すし店-2005年
1 概況
2005年
(1)
すしはわが国固有の伝統的な食べ物
変化するネタ
 すしはわが国固有の食べ物であり、伝統的な飲食を代表する食べ物である。すしは、酢と調味料とを適宜混ぜ合わせた飯に、主に生の魚介類(通 称種あるいはネタ)を飯の上に乗せ、ネタとすし飯の間にわさびを薄く延ばし、塗り付けたものである。種は魚介類のほかに、野菜を使ったりするが、近年では若者向きのメニューとしてローストビーフなど洋物のネタや、マヨネーズを使った創作すしも現れている。
すしと一口に言うが、多彩な種類
 一口にすしというが、すしを代表する握りずしをはじめ、巻きずし、押しずし(通 称大阪ずしー長方形などの型にすし飯を詰め、その上に魚介類などの種を乗せて押しがためて作るすし)、いいずし(飯ずしー飯を主にした押し寿司の一種で、飯の上にハモの切れ身などを乗せて押す)、ちらしずしなどがある。変り種としてはせいろを用いてちらしずしを蒸した蒸篭(せいろ)ずし、柿の葉で押しずしを包んだ柿の葉寿司、魚介類と飯などを発酵させ、自然の酸味で食べるなれずし(馴れずし)などがある。
 共同通信社の「記者ハンドブック」(用字用語の正しい知識)を見ると、鮨、寿司、鮓は使わなく、平仮名の「すし」が正しい用語となっている。「寿司」と書いた看板などが目に付くが、これはすし(鮨)の当て字である。
国際的に高まるすしブーム
 多くの外国では生の魚を食べる慣習がなく、一方、すしの最たる特性は生の魚の切り身を使うことにあり、外国人の食生活になじみにくい面 を持っている。例えば、大阪に住む多くの外国人は、お好み焼きは大好きだが、たこ焼きは嫌いという傾向がある。なぜなら、たこ焼きの中に入っているたこは、生焼けで、しかも噛むのにくちゃくちゃ(chewy)として気持ちが悪いという。たこ焼き好きの日本人からは、考えられないことだ。
 このように外国人の多くは生の魚を食することに抵抗感が多いのにかかわらず、近年ニューヨーク、ロンドン、パリなどですし店の出店が増勢をたどり、地元住民の人気を集めている。ヘルシー食品として認知されだしているからだ。
 また、海外においてすしの普及に尽力している人物の存在が、すしの国際化に貢献しているといえる。東京・浅草の老舗の経営者は、毎年2回、ニューヨークに弟子を引率し、無料ですしを提供するなどして、すしの普及に努めてきている
 外国のすし店の店舗形式は日本とは異なる。電飾など華やかな雰囲気の内装を演出したすしバー形式の店舗や、高級感を打ち出した回転すし形式の店舗などが、いまや各国の主要都市ですしの存在感を高めつつあり、すしはわが国固有の食べ物から国際的な食べ物へと変化の兆しが広がりつつある。
(2)
新興勢力の新業態店との競争激化
 すし店は、江戸前の握りずしと大阪の押しずしが主流だが、関西でも店頭で食べるのは江戸前の握りすしが多い。近年、従来型のすし専門店に加え、回転すし店、持ち帰りずし店、スーパー等の単品ラップずし等が増加している。回転すし店は、大半が江戸前すしを扱っているが、職人がカウンター内で握りベルトコンベヤーで流す方式と、顧客から見えない調理室でロボットが大半を握り、ベルトコンベヤーで流す方式とに大別 される。回転すしは、消費者の低価格志向に加え、座れば即時に食べられる便利性、単身世帯の晩飯代わりなど、気軽に安直に食べられる特徴が、既存のすし店と一線を画している。
 回転すし店は、すしの大衆化路線を狙い、大手チェーン店の多店化戦略により東京、大阪などの大都市をはじめ、地方都市にまで出店が広まり、いまや、全国的に回転すし店が増加してきており、すし店は既存型店と回転すし店で2分されている。また、海に面 した地方では、地魚を用いた回転すしをうたい文句にして人気を得ている店もある。
 回転すし店は急速な出店で、首都圏の中心部では過剰出店の傾向がみられ、チェーン店のなかには都内の末端に進出する傾向がみられる。しかし、集客力が弱く、開店して半年も経過しないのに閉店するチェーン店もあるなど、今後新陳代謝が激しくなる兆しがうかがわれる。
(3)
減少が続くすし店の店舗数
 総務省「事業所・企業統計調査」によると、すし店の店舗数は平成3年45,826店が16年には34,871店と13年間で10,955店も減少(23.9%減)している。減少率でみると、3年4.4%減、6年0.6%減、8年1.0%、11年5.8%減、16年11.8%と推移しており、11年以上に16年は減少率が高まっている。常用雇用者がいない店舗数は16年9,753店で、13年に比べ1,234店減少(11.2%減)となり、比較可能な生活衛生関係営業15業種の中では減少幅が少ない。
(4)
構造的に「すし離れ」現象、続く家計のすしへの支出減少
 かつては、すし食といえば外食の花形であり、高嶺の花的な存在であった。しかし、長期的に見ると衰退の傾向が明らかである。昭和56年の17,499円を底に年間支出金額は平成3年の20,583円まで増勢をたどった。この10年間の伸び率は17.6%増であるが、すしを除いた日本料理、西洋料理、中華料理、飲酒代等の一般 外食の伸び率は55.0%増であり、すしの支出は他の飲食支出に大きく水を空けられていた。
 その後、平成3年から14年までの11年間は、前の10年間とは逆に傾向的に前年割れが続き、16年まで減少が続いている。
 バブル全盛時代は着るものでも外食でも、高級ムードに浸っていた時代だが、平成2年ですら、すしの支出は前年比1.4%増と低い伸び率であり、一般 外食費支出全体の5.1%増を下回っている。すしに対する支出は、このように景気の好不況にかかわらず減少していることからみて、構造的に「すし離れ」が生じていることがうかがわれる。
 さらに、近年、単価の高い伝統的なすし店から低単価の回転すしや持ち帰りずしへ需要がシフトしていることも、支出金額減少に拍車をかけているといえよう。
(5)
バブル期に比べ1世帯あたり年間支出額は、約3分の1も減少
 総務省「家計調査年報」によると1世帯当たりのすし(外食)の年間支出額は、ピークはバブル絶頂期の平成3年20,583円でそれ以降続けて減少し、17年には14,517円になっている。この間の減少額は、1世帯当たり6,070円減少(29.5%減)である。これは、すし店側からみれば、バブル期に比べ売り上げが約3分の1減少したことを意味する。
2 食品衛生法で見るすし店業界の仕組み
(1)
食品衛生法は、清潔と衛生的な営業を強調
 すし店営業は取り扱う食品が主として生鮮魚介類であり、またその調理方法が直接人の手のひらや指によるものであり、常に食中毒など食品衛生上の問題が起こりやすい状態にある。すし店営業者には、消費者に対して安全で良質な商品を提供することが、責務が課せられている。食品衛生法は食品の安全性の確保のために、公衆衛生の見地から必要な規制、その他の措置を講ずることを目的に、戦後間もない昭和22年12月に施行された。
 主な内容としては、飲食に起因する衛生上の危害の発生の防止し、それにより国民の健康の保護を図ることにある。対象は幅広く、主な食品営業のほか、食品、添加物、器具、容器包装等を対象に、飲食に関する衛生について、多くの規則を設けている。
(2)
営業許可
 すし店のように、公衆衛生に与える影響が顕著な営業を、新たに経営する場合は、都道府県(保健所設置市または特別 区にあっては、市長または区長)の営業許可が必要である。この許可には、5年を下らない有効期間等の必要な条件等が付けられている。すし店など飲食店を経営する場合には、都道府県知事が業種別 に定めた施設基準に適合していることが必要である。
(3)
取り扱う食品等に対する規制
   すし店の売り物は、活きの良い鮮魚を使ったすしだけに、次の事項に関する不衛生食品販売等の禁止事項については、順守しなければならない。
腐敗、変敗したもの、または未熟なもの
有毒、有毒な物質が含まれ、もしくは付着し、またはこれらの疑いのあるもの
病原微生物により汚染されているものや、その疑いのあるもので、人の健康を損なう恐れのあるもの
不潔、異物の混入、添加などにより、人の健康を損なう恐れのあるもの
(4)
食品衛生監視員による監視指導
 都道府県等の保健所には、食品衛生に関する専門知識を有する食品衛生監視員が配置されており、営業施設に対し監視、指導を行っている。
3 すし店の特性
「すし店の経営実態調査」(厚生労働省 平成13年度)により、すし店の特性を概観してみよう。
・経営形態 最多は個人経営で59.1%、次いで有限会社32.0%で株式会社はわずかに8.2%である。前回調査自店に比べ、構成比に大差がない。
・経営者の年齢 50〜59歳が47.6%で最も多く、次いで60〜69歳が31.4%であり、70歳以上の5.3%を含めると50歳以上は84.3%に達し、高齢化が進展している。半面 40歳未満は3.4%とごくわずかに過ぎない。
・後継者 50歳以上の経営者で「後継者あり」は48.2%で、「後継者なし」は49.3%となっており、約半数は後継者を確保している。
・従業者規模 5〜9人が25.3%で最も多く、次いで2人が20.1%、3人が14人9.9%と続く。4人以下は57.1%と過半以上を占めている。
 1施設辺りの平均従業者数は7.5人で前回調査の平成8年の6.4人より増えている。
・専業・兼業割合 専業は85.5%、他の飲食店と兼業7.2%である。
4 すし店の従業者規模別の事業所数など
平成16年の全国のすし店の事業所数は34,871店で13年に比べ4,668店減少している。13年対11年比の2,957店減少に比べ減少幅が拡大している。
これを従業者規模別に見ると、1〜4人は13年に比べ3,260店減少(12.0%減)している。5人以上は30〜99人層は13年比で234店増加、増加率は26.2%と大幅に増加している。1,400店減少(11.2%減)と両方の規模ともほぼ同じ減少率になっている。
5人以上のうち30〜99人層は13年比で234店増加、増加率は26.2%と大幅に増加している。
平成16年の法・個人別事業所数は、個人が23,683店(構成比67・9%)、法人は11,194店となっている。13年と比べると個人が15.0%減に対し、法人は3.9%減と微減であり、個人の減少率の高いのが目立つ。
従業者数は217,679人で平成13年に比べ7.0減となっている。1事業所当たりの従業者数は6.2人で、8年4.9人、11年5.2人に続き増えている。
すし店の事業所数の推移    (参考)一般飲食店全体
(単位:店、%) (単位:店、%)
調査年 従業者規模別 合計 従業者 合計
1〜4人 5人以上 1〜4人
平成8年 (70.3)
31,725
(29.7)
13,380
(100.0)
45,105
(65.7)
299,963
(100.0)
456,420
  11年 (70.0)
29,768
(30.0)
12,728
(100.0)
42,496
(65.1)
288,426
(100.0)
443,216
  13年 (68.5)
27,080
(31.5)
12,459
(100.0)
39,539
(62.7)
277,694
(100.0)
442,883
  16年 (68.3)
23,820
(31.7)
11,057
(100.0)
34,877
(61.9)
259,706
(100.0)
419,663
注 ( )内は構成比である。
資料:総務省「事業所・企業統計調査」
(注)すし店の店舗数の従業者規模別店舗数は、総務省「事業所・企業統計調査」のみしかなく、
   しかも3年目ごとの調査である。ここで扱うすし店の事業所数は、主としてすしをその場所で飲食させるすし店、
   回転ずし、ファミリーレストラン型のすし店を含むが、宅配すし、持ち帰りすしを販売する店は含まない。

 

 

5 進む構造的な「すし離れ」、外食の花形から後退
 総務省「家計調査年報」によると、平成17年の1世帯当たりすし(外食)の年間支出額は14,517円(2.1%減)となり、依然として下げ止まらない。
 1世帯当たりの年間支出額を世帯主の年齢階級別に平成17年についてみると、支出が最も多いのは60〜69歳で16,503円、次いで50〜59歳の16,122円となっており最高の60〜69歳は、全世帯平均14,517円の約2,000円増しである。一方、支出が最も少ないのは29歳以下の世帯で8,729円、次いで30〜39歳の11,261円である。最小の29歳以下の世帯は、最高の60〜69歳に比べ約半分であり、格差が大きい。
 1世帯当たりの年間支出額を都市別にみると、1位 は金沢市で24,027円、2位は宇都宮市20,606円、3位仙台市20,031円となっている。金沢市は全世帯の1.6倍も支出している。半面 、少ない順では、那覇市5,484宮崎市8,149円、佐賀市9,112円となっている。概して中国、九州地方の支出が少ない。
急がれる「すし離れ」への対応
 消費者のすし離れは、最近の日本人がすしを嫌いになったわけではない。現在でも、すし食は日本人の好きな食べ物のベスト5に確実に入る食べ物に違いない。従来型のすし店はさておき、回転すし、持ち帰りすし店など店頭が混雑している新業態店を多くみかけることでも十分に証明されるといえよう。すし離れ現象は、従来型のすし店で主に生じている傾向が強いといえる。
 最大の原因は、ここ十数年の間に一段と巨大になった外食産業が、消費者の食生活の多様化や嗜好の変化をもたらしたことにある。日本料理の大衆化、新業態の出現、海外からも目新しい外食の進出などで、消費者の選択肢は好むと好まざるにかかわらず拡大している。従来型のすし店で食べるすしは、大衆のあこがれの座から多数の外食とほぼ横並びで選択される存在へと変化しているといえよう。
 この結果、消費者のすしの需要が他の外食に流出するという、消費者の食生活の構造変化が生じているといえる。したがって、長い期間の不景気を理由に高級感、高料金のすし店を敬遠しているわけではなく、すし離れは景気の好不況とは関係ないところで主に起きている。このように「すし離れ」は業界を巡る構造的な変化であり、生半可な手段ではすし離れ現象は解決されない。本腰を入れた対応策が急務である。
6 最近の動向
(1)
多様化する経営形態、売り物は低価格、種類の豊富さ、手軽さ
 最近では、回転ずし店、持ち帰りずし店、スーパー等の単品ラップずし等との競合が激化してきている。日本人としては、従来のすし店専業店に対するこだわりは捨て切れないものの、一面 では、顧客のニーズが変化し、新業態のすし店が成長していることも見逃せないであろう。
 これまで、すし店といえば高級食、高単価、しかも気軽に入れる雰囲気がなく値段も分からないのが当然であったが、新業態の出現が消費者のニーズを変化させ、保守的な経営を固持していたすし業界に新風を吹き込んでいる。
 回転ずし店、持ち帰りずし店、スーパー等の単品ラップずしなどの新業態に共通 しているのは、「価格が安い」、「値段が明示されている」など価格面 のほか、「日常的な食事として手軽に買える」、「単品ラップずしでは他の食べ物と同時に買える」など、気軽さや便宜性が評価されているようである。ただし、これらの新業態に対する味へ期待は極めて低く、味が落ちるのを承知の上で、「安い」から利用する傾向が強い。
 本来、すしといえば、ネタ、技術が勝負どころであるが、新業態店では、低価格、種類の豊富さ、手軽さを売り物にしている点、伝統的なすし店と一線を画しているといえる。
(2) 新業態店の特徴
回転ずしチェーン店
 一時、同業間の競合激化や食材の高騰、他業態レストランの出現等により、頭打ちとなった「回転ずし」が再び台頭している。この理由としては、@消費者の価格に対する意識がより敏感となったことにより、「回転ずし」の値ごろ感が見直されたこと、Aチェーン店同士の合併等業界内の再編成が進んだことにより、顧客ニーズに合った店造りを可能とするだけの企業の体質強化、体力の向上が促進されたこと、B炊飯・保温機器、握り専用ロボットの周辺機器の普及、冷凍・解凍などの技術革新が進み、質的満足度の高い商品を提供できるようになったこと、Cチェーン店化が促進され、大量 仕入れにより、従来に比べ高品質の材料が低価格で提供できるようになった、などがあげられる。
 回転ずしチェーン店が、すし業界で革新的な現象を巻き起こした要因の一つとして、高校生や大学生、若いOL、子供連れなど、これまですし店と無縁だった顧客層を開拓したことが指摘される。
 従来型のすし店は、これらの層が入りづらい雰囲気を長年の間に自らが築きあげてしまってきている。いわゆる、伝統商法にあぐらをかいた「殿様商売」、「職人気質の経営気質」こそ、きっぷの良いすし屋だという自意識が根を張っていたといえる。「それが気に食わないのなら、こなくていいよ」という、殿様商売気質が、この業界の常識であった。
 回転ずしチェーン店は、このように従来型のすし店が寄せつけなかったすき間層を新規需要客として開拓していった。回転ずし店は営業形態が異なるとはいえ、すし屋ですしを食べる楽しさを、国民大衆に植え付けたことは、日本の食分化改革の一断面 といえよう。
持ち帰りすし店
(ア)
 持ち帰りすし店は、和風ファーストフード産業の一形態であり、すしを店内販売したり、店頭において出来合いすしのテイクアウトを行う専業店をいう。昭和47年に「小僧寿し」が、にぎりすしの全国FC展開をはじめたのがきっかけとなって持ち帰りすし店が脚光を浴び、新規参入のFC店を主体に店舗数が急増していった。現在では、日本の飲食業ランキングの上位 に名を連ねるほどに成長している新興成長企業もある。
(イ)
 商品は、大きく分けて3種類からなる。最も多いのは、にぎりずしであり、次いですし専業店では取り扱いが少ない茶巾ずし、押しずし、地方特有のすしをアレンジした新型ずしなど特殊なすしが多い。さらに、のり巻、いなりずしなどの弁当風すし類が続く。
(ウ)
 業態としては、にぎりずし、鉄火巻、かっぱ巻、いなりずしなど主力にしている店舗が多いが、なかには京樽に代表されるように、持ち帰りすしながら高級感を打ち出すために茶巾ずしなどを主体にした、専門化された業態も現われている。
(エ)
 持ち帰りすし店は、FC形態など多店舗経営を通じて大量 仕入れによるコスト削減、店舗内作業の合理化による効率向上、職人技をパートの主婦が代行するなどで、すし専業店と異なった低価格システムを実現している。低価格に加え、待たずに一人前でも手軽に買え、家庭でゆっくり食べられるなどが評価され、主婦層の需要分野を開拓している。
(オ)
 販売は、1人前からパーティ用の大皿の盛りつけまであり、しかも、容器は返却をせず廃棄できるプラスチック製であるため、企業の懇親会や打ち上げ、グループの会合、花見など野外パーティ用の大口需要に利用される機会が増えている。ただ、今後プラスチック製の容器は、ゴミ処理の問題から、容器改善が課題となるであろう。
(カ)
 特に、主婦のうち30代、40代の年齢層が圧倒的に利用する割合が多い持ち帰りすしは、日常的な食事の一つとして手軽に利用する主婦層を取り込んだことは、いまや外食産業を抜いて成長している中食産業の火付け役ともいえる。
宅配ずしチェーン店
(ア)
 近年、市場規模は小さいものの徐々に世間の注目を集めている新業態である。「宅配ずし」の特徴点としては、@店造りの簡略化により初期投資が抑えられる、A一般 飲食店と違って、比較的立地を選ばないですむ、B高性能周辺機器(すしロボット等)や冷凍技術の高度化により、経験が浅くても比較的簡単にすしネタが扱えるようになった、C特に都市部のすし店において出前機能が弱体化しており、宅配ずしチェーン店はすき間産業としての成長性が見込める、などである。
(イ)
 店によっては、持ち帰り用の物販スペースを持つ場合もあるが、飲食スペースはなく、店舗の実態も看板と出前用バイク等でようやく分かる程度のものが多い。宅配エリアは宅配ピザとほぼ同様で約1〜2km、一般 家庭における「イベント需要」をターゲットとし、取扱商品もオーソドックスなにぎりずしのパーティ桶が中心(3,000円〜5,000円)となっている。
(ウ)
 具体的な販売促進策としては、チラシ、メニュー表の新聞折り込み、ポスティング等といったところが一般 的な手段である。また、午後6〜8時に注文が集中する傾向が強いことから、チェーン店によっては、全店にコンピユーターを導入し、前年同日の注文内容、注文実績等のデータを蓄積し、作業効率の向上に役立てているところもある。今後は「宅配ずし」同士での競合が激しくなり、撤退する店舗が少なくない。
(3)
主婦は中食にすしを食べるのが好き
 「主婦がすしを食べる場所」のアンケート調査の回答(複数回答)を見ると、「回転ずし」が59%、「スーパーの総菜すし」48%、「持ち帰り用すし」45%と自宅に持ち帰って食べるすし類が上位 を占めている。一方、すし店内の飲食は35%であり、専業店からの出前31%と大差がない。どうやら主婦は安くて懐を心配せずに、気軽に食べられる回転寿司や持ち帰り用すしをより好む傾向が強いようである。
主婦の好きなネタ
(ア)
主婦がすし屋でよく食べるネタ(複数回答)

東京

1位マグロ(赤身)65.4%、2位トロ61.5%、3位 アナゴ53.8%、4位イカ49.0%、5位卵46.2%

大阪

1位マグロ(赤身)55.0%、2位エビ50.0%、3位 イカ48.8%、4位ハマチ46.3%、5位ウニ43.8%
(イ)
主婦が回転ずし店でよく食べるネタ
東京
1位マグロ(赤身)69.9%、2位トロ62.4%、3位 エビ48.4%、4位イカ44.1%、5位アナゴ39.8%
大阪
1位イカ57.1%、2位マグロ(赤身)54.1%、3位 エビ53.1%、4位巻き物46.9%%、5位ハマチ40.8%
〔(株)ミツカングループ本社「おすしに関するアンケート調査」ミツカン情報ファイル No.59(平成12年)〕
7 経営上のポイント
(1) 消費者のすし店の利用実態と意識
 消費者のすし店の利用実態と意識を知ることは、今後の経営にとって極めて重要であるので、消費者モニター調査によって見てみよう。(東京都生活衛生営業指導センター「平成16年度消費者モニター等事業調査報告書」)
すし店の利用頻度、「利用なし」が4分の1も占める(回答は1つのみ)
「2〜6カ月に1回程度」 37.5%
「ほとんど利用していない」 24.5%
「月に1〜3回程度」 20.8%
「1年に1回程度」 13.1%
「週1回以上」  3.5%
 これを見て驚いたのは、「ほとんど利用していないが」24.5%と全体の4分の1もいることである。すしが嫌いだという人は、これまで聞いたことがない。今後、伝統的な食事だけに、黙っていても消費者がすしを食べに来ると考えていたとするなら、大変な誤解である。組織をはじめ、個別 のすし店は、すしのおいしさ、健康食品であることをPRし、需要喚起に努力すべきである。
「すし店を利用の同伴者」(複数回答)
「家族・親戚」 68.7% 最多は20歳代以下で73.8%
「友人・知人」 48.2% 最多は70歳以上で61.2%
「会社関係の人」 17.4% 最多は40歳代で26.9%」
「一人で」 7.4% 最多は70歳以上で11.8%
 自分の店への来店者がどのようなグループが多いのか知ることは、今後の顧客開拓に向け重要である。コンビにでは、レジで来店客について、年齢について打ち込み、その店の商品構成を決める要因にしている。すし店も、今後来店客層の把握を行うなど、科学的な営業管理が生き残る要因になる。
「すし店を選ぶ基準」(複数回答)
「新鮮である」 60.3% 最多は20歳代以下で73.8%
「清潔感がある」 53.3% 多いのは30歳代と60歳代
「雰囲気が良い」 47.1% 多いのは40歳代と60歳代
「値段が分かる」 41.5% 多いのは40歳、50歳代
「応対が良い」 35.0% 多いのは50歳代と30歳代
 すし店の売り物である、新鮮、清潔に関しては、30歳代と60歳代が厳しい。雰囲気についても60歳代が多い。家計調査が示しているように、60〜69歳は年齢別 に見て最高の支出層であり、すし店にとってはVIPであることに留意すべきである。
「すし店を見つける方法」(複数回答)
「友人・知人の紹介」 39.9% 最多は50歳代
「日ごろの口コミ」 37.2% 最多は40歳代
「店の評判」 33.8% 最多は70歳以上
「店構えを見て」 18.0% 多いのは20、30歳代
「店のチラシ、DM等の宣伝物」 11.8% 多いのは30,40歳代
「雑誌の広告や雑誌などの記事」 7.0% 最多は12.5%
「看板」 5.6% 多いのは20,30歳代
「インターネットの検索で」 4.6% 20、30、40歳代
 「紹介、口コミ、評判」がすし店を探す方法の三羽烏であるが、これらから見て自分でおいしい店を探索せず、他人任せであることを示している。自分の店の固定客は未利用者に自分の店の広告塔の重要な役割を果 たしている。また、口こみによる情報媒介にも貢献していることになる。この手段が波及させるのには、常に顧客の満足度、つまり「味・雰囲気・サービス」を高める経営姿勢が重要である。
「過去1年間のすしの食事場所」(複数回答)
「すし店で(出前を含む)」 74.0% 多いのは60、70歳代
「回転ずし店で」 59.1% 多いのは20、30歳代
「すし店利用し配達・持ち帰り」 40.4% 30,40歳代
「スーパー利用で持ち帰り」 33.6% 最多は30歳代
「居酒屋で」 13.9% 最多は30歳代
「ファミリーレストランで」 12.9% 多いのは70歳以上と40歳代
「コンビニの持ち帰り」 9.1% 最多は20歳代以下
 昭和50年台の初めまでは、すしを食べるといえば在来型のすし店しかなかったが、現在ではすし店の業態は多種多様になっている。多種多様化に伴い消費者のすしの買い方や食べ方が変化し、また年齢層によっても大きく異なる。特に、すし店の客層と回転ずしの顧客層は年齢によって峻別 されている。また、配達・持ち帰りすしは30、40歳代の利用が多い。
「すし店以外ですしを買ったり、食べたりする理由」
「値段がはっきりしている」 40.4% 最多70歳以上、40〜60歳代も多い
「安い」 33.5% 最多は20歳代以下
「気軽」 29.3% 最多は20歳代以下
「少量でも買える」 21.7% 最多は70歳以上
「持ち帰りゆっくり食べられる」 20.7% 多いのは40〜70歳以上
「注文がしやすい」 17.4% 多いのは30歳代と70歳代
「早い・待ち時間が少ない」 17.3% 最多は50歳代
「多くの種類の中から選べる」 12.3% 多いのは60、70歳以上
「家族やグループの好みに合わせられる」 11.8% 最多は40歳代
「手軽に買える」 10.2% 30歳代と60歳代
 これらの理由は、いずれも従来型のすし店の経営に不足していたものであるといえる。特に従来型のすし店は、会計が不明朗との不評を長い間買っていたが、顧客側もすし店とは「そんなものだ」と是認していた傾向が強かった。が、会計が明朗な回転ずしの登場で、消費者側がいち早く明朗会計になじんでいった。特に。値段がはっきりしている」が70歳以上で最も多いのは、過去に経験した従来型すし店の会計と新業態の明朗な会計との差を、明白に感じているためと思われる。
「すし券」「全国すしの日」の認識状況(1つだけ回答)
「すし券」−
 「知っている」 19.1%  
 「知らない」 80.6%  
「全国すしの日」−
 知っている 12.7%、  
 「知らない」 85.4%  
 全国すしの日は、毎年11月1日に昭和36年の全国大会ですし業のPRの一環として提唱され、以後、今日に至るまで続けられている。年1回、日頃の顧客に対する謝恩と新たな需要拡大を目的として各都道府県ごとに様々な企画が立てられ、積極的に取り組まれている。昭和36年に設定されてから平成16年まで45年間も経過しているのに、「知っている」がわずかに12.7%に過ぎない。今後、周知方法の見直しを行い、毎年の年間の浸透率の目標を立て、認識割合を高めることが望ましい。「すし店を利用していない」人たちが、アンケート結果 で約25%を占めている以上、来店者数確保に向け「全国すしの日」を積極的に活用すべきである。
(2)
改善急務な店舗のイメージ、不明朗価格、店主の態度
アンケート結果にみる消費者のすし店のイメージ
 参考までに資料は平成7年度と古いが、大勢は大きな変化がないと思われるので「環衛業に係る消費生活調査報告書」により、消費者がすし店を利用する際の意識を探ってみよう。すし店を利用する消費者の意識は、「少々割高でも新鮮で、おいしいすしを食べたい時」が34.6%と最も多く「おいしいもの」への満足度を求める根強い意識に支えられている。半面 、店舗イメージ、価格、応対、態度別にすし店に対する具体的な意見、要望を同調査のアンケート結果 でみると、以下のように、他の飲食店に比べシビアな意見が際立って多い。
@
店舗に関しては、「すし店は高級なイメージが強すぎる」、「外から内側が見えないので入りづらい」、「若い家族や学生同士、子供連れで気楽に入れる店がない」など、大衆性に欠けている点が指摘されている。
A
価格では、「高いというイメージがある」、「なぜあんなに高いのか分からない」、「高過ぎて落ち着いて食べていられない雰囲気がある」など高価格に対する不満が強い。「すしといえども、たかがご飯なのだから、もっと安くしてほしい」が消費者側の本音か。また、「値段がわからず入りづらい」、「値段がはっきりしないので入ったことのない店には入りにくい」など、不明朗な価格に対しての不満も強い。一方では、少数意見だが「高くてもおいしいすしを」があり、平均貯蓄高が全世帯平均の1.5倍もある65歳以上の高齢者には、このようなニーズが根強くあるといえよう。
B
店主やすし職人の対応、態度については、「店によっては客の足元をみて態度の悪い店主や職人が多い」、「高飛車やいばっている態度」、「店主や職人の雰囲気でおどおどして食べざるを得ない」など、経営者、板前の態度に対して手厳しく指摘している。
ファミリー層に好評の回転ずし
 同調査で、回転ずしとすし専業店との比較をみると、「回転ずしができ、すしが手ごろな感じになった」、「すし店は子供連れについてはあまりいい顔されないが、回転ずしは気軽に入れる」、「回転ずしは子供も喜ぶので、もっと店舗があった方がよい」、「回転ずしの出前を望む」など、回転すしの評価が高まっている。
迫られる旧態依然の経営の改善
 すし専業店は、長年、根強い業界の慣習による経営感覚が通 用してきたし、また、応対や態度は一般の飲食店と異なり職人風を吹かすのが粋という風潮が、根強く残っているのが、この業界の特性である。また、消費者側もそのようなものとして受け止めてきたが、新業態の出現によりすし専業店への風当たりが強まっていることは、アンケートの結果 により否めない事実である。
 すし市場において、新業態の展開が進捗している以上、消費者が真にすし専業店に何を望んでいるかを真摯に受け止め、旧態依然の経営を改善せざるを得ない状況に追い込まれている状況にある。これらから、店のイメージや雰囲気、不明朗な価格や店主、すし職人の態度の改善を図ることが喫緊の課題であるといえよう。
8 すし店を取り巻く経営上の問題点と改善策
(1)
経営上の問題点
 すし店を取り巻く経営上の問題点を国民生活金融公庫の「生活関連企業の景気動向等調査」アンケートの回答(複数回答)により多い順にみると、平成16年1〜3月以降は、1位 「顧客数の減少」は2位「客単価の減少」の割合の約2倍の割合であり、売り上げ減少に大きな影響を与えているといえる。3位 は「仕入れ価格・人件費等の上昇を価格に転嫁困難」となっている。
 「飲食店営業(すし店)の実態と経営改善の方策」(厚生労働省 平成14年6月)で経営上の問題点(複数回答)を見ると、1位 顧客数(注文数)の減少86.0%と2位以下を大きく引き離している。2位 は諸経費の上昇38.8%、3位施設・設備の老朽化となっている。国民生活金融公庫の調査と同様に「顧客数の減少」が1位 を占めているが、競争激化による来店客の減少がすし店にとって深刻な問題となっているといえる。
(2)
当面の対応策
 目先の短期的な対応策を同調査で見ると、1位「食事メニューの工夫・開発」66.5%、2位 「従業員教育・接客サービスの充実」34.1%、3位「施設・設備の改装」29.8%であり、消費者側が最も気にしている「価格の適正化」は4位 になって現われるが、23.2%と低い。それよりも、消費者の嗜好の変化、個食化などへの迅速な対応に追われている実態が浮き彫りにされている。
(3)
中長期的な対応策
 中長期的な対応策の1位は「施設・設備の改善」37.4%、2位 「特になし」28.5%、3位「パソコン等の導入」24.4%、4位 「経営の多角化」15.0%、5位「事業規模の縮小」9.8%となっている。2位 以下を見ると、最大の問題点である「顧客の減少」問題を解決する切り札に乏しく、顧客の回復は至難の技といえよう。なかでも「特になし」が2位 、下位とはいえ「事業規模の縮小」5位は、経営戦略が消極的になっていることがうかがわれ、「これ以上、どうしたらよいのか分からない」という考え方が、この事情に反映されているといえる。
 従業者規模別に見た中長期的な対応策を見ると、小零細規模と規模大規模との違いが鮮明に浮かび上がってくる。1〜4人で目立って多いのは「特になし」と「転廃業」である。半面 、従業者規模が大きくなるにつれ割合が増えているのは「施設・設備の改善」、「経営の多角化」であり、「パソコン等の導入」は次第に減少している。
(4)
激しい競争を生き抜くのには?
 先に掲げた短期・中長期の対応策は、最大の問題点である「顧客数の減少」の解決についておおまかであり、顧客数の減少が他の外食産業の新業態の出現の影響を大きく受けていると思われるの、対応策についてやや詳細に見てみよう。
 今後、他業種あるいは同業種との競争を生き抜いていくには、基本的な方針として、
・食生活の変化に伴って多様化する消費者ニーズを的確にとらえる
・単なる「満腹感」から「新鮮なもの」、「健康的なメニューの開発」力を注ぐ
・「すし店以外にないもの」など幅広い要求に応えていくことなどが要求される。」
 そのためには、下記の事柄に配慮した経営の改善が要求される。
@
経営方針の明確化 どのような店を目指すのか
A
商品の品質の維持向上 伝統的な技術を基にした新種・メニューの開発、盛りつけの工夫等
B
施設・設備の近代化でイメージチェンを図る(外から店内の雰囲気が分かるようにするなど)
C
食材の有効利用、調理技術の開発等による経費の節減
D
気軽に入れる店、値段の分かる明朗会計の店への改善
E
受動喫煙防止対策の実施
F
経営者自身が職人気質から脱皮すること
9 工夫している事例
(1)
企業概況
  ・所在地:秋田県大館市
  ・創 業:昭和36年(2代目、平成10年後継者になる)
  ・店舗数:1店
  ・従業者:5人(うち家族従業員4名、従業員1名)
  ・客席数:41名(カウンター11席、小上がり6席、2階大広間(収容能力24人前後)
  ・ビジョン:「ネタやシャリを徹底した見直し」
(2)
深刻さを増す経営環境、得意先の利用激減、新業態店の進出
  現在の経営者が店を引き継いだのは平成10年、35歳のときだった。後継者になる前後を挟んで、周囲の環境が次第に変化していった。かつて栄えた2鉱山の閉鎖、公共事業の圧縮、県庁の食料費問題など、来店を阻む要因が噴出した。これらに加え、回転ずしを筆頭に宅配ずし、持ち帰りすしなど、新業態が相次いで進出し、顧客数はじりじりと減少していった。また、飲み放題などの居酒屋の出店ラッシュも来店者減少に拍車をかけた。
 もはや、待ちの姿勢では、時代遅れになるのは目に見えてきた。頭の中に浮かんでくるアイデアを一つひとつ着実に行えば生き残れるという前向きの信念をもち、戦略展開に向け一歩を踏み出した。
(3)
工夫した策略
ア マグロの築地直接仕入れで差別化
 
  まず着手したのが、江戸前すしの看板であるマグロを、築地市場から航空便で直接仕入れることであった。平成10年、大館能代空港の開港が後押ししてくれた。東京で延べ6年間修業していた東京のすし店の兄弟子の築地のマグロ問屋の紹介も力を添えてくれた。ホンマグロを10キロ、20キロ単位 仕入れ、他の同業者との差別化を実現させた。
イ  シャリを江戸前にあった銘柄に切り替え
  「あきたこまち」と「めんこいな」の特性を生かし自店でブレンド米を作る。江戸前すしの特徴である@口に入れたときにぱらっとした食感、A時間がたってもパサパサしない、Bしっとりとしたシャリを創出した。
ウ  待ちの経営から脱皮、行動したときの効果 てきめん
  来店客は稲作地帯だけに、農家の繁閑に左右される。顧客の属人情報をパソコンにインプット。内容は、顧客の名前、住所、自営か勤務物か、料理や酒の好み、商談などの利用履歴、家族のお祝い事などの記念日などをデータベース化した。これらの集積した情報を整理し、個人の属性情報に合わせ、事前に利用の案内を発想し、来店や会合への利用を喚起している。
 前年度に売り上げが落ち込んだ月は、売り出しセールを行い、ダイレクトメールで来店を促す戦術を展開。例えば、「このはがき持参の肩には生ビール半額」、「お持ち帰りの巻物サービス」「マグロ祭り開催」などである。このダイレクトメール作戦で分かったことは、行動したときと、行動しなったときを対比すると、数字の上で明らかに差異が出るということであった。月別 売上高のどの計数管理の重要性を改めて認識した。
エ  地域のイベントに積極的に参加、地産地消の素材活用の新製品が好評
  大館市には、毎年10月2つのイベントがある。「きりたんぽ祭り」と「大館産業祭」である。このイベントでの方針は、秋田産の食材に徹底的にこだわった商品の実演販売である。この実演販売で、特に好評だったのが、「玉 子姫」であった。比内地鳥の卵の中にシャリを入れた厚焼きの玉子すしだ。厚焼き玉 子を作っているところをなかなかお目にかかれないものだ。観光客が大勢詰めかけ、そのうち約8割が「玉 子姫」を買った。
 この経験が、後日「職人技は人様に隠すものではなく、人様にみせるものだ」と信念を生み出す動機になった。
オ 念願のヒメマスすし開発
 
  押しずしの材料として、これまでほとんど利用されなかった十和田湖産の「ヒメマスすし」を、試行錯誤の末、平成15年にようやく自信作の創作にこぎつけた。以前から秋田の食材を使ったすし作りを実践してきたことに、東京で修業した仕込みの経験を生かし、ヒメマスすしの開発に成功した。夢は「富山の鱒ずし、京都の鯖ずし、大館のヒメマスすし」である。課題である販路開拓の取り組みが始まっている。
まとめ
 経営者の基本理念は「基本線である江戸前のすしの技術を常に磨くこと」にある。それには、自分の技術のレベルを確認する必要がある。平成15年、すし技術コンクールで東北予選を勝ち抜き、東北代表として"すし職人のオリンピック"と称される「第7回全国すし技術コンクール」で握りすし部門で敢闘賞を獲得した。これにより、本道の江戸前すしのほか、地場産の食材を使った商品開発に挑戦する自信を一段とつけた。
 背景にあるのは、同業者との横並び精神の排除である。危機感をバネにし、方針を明確にして行動する前向きの精神、新製品開発の粘り強い意欲などが高く評価される。また、単なる自店の利益のみでなく、地域振興のために地産素材の活用に、地元を代表する新製品の開発など、地域への貢献意欲も極めて強い。伝統食品としてのすし本来の技を後に続く職人にも伝承する意欲、技術と食材を組み合わせ、今後とも本物のすしを提供する「魅力ある店」を目指すなど、すし業界の将来の視野を取り込んだ経営にも積極的である。
 資料:国民生活金融公庫「後継者による生活衛生関係営業の生活革新事例」平成17年3月
【業界豆知識】
・「部屋」(すし職人の斡旋所)制度
  すし職人の多くは「部屋」(すし職人の斡旋所)に所属している。このため、すし職人の採用も「部屋」を通 じて行う場合が多い。また、採用するすし店そのものも以前に「部屋」に所属していた職人が独立したところが多く、「部屋」組織を中心として強いつながりがあることがうかがえる。代表的な「部屋」としては、東京の三長会、大阪の寿司善、宮城の青葉会などがある。
【トピックス】
・受動喫煙防止措置とは何か
  健康増進法が平成15年5月1日に施行され、それに伴い集客施設などの管理者は受動喫煙(他人のたばこの煙を吸和させられること)の防止が義務付けられている。健康増進法第25条の対象となる施設は「学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店、その他多数の者が利用する施設を管理するものは、これらを利用する者について、受動禁煙を防止するために必要な措置を講じなければならない」と定めている。この法律の施行により、ほとんどの生活衛生関係営業者は、受動喫煙防止措置を講ずる必要性が生じている。
・受動喫煙とは何か
  健康増進法によると、受動喫煙とは「室内またはこれに順ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされること」と定義している。他人のたばこの煙は「副流煙」といわれ、喫煙者が吸う「主流煙」に比べ、有害物質が何倍もの濃度で含まれていることが報告されています。非喫煙者が副流煙を吸わされることは、さまざまな病気を発症させる一つの要因となっています。特に発ガン物質ジメチルニトロソアミンが副流煙には多量 に含まれている。そこで、非喫煙者を副流煙から守るため受動喫煙防止措置を講ずる必要があるわけである。
受動喫煙防止措置の具体的方法
  受動喫煙防止措置には、大別して@施設内を全面 禁煙にする方法、A施設内を分煙する方法とがある。
@
全面禁煙
  受動喫煙防止対策の上では、最も望ましい方法である。灰皿の処理コスト、壁紙・エアコンのフィルターの汚れの清掃など費用が不要でコスト削減になる。また、宴会場の畳や床、テーブルクロスなどの焼け焦げの防止につながる。特に、妊婦や幼児、子供連れの顧客に安心感を与え、安心して飲食が出来るなどのメリットがある。
A
完全な分煙
  禁煙エリアにたばこの煙が流れないように、喫煙席(別の部屋)を設置する。特に禁煙エリアや非喫煙者の動線上、例えばトイレに行く通 路、バイキングやフリードリンクコーナー周辺やそこへ行く通路、レジ周辺、禁煙エリアとレジや出入り口との間の通 路などに、たばこの煙が漏れたり、流れたりしないように配慮する必要がある。
・不完全な分煙は違法
 分煙が次のような場合は違法となる。
@
禁煙エリアが指定されていても、禁煙エリアにたばこの煙が流れてくる場合(喫煙席周囲に間仕切りがないなどによる場合)
A
非喫煙者の動線上にたばこの煙が流れてくる場合
  特に注意しなければならないのは空気清浄機や分煙機が設置されていれば、受動喫煙防止対策が実施との誤解である。これらが設置されていても、たばこの煙の中の有害物質は、大半が素通 りしてしまうからである
・北海道庁の「空気もおいしいお店」の推進事業
  喫煙率が男女とも全国平均を上回る北海道では、平成14年度から飲食店に対する受動喫煙防止推進事業として「空気もおいしいお店」の推進事業を始めている。対象は政令都市である札幌市の俗北海道内にある飲食店が対象であり、認証店は平成18年6月末現在で421店に増えている。
  飲食店に対する同様の認証制度の取り組みは、全国の地方自治体でも行われ出しており、受動喫煙防止策を飲食店の経営者のみに任せるのではなく、行政の仕組みとして整備することで、小規模飲食店への浸透を促進することを狙いとしている。
  資料:国民生活金融公庫「生活衛生だより」No.135 2004年10月

 

資料

  1. 総務省「事業所・企業統計調査」
  2. 総務省「家計調査年報」
  3. (財)東京都生活衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活調査報告書」平成7年度
  4. 全国生活衛生営業指導センタ−「成功事例調査」
  5. 金融財政事情「企業審査事典」
  6. 中小企業リサ−チセンタ−「日本の飲食業」
  7. 国民生活金融公庫「経営の工夫事例集」飲食店営業(そば・うどん店、すし店)、平成14年3月
  8. 東京都生活衛生営業指導センター「平成16年度消費者モニター等事業調査報告書」
  9. 「生活営業関係営業ハンドブック2005」中央法
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