興行場(映画館・劇場・寄席)-1996年
1.概況
1996年
(1) 減少続く入場者数、映画館数
 

 戦後の混乱のなか、いち早く復興した映画産業は、昭和33年には映画館の入場者数が年間11億人に達し、ピークとなった。しかし、昭和28年に始まったテレビ放送が普及するにつれて、入場者数は減少し続け、特にカラーテレビ放送が始まると、その動きは加速し、毎年1億人以上も減少するようになり、平成6年には1億2000万人あまりに落ち込んでいる。

  入場者数の減少に伴い映画館数も減少の一途をたどり、映画全盛時代の昭和30年代前半には7000館を超えていたものが、平成4年以降は1700館台となっている。

(2) 映画≠映画館
  昭和30年代のテレビ普及期と異なり、現在は映画そのものに対する需要が減退しているわけではない。しかし、映画館に行かなくてもビデオレンタル店で300〜500円で借りれば映画がみられる時代になっており、映画=映画館ではなくなっている。またNHKや民放間の衛生放送が普及しつつあり、都市型CATVの開局ラッシュも続いている。こうしたメディアは独自の映像を流すばかりか、映画を目玉 にしており、映画館から客を奪いかねない。
入場者数、映画館数の推移
      入場者数(千人) 映画館数(館)
昭和30年
868,912
5,184
昭和35年
1,014,364
7,457
昭和40年
372,676
4,649
昭和45年
254,799
3,246
昭和50年
174,020
2,443
昭和55年
164,422
2,364
昭和60年
155,130
2,137
平成元年
143,573
1,912
平成2年
146,000
1,836
平成3年
138,330
1,804
平成4年
125,600
1,744
平成5年
130,720
1,734
平成6年
122,990
1,747
(資料)(社)日本映画製作者連盟

 

2.業界の動向

 

(1) 入場者数
    映画館の入場者数はヒット作品の有無によって増減するが、傾向的には相変わらず 減少の一途をたどっている。
 
入場者数
  入場者数(千人) 前年比(%)
平成元年
143,573
△ 0.9
平成2年
146,000
1.7
平成3年
138,330
△ 5.3
平成4年
125,600
△ 9.2
平成5年
130,720
4.1
平成6年
122,990
△ 5.9
(資料)(社)日本映画製作者連盟
(2) 映画館数
 

  長い間、映画館数は減少してきたが、平成6年は前年比13館の増加となった。こ れは、ミニシアターといわれる客席数 100〜200 の小規模映画館やビデオシアター、 ドライブインシアターといった新業態の映画館が増加しているためである。

映画館数
 
映画館数 (館)
  前年比(%) ビデオシアター
ドライブイン シアター
  前年比(%)   前年比 (%)
平成元年
1,912
△ 4.6
31
14
平成2年
1,836
△ 4.0
37
19.4
16
14.3
平成3年
1,804
△ 1.7
42
13.5
16
0.0s
平成4年
1,744
△ 3.3
48
14.8
15
△ 6.2
平成5年
1,734
△ 0.6
63
31.3
20
33.3
平成6年
1,747
0.7
62
△ 1.6
24
20.0

(資料)(社)日本映画製作者連盟

(3)

入場料金と興行収入
 

 平均入場料金はあまり上がっておらず、平成4年にようやく1200円台になった。昭 和50年代は、入場料金1500円まで入場税免税というラインがあったため、料金をそれ 以下に抑えざるをえず、なかなか値上できなかった。昭和60年の入場税法改正で免税 点が2000円に引き上げられ、平成元年の税制改正で入場税が廃止されたが、それでも 値上は若干にとどまった。全国約1万店のビデオレンタル店との競合もあって値上す ると、客離れに拍車をかけるおそれがある。

 入場者数が減少し、入場料金もあまり上がっていないので、興行収入は減少傾向が 表れている。平成6年の興行収入1536億円は、昭和50年代前半の水準と大差ない。

平均入場料金と興行収入

平均入場料金 興行収入(百万円)
  前年比(%)   前年比(%)
平成元年
1,161
3.8
166,681
2.9
平成2年
1,177
1.4
171,910
3.1
平成3年
1,181
0.3
163,378
△ 5.0
平成4年
1,210
2.5
152,000
△ 7.0
平成5年
1,252
3.5
163,700
7.7
平成6年
1,249
△ 0.2
153,590
△ 6.2
(資料)(社)日本映画製作者連盟

3.業界知識
(1) 分類

 系列による分類 映画館は、(a)東映、東宝、松竹の邦画大手3社が経営する直営館(b)特 定の大手と契約している契約館(c)興行会社などが経営する独立館に分類され る。このうち、全国に130館あまりある直営館は封切作品を中心に上映してい る。契約館も契約先大手が配給する作品の興行を原則としており、それ以外の作 品を上映することはあまりない。大都市においては、こうした大手3社の系列が 比較的強固である。

 興行形態による分類 以前はロードショー館、一般封切館、下番館などに分類された。ロードショー 館は一般封切館に先立って新作品を上映するものである。しかし、近年、資金の 早期回収をはかるため、プリントを多くして拡大封切をするケースが増えており ロードショー館、一般封切館、の区別は実際上意味をなさなくなっている。下番 館は、ロードショー館、一般封切館が上映したあとに上映するものであり、かつ ては2番館から26番館まで存在していた。しかし、映画館数の大幅減少とビデ オの普及で、ビデオがかつての下番館システムを補完するようになったことから 内容が大幅に変化している。
(2) 流通経路
  制作された映画フィルムは需要に応じた本数がプリントされる。邦画を制作する のは大手3社や独立プロであるが、最近は独立プロの制作本数が多い。大手3社の 作品は同社により配給され、独立プロの作品は大手3社やその他の配給会社によっ て配給される。大手3社は全国的な配給網を有する。邦画は邦画館に配給されるが 、洋画配給のルートに乗った作品は洋画館で上映されることもある。一方、洋画は 主に洋画配給会社が輸入配給する。輸入配給会社には、東宝東和、日本ヘラルド映 画などの国内専業者や、UIP、ワーナー、コロムビアといった米国メジャー系の 配給会社がある。洋画の配給ルートは比較的自由で配給会社は映画館の系列にとら われず配給を行っている。

 

4.課題と展望

  国が豊かになり、国民の趣味・嗜好も多様化してきたが、映画鑑賞に対する需要は決して衰えていない。ただ、映像を見る場所がテレビやビデオ等の普及によって、映 画館から家庭へと移ったのである。

 映画館の長所は、迫力ある大画面と質の高い音声である。また、ショッピングや外 食などの楽しみがあるのも、映画館ならではのことである。こうした長所を生かし、 消費者に快適な空間と時間を提供すれば映画館が生き残っていくことは可能である。 ソフト(作品)・ハード(施設)双方とも一層の充実が急がれる。

 

(1) 魅力ある映画(作品)作り
 

映画館は映画産業においては受け身の商売であり、興行価値のある(面 白くて新 しい企画のもの)映画がドンドンでてこないとどうしようもない。お客は建物を見 にくるのではなくて、あくまでも映画を見にくるのである。

 「お客はお金を払って楽しみにくるわけだから、笑って面白がって見ているうち に、なんとなくその映画のなかにのめりこみ、一緒に映画のなかの人達と喜怒哀楽をともにするようになり、終わった後ある感動を受けて出てくる」 (黒沢 明監督)

 魅力的な映画を作るためには『想いのこもった映画』を作れる人を発掘し、育てる努力を業界として行うことも必要であろう。

(2) 魅力ある映画館(施設)作り
 

  家庭でビデオやテレビを見るのとは差別された設備・環境が必要である。お客は 快適な環境で、満足のいく作品を鑑賞したいと思っており、ゆったりとした座席と 立体音響設備など家庭では味わえない場を求めて映画館を訪れるのである。映画鑑 賞スペースとして魅力ある施設づくりが最も必要である。

 シネマコンプレックスといわれる複合映画館は、いわば「映画のデパート」とし て複数のミニシアターを設置することにより(a)洋画や邦画など多くの顧客のニ ーズに応えられる(b)各館の上映開始時間をずらすことによって、お客が自分の見たい映画にこだわらなければ、ほとんど待ち時間なしに映画を始めから楽しめる 等の利便性を提供できる(c)売店やトイレなどの効率的な利用が可能である等、 顧客・経営者双方にメリットがある。また、映画館はその地域の繁華街にあること が多いので、建て替え等で複合ビルにするときは、総合娯楽センターとしてショッ ピングスペース、ゲームスペース、憩いスペース等を盛り込むことで集客力の向上 が期待できる。例えばショッピングセンター内への映画館の設置は、駐車場の問題 の解消と共に、買い物客との相乗効果が期待できる。

5.成功している映画館経営の事例

●A映画館

 大都市の主要幹線駅から徒歩5分の繁華街に立地し、複合映画館5館を自己所有 ビル10階建て内にて経営。

  • 立地条件の良さを最大限に生かして、ゲームセンターを併設、キャラクター商品 の販売も行う等、集客対策に注力している。
  • シネマコンプレックスであり、それぞれの映画館を効率的に配置しており、その ため、チケット販売が2箇所ですみ、人件費等経費の抑制ができる。
  • 上映系統は洋画ロードショー3館、邦画(松竹)1館、邦画(東映)1館、上映 成績に応じて上映館を変更するなど効率化を図る。
  • 顧客層が男性が65%と多い。将来は女性客を増やすべく対策をたてるとのこと で、現在でもシニア料金(小人料金並)を設けて、オールドファンの獲得に意を 注いでいる。
  • 設備は最新のものを取り入れており、建物については清潔さを、また、接客面 に ついては不快感をお客に与えないようマナーに十分留意している。

 

 

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