理 容 業-2003年
1 概況
2003年
(1) 微減に歯止めがかからない事業所数、小零細規模中心で店主も高齢化
  理容業は人手による施術がサ−ビスの中心であり、機械等による1人当たりの所要時間を短縮することは困難で、労働生産向上には制約が伴う典型的な労働集約型の業態である。従業員を2倍に増やしても、売上げは2倍以上にはならず、また、規模を拡大してもコスト削減が不可能であり、スケ−ルメリットが働かない業種である。   理容業の新規開業は、投下資本が比較的少なくてすむことから新規参入のハ−ドルは高くはないが、過当競争を反映して、新規開業者は昭和53年の8,985件をピ−クに傾向的に減少し、平成13年度にはほぼ半減している。しかし、最近は、JR、私鉄の構内等に10分間で1,000円のカット専門理容という新業態店が急速な勢いで多店舗展開をしており、この先発企業に追随する同種類の理容店も出現するなど、既存業者にとっては新たな問題に頭を痛めている。
  平成13年の全国の理容業の事業所数は、122,859店であり11年に比べると0.9%減となっている。昭和61年をピークに事業所数は減少に転じたが、微減状態に歯止めがかかっていない。   従業者数は262,005人で、11年に比べ4.6%増となり、8年対比11年の8.6%減少から再び増加に転じている。1事業所当たりの従業者数は、2.1人で美容業の2.6人より少ない。  16年度は、従来と異なった新たな変化が生じているのではなかろうか。一つは供給側の経営益環境の変化が一段と加速していることが予想される。価格破壊の新業態が大都会のみならず地方都市まで進出し、既存業者の固定客が奪い取られるなどの問題がより深刻化していることが考えられる。
  ちなみに、総務省「事業所・企業統計調査」によると、常用雇用者無しの店舗は平成13年69,951店だったものが、16年度には68,123店と3年間で1,828店も減少(減少率2.6%)しており、競争激化は零細規模店にしわ寄せされている様相がうかがわれる。なお、理容業の事業所数全体に占める常用雇用者なしの事業所数の割合は、16年56.9%は、生活衛生関係営業の各業種の中で最大である。
  半面、需要側で見ると、地方では人口が一段と減少、また高齢化の一層の進捗、来店サイクルのさらなる長期化など顧客を巡る環境も一段と厳しさが増している。来店者数が従来以上に加速して減少している。
  平成13年の法・個人別事業所数は、個人が116,519店(構成比94.9%)、法人は6,305店(同5.1%)となり、圧倒的に個人が多い。平成11に比べると個人が1.0%減、法人は2.3%増と法人化への傾向がうかがわれる。
  事業所数を従業者規模別でみると、4人以下は全体の95.1%となっており、9人以下でみると99.3%と大半が小零細規模店である。11年と比べた増減率では、1〜4人0.9%減、5〜9人0.2%減に対して、10人以上は1.8%増となっており、8年対比11年では全部の規模で減少していたものが、13年は様変わりしており、一部に規模大への拡張がみられる。
  理容所の新規営業所の使用確認件数は、平成13年度4,267店で前年比5.2%減であった。対前年比でみると、10年度5.9%増,11年度9.5%増が12年度には12.9%減、13年度5.2%減と変化している。(厚生労働省「衛生行政報告例」)
 理容師の免許件数は、平成13年度は3,812件で12.3%減となっている。過去最高の11年度6,092件に比べると37.4%減であり、最近は入職希望者が激減している。この間の新規営業所の使用確認件数は17.5%減を大きく上回る減少である。(厚生労働省健康局生活衛生課調べ)
 就業理容師数は、平成13年度は250,764人で前年に比べ0.2%減となっている。対前年の増減率でみると、10年度は前期並み、11年度は0.3%減、12年度は前期並みに推移しており、就業理容師数は伸び悩み状態にある。


理容業の事業所数の理容師数の推移
(単位:店,%)
調査年 従業者規模別 事業所数

合計
理容師数

(人)
(参考)
美容業の
事業所数
1〜4人 5人以上
平成6年 (95.1)
119,909
( 4.9)
6,117
(100.0)
126,026

167,565

252705
平成8年 (95.0)
118,586
( 5.0)
6,978
(100.0)
125,564

171,602

252,330
平成11年 (95.2)
117,936
( 4.8)
6,978
(100.0)
123,940

173,978

250,987
平成13年 (95.1)
116,842
(4.9)
6,017
(100.0)
122,859
180,085 250,764
資料:総務省「事業所・企業統計調査」及び厚生労働省「衛生行政業務報告」
(注) ( )内は構成比である。

(2) 売上高の波動もたらす利用回数の変動
 「家計調査年報」(総務省)による1世帯当たり年間の理髪への支出金額は、平成13年は7,313円で前年に比べ2.5%減となっており、バブル崩壊後の5年をピ−クにほぼすう勢的に後退している。5年の支出額9.956円に比べると26.5%と大幅に減少している。
 1世帯当たり1年間の利用回数は、昭和50年から54年までは4.0回台で安定していた。しかし、55年以降は、昭和62、63年に多少の上昇はあるが、傾向として平成元年の3.2回まで緩やかに後退した。元年を底に回数が増え始めたが長続きせず、4年の3.6回をピ−クに再度減少に転じ、14年には過去最低の2.4回にまで落ち込んでいる。昭和50年代前半の4.0回に比べると、1.6回も減少し、理髪サイクルが長期化している。
1回当たりの料金は、昭和50年代以降、毎年わずかではあるが12年まで上昇してきたが12年から低下に転じ、14年は前期比1.3%減の3,015円となっている。
2 最近の動向
 生活水準の向上にともない、ヘアモードに対するニーズの個性化・ファッション化が進み、近年、男女を問わず若年層における理容店離れ、美容店志向が高まり、理容店における業態も、従来型のポピュラーショップから高級専門店(ハイグレード・スペシャルショツプ)、チェーン店を主体とした低料金志向の総合理容センター等多岐に分かれてきている。また、既存店においても、毛髪および肌の保全、マッサージサービスを行うなど、サービスの複合化により、利用者ニーズへのきめ細かな対応を図る傾向にある。「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成7年度)」〔(財)東京都環境衛生営業指導センター利用者〕により利用者サイドのニーズを探ってみると以下のとおりである。
(1) 多様化・個性化が目立つ利用者ニーズ
 男性の調髪の利用先割合をみると、男性全体では理容店利用が80%だが、10〜30歳代では73%と全体を下回り、27%が美容院利用者となっている。特に20歳代では理容店の利用割合が69%と年齢別 階層の中で最低であり、逆に、美容院の利用が30%と最も多い。若年層を中心にした「理容」離れと顧客ニーズの二極分化が進んでいる。  目的別の利用状況では、「カット・洗髪・顔剃り」のいわゆる「総合調髪」が8割近くを占めるが、若年層では「カットのみ」の目的が3割を超える。「適当な利用時間」についても、10歳代では30〜40分の短時間志向が男性全体の39%を超え53%になるなど、若年層を中心に「定番サービス離れ」の傾向がみられる。
(2) 顧客の選定基準はハードからソフトへ変化
 理容店の選定基準(複数回答)は、理容業が日常生活に密着した業種であることから、「近くて便利」が68%と圧倒的割合を占め、次いで「イメージどおりの仕上げ」25%、「待たない・仕上げが早い」19%、「応対が良い」17%となっており、料金よりも利便性や技術・サービスにかかる評価基準が重視されている。次に年齢別 の切り口でみると、30〜50歳代については、「安心感・応対」といった付加的価値に関心が高いのに対し、10〜20歳代は「安い」等の直接的価値に重きが置かれている点が特徴となっている。   今後のサービスへのニーズをみると、高齢層では「くつろぎ」志向や「割引制度」への関心が高く、20歳代では「おしゃれ」志向が目立っている。全般 的には一定水準の「技術・安全性の確保」を前提にした低料金志向、つまり、コストパフォーマンスの高いサービスが求められる傾向にあり、「予約制の導入」、「顧客カルテの採用」等きめ細かな経営態勢が必要となってきている。
(注)理容に関する「環衛業に係る消費生活調査」は平成7年度以降行われていない。
 
3 経営上のポイント
 従来の経営方法から脱却して、時代の変化や顧客のニ−ズを取り入れた経営を行っている企業の実例を、以下に経営のポイントとして掲げてみよう。低い労働生産性、典型的な労働集約型業種
(1) 新しい時代にマッチした経営
予約性
  サラリ−マンが多い地域や土、日、祝日など混雑する日のみ予約制を実施する。
専門コ−ナ−
  ゆったりと施術を受けられるよう店内はすべて個室にしたり、シニア、ヤング、レディスの各専門コ−ナ−を設ける。
高度のサ−ビス
  完全無添加のシャンプ−、薬剤等による毛髪、頭皮のケアやマッサ−ジ施術、中年以上には育毛の知識の啓発、若い世代には簡単な顔面 エステを導入。
高齢化への対応
  従業員を客層別配置に切り替える。来店困難な高齢者に対して出張サ−ビスを導入する。
(2) 顧客のニ−ズに沿った技術の提供を図る
  ヘアクリニックサロンとして豊富な専門知識を生かし、服装のおしゃれから頭髪までの総合的な相談に応じて店の信頼度を高めたり、店独自のヘアスタイルを工夫し来客に推奨、普及を図る。
 若年層から年配者までの幅広い顧客に技術力の高さで満足感を与えるため、常に新しい技術やヘアスタイルの開発に努力したり、理容技術大会に出場し、技術面 での信頼を得る。
(3) 顧客に対するサ−ビス面の充実
  • 子供や高齢者に対しては、昼間の時間帯に低料金制の導入を図る
  • 顧客カ−ドにより誕生月の来店客にバ−スディプレゼントを贈呈する
  • 待合室が喫茶コ−ナ−になっているので、若者の人気を呼んでいる
  • 店内をくまなく清掃し、さわやかな挨拶の励行徹底。明るいサロンづくりに努力
(4) 顧客管理の徹底を図る
 コンピュ−タの導入によりカルテを作成し、来店サイクル、ヘアスタイルの変化などを分析し、迅速、的確な顧客管理の徹底を図る一方、サイクルに合わせてDM作戦にも活用している。。
(5) 従業員育成と技術的養成を図る
  理容業は、技術のみでなくサ−ビス業であることを徹底させ、心で接する従業員教育を徹底し、顧客定着率を高めている。
 店の2階を研修室に改造し、週数回の全店勉強会を開催して従業員の技術向上の意識を高め、技術大会にも出場させている。
4 工夫している事例
(1) 企業概況
  • 所在地 :近畿地方
  • 創  業 :昭和45年(現在の経営者は2代目)
  • 店舗数 :1店 ・ 設  備 :電動理容椅子 6台(全席バリアフリ−対応)
  • 従業者 :5名(家族従業員2名、従業員3名、うち理容師5名)
  • 駐車場 :3台
(2) 経営環境
 顧客が便利に感じるサ−ビスの提供と、時代に適応した経営を行うように力を注いでいる。主な顧客に対するサ−ビスは、@電話予約の取扱い、A雑誌等によるヘア−スタイルの確認、B先着順の番号札の活用、Cメンバ−ズカ−ドの発行し、1,000円で1点とし、50点になると好きな化粧品と交換、D顧客紹介制度を設け、紹介してくれたお客にはポイント5点を加算するなどを行っている。
立地条件
  県庁所在地のJR駅前にあり、周辺は大阪、京都のベットタウンとして大型マンションや1戸建て住宅が大量 に建築され、人口が増加している地帯である。
競合状況
 周辺に同業者が6店あるほか美容室の進出がめざましく、従来からの5店に加え新規に10店も新規参入があり、若い男性顧客を巡って激しい競争状態に陥っている。
(3) 経営上の問題点
下記の理由で将来の経営維持について、不安を感じていた。
高齢化の進展や長引く不況で固定客の来店周期の長期化
周辺に進出の低料金店に顧客が流失、特に子供の流出が多い
中高校生や若い人の一部の美容室への流出
新しいメニュ−開発、おしゃれで快適な店づくりやPRがなされていない
(4) 問題解決に向けての工夫
  技術を売り物にしているだけに、従業員には技術面の研修を徹底している。修業を目的としている従業員は全員賄い付きの住み込みにさせ、しつけを厳しく仕込み、ほぼ5年を目安(見習からの従業員は8年)に親元の家業に戻している。
快適な環境づくり
  高齢者、身体障害者等に対してやさしいバリアフリ−を行うとともに、床暖房、空気清浄機の設置、軟水器の導入を行い、常に衛生的で快適な空間を提供し、「憩いのひととき」の場所となるように配慮した。
へアシャンプ−のできる理容椅子の設置
 この設備により洗髪後のマッサ−ジによるリラクゼ−ションを行うことが可能になり、これによりマッサ−ジコ−スのメニュ−開発ができた。
女性客への配慮
  店舗の外に男性と女性の大きな写真を掲げ、女性も入りやすいイメ−ジ作りを行い、女性客は女性理容師が担当するように配慮している。また。エステなどは仕切りをした個室内でできるようにし、タオルの色もピンクにするなど快適な雰囲気づくりに努めている。
新メニュ−の開発
 マッサ−ジコ−ス、ヘアダイ(毛染め)、エステなど新メニュ−を開発。同時にリニュ−アルのための休業期間を利用して、新メニュ−の技術修得のため、関係助成金を得て従業員を研修や講習に派遣した。
写真、図解入りのメニュ−ブックの作成
  写真、図解入りで説明することにより、客はメニュ−の内容がよくわかり、初めてのメニュ−も安心して利用できるように改善した
(5) 対策、工夫の効果
 新設のマッサ−ジコ−スが多くの来店客に好評で収入増加に結びついている。現状では、顧客の来店周期を回復させるまでに至らないが、いずれPR効果 や口コミでマッサ−ジコ−ス目当ての顧客の増加に期待をかけている。
  対策実施後、女性客が多く来店するようになり、従来、来店客数の1割程度だっものが2〜3割を占めるまでに増えている。また、女性客は子供など家族を伴って来店するケ−スが多く、思わぬ 客数増加の効果が現れている。
 新メニュ−の提供により客単価が上昇、また、女性客の増加も加わったことにより売上げが回復し、現在は増収基調にある。
(6) 問題点解決の背景
  まず、経営者が問題点をしっかりと把握し、これを解決するために明確な目標を掲げ、それに向け適切な対応策を計画し、実践に移したことが指摘できる。次いで、経営者がリニュ−アルに当たり最新の機器や施設の見学を6カ月間もかけて行い、設備およびサ−ビスの方法について徹底して検討を重ねたことである。なかでも、へアシャンプ−ができる理容椅子との出会いが、バリアフリ−をはじめマッサ−ジコ−スなどの新メニュ−開発のきっかけともなり、順次問題解決に結びついていった。

資料
  1. 総務省「事業所・企業統計調査」
  2. 総務省「家計調査年報」
  3. 厚生労働省「衛生行政報告例」
  4. (財)東京都生活衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活調査報告書」平成7年度
  5. 全国生活衛生営業指導センタ−「成功事例調査」
  6. 中小企業リサ−チセンタ−「日本の生活関連サ−ビス業」
  7. 金融財政事情「企業審査事典」
  8. 中央法規「生活衛生関係営業ハンドブック2003」
  9. 国民生活金融公庫「経営の工夫事例」(理容業、美容業)平成15年3月
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