すし店-2001年
1 概況
2001年
(1)
高い事業所数減少率、中小規模店が減少の半面、大型店が増勢強める
  (ア) 変化するネタ
   平成11年の全国のすし店の事業所数は42,496件で、8年と比べると2,609件減少している。減少率は3年4.4%減以降、6年0.6%減、8年1.0%減と微減で推移していた。しかし、11年には5.8%減と大幅に減少し、一般 飲食店の各業種の中で喫茶店の7.5%減に次いで高くなっている。また、一般 飲食店全体の2.9%減の2倍に及んでいる。
 従業者数は222,189人で平成8年に比べ1.1%増(一般飲食店全体0.3%増)となり、事業所数が減少の半面 、従業者数は増えている。1事業所当たりの従業者は5.2人(一般 飲食店全体6.2人)と、8年の4.9人に比べ増えている。
  (イ)  平成8年から11年までの新設事業所数は1,342件で、一方、廃業事業所数は2,151件となり、廃業事業所が新設事業所より809件も多い。開業率は3.0%(一般 飲食店全体5.0%)、廃業率4.8%(同5.9%)となり、廃業率の方が高くなっている。
  (ウ)  平成11年の法・個人別事業所数は、個人が30,701件(構成比72.2%)、法人は11,795件(同27.8%)となり、8年に比べると個人が7.7%減に対し、法人は0.4%減と個人の減少率の高いのが目立っている。
  (エ)  従業者規模別でみると、4人以下の小規模店が全体の70.0%(一般 飲食店全体65.1%)となっており、8年の70.3%とほぼ同じで推移している。従業者規模別 に8年対比の増減率でみると19人以下の規模ではいずれの層も減少している。半面 、20人以上の階層は全部が増えており、20〜29人が33.6%増、30〜49人が61.2%増、50〜99人が76.5%増と、規模が拡大するにつれ増加率が高く大型店が増加する傾向にある。 
 
事業所数の推移 (参考) 一般飲食店全体
(単位:件、%) (単位:件,%)
調査年 従 業 者 規 模 別 合 計
1〜4人 5人以上
平成3年 (72.3)
33,145
(27.7)
12,711
(100.0)
45,856
平成6年 (74.2)
33,786
(25.8)
11,777
(100.0)
45,563
平成8年 (70.3)
31,725
(29.7)
13,380
(100.0)
45,105
平成11年 (70.0)
29,768
(30.0)
12,728
(100.0)
42,496
従業者
1〜4人
合 計
(69.1)
327,643
(100.0)
474,389
(70.0)
326,819
(100.0)
466,835
(65.7)
299,963
(100.0)
456,420
(65.1)
288,426
(100.0)
443,216
資料:総務省「事業所・企業統計調査」
(注) ( )内は構成比である。
(2) 外食の花形から後退、進む構造的な「すし離れ」
  (ア)  総務省「家計調査年報」によると、平成12年の1世帯当たりすし(外食)の年間支出額は16,929円で前年比3.9%減少(一般 外食費全体では2.0%増)となり、支出金額は昭和54年以降、最低水準となっている。
(イ)  かつてはすし食といえば外食の花形であり、高嶺の花的な存在であった。しかし、長期的に見ると衰退の傾向が明らかである。昭和56年の17,499円を底に年間支出金額は平成3年の20,583円まで増勢をたどった。この10年間の伸び率は17.6%増であるが、しかし、すしを除いた日本料理、西洋料理、中華料理、飲酒代等の一般 外食の伸び率は55.0%増であり、すしの支出は他の飲食支出に大きく水を空けられている。 その後、平成3年から12年までの9年間は、前の10年間とは逆に傾向的に前年割れが続き、12年まで支出の減少が続いている。12年を3年と比べてみると17.8%減となり、この間のすしを除いた一般 飲食業の伸び率は3.2%増と対照的な動きを示している。この結果 、一般外食費全体に占めるすし支出の割合は、昭和56年16.2%、平成3年12.8%、12年には10.5%と、年を追うごとに後退している。
 バブル全盛時代は着るものでも外食でも、高級ム−ドに浸っていた時代だが、平成2年ですらすしの支出は前年比1.4%増と低い伸び率であり、一般 外食費支出全体の5.1%増を下回っている。すしに対する支出は、このように景気の好不況にかかわらず減少していることからみて、構造的に「すし離れ」が生じていることがうかがわれる。さらに、近年、単価の高い伝統的なすし店から低単価の回転ずしや持ち帰りずしへ需要がシフトしていることも、支出減少に拍車をかけているといえよう。
(ウ)  1世帯当たりの年間支出額を世帯主の年齢階級別 に平成12年についてみると、支出が最も多いのは50〜59歳で20,961円、次いで60〜69歳の20,550円となっており、全世帯平均の約20%増しとなっている。一方、支出が最も少ないのは29歳以下の世帯で8,609円、次いで30〜39歳が11,295円となっており、29歳以下の世帯は全世帯平均の半分に過ぎない。
(3)
急がれる構造的な「すし離れ」への対応
 消費者のすし離れは、最近の日本人がすしを嫌いになったわけではない。現在でもすし食は日本人の好きな食べ物のベスト5に確実に入る食べ物に違いない。従来型のすし店はさておき、回転ずし、持ち帰りずし店などの混雑している新業態店を多くみかけることでも十分に証明されよう。すし離れ現象は従来型のすし店で主に生じている傾向が強い。最大の原因は、ここ十数年の間に一段と巨大になった外食産業が、消費者の食生活の多様化や嗜好の変化をもたらしたことにある。日本料理の大衆化、新業態の出現、海外からも目新しい外食の進出などで、消費者の選択肢は好むと好まざるにかかわらず拡大している。従来型のすし店で食べるすしは、大衆のあこがれの座から多数の外食とほぼ横並びで選択される存在へと変化しているといえよう。この結果 、消費者のすしの需要が他の外食に流出するという、消費者の食生活の構造変化が生じているといえよう。したがって、不景気を理由に高級感、高料金のすし店を敬遠しているわけではなく、すし離れは景気の好不況とは関係ないところで主に起きている。このように「すし離れ」は業界を巡る構造的な変化であり、生半可な手段ではすし離れ現象は解決されない。本腰を入れた対応策が急務である。
2 最近の動向
(1)
顧客ニーズの変化に伴って多様化する経営形態
 すし店といえば高級食、高単価、しかも気軽に入れる雰囲気がなく値段も分からないのが当然であったが、消費者のニ−ズの変化が新業態の出現を容易にし、すし業界に新風を吹き込んでいるようである。先の「平成7年度環衛業に係る消費生活調査報告書」によると、回転ずし店、持ち帰りずし店、ス−パ−等の単品ラップずしなどの新業態を利用する理由をみると、各業態とも「安い」が共通 してもっとも多い。逆に「おいしい」は、回転ずし店0.7%、持ち帰りずし店2.7%、ス−パ−等の単品ラップずし1.0%と味への期待は極めて低い。味は落ちるけど、「安い」から利用する傾向がある。
 「安い」に次いで多い項目をみると、回転ずし店では「気軽さ」31.3%と「値段がはっきりしている」30.3%のニ−ズが、持ち帰りずし店は「日常的な食事として手軽に買える」が28.7%、単品ラップずしでは「他の食べ物と同時に買える」が21.9%と便宜性が強調されている。
 最近では、回転ずし店、持ち帰りずし店、ス−パ−等の単品ラップずし等との競合が激化してきている。日本人としては、従来のすし店専業店に対するこだわりは捨て切れないものの、一面 では、顧客のニ−ズが変化し、新業態のすし店が成長していることも見逃せないであろう。本来、すしといえば、ネタ、技術が勝負どころであるが、新業態店では、低価格、種類の豊富さ、手軽さが売り物になっている。
(2)
新業態店の特徴
回転ずしチェーン店
   一時、同業間の競合激化や食材の高騰、他業態レストランの出現等により、頭打ちとなった「回転ずし」が再び台頭している。この理由としては(a)消費者の価格に対する意識がより敏感となったことにより、「回転ずし」の値ごろ感が見直されたこと、(b)チェーン店同士の合併等業界内の再編成が進んだことにより、顧客ニーズに合った店造りを可能とするだけの企業体力が蓄積されたこと、(c)炊飯・保温機器をはじめとした周辺機器の技術革新が進み、質的満足度の高い商品を提供できるようにな たことなどが挙げられる。
 また、最近では競争を勝ち抜く手段として異色な回転ずしが登場している。例えば、回転ずし+ケ−キの組み合せという、似つかわしくない組み合せ食品の提供による回転ずし店がチェ−ン店を展開している。料金は格安だ。時間帯に関係ないオ−ルタイムの食べ放題システムで、女性1,000円、男性1,500円の格安料金である。回転ずしチェーン店がすし業界で革新的な現象を巻き起こした要因の一つとして、高校生や大学生、若いOL、子供連れなど、これまですし店と無縁だった顧客層を開拓したことが指摘される。従来型のすし店は、これらの層が入りづらい雰囲気を長年の間に自らが築きあげてしまい、気軽に食べられる店づくりをしてこなかった。回転ずしチェーン店は、このように従来型のすし店が寄せつけなかったすき間層を新規需要として開拓し、すしの大衆化に貢献しているといえる。
持ち帰りすし店
  (ア)  持ち帰りすし店は、和風ファ−ストフ−ド産業の一形態であり、すしを店内販売したり、出前の形をとらず、店頭において出来合いすしのテイクアウトを行う専業店をいう。昭和47年に「小僧寿し」が、にぎりすしの全国FC展開をはじめたのがきっかけとなって持ち帰りすし店が脚光を浴び、新規参入のFC店を主体に店舗数が急増していった。現在では、日本の飲食業ランキングの上位 に名を連ねるほどに成長している新興成長企業もある。
  (イ)  商品は大きく分けて3種類からなる。最も多いのは、にぎりずしであり、次いですし専業店では取り扱いが少ない茶巾ずし、押しずし、地方特有のすしをアレンジした新型ずしなど特殊なすしが多い。さらに、のり巻、いなりずしなどの弁当風すし類が続く。
  (ウ)  業態としては、にぎりずし、鉄火巻、かっぱ巻、いなりずしなど主力にしている店舗が多いが、なかには京樽に代表されるように持ち帰りすしながら高級感を打ち出すために茶巾ずしなどを主体にした、専門化された業態も現われている。
  (エ)  持ち帰りすし店は、FC形態など多店舗経営を通じて大量仕入れによるコスト削減、店舗内作業の合理化による効率向上、職人技をパ−トの主婦が代行するなどで、すし専業店と異なった低価格システムを実現している。低価格に加え、待たずに一人前でも、手軽に買え、家庭でゆっくり食べられなどが評価され、主婦層の需要分野を開拓している。
  (オ)  販売は1人前からパ−ティ用の大皿の盛りつけまであり、しかも容器は返却をせず廃棄できるプラスチック製であるため、企業の懇親会や打ち上げ、グル−プの会合、花見など野外パ−ティ用の大口需要も根強い。
  (カ)  持ち帰りすし店を「利用する」は、女性70.9%に対して、男性65.4%で女性の方が多い。これは女性層が「利用する」が30代で81.4%、40代が72.4%と30〜40代の年齢層が圧倒的に利用しているためであり、主婦層が日常的な食事の一つとして、手軽に利用していることがうかがわれる。
〔「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成7年度)」(財)東京都生活衛生営業指導センター〕
宅配ずしチェーン店
(ア)  近年、市場規模は小さいものの徐々に世間の注目を集めている新業態である。「日経レストラン96.2.7号)」(日経BP社)によると「宅配ずし」が注目すべき業態の理由として、下記の4項目を指摘している。@店造りの簡略化により初期投資が抑えられる、A一般 飲食店と違って、比較的立地を選ばないですむ、B高性能周辺機器(すしロボット等)や冷凍技術の高度化により、経験が浅くても比較的簡単にすしネタが扱えるようになった、C特に都市部のすし店において出前機能が弱体化しており、宅配ずしチェーン店はすき間産業としての成長性が見込める、などである。
(イ)  店によっては、持ち帰り用の物販スペースを持つ場合もあるが、飲食スペースはなく、店舗の実態も看板と出前用バイク等でようやく分かる程度のものが多い。宅配エリアは宅配ピザとほぼ同様で約1〜2km、一般 家庭における「イベント需要」をターゲットとし、取扱商品もオーソドックスなにぎりずしのパーティ桶が中心(3,000円〜5,000円)となっている。
(ウ)  具体的な販売促進策としては、チラシ、メニュー表の新聞折り込み、ポスティング等といったところが一般 的な手段である。また、午後6〜8時に注文が集中する傾向が強いことから、チェーン店によっては、全店にコンピユーターを導入し、前年同日の注文内容、注文実績等のデータを蓄積し、作業効率の向上に役立てているところもある。今後は「宅配ずし」同士での競合も予想され、引続き動向が注目されるところである。
(3)
多い回転ずし店の利用者
   他業態との競合を先の「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成7年度)」でみると、回転ずし店の利用者は、「利用する」が55.8%で「利用したことがない」41.2%を上回っている。特に50歳代の男性は「利用する」が67.7%と高いのが目立つ。また持ち帰り店の利用状況は、「利用する」が65.4%で、「利用したことがない」30.3%を大きく上回っている。単品ラップずしは「利用する」44.8%に対して「利用したことがない」が50.7%と上回っている。  「主婦がすしを食べる場所」のアンケ−ト調査の回答(複数回答)を見ると、「回転ずし」が59%、「ス−パ−の総菜すし」48%、「持ち帰り用すし」45%と自宅に持ち帰って食べるすし類が上位 を占めている。一方、すし店内の飲食は35%であり、専業店からの出前31%と大差がない。どうやら主婦は安くて懐を心配せずに、気軽に食べられる回転ずしや持ち帰り用すしをより好む傾向が強いようである。〔(株)ミツカングル−プ本社「おすしに関するアンケ−ト調査」ミツカン情報ファイルNo59(平成12年)〕 
3 経営上のポイント
(1) 改善急務な店舗のイメ−ジ、不明朗価格、店主の態度
 アンケ−ト結果にみる消費者のすし店のイメ−ジ  前出の「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成7年度)」によると、すし店を利用するのは「少々割高でも新鮮で、おいしいすしを食べたい時」が34.6%と最も多く、根強い需要層に支えられている。半面 、店舗イメ−ジ、価格、応対、態度別にすし店に対する具体的な意見、要望を同調査のアンケ−ト結果 でみると、以下のように、他の飲食店に比べシビア−な意見が際立って多い。  一時、同業間の競合激化や食材の高騰、他業態レストランの出現等により、頭打ちとなった「回転ずし」が再び台頭している。この理由としては(a)消費者の価格に対する意識がより敏感となったことにより、「回転ずし」の値ごろ感が見直されたこと、(b)チェーン店同士の合併等業界内の再編成が進んだことにより、顧客ニーズに合った店造りを可能とするだけの企業体力が蓄積されたこと、(c)炊飯・保温機器をはじめとした周辺機器の技術革新が進み、質的満足度の高い商品を提供できるようになったことなどが挙げられる。
 
  • 店舗に関しては「すし店は高級なイメ−ジが強すぎる」「外から内側が見えないので入り入りづらい」、「若い家族や学生同士、子供連れで気楽に入れる店がない」など、大衆性に欠けている点が指摘されている。
  • 価格では「高いというイメ−ジがある」「なぜあんなに高いのか分からない」「高くてもおいしいすしを」「高過ぎて落ち着いて食べていられない雰囲気がある」など高価格に対する不満が強い。「すしといえども、たかがご飯なのだから、もっと安くしてほしい」が消費者側の本音か。また、「値段がわからず入りづらい」「値段がはっきりしないので入ったことのない店には入りにくい」など、不明朗な価格に対しての不満も強い。
  • 店主やすし職人の対応、態度については、「店によっては客の足元をみて態度の悪い店主や職人が多い」、「高飛車やいばっている態度」、「店主や職人の雰囲気でおどおどして食べざるを得ない」など、経営者、板前の態度に対して手厳しい評価となっている。
ファミリ−に好評の回転ずし
   回転ずしとすし専業店との比較同調査で回転ずしとすし専業店との比較をみると、「回転ずしができ、すしが手ごろな感じになった」「すし店では子供連れはあまりいい顔されないが、回転ずしは気軽に入れる」「回転ずしは子供も喜ぶので、もっと店舗があった方がよい」「回転ずしの出前を望む」など、回転ずしの評価が高まっている。
迫られる旧態依然の経営の改善
   すし専業店は長年、根強い業界の慣習による経営感覚が通用してきたし、また応対や態度は一般 の飲食店と異なり職人風を吹かすのが粋という風潮が、根強く残っているのが、この業界の特性である。また消費者側もそのようなものとして受け止めてきたが、新業態の出現によりすし専業店への風当たりが強まっていることは、アンケ−トの結果 により否めない事実である。すし市場において、新業態の展開が進捗している以上、消費者が真にすし専業店に何を望んでいるかを真摯に受け止め、旧態依然の経営を改善せざるを得ない状況にある。これらから、店のイメ−ジや雰囲気、不明朗価格や店主、すし職人の態度の改善を図ることが急がれよう。
(2) すし店を取り巻く経営上の問題点の改善
   すし店を取り巻く経営上の問題点をアンケ−トの回答(複数回答)により多い順にみると、「諸経費上昇」54.5%、「低料金店進出で客数減」37.6%、「人件費負担」30.3%、「設備老朽化」23.9%、「同業者間の競争で客数 減」21.8%となっている。内部的には「諸経費上昇」、外部的には「低料金店進出」と2つの大きな経営課題を強く訴えている。〔厚生省生活衛生局指導課「飲食店営業(すし店)の実態と経営改善の方策」平成10年3月〕  今後の経営方針(当面)を多い順で見ると、「新メニュ−の開発」48.3%、「接客サ−ビスの改善」37.5%、「店舗設備の改善等」36.1%が他を引き離して多くなっている。ただし、これら以外で目に付くのは「出前の充実」が27.0%で4位 を占めており、かつて人手不足を理由に大半の業者が止めてしまった出前を販売促進策の一貫として復活する傾向がうかがわれる。(東京都生活衛生指導センタ「平成7年度 環境衛生関係営業実態調査」)
 今後、他業種あるいは同業種ととの競争を生き抜いていくには、食生活の変化に伴って多様化する消費者ニ−ズを的確に捉え、単なる「満腹感」から「新鮮なもの」、「健康的なもの」、さらには「すし店以外にないもの」など幅広い要求に応えていくことが必要である。
 そのためには、(a)商品の品質の維持向上−伝統的な技術を基にした新種・メニューの開発、盛りつけの工夫等、(b)施設・設備の近代化、(c)経営方針の明確化、(d)食材の有効利用、調理技術の開発等による経費の節減、(e)気軽に入れる店」、(f)「値段の分かる明朗会計の店」への改善など、経営の合理化・近代化やイメ−ジチェンジに努めていくことが必要である。それには、経営者自身が職人気質から脱皮することが不可欠である。
   
4 工夫している事例
(1)
高級志向から大衆向けに転換
  • 立地:岐阜市 商店街
  • 創業:昭和30年
  • 従業者:3人(うちパ−ト、アルバイトなし)
  • 経営理念:「やれるときにやれ。来た客は拒むな」
 2代目を承継後、顧客のニ−ズが多様化するとの発想から、これまでの限定された客層にこだわることなく、幅広い客層を受け入れるために行った方策は次のとおりである。
@
客層(年齢)に合わせたサ−ビスの展開
 顧客のニ−ズが多様化に伴い、従来の高級すし一辺倒では、今後の経営に危機感を感じた。客層(年齢)に合わせたメニュ−作成などサ−ビス内容の改善を図った。
A
開放的な店に変更
 既存の店舗は閉鎖型で外部から店内が見えず、新規客は入りづらい構造であった。新規客が入りやすくするために、外部から見える構造に改修した。開放的な店にするためガラス窓を取り付けるなど、お客が入りやすい雰囲気づくりに努めた。
B
ランチタイムに奉仕価格のランチ寿司の提供
   商店街という立地から昼間の往来客が多いのに着目し、ランチタイムに奉仕価格のランチ寿司を提供し、アイドルタイムの利用客の増加を図った。
C ス−パ−内に持ち返りすし部門を新設
   顧客のすしに対するニ−ズがますます多様化するのをみて、伝統的なすし店に固執していたのでは早晩売上が限界に達するという危機感を感じ、需要が拡大している持ち帰りすし部門をス−パ−内に開設した。
D 食材仕入れの厳選
   すしはネタが勝負なので食材仕入れは必ず、店主自らが仕入れに出向く。仕入れ先は、広い地域から複数の店を選び、商品を厳選している。
 このように顧客のニ−ズの変化をいち早く吸収し、それを即実行に移しているが、経営者の経営理念である「やれるときにやれ」が実践されている。一般 的に何か変革を行うにしても、「まあ−そのうち」でつい延び延びにしてしまいがちである。しかし、最近は、世の中の変化がものすごい勢いで変化しており、製造業では短期即納が重要視されているように「スピ−ド」への対応が、経営者に要求される時代になっている。
(2)
地道な経営哲学で味を守る老舗
 
  • 立地:尾道市 中心部からやや離れた小路奥
  • 創業:天保3年、現在の経営者は6代目
  • 従業者:14人(うちパ−ト3人)
  • 経営理念:「お客さまから"ああ、おいしかった"といわれる店」
  • 座席:1階 カウンタ−席 6人、椅子席 4テ−ブル、2階 5部屋
   創業以来170年、現在の6代目は"おかみ"。夫が病死したあと妻が6代目を承継、板場は他店で修業を積ませた長男と職人が入る。立地は中心部からやや離れた小路奥で流れ客が望めず決して良くない。しかし、"すしの味"目当てのお客が立て込む。昼時は家族連れ、中高年の夫婦連れ、周辺部から出てきた主婦、観光客風の中年女性の友達連れなどで店内は満席となり、しばらく順番を待つほどである。夜は一般 顧客、なじみの固定客に混じって評判を聞いて来店した観光客、2階の座敷での宴会客など、多くの客層で賑わっている。老舗の割に外装は地味だし、店内もとくに老舗風のしつらえを強調しているわけでないが、不利な立地を跳ねのけ幅広い客層に支持されている。
 一般的に老舗ともなれば後継者の問題などで衰退をたどるか、老舗の看板を押し出して多店舗展開を図りがちであるが、当店では味を守るため1店舗だけで頑固に「のれん」を守り続けている。幅広い支持層が多い背景にあるのは、@創業以来守り続けている当店の名物看板商品がある、A顧客の口から"おいしかった"が素直にでるサ−ビスの徹底、B儲けはほどほどにして商売を長続きさせる、C鮮度に重点を絞った味の維持に固執などが指摘できる。 以下、詳細に見てみよう。
@ 創業以来守り続けている当店の名物看板商品
   当店の顔になっているのは、「せいろすし」である。創業者が170年前に瀬戸内特産のアナゴを活用して開発したもので、代々製法、味付けを170年間途絶えることなく引継ぎ、当店の名物看板商品としての地位 を守り続けている。当地方では「せいろすし」といえば当店の名前が、すぐにでるほど知名度が高い 。
 「せいろすし」とは、すしめしの上に焼きアナゴ、椎茸、錦糸たまご、えびそぼろを乗せて蒸したものである。容器は漆塗りの漆器を用いている。江戸時代から使用している本格的な昔づくりの重厚な漆器で、長年の間修理に修理を重ねて使用しているが、それが老舗にいかにもふさわしい。この「せいろすし」が地元客に評判が良いことに着目し、現在では宅急便を利用し、全国発送を行っている。
A 顧客の口から"おいしかった"が素直にでる「気持ちのサ−ビス」の徹底
   当店が顧客から最高の満足度を得るために重要視していることは、食事後、顧客が店の外に出てから「あ−、おいしかった」という言葉が素直にでるサ−ビスの徹底である。一般 的に顧客が食事後に発する「あ−お腹が一杯になった」では、顧客の満足度を高めたことにならないという考え方が背景にある。そのために、温かいものは温かく、冷たいものは冷たく提供するなど、一品一品を心行くまで味わってもらいたいという「気持ちのサ−ビス」を、店主はじめ従業員が徹底して行っている。折詰に詰める"押しすし"にしても、持ち帰ってからおいしく食べてもらうのには、押し加減と高さをいかにしたらよいのかなど、細かいところにも「気持ちのサ−ビス」を注入している。
 一方では、新製品の開発にも余念がない。デザ−トとして、長男が開発したのは、広島の著名な醸造元の酒粕を用いた「酒粕アイスクリ−ム」で、すしをつまみながら飲んだあとのデザ−トとして好評である。
B 鮮度に重点を絞った味の維持
   すしは味が顧客に支持されるかが決め手であるだけに、鮮魚の仕入れと保管には必要以上にこだわっている。特に地物の鮮魚類の仕入れは、生きたまま保管する魚が多いだけに、保管方法には細心の注意を払っている。これは保管設備体制を充実させることも重要だが、それ以上に顧客の口から"おいしかった"が素直にでるサ−ビスの徹底を実践するために、従業員一人一人の心構えが必要であることにも配慮している。老舗で尾道周辺で知名度が高いのに支店を出さないのは、支店を出すと味が保てないこと、食材の管理に十分に目が届かないことの2点の理由によるものである。尾道で"生すし"を初めて握りだしたのは当店の4代目であるが、老舗の自負心が味へのこだわりに地道に現われている。
C 儲けはほどほどにして商売を長続きさせる
 すし店に入りカウンタ−で食べたあと勘定を払い、外に出て思うのは「えっ、なぜあんなに高いのだろうか」と一瞬、計算が間違っているのではと思うことが多い。当店では、逆に「あれだけ飲み食いしてなぜこんなに安いの」と東京から来た一見客が驚くほどである。「商売は余り大きくもせず、また小さ過ぎず中間にして、ほどほどの儲けで経営すれば、商売は顧客に支持され長続きする」という経営者の経営哲学が浸透している。先に示した「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成7年度)」によると、調査対象者から経営者、板前の態度に対して手厳しい評価が下されているが、当店の店内の雰囲気には、老舗にありがちなおごりの精神が見られない。6代目のおかみが顧客に対して明るく振る舞うのも手伝ってか、「また来るからね」が一見客の口からごく自然にでるほどである。
 以上、4つの要因を掲げたが、一言で言えば創業者以来、いかに顧客の満足度を追及するかに徹する経営が貫かれていることである。一般 的にすし店に限らず飲食店が追及すべき顧客満足度は「味、雰囲気、価格、サ−ビス」であるが、意外にどれかが欠けている店が多い。例えば、味がよいがべらぼうに料金が高かったり、料金が安いが雰囲気やサ−ビスが悪かったりで、三位 一体ならぬ飲食店の「四味一体」を追及するのは、並大抵ではできなく、大変な努力を要する。
 それを実践するのには、経営理念をしっかりと掲げ、それを経営方針に具体化させていくことが、極めて重要である。経営理念というと大上段に振りかぶったものが多く、果 てその理念が店の経営にどのように反映されているのか疑問を感じるケ−スが少なくないが、当店の場合は「お客さまから"ああ、おいしかった"といわれる店」であり、子供やお年寄りをはじめ誰もが納得いく経営理念である。要はいかにこの経営理念を毎日の商売の中で具体化させ「四味一体」の顧客満足度を追及するかである。当店の場合は「気持ちのサ−ビス」と「儲けはほどほどに」の経営指針に経営理念が貫かれ、顧客満足度の「四味一体」を追及しているといえる。
 「おいしく食べてもらい、喜んで帰ってもらう」という人間が本来もっている感性の追及が、いかに飲食業にとって大事かを示す事例である。また、創業者の「せいろすし」の新商品開発、4代目の当地ではじめての「生すし」の展開、現在の後継者のデザ−ト開発など、歴代が独自商品の開発に挑戦しているが、自店の独創的な商品開発が顧客を喜ばせ、また業績向上にも寄与し、名物になれば、他地域から顧客や観光客誘致の要因になり、地域社会に貢献することにもなる。毎日の経営の中に、商品開発への意欲を燃やすことにより、末代まで残せる商品の開発が可能となるほか、いろいろな面 にも多くの良い影響を及ぼすことを教えられる事例でもある。
【業界豆知識】
(1) 「11月1日全国すしの日」事業
   昭和36年の全国大会ですし業のPRの一環として提唱され、以後、今日に至るまで続けられている。年1回、日頃の顧客に対する謝恩と新たな需要拡大を目的として各都道府県ごとに様々な企画が立てられ、積極的に取り組まれている。
(2) 「部屋」(すし職人の斡旋所)制度
  すし職人の多くは「部屋」(すし職人の斡旋所)に所属している。このため、 すし職人の採用も「部屋」を通じて行う場合が多い。また、採用するすし店そのものも以前に「部屋」に所属していた職人が独立したところが多く、「部屋」組織を中心として強いつながりがあることがうかがえる。代表的な「部屋」としては、東京の三 長会、大阪の寿司善、宮城の青葉会などがある。

資料

  1. 総務省「事業所・企業統計調査」
  2. 総務省「家計調査年報」
  3. (財)東京都生活衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成7年度)」
  4. 東京都衛生局生活環境部「環境衛生関係営業の実態と今後のあり方〔飲食業(鮨商)〕 平成5年度経営診断報告書」
  5. 全国生活衛生営業指導センタ−「成功事例調査」
  6. 金融財政事情「企業審査事典」
  7. 中小企業リサ−チセンタ−「日本の飲食業」
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