興行場(映画館・劇場・寄席)-2003年
1 概況
2003年
(1) 興行場の分類
 広義の興行場は、日本標準産業分類では、娯楽業(映画・ビデオ制作業を除く)となっており、映画、演劇その他の興行および娯楽を提供し、または休養を与える事業所並びにこれに付帯するサ−ビスを行う事業所が掲げられている。具体的な内容を次に示してみよう。
映画館
  アトラクションのあるなしにかかわらず、商業的に映画の公開を行う事業所をいう。
劇場
  演劇を提供する劇場およびその付属の劇団、歌劇団、オ−ケストラ並びに劇場を持つ興行団をいう。主として劇場を賃貸する事業所も含む。
興行場
  落語、講談、野球、相撲などの娯楽を提供する興行場および興行場を持つ興行団をいう。寄席、演芸場、野球場(プロ野球興行用)、相撲興行場等。
劇団
  契約により出演または自ら公演し演劇を提供する劇団、俳優および演劇興行を請け負う事業所をいう。劇団、歌劇団(いずれも独立のもの)、芸能プロダクション、コンサ−ト・ツア−業等。
楽団および舞踊団
  契約により出演または自ら公演する楽団および舞踊団をいう。楽団、バンド、舞踊団(いずれも独立のもの)、歌謡歌手業(フリ−のもの)等。

ここでは、大衆性が強いものの、需要分野が大きく変化している映画館に焦点を当てるとしよう。
(2) 映画館の興行形態による分類
  以前はロードショー館、一般封切館、下番館などに分類された。ロードショー館は一般 封切館に先立って新作品を上映するものである。下番館は、ロードショー館、一般 封切館が上映したあとに上映するものであり、かつては2番館から26番館まで存在し、いわゆる「場末の映画館」と呼ばれる映画館が、全国津津浦浦にあり、小さな町にも最低1館はあった。
(3) 変化する興行形態
  近年、資金の早期回収をはかるため、プリントを多くして拡大封切をするケ−スが増えており、ロードショー館、一般 封切館の区分は実際上意味をなさなくなっている。また、下番館の多くは姿を消し、下番館の意味をなさなくなった。現在では、下番館の役割を普及著しいビデオが補う形になっている。さらに近年では下記のように多様なスタイルの新業態映画館が出現し、既存型の映画館にとって代わり、次世代の新しい潮流になるとして、映画関係者の関心を集めている。
ショッピングセンタ−などと一体化した「複合施設映画館」
1映画館に複数のスクリ−ンを設置し多数の映画を同時に上映できる「シネマコンプレックス(複合映画館)」
1ヵ所に複数の映画館を設置する「マルチシアタ−」
客席数が300席以下の小規模で、芸術性の高い映画を自館だけで公開する「ミニシアタ−」
屋外スクリ−ンに上映される映画を車に乗ったまま見ることができる「ドライブインシアタ−」
(4) 長期的に著減の入場者数、映画館数は平成6年に底打ちから回復へ
  昭和30年以降の映画全盛時代の昭和33年には、映画館の入場者数は、当時の日本の人口9,100万人の12.4倍に及ぶ年間11億2,700万人という驚異的な数字に達した。映画館も昭和30年代前半には7,000館を超えていた。  その後、両者の減少に拍車をかけたのが、昭和28年に始まったテレビ放送の早いテンポの普及であった。特にカラーテレビ放送が始まるとその動きは加速し、毎年1億人以上も減少していった。入場者数は、昭和33年の11億人をピ−クに5年後の38年には5億1,100万人に半減し、48年以降は1億人台に落ち込んでしまっている。しかし、平成4年の1億2,560万人を底に一進一退で推移し、14年には1億6,076万人となっている。入場者数は景気の影響よりも、その年のヒット作品に大きく影響を受ける特徴がある。   映画館数も入場者数の減少とほぼ平行して減少の一途をたどり、昭和35年の7,457館をピークに、平成5年には1,734館まで後退した。しかし、翌6年に長期低落の底を打って増勢に転じ、8年には1,828館と1,800館台に乗せ、11年には2,221館と2,000館台に増え、14年には2,635館と増えている。とはいえ、ピ−クであった昭和35年7,457館の35%に過ぎない。
(5) 映画人口の中心は40〜49歳
  家計調査年報(総務省)により、平成14年の映画・演劇等入場料をみると、5,878円となっている。長年にわたり、同支出は緩やかながら傾向として増勢をたどってきたが、14年は1.2%減となっている。ただし、この支出は映画のほか演劇等への支出が含まれており、興行全般 への支出を意味する。
 同調査により世帯主の年齢階級別に支出をみると、最多支出は40〜49歳7,603円、次いで30〜39歳6,336円で、少ない順では70歳以上4,518円,29歳以下4,651円となっている。最多支出の40〜49歳は全国平均の1.3倍であり、最小支出の70歳以上は77%である。
  同じ調査により都市別にみると、東京都区部が最も多く12,075円、次は川崎市で11,183円、福岡市10,028円の順となっている。少ない順では、和歌山市3,119円、次いで鳥取市3,513円に青森市が続き3,828円となっている。最多支出の東京都区部は、全国平均の2.1倍であり、最小支出の和歌山市は53%に過ぎない。
2 業界の動向
(1) 映画館数の着実な増加が、入場者数水準を底上げ
 平成14年の映画館への入場者数は、日本映画制作連盟によると1億6,076万人で前年比9.8%増となった。底であった8年の1億1、957万人に比べ41,192人(34.4%増)も増加している。家計調査では、14年の映画への支出は演劇等を含むとはいえ前年比1.2%減となり、一方、映画館への入場者数は、9.8%増と矛盾があるが、これは、映画館への入場者数に単身世帯が多数含まれているための違いと考えられる。   映画館数は、14年は2,635館で前年に比べ50館(1.9%増)増えている。ただし、増加数は鈍化している。ちなみに平成6年以降の年間増加数の推移をみると6年13館、7年29館、8年52館、9年56館とじわじわと増加に転じていった。そして、10年を境に、複合映画館を主体に映画館数は、10年109館増、11年228館増、12年303館増と急増した。しかし、13年は61館増と急速に増加数が減少、14年も50店増にとどまり、新規参入は一服状態にある。

平均入場料金と興行収入

平均入場
料金 (円)
前年比
(%)
入場者数
(万人)
前年比
(%)
興行収入
(百万円)
前年比
(%)
平成8年 1,245 0.2 11,957 △ 5.9 148,870 △ 5.7
平成9年 1,259 1.1 14,071 17.6 177,197 19.0
平成10年 1,264 0.4 15,310 8.8 193,499 9.2
平成11年 1,263 △ 0.1 14,476 △ 5.4 182,836 △ 5.7
平成12年 1,262 △ 0.1 13,539 △ 6.5 170,862 △ 6.5
平成13年 1,226 △ 2.9 16,328 20.6 200,154 17.1
平成14年 1,224 △ 0.2 16,076 △ 1.5 196,780 △ 1.7

(資料)(社)日本映画製作者連盟「日本映画産業統計」

(2) 急成長のシネマコンプレックス
  映画館数の減少に歯止めをかけたのは、シネマコンプレックス(以下シネコン)の登場である。わが国で最初のシネコンは、平成5年、神奈川県海老名市に開業した「ワ−ナ−・マイカル・シネマズ海老名」である。映画館数が5年を底に6年以降、毎年増勢を強めているのは、このシネコン・ラッシュによるものである。当初シネコンは、映画館の少ない地方都市に進出していったが、次第に都心および東京のベッドタウンである埼玉 県、千葉県、神奈川県などへの進出を強めている。ちなみに2002年12月末の都道府県別 のスクリ−ン数は、1位は愛知県154、2位神奈川県106、3位 福岡県98、4位東京都88、5位千葉県86、6位大阪府77となっている。   全国のスクリ−ン数は、2000年1,123、2001年が1,259、2002年は1,396スクリ−ンと増えている。増加数は2001年136、2002年137とほぼ同数で増えている。   特に、最近では、北海道、青森県などでの急ピッチの展開に拍車がかかっている。しかし、地方都市では、シネコン進出に伴う競合激化で既存映画館の動員数が減少し、古くから親しまれた映画館の閉館も見られる。例えば、青森・八戸市では3館が、長崎市でも老舗の映画館が、宮崎市では2館が閉館している。滋賀県では、一時落ち着いたシネコンブ−ムに再度火がつき、湖東、湖南方面 での相次ぐ進出で、シネコン間の競争が一段と激化し、周辺地域の既存映画館への影響が懸念されるなど、シネコン同士の競争激化に既存映画館が巻き込まれている。   また、東宝、東映など大手は東京、大阪の都心の老朽化した既存映画館を2006年をメドに再開発する予定のほか、松竹も名古屋駅前に建設の高層ビル内にテナントとして入り2007年に開業予定。大都市の中心部でもシネコン台頭の動きがでてきており、シネコン競争激化の予兆をうかがわせる。
(3) 上げられない入場料金、入場者数減少が響き減収に
  代表封切館の大人料金は、1,800円で平成5年以降変化していない。平成元年の税制改正で入場税が廃止されたが、ビデオレンタル店との競合もあって平均入場料金は下記の表に見られるように、長い間1,200円台にとどまっている。ただし、11年以降の入場料金は、わずかずつではあるが、毎年低下している。   ちなみに、日本映画制作者連盟推計によると、劇映画のビデオキットによる平成14年の販売額は、メ−カ−売上高は2,847億円(前年比10.2%増)、ビデオ小売店売上高は4,971億円(前年比12.5%増)と、14年の映画館売上高1,967億円(1.7%減)をはるかに上回っている。また、14年のビデオによる映画鑑賞人口は8億3,310万人(前年比19.0%増)と映画館入場者数1億6,076万人の5.2倍に及んでいる。かつての下番館の役割は、いまやお茶の間劇場に取って代わられている。
3 経営上の問題点
   厚生労働省の調査(「興行場営業(映画館)の実態と経営改善の方策」平成14年6月)によると、経営上の問題点の1位 は、「客数の減少」で74.1%(複数回答)、2位は「施設・設備の老朽化」、3位 は「諸経費の上昇」、4位が「立地条件の悪化」となっている。   しかし、国民生活金融公庫の「生活関連企業の景気動向等調査」で、最近の4半期ごとの調査による経営上の問題点をみると、1位 は「大企業の進出による競争の激化」、2位「利用者の好みの変化」、3位 は「新規参入業者の増加」に続き、4位「客単価の値下げ難」となっており、平成11年以降順位 に変更がない。1位「大企業の進出」、3位「新規参入業者の増加」は両者ともシネコンを指していることは、先のシネコン・ラッシュの状況から十分にうかがえる。   厚生労働省の調査での1位客数の減少は、大企業の進出、新規参入業者の増加が影響し、客数が減っていると回答しているものと読み取れよう。今後、既存の中小の単独映画館にとっては、シネコンの増加による経営上の問題点がますます拡大する方向にあるといえよう。
4 今後の経営改善のあり方
  今後の経営改善のあり方について、(財)東京都生活衛生営業指導センタ−「生活衛生関係営業の実態と今後の経営のあり方(興行)」(平成12年度)は、下記のことを指摘している。
(1) 良質な作品の確保
    良質な作品の確保にあたって重視すべきことは「お客様の目線で考える」ことである。目線とは、顧客がふと漏らした言葉や、なにげない会話の中での要望や苦情、本音、生の声をいう。その目線を作品選定の基準して、良質な作品の選定に生かすことが極めて大事である。
(2) リピ−ト客の確保
  リピ−ト客の確保のためには「劇場の個性を明確にし、お客さまとの良い関係を築くこと」である。それには、ビデオにはない劇場の個性的な側面 や固有の雰囲気づくりを行い、その魅力をいかにアピ−ルするかであり、これまで以上に宣伝の工夫が重要視されてくる。もう一つは、会員の組織化により、継続した情報の提供、割引などの特典により、顧客との距離を密接にし、固定的な愛用者層を増やして行くことに努力すべきである。
(3) 映画料金の低価格化への経営努力
  同調査によるアンケ−トの回答では、利用頻度が減ったの理由として「料金が高い」が3位 となっている。また、映画館にサ−ビス面で何を望むかについての回答で最も多かったのは「映画料金を安く」であり、料金に対する意識が極めて高い。いま以上に観客動員を増やすには、映画料金の低価格化への見直しは避けられない状況にある。そのためには、生き残りをかけて価価格化に向けた経営の合理化が求められている。同時に、入場者数の増加を図るための方策を講じることが課題となる。
5 今後の経営課題
(1) 映画館の魅力を生かした生き残り策の展開
  国が豊かになり、国民の趣味・嗜好も多様化してきたが、映画鑑賞に対する需要は決して衰えてはいない。ただ、映像を見る場所がテレビやビデオ等の普及によって、映画館から家庭へと移ったに過ぎない。“迫力ある大画面 と質の高い音声で”という映画館の長所を生かして、消費者に快適な空間と時間を提供すれば、映画館の生き残りは可能であろう。この視点からソフト(作品)・ハード(施設)双方の一層の充実が急がれる。たとえば、次世代の映画館といわれているシネマコンプレックス(複合映画館)では、座席は従来の映画館と異なり座り心地のよい椅子を設置し、高音質の音響設備を整え、飲食部門も充実が図られている。   先の「生活衛生関係営業の実態と今後の経営のあり方(興行)」のアンケ−ト調査によると、映画館で映画をみる魅力としての回答は、1位 「高品質で立体音響などの迫力がでる」、2位「集中して鑑賞できる」、3位 「気分転換ができる」であるが、具体的な経営改善を進めるには、このような映画ファンが感じている映画館の魅力を、なお一層増すよう注力すべきである。
(2) 魅力ある映画館(施設)作り

 映画館は、家庭でビデオやテレビを見るのとは全く異なる非日常的な設備・環境であることが必要である。お客は快適な環境で、満足のいく作品を鑑賞したいと思っており、ゆったりとした座席と立体音響設備など、家庭では味わえない場を求めて映画館を訪れるのである。映画鑑賞スペースとして魅力ある施設づくりが重要である。   シネマコンプレックスといわれる複合映画館は、いわば「映画のデパート」として複数のミニシアターを設置することにより、次のような効果 が期待できる。

 

(a) 洋画や邦画など多くの顧客のニーズに応えられる
(b) 各館の上映開始時間に間隔をもたせることによって、お客が自分の見たい映画にこだわらなければ、ほとんど待ち時間なしに映画を初めから楽しめる等の利便性を提供できる
(c) 売店やトイレなどの効率的な利用が可能である等、顧客・経営者双方にメリットがある。また、映画館はその地域の繁華街にあることが多いので、建て替え等で複合ビルにするときは、総合娯楽センターとしてショッピングスペース、ゲームスペース、憩いスペース等を盛り込むことで集客力の向上が可能である。たとえばショッピングセンター内への映画館の設置は、駐車場の問題の解消と共に、買い物客との相乗効果 が期待できる。
(3) 今後の方針
 映画館の経営者が当面の対応策として掲げているのは、最も多いのが「接客サ−ビスの充実」、次いで「施設・設備の改装」「ファン感謝デ−等の開催」となっている。また、長期的な対応策を多い順にみると「施設、設備の改善」、次が「新しい映写 技術の導入」「経営の多角化」と続いている。
6 工夫している事例
(1) 企業概況
  • 立  地 :中国地方では大都市の繁華街中心地
  • 企業形態 :株式会社 資本金1,000万円
  • 創  業 :明治時代 法人設立;昭和29年
  • 従業者数 :17名(受付係4名、事務・営業6名、映写技師3名、パ−ト4名)
  • 店  舗 :単独館(同一フロア−に2館を併設、客席数342席・150席)
  • 設備内容 :10階建のうち8階フロア−、映写機台数5台、スクリ−ン2台、音響システム2セット、駐車場なし
  • 上映内容 :2館とも洋画の封切館
(2) 競合激化で対応策が急務に
 市内の映画館数は25館だが、邦画・洋画の封切館10館がこの地域に集中。平成10年秋に、マルチコンプレックス館(7スクリ−ン)が進出し、競合状況は厳しくなった。この影響は1年目は軽微であったが、レイトショ−サ−ビスや駐車場料金の引下げなどの影響を受け、売上げが減少していった。さらに、平成16年には9スクリ−ンのマルチコンプレックス館の進出が計画されており、競合は一層厳しくなる見通 しであり、何らかの対策が急務の課題となってきた。
(3) 設備、接遇改善で顧客第一志向を徹底
    当館を巡る経営環境の変化、潜在的な競争激化の予想等からみて、競争に打ち勝つには、設備の改善とサ−ビスの向上を優先して行うべきと考えた。対抗策としての実施事項は次のとおりである。
  ゆったり観賞できるように椅子を大型化
     従来、映画館は1回当たりの収容能力を考えて、椅子を設備として重視していなかった。そこで、入場顧客の満足を第一として、椅子席の改善に着手した。ゆったりとした雰囲気で映画が観賞できるように、1館は椅子席を500席から342席に、もう一つは200席を150席に削減すると同時に、椅子を坐り心地のよい大型の椅子に更新した。また、音響設備、内装も更新した。
  安心して映画が楽しめるよう、接遇改善
      顧客志向のために接客技術の改善に取り組んだ。接遇改善に向け、従業員全員が参加する定例ミ−ティングを毎月1回行っている。そこでは、上映作品に対する顧客の反応、苦情の内容と対策、接客技術の向上の方法などを相互に話合い、改善すべき点はすぐに実践に移している。さらに、接遇改善のための接客マニアルを作成し、従業員全員に配布し、常に顧客志向の精神を発揮するように仕向けている。
(4) 改善後の効果
 設備改善は入場者の口コミで拡がり、入場者数の増加に結びついている。また、入場券販売や受付担当の従業員の対応も改善されて評判がよくなっている。これらの効果 により、“ゆったりとした雰囲気で気持ち良く映画が楽しめる”との風評が次第に浸透し、特に女性客の増加が目に見えて多くなっいる。   映画館の入場者数は、上映作品次第が通説になっているが、入場数の増加状況からみて、ゆったり観賞できるような雰囲気づくりが大事であることが実証された。ちなみに、売上げは、平成11年は前年に比べ8%減だったものが、設備、接遇改善後の12年には9%増と大幅に好転している。   これらの効果の発現は、経営者が業界の動向に常に関心をもち、また、長年にわたり培った経験による先見力に負うところが多いほか、常に経営を計数面 から管理していたことも早期に適切な対応策を打ち出せたといえる。また、従業員は定着率の高い年配者が多いため、経営者の考え方を常日頃から理解しており、新たな経営方針の展開にも一生懸命に取り組んだことなども業績改善に貢献している。
7 業界豆知識
(1) 映画館の系列による分類

  映画館を系列により分類すると、(a)東映、東宝、松竹の邦画大手製作映画会社である3社が直接経営する直営館、(b)特定の邦画大手製作映画会社と契約している契約館、(c)興行会社などが直接経営する独立館の3形態に大別 される。これらのうち、全国130館余りの直営館は、封切作品を中心に上映している。また、契約館も契約先である大手が配給する作品を原則として上映することとなっており、それ以外の作品が上映されることはほとんどない。とくに大都市ではこの傾向が強く、大手3社と系列映画館の間で確固たる基盤が築かれているケ−スが多い。

(2) 映画フィルムの流通経路
 邦画は、大手3社や独立プロで制作されるが、最近は独立プロの製作本数が多い。各社で製作された映画フィルムは、映画館の需要に応じた本数がプリントされる。映画館への配給は、大手3社の作品については同社により配給され、独立プロの作品は全国的な配給網を有する大手3社やその他の配給会社によって配給されるシステムとなっている。邦画の配給は、大手3社の邦画は邦画館に配給されるが、洋画配給のルートに乗った作品が例外として洋画館で上映されることもある。一方、洋画は主に洋画配給会社が輸入し洋画館に配給する。輸入配給会社には、国内専業者として東宝東和、日本ヘラルド映画などがあり、外資系としてはUIP、ワーナー、コロムビアといった米国メジャー系の配給会社が主力となっている。洋画の配給ルートは、邦画のような制約がなく比較的自由であり、配給会社の配給は映画館の系列にとらわれず行われている。   最近では、ビデオソフト、テレビ、CATVなどの映画ソフトの2次流通 市場が、放送のデジタル化や映像ソフトのDVD化などデジタル全盛時代を迎え、映画の販売、流通 などの業界の構造がこれまでと異なり変革する段階に直面している。すでに一部では、これまでのフィルム全盛からビデオへの転換が図られており、また映画の製作・配給・興業なども全工程をデジタルで行うシステムの導入が現われている。
【トピックス】
   シネマコンプレックス(複合型映画館)   同一の建物にスクリ−ンが複数あるが、1スクリ−ン1館となっており、入場券売場、売店、映写 室などを共有している施設である。シネマコンプレックスは、ショッピングセンタ−などと一体化した複合施設であり、駐車場完備で車社会に適応、また、音響、客席などの設備の充実により、映画ファン層の増加に大きく貢献している。

 

資料

  1. 金融財政事情「企業審査事典」   
  2. 日本映画製作連盟「日本映画産業統計」   
  3. 国民生活金融公庫「生活関連企業の景気動向等調査」   
  4. (財)東京都生活衛生営業指導センタ−「生活衛生関係営業の実態と今後の経営のあり方(興行)」平成12年度   
  5. 国民生活金融公庫「経営の工夫事例集」(興行場(映画館))平成12年度   
  6. 中央法規「生活衛生関係営業ハンドブック」2003年   
  7. 厚生労働省「興行場営業(映画館)の実態と経営改善の方策」平成14年6月
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