すし店-2003年
1 概況
2003年
(1)
事業所数減少率は拡大、小規模店が大幅減少の半面、大型店が増加
  すし店は、江戸前の握りずしと大阪の押しずしが主流だが、近年、回転ずし店、持ち帰りずし店、ス−パ−等の単品ラップずし等が増加している。回転ずし店は、大半が江戸前ずしを扱っているが、職人がカウンタ−内で握りベルトコンベヤ−で流す方式と、顧客から見えない調理室でロボットが大半を握り、ベルトコンベヤ−で流す方式とに大別 される。
  回転ずしは、消費者の低価格志向に加え、座れば即時に食べられる便利性、単身世帯の晩飯代わりなど、気軽に安直に食べられる特徴が、既存のすし店と一線を画している。すしの大衆化路線を狙い、大手チェ−ン店の多店化戦略により東京、大阪などの大都市をはじめ、地方都市にまで出店が広まり、いまや、全国的に回転ずし店が急成長してきており、すし店は既存型店と回転ずし店で2分されている。急速な出店で、首都圏の中心部では過剰出店の傾向がみられ、チェ−ン店のなかには都内の末端に進出する傾向がみられる。しかし、集客力が弱く、開店して半年も経過しないのに閉店するチェ−ン店もあるなど、今後は新陳代謝が激しくなる兆しがうかがわれる。
 
  ここで扱うすし店の事業所数は、主としてすしをその場所で飲食させる、いわゆるすし屋をいう。回転ずしやファミリ−レストランタイプのすし店を含むが、宅配すし、持ち帰りすしを販売する店は含まない。平成13年の全国のすし店の事業所数は39,539店で、11年と比べると2,957店減少している。減少率でみると、3年4.4%減、6年0.6%減、8年1.0%減と微減で推移していたが、11年には5.8%減と大幅に減少している。ところが、13年は7.0%減(一般 飲食店0.1%減)とさらに減少率が拡大し、一般飲食店の各業種の中で減少率が最大となっている。
  しかし、従業者数は234,069人で、平成11年に比べ5.3%増(一般 飲食店全体6.5%増)と引き続き増加している。これは、回転ずしの大型店が急増していることを反映している。1事業所当たりの従業者数は5.9人(一般 飲食店全体6.6人)と、8年4.9人、11年5.2人に続き増えている。
 
  平成13年の法・個人別事業所数は、個人が27,891店(構成比70.5%)、法人は11,648店(同29.5%)となっている。法・個人別 事業所数を11年と比べると個人が9.2%減に対し、法人は1.2%減と個人の減少率の高いのが目立っている。

 事業所数を従業者規模別でみると、4人以下の小規模店が全体の68.5%(一般 飲食店全体62.7%)となっており、11年の70.0%より少なくなっている。従業者規模別 に11年対比でみると、19人以下の規模はいずれの層も減少しており、特に1〜4人は2,688店も減少し、全体の減少数2,957店の90.9%を占めている。半面 、20人以上の階層は全部が増えており、特に50〜99人が154店増(32.0%増)、100〜199人が106店増(70.7%増)と大型店が増加する傾向にあるが、これらは大半が回転ずしとファミリ−レストランタイプの大型すし店などの新業態である。

 

 

事業所数の推移 (参考)一般飲食店全体
(単位:店、%) (単位:店、%)
調査年 従業者規模 合計
1〜4人 5人以上

平成6年

(74.2)
33,786

(25.8)
11,777

(100.0)
45,563

平成8年 (70.3)
31,725
(29.7)
13,380
(100.0)
45,105
平成11年 (70.0)
29,768
(30.0)
12,728
(100.0)
42,496
平成13年 (68.5)
27,080
(31.5)
12,459
(100.0)
39,539
従業者
1〜4人
合計

(70.0)
326,819

(100.0)
466,835

(65.7)
299,963
(100.0)
456,420
(65.1)
288,426
(100.0)
443,216
(62.7)
277,694
(100.0)
442,883
(注) ( )内は構成比である。
資料:総務省「事業所・企業統計」

 

 

(2)
進む構造的な「すし離れ」、外食の花形から後退
  総務省「家計調査年報」によると、平成14年の1世帯当たりすし(外食)の年間支出額は16,289円で、前年と同額(一般 外食費全体1.8%増)に止まっている。ただし、支出金額は昭和54年以降、最低水準となっている。
 かつては、すし食といえば外食の花形であり、高嶺の花的な存在であった。しかし、長期的に見ると衰退の傾向が明らかである。昭和56年の17,499円を底に年間支出金額は平成3年の20,583円まで増勢をたどった。この10年間の伸び率は17.6%増であるが、すしを除いた日本料理、西洋料理、中華料理、飲酒代等の一般 外食の伸び率は55.0%増であり、すしの支出は他の飲食支出に大きく水を空けられていた。
その後、平成3年から14年までの11年間は、前の10年間とは逆に傾向的に前年割れが続き、13年まで減少が続いている。14年を3年と比べてみると20.9%減となり、この間のすしを除いた一般 外食への支出は0.6%増であり、すしへの支出減少の大きさを示している。この結果 、一般外食費全体に占めるすし支出の割合は、昭和56年16.2%、平成3年12.8%、14年には10.3%と、年を追うごとに後退している。
バブル全盛時代は着るものでも外食でも、高級ム−ドに浸っていた時代だが、平成2年ですら、すしの支出は前年比1.4%増と低い伸び率であり、一般 外食費支出全体の5.1%増を下回っている。すしに対する支出は、このように景気の好不況にかかわらず減少していることからみて、構造的に「すし離れ」が生じていることがうかがわれる。さらに、近年、単価の高い伝統的なすし店から低単価の回転すしや持ち帰りずしへ需要がシフトしていることも、支出金額減少に拍車をかけているといえよう。
 1世帯当たりの年間支出額を世帯主の年齢階級別に平成14年についてみると、支出が最も多いのは50〜59歳で19,638円、次いで60〜69歳の19,024円となっており、50〜59歳の支出は全世帯の約20%増となっている。一方、支出が最も少ないのは29歳以下の世帯で8,491円、次いで30〜39歳の11,342円となっており、29歳以下の世帯は全世帯平均の約半分に過ぎない。
 1世帯当たりの年間支出額を都市別にみると、1位 は甲府市で24,287円、2位は宇都宮市23,379円、3位は和歌山市21,933円となっている。甲府市は全世帯の1.5倍も支出している。半面 、少ない順では、那覇市3,938円、松山市8,508円、徳島市9,753円となっている。
(3)
急がれる「すし離れ」への対応
 消費者のすし離れは、最近の日本人がすしを嫌いになったわけではない。現在でも、すし食は日本人の好きな食べ物のベスト5に確実に入る食べ物に違いない。従来型のすし店はさておき、回転すし、持ち帰りすし店などの混雑している新業態店を多くみかけることでも十分に証明されよう。すし離れ現象は、従来型のすし店で主に生じている傾向が強い。   
 最大の原因は、ここ十数年の間に一段と巨大になった外食産業が、消費者の食生活の多様化や嗜好の変化をもたらしたことにある。日本料理の大衆化、新業態の出現、海外からも目新しい外食の進出などで、消費者の選択肢は好むと好まざるにかかわらず拡大している。従来型のすし店で食べるすしは、大衆のあこがれの座から多数の外食とほぼ横並びで選択される存在へと変化しているといえよう。この結果 、消費者のすしの需要が他の外食に流出するという、消費者の食生活の構造変化が生じているといえよう。したがって、不景気を理由に高級感、高料金のすし店を敬遠しているわけではなく、すし離れは景気の好不況とは関係ないところで主に起きている。
 このように「すし離れ」は業界を巡る構造的な変化であり、生半可な手段ではすし離れ現象は解決されない。本腰を入れた対応策が急務である。
2 最近の動向
(1)
顧客ニーズの変化に伴って多様化する経営形態
 最近では、回転ずし店、持ち帰りずし店、ス−パ−等の単品ラップずし等との競合が激化してきている。日本人としては、従来のすし店専業店に対するこだわりは捨て切れないものの、一面 では、顧客のニ−ズが変化し、新業態のすし店が成長していることも見逃せないであろう。
 これまで、すし店といえば高級食、高単価、しかも気軽に入れる雰囲気がなく値段も分からないのが当然であったが、新業態の出現が消費者のニ−ズを変化させ、保守的な経営を固持していたすし業界に新風を吹き込んでいる。   東京都生活衛生営業指導センターの「環衛業に係る消費生活調査報告書」(平成7年度)によると、回転ずし店、持ち帰りずし店、ス−パ−等の単品ラップずしなどの新業態を利用する理由を構成比でみると、各業態とも「安い」が共通 してもっとも多い。逆に「おいしい」は、回転ずし店0.7%、持ち帰りずし店2.7%、ス−パ−等の単品ラップずし1.0%と味への期待は極めて低い。味は落ちるけど、「安い」から利用する傾向がある。
 「安い」に次いで多い項目をみると、回転ずし店では「気軽さ」31.3%、「値段がはっきりしている」30.3%、持ち帰りずし店は「日常的な食事として手軽に買える」が28.7%、単品ラップずしでは「他の食べ物と同時に買える」が21.9%と便宜性が強調されている。
 本来、すしといえば、ネタ、技術が勝負どころであるが、新業態店では、低価格、種類の豊富さ、手軽さを売り物にしている点、伝統的なすし店と一線を画している。  (注)「環衛業に係る消費生活調査」は平成7年度以降行われていない。
(2)
新業態店の特徴
回転ずしチェーン店
   一時、同業間の競合激化や食材の高騰、他業態レストランの出現等により、頭打ちとなった「回転ずし」が再び台頭している。この理由としては、@消費者の価格に対する意識がより敏感となったことにより、「回転ずし」の値ごろ感が見直されたこと、Aチェーン店同士の合併等業界内の再編成が進んだことにより、顧客ニーズに合った店造りを可能とするだけの企業の体質強化、体力の向上が促進されたこと、B炊飯・保温機器をはじめとした周辺機器の技術革新が進み、質的満足度の高い商品を提供できるようになったこと、Cチェ−ン店化が促進され、大量 仕入れにより、従来に比べ高品質の材料が低価格で提供できるようになった、などがあげられる。
 回転ずしチェーン店が、すし業界で革新的な現象を巻き起こした要因の一つとして、高校生や大学生、若いOL、子供連れなど、これまですし店と無縁だった顧客層を開拓したことが指摘される。従来型のすし店は、これらの層が入りづらい雰囲気を長年の間に自らが築きあげてしまってきている。いわゆる、伝統商法にあぐらをかいた「殿様商売」、職人気質の経営気質こそ、きっぷの良いすし屋だという自意識が根を張っていたといえる。
 回転ずしチェーン店は、このように従来型のすし店が寄せつけなかったすき間層を新規需要客として開拓していった。回転ずしは、営業形態が異なるとはいえ、すし屋ですしを食べる楽しさを国民大衆に植え付けたことは、日本の食分化改革の一断面 といえよう。
持ち帰りすし店
  (ア) 持ち帰りすし店は、和風ファ−ストフ−ド産業の一形態であり、すしを店内販売したり、出前の形をとらず、店頭において出来合いすしのテイクアウトを行う専業店をいう。昭和47年に「小僧寿し」が、にぎりすしの全国FC展開をはじめたのがきっかけとなって持ち帰りすし店が脚光を浴び、新規参入のFC店を主体に店舗数が急増していった。現在では、日本の飲食業ランキングの上位 に名を連ねるほどに成長している新興成長企業もある。
(イ) 商品は、大きく分けて3種類からなる。最も多いのは、にぎりずしであり、次いですし専業店では取り扱いが少ない茶巾ずし、押しずし、地方特有のすしをアレンジした新型ずしなど特殊なすしが多い。さらに、のり巻、いなりずしなどの弁当風すし類が続く。
(ウ) 業態としては、にぎりずし、鉄火巻、かっぱ巻、いなりずしなど主力にしている店舗が多いが、なかには京樽に代表されるように、持ち帰りすしながら高級感を打ち出すために茶巾ずしなどを主体にした、専門化された業態も現われている。
(エ) 持ち帰りすし店は、FC形態など多店舗経営を通じて大量仕入れによるコスト削減、店舗内作業の合理化による効率向上、職人技をパ−トの主婦が代行するなどで、すし専業店と異なった低価格システムを実現している。低価格に加え、待たずに一人前でも手軽に買え、家庭でゆっくり食べられるなどが評価され、主婦層の需要分野を開拓している。
(オ) 販売は、1人前からパ−ティ用の大皿の盛りつけまであり、しかも、容器は返却をせず廃棄できるプラスチック製であるため、企業の懇親会や打ち上げ、グル−プの会合、花見など野外パ−ティ用の大口需要も根強い。ただ、今後プラスチック製の容器は、ゴミ処理の問題から、容器改善が課題となるであろう
(カ) 持ち帰りすし店を「利用する」は、女性70.9%に対して、男性65.4%で女性の方が多い。これは女性層が「利用する」が30代で81.4%、40代が72.4%と30〜40代の年齢層が圧倒的に利用しているためであり、主婦層が日常的な食事の一つとして、手軽に利用していることがうかがわれる。
〔「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成7年度)」(財)東京都生活衛生営業指導センター〕
宅配ずしチェーン店
  (ア) 近年、市場規模は小さいものの徐々に世間の注目を集めている新業態である。「日経レストラン96.2.7号)」(日経BP社)によると「宅配ずし」が注目すべき業態の理由として、下記の4項目を指摘している。@店造りの簡略化により初期投資が抑えられる、A一般 飲食店と違って、比較的立地を選ばないですむ、B高性能周辺機器(すしロボット等)や冷凍技術の高度化により、経験が浅くても比較的簡単にすしネタが扱えるようになった、C特に都市部のすし店において出前機能が弱体化しており、宅配ずしチェーン店はすき間産業としての成長性が見込める、などである。
(イ) 店によっては、持ち帰り用の物販スペースを持つ場合もあるが、飲食スペースはなく、店舗の実態も看板と出前用バイク等でようやく分かる程度のものが多い。宅配エリアは宅配ピザとほぼ同様で約1〜2km、一般 家庭における「イベント需要」をターゲットとし、取扱商品もオーソドックスなにぎりずしのパーティ桶が中心(3,000円〜5,000円)となっている。
(ウ) 具体的な販売促進策としては、チラシ、メニュー表の新聞折り込み、ポスティング等といったところが一般 的な手段である。また、午後6〜8時に注文が集中する傾向が強いことから、チェーン店によっては、全店にコンピユーターを導入し、前年同日の注文内容、注文実績等のデータを蓄積し、作業効率の向上に役立てているところもある。今後は「宅配ずし」同士での競合も予想され、引続き動向が注目されるところである。
(3) 多い回転ずし店の利用者
    他業態との競合を先の「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成7年度)」でみると、回転すし店の利用者は、「利用する」が55.8%、「利用したことがない」41.2%を上回っている。特に50歳代の男性は「利用する」が67.7%と高いのが目立つ。また、持ち帰り店の利用状況は、「利用する」が65.4%で、「利用したことがない」30.3%を大きく上回っている。単品ラップすしは、「利用する」44.8%に対して「利用したことがない」が50.7%と上回っている。   「主婦がすしを食べる場所」のアンケ−ト調査の回答(複数回答)を見ると、「回転ずし」が59%、「ス−パ−の総菜すし」48%、「持ち帰り用すし」45%と自宅に 持ち帰って食べるすし類が上位 を占めている。一方、すし店内の飲食は35%であり、専業店からの出前31%と大差がない。どうやら主婦は安くて懐を心配せずに、気軽に食べられる回転寿司や持ち帰り用すしをより好む傾向が強いようである。〔(株)ミツカングル−プ本社「おすしに関するアンケ−ト調査」ミツカン情報ファイル No59(平成12年)〕
3 経営上のポイント
(1) 改善急務な店舗のイメ−ジ、不明朗価格、店主の態度
アンケ−ト結果にみる消費者のすし店のイメ−ジ
 

 前出の「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成7年度)」によると、すし店を利用するのは「少々割高でも新鮮で、おいしいすしを食べたい時」が34.6%と最も多く、根強い需要層に支えられている。半面 、店舗イメ−ジ、価格、応対、態度別にすし店に対する具体的な意見、要望を同調査のアンケ−ト結果 でみると、以下のように、他の飲食店に比べシビアな意見が際立って多い。

  • 店舗に関しては、「すし店は高級なイメ−ジが強すぎる」、「外から内側が見えないので入りづらい」、「若い家族や学生同士、子供連れで気楽に入れる店がない」など、大衆性に欠けている点が指摘されている。
  • 価格では、「高いというイメ−ジがある」、「なぜあんなに高いのか分からない」、「高過ぎて落ち着いて食べていられない雰囲気がある」など高価格に対する不満が強い。「すしといえども、たかがご飯なのだから、もっと安くしてほしい」が消費者側の本音か。また、「値段がわからず入りづらい」、「値段がはっきりしないので入ったことのない店には入りにくい」など、不明朗な価格に対しての不満も強い。一方では、少数意見だが「高くてもおいしいすしを」があり、平均貯蓄高が全世帯平均の1.5倍もある65歳以上の高齢者には、このようなニ−ズが根強くあるといえよう。
  • 店主やすし職人の対応、態度については、「店によっては客の足元をみて態度の悪い店主や職人が多い」、「高飛車やいばっている態度」、「店主や職人の雰囲気でおどおどして食べざるを得ない」など、経営者、板前の態度に対して手厳しく指摘している。
ファミリ−に好評の回転ずし
   同調査で、回転ずしとすし専業店との比較をみると、「回転ずしができ、すしが手ごろな感じになった」、「すし店は子供連れはあまりいい顔されないが、回転ずしは気軽に入れる」、「回転ずしは子供も喜ぶので、もっと店舗があった方がよい」、「回転ずしの出前を望む」など、回転すしの評価が高まっている。
迫られる旧態依然の経営の改善
   すし専業店は、長年、根強い業界の慣習による経営感覚が通用してきたし、また、応対や態度は一般 の飲食店と異なり職人風を吹かすのが粋という風潮が、根強く残っているのが、この業界の特性である。また、消費者側もそのようなものとして受け止めてきたが、新業態の出現によりすし専業店への風当たりが強まっていることは、アンケ−トの結果 により否めない事実である。
 すし市場において、新業態の展開が進捗している以上、消費者が真にすし専業店に何を望んでいるかを真摯に受け止め、旧態依然の経営を改善せざるを得ない状況にある。これらから、店のイメ−ジや雰囲気、不明朗な価格や店主、すし職人の態度の改善を図ることが急務であるといえよう。
(2) すし店を取り巻く経営上の問題点の改善
 

  すし店を取り巻く経営上の問題点をアンケ−トの回答(複数回答)により多い順にみると、「諸経費上昇」54.5%、「低料金店進出で客数減」37.6%、「人件費負担」30.3%、「設備老朽化」23.9%、「同業者間の競争で客数減」21.8%となっている。内部的には「諸経費上昇」、外部的には「低料金店進出」と2つの大きな経営課題を強く訴えている。〔厚生省生活衛生局指導課「飲食店営業(すし店)の実態と経営改善の方策」平成10年3月〕  
 今後の経営方針(当面)を多い順で見ると、「新メニュ−の開発」48.3%、「接客サ−ビスの改善」37.5%、「店舗設備の改善等」36.1%が他を引き離して多くなっている。ただし、これら以外で目に付くのは「出前の充実」が27.0%で4位 を占めており、かつて人手不足を理由に大半の業者が止めてしまった出前を販売促進策の一貫として復活する傾向がうかがわれる。(東京都生活衛生指導センタ「平成7年度 環境衛生関係営業実態調査」)
 今後、他業種あるいは同業種との競争を生き抜いていくには、食生活の変化に伴って多様化する消費者ニ−ズを的確にとらえ、単なる「満腹感」から「新鮮なもの」、「健康的なもの」、さらには「すし店以外にないもの」など幅広い要求に応えていくことが必要である。

 そのためには、@商品の品質の維持向上−伝統的な技術を基にした新種・メニューの開発、盛りつけの工夫等、A施設・設備の近代化、B経営方針の明確化、C食材の有効利用、調理技術の開発等による経費の節減、D気軽に入れる店、E「値段の分かる明朗会計の店」への改善など、経営の合理化・近代化やイメ−ジチェンジに努めていくことが必要である。それには、経営者自身が職人気質から脱皮することが不可欠である。

4 工夫している事例  −旧態依然の経営体質を改善し、窮地から脱出−
(1) 企業概況
 
  • 所在地:東北地方
  • 創  業:昭和46年
  • 店舗数:1店
  • 従業者:4人(うち家族従業員4名、従業員1名、パ−ト1名)
  • 客席数:64名(カウンタ−6席、テ−ブル8席、座敷5室−50名−)
  • 駐車場:10台
(2) 問題点 −景況低迷ですし店離れ、強力な競争相手出現で経営は厳しさが増す一方−
    地元では、老舗として認知され、また、地の利もあり周辺企業や一般 家庭への出前、宴会客などで業績は順調に推移してきたが、バブル崩壊の平成2〜3年ころを境に出前や宴会、接客向け需要の急減、なじみの個人客の足も遠のくなど、売上げは一変して下降線をたどりだした。
 すし業界は、バブル崩壊と同時に進行した不況の浸透による顧客離れで、以前からすし店に対して一般 消費者がもっていた価格表示の不明朗などの悪いメ−ジだけが残った状態となってしまった。一方、これを逆手にとった感じの回転ずし、持ち帰り、宅配ずしなどが急増し、消費者がこれを受け入れた。しかし、新たな競争相手となった新業態すし店については、あれは素人の握る寿司で本物ではないので、顧客はすぐに戻るという高をくくった意識が、既存の江戸前すし店にはあったが、現実は異なっていた。当店では、すし店経営者として職人気質、調理のプロとしての意識をあまりに大事にしてきた。また、それらに対して、過去の繁盛ぶりから揺るぎない自信をもっていた。しかし、現実には厳しさが増す一方であり、消費者のすし店に対する要望などの掌握が十分でなかったことを反省した。そこで、旧態依然の経営体質の改善のほか、厚生労働省指導のすし店振興指針に基づいた店舗形態、内部構造などの改善に積極的に取り組んだ。
(3) 改善策
店舗改修
  客寄せの工夫として、すしの「のれん」をだした閉鎖的で敷居の高いイメ−ジから抜け出すため、明るく大きな窓を設置し、気軽さ、親しみやすさを強調した。
多彩なメニュ−の提供
  女性客をタ−ゲットにしたメニュ−、若者・子供用のメニュ−など、これまでの男性中心の個人客、宴会客主体の内容をファミリ−層までに拡大した。また、当店で独自に開発したオリジナルメニュ−の開発も加え、客層の拡大を図っている。
出前の多様化
  バブル崩壊前は店頭6:出前4だったものが、現在は店頭8:出前2へと、出前が落ち込んでいる。そこで、一般 家庭向けのすし出前だけでなく、パ−ティ用オ−ドブル、慶弔向け膳なども出前を行うことを宣伝し、出前の多様化を図った。
価格の明示、小部屋化で顧客の使い勝手に配慮
  カウンタ−以外のテ−ブルや座敷などでも、にぎり1カンからお好みすしが食べられるように、写 真入りの値段表を配置し、価格表示を明確にした。また、大部屋を小部屋に改造し、家族連れ、女性などの小グル−プ、あるいは商談などにも使用できるようにした。
(4) 改善後の効果
 

  店舗の窓を大きくしたことが、通り客の目を引き、新規客獲得に貢献している。また、メニュ−の多彩 化、手ごろな価格、価格表示による顧客の安堵感は、気楽に入れる店として集客効果 を発揮し、客層は明らかに拡大している。平日は、昼間が主にランチ客が、夜間は小グル−プ、若者のカップル等の来店客が増えている。休日は女性の小グル−プ、家族連れが従来の客層に加わるなど、幅広い客層の獲得に効果 が出てきている。また、法事などによる座敷の利用頻度も、かつてのピ−ク時には及ばないが、少しずつ回復している。
 これらの成果の背景として、次に掲げる要因が指摘できる。

@経営者がすし業界に対しての消費者の購買行動の変化を的確に察知したこと     
A業界の特性ともいえる陋習の改革に積極的に取り組み、工夫、改善を実践したこと     
B出前、メニュ−の多様化などに従業員が前向きに参画し、経営者、従業員との協力体制が築かれたこと
【業界豆知識】
(1) 「11月1日全国すしの日」事業
  昭和36年の全国大会ですし業のPRの一環として提唱され、以後、今日に至るまで続けられている。年1回、日頃の顧客に対する謝恩と新たな需要拡大を目的として各都道府県ごとに様々な企画が立てられ、積極的に取り組まれている。
(2) 「部屋」(すし職人の斡旋所)制度。
 すし職人の多くは「部屋」(すし職人の斡旋所)に所属している。このため、すし職人の採用も「部屋」を通 じて行う場合が多い。また、採用するすし店そのものも以前に「部屋」に所属していた職人が独立したところが多く、「部屋」組織を中心として強いつながりがあることがうかがえる。代表的な「部屋」としては、東京の三長会、大阪の寿司善、宮城の青葉会などがある。

 

資料

  1. 総務省「事業所・企業統計調査」
  2. 総務省「家計調査年報」
  3. (財)東京都生活衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活調査報告書」平成7年度
  4. 全国生活衛生営業指導センタ−「成功事例調査」
  5. 金融財政事情「企業審査事典」
  6. 中小企業リサ−チセンタ−「日本の飲食業」
  7. 国民生活金融公庫「経営の工夫事例集」飲食店営業(そば・うどん店、すし店)、平成14年3月
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