すし店-1996年
1.概況
1996年
(1) 一般飲食店の約1割を占めるすし店 〜零細規模中心だが徐々に大型化の波も〜
 平成6年の全国のすし店の事業所数は45,563件で、平成3年 に比べると293件、0.6%の減少であり、一般飲食店全体と同様に減少 傾向が続いている。
 従業者規模別でみると、一般飲食店全体では、従業者数4人以下の 事業所が全体の70.0%であるのに対し、すし店では74.2%となって いる。また、平均従業者数も4.3人(一般飲食店全体では5.3人)であ り、すし店は飲食店のなかでも零細規模の割合が高いのが特徴である。
 さらに事業所数の推移を従業者規模別でみると、最近8年間(昭和 61年→平成6年)で、従業者数4人以下の事業所が大幅に減少している (▲3,035件)。一方で、従業者5人以上の事業所は逆に増加 (+597件)している。このことから徐々にではあるが、小規模店の淘汰 と店の大型化が進んでいることがうかがえる。
 

事業所数の推移

(参考) 一般飲食店全体
(単位:件,%)
(単位:件,%)
調査年
従業者規模別
合 計
1〜4人
5人以上
昭和61年
〈76.7〉
36,821
〈23.3〉
11,180
〈 100.0〉
48,001
平成元年

〈72.3〉
33,145

〈27.7〉
12,711
〈100.0〉
45,856
平成4年
〈74.2〉
33,786
〈25.8〉
11,777
〈100.0〉
45,563
合 計
従業者1〜4人
〈78.6〉
400,955
〈100.0〉
510,101
〈74.4〉
365,733
〈100.0〉
491,359
〈71.7〉
339,661
〈100.0〉
474,048

資料:総務庁「事業所統計調査」(平成6年は名簿整備調査)
(注) 〈 〉内は構成比である。
(2) 客単価は高いが、最近は低迷
 一般にすし店の客単価は他の業種に比べて高いといわれている。 実際に客単価別の商店構成割合をみても、客単価1,000円以上の店が全 体の79.5% (一般飲食店全体では24.7%)、客単価2,000円以上 の店でみても全体の24.3%(一般飲食店全体では7.3%)となっており、 その特徴が伺えるところである。(通産省「商業統計表(一般飲食店)」(平成 4年)。
 総務庁「家計調査年報」によると、平成7年におけるすし店に対 する1世帯当たりの年間支出額は18,980円で、前年比では+1.9% (一般外食費全体では▲0.2%)と持ち直しつつあるが、ピーク時(平成3年 20,583円)から比べると、▲7.8%の減少となっている。
 景気回復の遅れに加えて最近の「官官接待自粛」の影響も重なっ たことから社用族を対象とした高級飲食店は売上の低迷に喘いでいるが、客 単価が比較的高いすし店もかなりの影響を受けている様子がうかがえる。
(3) 景気回復の遅れによる売上低迷に加え、構造的な「すし離れ」へ の対応が急務
 7年におけるすし店への1世帯あたりの年間支出額は、10年前 に比べて5.4%の増加であるが、一般外食費全体の伸び率が27.5%で あるのに比べ、その伸び率は低く、このため、一般外食費全体に占めるすし 店への支出額の割は相対的に低下(14.1%→11.7%)している(総務庁 「家計調査年報」)。
 「環境衛生関係営業の実態と今後のあり方(飲食業(鮨商))平成5 年度経営診断報告書」(東京都衛生局生活環境部)でも「すし」の売上の伸び 悩みについてふれているが、その理由としては(a)消費者の食生活の多様化 (b)食生活の嗜好変化(c)魚介類の高騰による販売価格の上昇(d)暗算勘定 方式の不明瞭な会計方法などが挙げられている。
 このような構造的な「すし離れ」への早急な対応が、今後のすし 業界の課題といえる。
2.最近の動向
(1) 競合形態の相次ぐ出現等により、すしに対する割高感が増加
 

  「日経レストラン」(日経BP社)が東京及び大阪在住の消費者モニターを対象として平成6年9月に行った「外食値ごろ感調査」によれば「にぎり寿司(並)」 の現状価格(推計)は1,100円で、前回調査時(平成4年)に比べわずか10円の上昇に留まっているが、今回これを「高い」と答えた者は、全体の49.8%にのぼっており、前回調査時に比べても6.7%の増加となった。

 また、「高い」とした理由については(a)味や質が悪い(b)量が少ないという回答が多かったが、これを年代別 でみると、特に若い年代ほど量についての不満が多いという結果となった。この回答結果 は、景気が低迷していることに加えて、低価格帯で類似商品を提供できる「コンビニエンスストア」、「ファミリーレストラン」などの相次ぐ出現により、消費者の値ごろ感に変化が生じているためと考えられる。

(2) 顧客ニーズの変化に伴って多様化
回転ずしチェーン店
一時、同業間の競合激化や食材の高騰、他業態レストランの出現等により、頭打ちとなった「回転ずし」が再び台頭している。この理由としては(a)消費者の価格に対する意識がより敏感となったことにより、「回転ずし」の値ごろ感が見直されたこと(b)チェーン店同士の合併等業界内の再編成が進んだことにより、顧客ニーズに合った店造りを可能とするだけの企業体力が蓄積されたこと(c)炊飯・保温機器を始めとした周辺機器の技術革新が進み、質的満足度の高い商品を提供できるようになったことなどが挙げられる。
「平成7年度環衛業に係る消費生活調査報告書」((財)東京都環境衛生営業指導センター)によると、「ここ1年間に回転すし店を利用した」と回答したものは、「よく」と「時々」を合わせて、全体の55.8%となっており、過半数のものが回転ずし店を利用している。
「月刊食堂」((株)フードビジネス)の調査によると、大手回転ずしチェーン店の業態について(a)客単価は1,000円前後に集中し(b)諸経費率は、人件費率約2割、原価率約4割が一般 的とされている(「アトムボーイ」チェーンでは人件費率19.5%、原価率38%、「マリンポリス」チェーンでは人件費率20%、原価率は43%)。これは、従来のすし店の人件費率31.3%、原価率45.4%(「小企業の経営指標(国民金融公庫1996年調査)」)と比較しても、収益面 で優れた数値といえる。
宅配ずしチェーン店
  ここ2〜3年、市場規模は小さいものの、徐々に世間の注目を集めている業態に「宅配ずし」がある。

 「日経レストラン 96.2.7号)」(日経BP社)によると、「宅配ずし」が注目すべき業態として紹介されている理由として(a)店造りの簡略化により初期投資を抑えられる(b)一般 飲食店と違って、比較的立地を選ばない(c)高性能周辺機器(すしロボット等)や冷凍技術の高度化により、経験が浅くても比較的簡単にすしネタが扱えるようになった(d)特に都市部のすし店においてその出前機能が弱体化しており、隙間産業としての成長性が見込めるなどが挙げられている。

 店によっては、持ち帰り用の物販スペースを持つ場合もあるが、飲食スペースはなく、店舗の実態も看板と出前用バイク等でようやく分かる程度である。宅配エリアは宅配ピザとほぼ同様に約1〜2km、一般 家庭における「イベント需要」をターゲットとし、取扱商品もオーソドックスな握りずしのパーティ桶が中心(3,000円〜5,000 円)。具体的な販売促進としては、チラシ、メニュー表の新聞折り込み、ポスティング等といったところが「宅配ずし」の一般 的な業態といえる。

  また、午後6〜8時に注文が集中する傾向が強いことから、チェーン店によっては、全店にコンピユーターを導入し、前年同日の注文内容、注文実績等のデータを蓄積し、作業効率の向上に役立てているところもある。今後は「宅配ずし」同士での競合も予想されることより、引続き動向が注目されるところである。

3.経営上のポイント
 すし店を取り巻く経営上の問題点としては、通常(a)他業種との競合 等による売上の伸び悩み(b)原材料である魚介類等の仕入価格の上昇による コスト増(c)人件費の上昇、見習・職人の恒常的な不足などが挙げられる。

 「平成7年度環衛業に係る消費生活調査報告書」((財)東京都環境衛 生営業指導センター)でも、「すし店に対する具体的な意見、要望」として、 「ファミリーレストランの方が高齢者や子供用のメニューが豊富であり、 家族連れで入りやすい。」、「本来にぎり寿司は庶民の食べ物だったはずだ が、いつの間にか高級料理になってしまっている。」、「職人が少ない店が 多く、なかなか構ってくれない。」などの声が挙がっており、これを裏付け るものといえる。

  今後、売上を確保し、他業種との競合にも生き抜いていくには、食 生活の変化に伴って多様化する消費者ニ−ズを的確に捉え、単なる「満腹感」 から「新鮮なもの」、「健康的なもの」、さらには「他にないもの」など幅 広い要求に応えていくことが必要である。

 そのためには(a)商品品質の維持向上−伝統的な技術を基にした新種・ メニューの開発、盛りつけの工夫等(b)施設・設備の近代化(c)経営方針の 明確化(d)食材の有効利用、調理技術の開発等による経費の節減など、経営 の合理化・近代化に努めていかなければならない。

 

4.繁盛店の事例
(1) 仲買人との連携による効率的な仕入れとタイムリーな販促活動
 

 新興住宅地に立地するA店は、住宅地にマッチした清潔で品のよい店 造りに努める傍ら、店脇にはテイクアウトの店を配置することにより、雰囲 気と価格の両面で地元客の獲得に成功している。

 また、仲買人とたえず連絡を取り合うことにより、良質のマグロ等を より安く買取ることが可能となっており、安定的な仕入を実現している。さ らに、あらかじめ登録しておいたお得意様名簿を基にして、旬の魚の入荷状 況等をハガキで知らせることにより、タイムリ−な販促活動に結びつけてい る。

(2)

同業者の子息の積極的な雇用により人材不足を解消
 

 東京都内の商店街に立地するB店は、他にも都内に2店舗を有し、従 業者も3店舗合計で16名を数える。従業員は組合の会合等を通じて募集す るため、同業者の子息を預かることが多い。修業期間は限られる(通 常3〜 5年)が、目的を持ってやってくるので、全般的に質の高い従業員を確保す ることが可能となっている。

 また、近くに従業員用のマンション5室を借り、遠隔地の従業員の 雇用にも対応している。

【業界豆知識】
(1) 「11月1日全国すしの日」事業
 

 昭和36年の全国大会ですし業のPRの一環として提唱され、以後、 今日に至るまで続けられている。年1回、日頃の顧客に対する謝恩と新たな 需要拡大を目的として各都道府県ごとに様々な企画が立てられ、積極的に取 り組まれているところである。

(2)

「部屋」( すし職人の斡旋所)制度
   すし職人の多くは「部屋」( すし職人の斡旋所)に所属している。こ のため、すし職人の採用も「部屋」を通じて行う場合が多い。また、採用す るすし店そのものも以前に「部屋」に所属していた職人が独立したところが 多く、「部屋」組織を中心として強いつながりがあることがうかがえる。代 表的な「部屋」としては、東京の三長会、大阪の寿司善、宮城の青葉会など がある。
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