点が特徴となっている。 
 今後のサービスへのニーズをみると、高齢層では「くつろぎ」志向や「割引制度」への関心が高く、20歳代では「おしゃれ」志向が目立っている。全般 的には一定水準の「技術・安全性の確保」を前提にした低料金志向、つまり、コストパフォーマンスの高いサービスが求められる傾向にあり、「予約制の導入」、「顧客カルテの採用」等きめ細かな経営態勢が必要となってきている。
(3) 重要度増す訪問による理・美容サ−ビス
 高齢化社会の進展に伴い、地域社会の日常生活に密着した理・美容業に対して、高齢者・障害者向けのきめ細かいサービス(ケア)が社会的ニーズとなっている。そこで、(財)全国生活衛生営業指導センタ−では、理・美容業界において、施設入所・在宅の要介護高齢者を対象にした訪問による理・美容サ−ビスを新たな事業として円滑な実施・普及に向けた基本的な指針を平成12年3月にとりまとめた。指針の内容は@環境整備に係る指針、Aサ−ビス実施に係る指針、B国・地方自治体に関する指針の3部からなっており、各指針の骨子は下記の通 りである。
環境整備にかかる指針
  (ア) 理・美容業者の意識啓発
(イ) 訪問理・美容サービスに当たっての講習会の開催
(ウ) 介護サービスとの連携
(エ) サービス実施に係る標準マニュアルの作成
(オ) 理・美容業者の介護サービス資格取得支援
(カ) 実施体制の検討
(キ) 事故の補償、苦情相談窓口の整備
(ク) 専用車・必要機器等の整備・開発、ディサービスセンタの活用
(ケ) 高齢者・障害者等へのPR
(コ) 関連機関との連携
(サ) サービス料金体系の検討
サービス実施に係る指針
  (ア) 利用者に対するサービス内容の十分な説明
(イ) サービスの実施に係る事前、実施中、事後における留意事項
(ウ) サービスの管理
国・地方自治体に関する指針
 

(ア) 国に関する指針

   @ 介護保険制度への取り組み
   A 関連制度の改正・整備

(イ) 地方自治体に関する指針

   @ 市町村による助成

   A 関連規制の緩和、事務手続きの簡素化

3 経営上のポイント
 従来の経営方法から脱却して、時代の変化や顧客のニ−ズを取り入れた経営を行っている企業の実例を、以下に経営のポイントとして掲げてみよう。
(1) 新しい時代にマッチした経営
 予約性
 サラリ−マンが多い地域や土、日、祝日など混雑する日のみ予約制を実施する。
 専門コ−ナ−
 ゆったりと施術を受けられるよう店内はすべて個室にしたり、シニア、ヤング、レディスの各専門コ−ナ−を設ける。
 高度のサ−ビス
 完全無添加のシャンプ−、薬剤等による毛髪、頭皮のケアやマッサ−ジ施術、中年以上には育毛の知識の啓発、若い世代には簡単な顔面 エステを導入。
 高齢化への対応
 従業員を客層別配置に切り替える。来店困難な高齢者に対して出張サ−ビスを導入する。
(2) 顧客のニ−ズに沿った技術の提供を図る
  ヘアクリニックサロンとして豊富な専門知識を生かし、服装のおしゃれから頭髪までの総合的な相談に応じて店の信頼度を高めたり、店独自のヘア−スタイルを工夫し来客に推奨、普及を図る。
  若年層から年配者までの幅広い顧客に技術力の高さで満足感を与えるため、常に新しい技術やヘアスタイルの開発に努力したり、理容技術大会に出場し、技術面 での信頼を得る。
(3) 顧客に対するサ−ビス面の充実
 ・ 子供や高齢者に対しては、昼間の時間帯に低料金制の導入を図る。
・ 顧客カ−ドにより誕生月の来店客にバ−スデーのプレゼントを贈呈する。
・ 待合室を喫茶コ−ナ−とし、若者の人気を呼んでいる。
・ 店内の入念な清掃とさわやかな挨拶の励行を徹底し、明るいサロンづくりに努力する。
(4) 顧客管理の徹底を図る
   コンピュ−タ−の導入によりカルテを作成し、来店サイクル、ヘア−スタイルの変化などを分析し、的確な顧客管理の徹底を図る一方、サイクルに合わせたDM作戦にも活用している。
(5) 従業員育成と技術的養成を図る
 理容業は、技術のみでなくサ−ビス業であることを徹底させ、心で接する従業員教育を徹底し、顧客定着率を高めている。
 店の2階を研修室に改造し、週数回の全店勉強会を開催して従業員の技術向上の意識を高め、技術大会にも出場させている。
4 工夫している事例


☆ スピードと質(技術)の両立による経営  技術中心の発想で経営
(1) 企業概況
  •  立地:埼玉県 住宅地で1店経営
  • 創業:大正初期(現在4代目)
  • 従業者:10人(うちパートなし)
  • 椅子席数:7台 稼働率6.8回転
  • 経営理念:「心穏やかに、技術を磨き、常に健康であれ(心・技・体)」「お客さんに心から御礼をする気持ちを忘れないこと。(礼節)」
4代目として継承したときは、事業主を含め従業者は3人だったが、現在では10人までに成長している。成長要因は次のとおりである。
(2) 売り物は技術
  経営者は理容技術者の全国大会に県代表として出場経験をもつだけに、親から引き継いだ以降、技術を売り物にしてきたが、周辺に団地ができ各地から移転して来た新しい感覚の顧客が来店するようになり、売り物の技術が一段と生かされるようなっている。
(3) 時代にかなった経営方針を採用
   顧客が便利に感じるサ−ビスの提供と、時代に適応した経営を行うように力を注いでいる。主な顧客に対するサ−ビスは、@電話予約の取扱い、A雑誌等によるヘア−スタイルの確認、B先着順の番号札の活用、Cメンバ−ズカ−ドの発行し、1,000円で1点とし、50点になると好きな化粧品と交換、D顧客紹介制度を設け、紹介してくれたお客にはポイント5点を加算するなどを行っている。
(4) 顧客のニーズは悪のための工夫
   男性の顧客の大半は都心に勤務しているサラリ−マンが多く、おしゃれ感覚を身に付けているので、雑誌、理容組合ニュ−スや、顧客との対話等を参考にして新しいヘア−スタイル開発の参考にしている。
(5) 従業員には厳しいしつけで対応
   技術を売り物にしているだけに、従業員には技術面 の研修を徹底している。修業を目的としている従業員は全員賄い付きの住み込みにさせ、しつけを厳しく仕込み、ほぼ5年を目安(見習からの従業員は8年)に親元の家業に戻している。
(6) 駐車場を確保
   自動車保有率の高い地域だけに駐車場の確保は不可欠の条件である。現在10台確保しているが、休日になると車でくる子供連れの顧客が多くなり、副次的な効果 をあげている。
 当店は都市圏の人口流入の激しい新興住宅地において人口急増以前から経営されてきている。人口の増加に伴い、顧客ニ−ズが一変する経営環境の中で成長できたのは、38歳で家業を継いだときから絶えず一歩先を考えた行動をモット−に、経営環境の変化にうまく対応できたことによる。2代目としての宿命を見事に乗り越え、時代の変化を視野にいれ、先代を越えて成長した事例である。また、受け入れた同業者の子弟の教育方針は、単なる後継者づくりに止まらず、より良い経営者としての後継者づくりに徹しており、今後、低料金を武器に参入してくるアウトサイダ−などとの対抗力を付ける方法を、自らお手本として実践している事例でもある。 

資料
  1. 総務庁「事業所統計調査」
  2. 総務庁「家計調査年報」
  3. (財)東京都環境衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成7年度)」
  4. (財)全国環境衛生営業指導センタ−「成功事例調査」
  5. 中小企業リサ−チセンタ−「日本の生活関連サ−ビス業」
  6. 金融財政事情「企業審査事典」
  7. 経営情報出版社「業種別業界情報」’98年版
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