興行場(映画館・劇場・寄席)-2005年
1 概況
2005年
(1) 興行場のうち映画館を取り上げる理由
 ここでは、興行場のうち映画館を取り上げる。一般 に興行というと、客を集め、入場料を取り、映画、演奏会、演劇の芸能関係の鑑賞や、相撲、プロ野球、サッカーなどのプロスポーツの観戦のほか、サーカスなどの見世物などを指し、極めて範囲が広い。興行場とは、これらの鑑賞や観戦の施設の総称である。その中で、映画館は、大都会をはじめ地方都市にも存在する地域密着型の興行場の一つである。また常設館であるため国民大衆にとって最も身近な娯楽施設であり、数量 的には興行場の大半を占めている。さらに、映画上映を通じて、娯楽・教養などを提供する場所として、一般 大衆に広く親しまれている。上記の理由で、興行場のうち映画館を分析対象にしたが、他意は全くない。
(2) 敗戦後、国民大衆を元気付けた映画主題歌の「りんごの歌」
 太平戦争終了後、わが国はほぼ絶滅の危機にあり、衣食住にも事を欠き人心が荒んでいた。そのような状況の中で敗戦の年である昭和20年に、早くも松竹映画「そよかぜ」が封切られた。その主題歌「りんごの歌」の軽快なテンポと明るい歌詞は、敗戦から立ち上がろうとする国民の間に燎原の火が広がるように、全国にあっという間に広まり、大人も子供も、この映画の主題歌に大いに元気付けられた。
 このように、戦後いち早く国民大衆への娯楽提供、文化的な生活への復興に立ち上がったのは映画製作とそれを上映する映画館であった。昭和20年代はテレビもない時代で、衣食住の欠乏に加え、娯楽にも飢えていた。国民大衆にとっては、映画館で映画を見ることが、大いなる楽しみであった。
(3) 映画館数は昭和35年ピークが、テレビ受像機の急速な普及で急減
 映画に娯楽性を求める国民大衆の欲求により、映画館は全国津々浦々に増え続け、昭和35年には7,457館に達し、まさに絶頂期にあった。しかし、昭和34年5月皇太子のご成婚をきっかけに、白黒テレビ受像機が急速に普及しだし、国民の関心は映画に取って代わり、テレビに釘付けになっていった。ご成婚の前年の33年には、国内の白黒テレビ受像機の普及台数は150万(昭和35年の普通 世帯数約91987万世帯)に及んでいた。映画館数は昭和35年をピークに急速に減少しだした。
 さらに、東京オリンピック向けに量産されたカラーテレビ受像機は、昭和37年から39年までの出荷台数が1,658万台となり、39年のカラーテレビ受像機の普及台数は1,500万台の大台に到達した。カラーテレビ受像機の急速な普及による追い討ちが、映画館数の減少に拍車をかけ、映画産業は斜陽化していった。
(4) 変化する余暇時間の配分が映画館離れの一因に
 昭和48年ころからは、増加する余暇時間の配分や小遣いの配分が能動的な行動、つまりアウトドアーへと行動が変化。具体的には若い男性はスキーやゴルフ、若い女性は国内旅行に熱中し、当時萩・津和野は女性の旅行先としてメッカ的な存在であった。平成に入ってからは、海外旅行が人気に、次いでカラオケ、ボーリング、レンタルビデオ映画の普及など、次々と新たな娯楽が生み出され、余暇時間の配分は多種多様化していき、映画館の入場者数に大きな影響を与えた。
(5) 相次ぐ競合業種の成長、シネマコンプレックス出現でも密度希薄化の映画館数
 近年に入るとレンタルビデオによる自宅での映画鑑賞、最近ではビデオよりも良質の画面 で映画が見られるDVDの普及で、映画館は画像世界の構造変化に長期的な影響を受けてきている。しかし、平成5年以降、シネマコンプレックス(複合映画館)の参入が増え、映画館数は次第に増えてきている。が、シネマコンプレックスとの競争に敗れた既存館の撤退もあり、平成17年には2,926館とピーク時の40%に過ぎない。1県当たりに換算すると、昭和35年は158館だったものが、平成17年には62館となり、地域における映画館の密度は、希薄化している。
(6) 入場者数のピークは昭和33年、わが国人口の12倍の入館者数
 一方、入場者数のピークは、昭和33年11億2,700万人と、当時のわが国人口9,176万人の12倍に及ぶ入館者数があった。1人の人が毎月映画館に通 っていた勘定になっており、娯楽の場を映画に求めた世相がこの数字に表れている。これからみて、日本の文芸復興、人心安定、人心興起などに、映画製作、映画館の存在が大きく貢献してきたことは高く評価される。
 しかし、テレビ受像機の普及に次いで、ビデオ、DVD産業の成長などの影響を受け、入館者数は、昭和34年以降減少の一途をたどり、近年やや盛り返しているものの、平成17年は1億6,045万人で、昭和33年の14%の水準にまで落ち込んでしまっている。また、平成17年の人口1億2,700万人のわずかに1.3倍に過ぎない。近年、シネマコンプレックス(以下シネコン)の普及で、スクリーン数が増え、入館者数も増加気配にあるが、昔日の面 影からはほど遠い。(日本映画製作者連盟調べ)
2 「興行場法」で見る興行場業界の仕組み
(1) 興行場法の制定は戦後間もなくの時代
 先にも述べたが、ここでは映画館のみを対象とするが、念のため興行場全般 を概観して置くとしよう。興行場は国民が健全な生活を行う上で、または日常の生活の休養・癒しの場として、必要不可欠な存在である。興行場は人が多く集まる場所につき、営業施設の衛生水準の維持・向上を図ることが要求されるため、興行場法が制定されている。興行場法は昭和23年7月施行であるから、戦後の混乱期にすでに法律が制定され、国民大衆への娯楽の提供について、法令順守(Compliance)が義務付けられていたのである。
(2) 興行場の定義
 興行場法による興行場の定義は「映画、演劇、音楽、スポーツ、演劇または見せ物を、公衆に見せ、または聞かせる施設」となっている。具体的に興行場法の適用を受けるこれらの施設を、日本標準産業分類(総務省)で見ると、次のようになる。
映画館
アトラクションのあるなしにかかわらず、商業的に映画の公開を行う事業所をいう
劇場
演劇を提供する劇場およびその付属の劇団、歌劇団、オーケストラ並びに劇場を持つ興行団をいう。主として劇場を賃貸する事業所も含む
興行場
落語、講談、野球、相撲などの娯楽を提供する興行場および興行場を持つ興行団をいう。寄席、演芸場、野球場(プロ野球興行用)、相撲興行場、見世物小屋等
劇団
契約により出演または自ら公演し演劇を提供する劇団、俳優および演劇興行を請け負う事業所をいう。劇団、歌劇団(いずれも独立のもの)、芸能プロダクション、コンサート・ツアー業等
楽団および舞踊団
契約により出演または自ら公演する楽団および舞踊団をいう。楽団、バンド、舞踊団(いずれも独立のもの)、歌謡歌手業(フリーのもの)等
(3) 興行場法適用の範囲
興行場法の適用を受ける興行場は、業として興行を行わない場合は、適用を受けない。ここでいう業とは、反復継続の意思をもって行われることで、営利性は必要でない。ただし、公序良俗に反しない社会性を保つことは必要とされる。
映画を家族・友人のみを対象として、かつ社会性に反しないものを上映する場合は、興行場法の適用外である。しかし、会社の福利厚生施設として映画鑑賞室を設けた場合、無料であっても興行場法の対象となるものがある。
集会場などであっても、月に5回以上、映画の上映などを行う場合には、興行場の許可が必要になる。
遊園地等のパビリオンで、興行場の定義に該当するような施設については、興行場法が適用となる。
船や可動式の椅子、車等に乗って室内に設けられた風景・人形等を観覧するものは、興行場に該当する。ただし、ジェットコースター等乗り物の臨場感・スピード感を高めるため風景等が設けられているに過ぎないものは、興行場ではない。
飲食店に設置されたテレビ等で、単なる客寄せの手段に過ぎないものは興行場でない。
カラオケボックスのように、本人が歌うことを目的とした施設も興行場ではない。しかし、ビデオボックスのようにビデオを鑑賞させる施設は、機器の操作を行うのが店員か顧客かは問わず興行場となる。
(4) 営業の許可
 業として興行場を経営するものは、都道府県知事(保健所設置市、または特別 区にあっては、市長または区長)の許可を受ける必要がある。興行場の許可は、都道府県の条例で定める構造設備基準に従っていなければならない。また、興行場の運営は、都道府県の条例で定める換気、照明、防湿、清潔等の衛生基準に従っていなければならない。
(5) 環境衛生監視員の配置
 興行場が衛生基準に従って運営されているかどうか、都道府県知事(保健所設置市、または特別 区にあっては、市長または区長)は環境衛生監視委員から報告を求め、環境衛生委員は立ち入り検査をすることができる。
(6) 許可取り消し、または停止
 都道府県知事(保健所設置市、または特別区にあっては、市長または区長)は、都道府県の条例で定める構造設備基準、または衛生基準に反するときは、許可の取り消し、または営業の停止を命ずることができる。
 営業施設の衛生水準の維持・向上を図るため興行場・公衆浴場・旅館・理容業・美容業・クリーニング業については、業種ごとに法律が制定されているが、このなかで、許可取り消し、または停止について、興行場と公衆浴場は、公開の聴聞を開かなくてはならないと、特例を定めている。
3 映画館の興行形態による分類
 近年、資金の早期回収をはかるため、プリントを多くして拡大封切をするケースが増えており、ロードショー館、一般 封切館の区分は実際上意味をなさなくなっている。以前はロードショー館、一般 封切館、下番館などに分類されていた。ロードショー館は、一般封切館に先立って新作品を上映するものである。下番館は、ロードショー館、一般 封切館が上映した後に上映するものであり、かつては2番館から26番館まで存在した。通 称「場末の映画館」と呼ばれる映画館が、全国津々浦々にあり、小さな町にも最低1館はあり、庶民の憩いの場であった。
 いまや、下番館の大半は姿を消し、下番館の意味をなさなくなった。現在では、下番館の役割を普及著しいビデオ、DVDが補う形になっている。さらに、近年では既存型の映画館に取って代わり、以下のように多様なスタイルの新業態映画館が出現し、次世代の新しい潮流になるとして、映画関係者の関心を集めている。
ショッピングセンターなどと一体化した「複合施設映画館」
1映画館に複数のスクリーンを設置し多数の映画を同時に上映できる「シネマコンプレックス(複合映画館)」
1ヵ所に複数の映画館を設置する「マルチシアター」
客席数が300席以下の小規模で、芸術性の高い映画を公開する「ミニシアター」
屋外スクリーンに上映される映画を車に乗ったまま見ることができる「ドライブインシアター」
4 映画館の特性
(1) 営業形態が特異
 映画館は、密閉性が高く、しかも暗黒状態の施設を入場者に提供し、不特定多数の利用者を一時的に長時間収容して映画を上映するため、生活衛生関係営業の他の業種に比べて、「暗闇の中での閉鎖型施設」による営業として、極めて特異な営業形態にある。
(2) 「娯楽・文化の殿堂」的存在
 映画館は地域における娯楽・文化の担い手としての重要な存在意義がある。娯楽が少なかった時代においては、映画館は「娯楽・文化の殿堂」とまで称されている。長年にわたる映画館の大幅減少により、殿堂的な存在感は薄れてきたが、近年、シネマコンプレックスの登場により、再び娯楽・文化の担い手として、その存在価値を高めつつある。
(3) 特段に要求される衛生面・防災面での適切な措置
 不特定多数の利用者が対象であるだけに、衛生面では適切な空調設備の整備保全、念入りな清掃、洗面 所など汚染されやすい場所の消毒等清潔で安全な環境の維持を図らなければならない。また、防災面 では非常事態発生への対応策として、避難設備器材・誘導等の設置に万全を期して、常時避難に支障が生じないように特段の配慮の責任を負っている。
(4) 入館者数は、映画作品に影響を受ける
 映画館の入場者数は、景気動向の影響よりも映画作品の優劣に左右される。特に、書き入れ時のお正月や夏休みなどは、ヒット作品の有無により、通 年の業績が左右されるほどである。
5 平成17年の入場者数と映画館数
(1) 1スクリーン当たり入場者数は年間54,840人、8年の2.2倍に拡大
 平成17年の映画館の入場者数は、1億6,045万人であり、前年に比べ5.7%減になった。底であった8年の1億1,957万人に比べると4,088万人(34.2%)増加している。17年の映画館数は2,926スクリーンで前年に比べ3.6%増となっている。1スクリーン当たり入場者数は54,840人で、底打ちの8年の24,540人に比べ2.2倍に増えている。
 平成17年の2,926スクリーン(前年比3.6%増)を邦画・洋画館別 に見ると、邦洋画混映館2,407スクリーン(構成比81.0%)が最も多く、次いで洋画専門館328スクリーン(同12.5%)、邦画専門館191スクリーン(構成比6.5%)の順となっている。前年比で見ると邦・洋画混映館8.2%増に対して、邦画専門館1.0%減、洋画専門館15.2%減と減少している。(日本映画製作者連盟調べ)
(2) 公開本数は好調、興行収入は邦画が増加
 平成17年の公開本数は全体では731本(前年比12.6%)であり、内訳は邦画356本(構成比(48.7%)、洋画375本(同51.3%)と洋画がやや多い。前年比では邦画14.8%増、洋画10.6%増となっている。
 興行収入は全体で1,981億円であり、内訳は邦画817億円(構成比41.2%)、洋画1,163億円(同58.8%)である。前年比でみると、全体では6.0%減、内訳は邦画3.4%増、洋画11.7%減と、洋画の落ち込みが目立つ。年間の邦画興行収入10億円以上では、東宝が11位 までを占有し、邦画のヒットメーカーとなっている。
 なお平均入場料金は1,235円と前年の1,240円と大差がない。(日本映画製作連盟調べ)
(3) 既存映画館は減少、シネコン急増
 平成17年の既存映画館数は772スクリーンで、6年前の12年に比べ44.9%減と大幅に減少している。一方、シネコンは17年1,954スクリーンで、12年に比べ74%増と著しく増えている。映画館全体に占めるシネコンの割合は、12年44.4%だったものが順次増加し、17年には66.8%と高い割合を占めている。
 映画館数が5年を底に6年以降、毎年増勢を強めているのは、このシネコン・ラッシュによるものである。わが国でシネコンの口火を切ったのは、平成5年神奈川県海老名市に開業した「ワーナー・マイカル・シネマズ海老名」であるが、わずか10余りで映画館全体の3分2を占めるまでに至っている。映画館経営は、いまや大きな時代の波が押し寄せ、構造変化が急速に進んでいる。(日本映画製作者連盟調べ)
(4) お茶の間劇場の賑わいが入場料金に重圧。頭痛の種の入場料金低迷
 代表封切館の大人料金は、1,800円で平成5年以降変化していない。平成元年の税制改正で入場税が廃止されたが、ビデオレンタル店との競合もあって平均入場料金は長い間1,200円台に止まらざるを得ない状況にある。入場料金は、集客のための割引サービスの増加に伴い、11年以降わずかずつではあるが低下傾向にある。
 ちなみに、日本映像ソフト協会調べによると、劇映画のビデオキットによる平成17年の鑑賞人口は、7億6,912万人(前年比1.9%増)と17年の映画館入場者数1億6,045万人の4.8倍と極めて多い。また、映画用ビデオソフトメーカー売上高は2,850億円(前年比4.6%減)、ビデオ小売店売上高は4,576億円(前年比5.0%減)となっている。ビデオ小売店売上高は、17年の映画館の興行収入1,981億円の2.3倍に及んでおり、かつての下番館の役割は、いまやお茶の間劇場に取って代わられている。
6 映画人口の中心は40〜49歳
(1) 映画・演劇等入場料は15年以降緩やかに増加
 「家計調査年報」(総務省)により、平成17年の映画・演劇等入場料をみると、6,655円で前年に比べ335円増(5.3%)増となっている。長年にわたり、同支出は緩やかながら傾向として増勢をたどってきたが、14年は前年比1.8%減となったが、15年以降わずかずつ増えている。ただし、この支出は映画のほか演劇等への支出が含まれており、興行全般 への支出を意味する。
(2) 最多支出は40〜49歳
 同調査により世帯主の年齢階級別に支出をみると、最多支出は40〜49歳で8,000円、50〜59歳7,120円、60〜69歳6,849円の順となっている。半面 、少ない順では29歳以下の世帯が3,294円で全世帯平均より3361円、最多40〜49歳より、4,700円も少ない。
(3) 1位はさいたま市、2位東京都区部、3位福岡市
 同じ調査により都市別にみると、調査対象49都市(県庁所在地都市、川崎市、北九州市)の中で、年間支出が1万円を超えているのは3都市のみである。1位 はさいたま市13,565円、2位は東京都区部で11,336円、3位 は福岡市11,333円である。半面、支出の少ない順では、青森市2,945円、鳥取市3,126円、那覇市3,356円の順となっている。最多支出のさいたま市は、全国平均より2倍の6,910円も多い。最小の青森市は全国平均より3,710円も少ない。
7 経営上の問題点
 国民生活金融公庫の「生活関連企業の景気動向等調査」により、平成17年1〜3月以降の4半期ごとの調査によると、経営上の問題点の1位 は「顧客数の減少」が圧倒的に多く、調査対象の15業種の中で常時1〜3位 の間にある。2位は「客単価の低下」、3位は「店舗施設の狭隘・老朽化」が続くが、「顧客数の減少」に比べれば、割合は半分以下である。4半期ごとに報告される景気動向の判断理由を見ると、「茨城県内中央に17年にシネコンが2カ所、さらに18年に1カ所がオープン、既存館の再編の動きが加速」、「郊外のショッピングセンター内に進出したシネコンは、買い物がてら映画が鑑賞できることに加え、駐車場が無料であり既存館の顧客が流出している(岐阜県)」など、シネコン進出の影響が広がりつつある。
 また、「割引料金の適用拡大で採算面が厳しくなっている(山口県)」「夫婦50%割引で入館者数は増えているが、割引に加え売店利用が少なくなり客単価が低下」などを訴えている。
8 工夫している事例
 経営者は実父の急病死で心の準備もないまま事業承継の瀬戸際に立たされた。すでに市内にシネコンが進出、妻にはいまどき個人館は経営が成り立たないと反対され、また東京の洋画配給会社に相談しても事業承継は「やめろ」といわれた。個人館の将来性が絶望的なのは百も承知であったが、事業承継に迷いはなかった。日本大学農獣医学部(現在生物資源科学部)の経歴もスパッとかなぐり捨てた。思いは一つ、単独館としての再興である。映画館を改築し、平成8年3月、上映内容も成人指定映画館だったものを、シネコンが上映しない映画を積極的に取り扱う「街の映画館」として再出発した。シネコン旋風のなか、アイデアと企画力の秘策の連打でシネコンに対抗している異色の単独映画館に成長している。
(1) 企業概況

  • 立  地:JR青森駅から徒歩10分
  • 創  業:昭和32年(祖父・父に次ぐ3代目)
  • 従業者数:4名
  • 建物:3階建てに改築、映画館は3階に設置。1階は信用金庫の支店に賃貸、2階は独立して開業した弟が病院として入居
  • 設備内容:単独館(自社ビルの3階に2館併設、客席数150席・55席
  • 音響設備:ドルビーデジタルのSDRとCDRで音声を再生するDTSを設置。特徴はフィルムに指定された音量 を出し切れること
  • 駐車場:なし(便利さに馴れすぎている人たちに、不便の心地よさを感じてもらい、映画の楽しみを味わってもらいたいため)
(2) 経営の基本姿勢
 経営ビジョンは、上質な映画館で顧客にタイムリーに見てもらいたい映画を楽しんで貰うことである。フィルムの配給は洋画の大手配給元UIP1社に絞り、県内の封切館としてメジャーなものを上映、シネコンで上映しないアート系やシアター系映画に絞込み。
(3) 経営の工夫事例
1館だけでは採算に乗らないため、3階の同一フロアに55席と150席の2館を設置、そのうちの1館を封切館とした。
「映画館は必ず2つ作る。飯を食うためにはちゃんとしたメジャーな映画をやり、10〜12週のロードショウの最初を客席の多い館で上映し、後半戦になって客席の少ない館に移して引き伸ばす。そして、当たるものを先に回す」。2館構想の経営戦略は、支援してくれる映画会社のアドバイスに基づくものである。
小さな映画館だが、高額な設備投資を実施。映画を鑑賞する立場にたち最上級の設備により、完全な形で顧客に映画を見てもらうためである。音響設備はドルビーデジタルのSDRとCDRで音声を再生するDTSを設置している。防音壁は壁を厚くし、音漏れが絶対しないよう工夫してあるので、フィルムに指定された音量 を出し切る効果がある。観賞用の椅子は、フランス製のキネットを設置、価格は国産品の2倍だが、座り心地の良さは価格の比ではなく、顧客から好評を得ている。
バリアフリーに配慮。エレベーターやトイレの内部のバリアフリー化、スロープづくりをはじめに、車椅子で十分出入りできる扉や難聴者用ブース16席を設置している。手持ちの補聴器が合わない場合は、ブース専用の補聴器を貸し出している。
ホームページは、潜在的な映画フアンへのアピールに主眼をおいている。スクリーンで見てもらいたい映画の価値をどのように認識してもらうか、毎週新しい映画情報を送り続けている。経営自らペンネームでコラムを執筆、コミュニケーションを深めることに努めている。また、ホームページを見た人には、WEBプレゼント、映画券プレゼントをはじめ、プレゼント応募フォームを開いている。
「女性の日」「男性の日」「学生の日」などを設定、入場料1,000円でのサービスを行っている。また、中学生の料金も1,000円に割り引いている。
 夜8時代には、「ちょこっとレイト」と銘打って、最終上映のお客には1,000円均一にするサービスも実施している。
(4) 単独館の行き残る道は"見せる映画"への思い入れ"
 経営の基本方針は、「映画館本来のサービスは、上質な映画館で映画を楽しんでもらうことにある」と言うように、上記のように上質のための工夫がいたるところに散りばめられている。経営者は、シネコンが大型戦艦なら、当館は超豪華なクルーザと言い切るだけの自信をもっている。設備もさることながら、上映する映画は子供の時から養われた経営者の確かな選択眼で、良質の作品は制作段階から優先配給の約束を取り付けるなど、タイムリーに見せたい映画の選択に最大の配慮を行っている。
 青森県のシネコンのスクリーン数は、全国47都道府県の中で14位 と比較的上位にあり、また公共交通機関が少なく典型的な車社会で、映画を見るにしてもどこに行きがちな地域構造にある。それだけに単独館の当館が、シネコンとの競争に負けないで、集客力向上を図っているのは、目を見張るべきものがある。その根底にあるのは、趣味も仕事も映画という、ぞっこん映画にほれ込んだ1人の映画大好き人間の"見せる映画"への思い入れであり、と同時に一歩一歩着実に、独自の映画館作りを進めることの限りなき挑戦心である。
資料 国民生活金融公庫「後継者による生活衛生関係営業の経営革新事例」平成17年3月
【トピックス】
・受動喫煙防止措置とは何か
  健康増進法が平成15年5月1日に施行され、それに伴い集客施設などの管理者は受動喫煙(他人のたばこの煙を吸和させられること)の防止が義務付けられている。健康増進法第25条の対象となる施設は「学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店、その他多数の者が利用する施設を管理するものは、これらを利用する者について、受動禁煙を防止するために必要な措置を講じなければならない」と定めている。この法律の施行により、ほとんどの生活衛生関係営業者は、受動喫煙防止措置を講ずる必要性が生じている。
・受動喫煙とは何か
  健康増進法によると、受動喫煙とは「室内またはこれに順ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされること」と定義している。他人のたばこの煙は「副流煙」といわれ、喫煙者が吸う「主流煙」に比べ、有害物質が何倍もの濃度で含まれていることが報告されています。非喫煙者が副流煙を吸わされることは、さまざまな病気を発症させる一つの要因となっています。特に発ガン物質ジメチルニトロソアミンが副流煙には多量 に含まれている。そこで、非喫煙者を副流煙から守るため受動喫煙防止措置を講ずる必要があるわけである。
・受動喫煙防止措置の具体的方法
  受動喫煙防止措置には、大別して@施設内を全面 禁煙にする方法、A施設内を分煙する方法とがある。
@
全面禁煙
  受動喫煙防止対策の上では、最も望ましい方法である。灰皿の処理コスト、壁紙・エアコンのフィルターの汚れの清掃など費用が不要でコスト削減になる。また、宴会場の畳や床、テーブルクロスなどの焼け焦げの防止につながる。特に、妊婦や幼児、子供連れの顧客に安心感を与え、安心して飲食が出来るなどのメリットがある。
A
完全な分煙
  禁煙エリアにたばこの煙が流れないように、喫煙席(別の部屋)を設置する。特に禁煙エリアや非喫煙者の動線上、例えばトイレに行く通 路、バイキングやフリードリンクコーナー周辺やそこへ行く通路、レジ周辺、禁煙エリアとレジや出入り口との間の通 路などに、たばこの煙が漏れたり、流れたりしないように配慮する必要がある。
・不完全な分煙は違法
 分煙が次のような場合は違法となる。
@
禁煙エリアが指定されていても、禁煙エリアにたばこの煙が流れてくる場合(喫煙席周囲に間仕切りがないなどによる場合)
A
非喫煙者の動線上にたばこの煙が流れてくる場合
  特に注意しなければならないのは空気清浄機や分煙機が設置されていれば、受動喫煙防止対策が実施との誤解である。これらが設置されていても、たばこの煙の中の有害物質は、大半が素通 りしてしまうからである
北海道庁の「空気もおいしいお店」の推進事業
  喫煙率が男女とも全国平均を上回る北海道では、平成14年度から飲食店に対する受動喫煙防止推進事業として「空気もおいしいお店」の推進事業を始めている。対象は政令都市である札幌市の俗北海道内にある飲食店が対象であり、認証店は平成18年6月末現在で421店に増えている。
  飲食店に対する同様の認証制度の取り組みは、全国の地方自治体でも行われ出しており、受動喫煙防止策を飲食店の経営者のみに任せるのではなく、行政の仕組みとして整備することで、小規模飲食店への浸透を促進することを狙いとしている。
  資料:国民生活金融公庫「生活衛生だより」No.135 2004年10月

 

資料

  1. 金融財政事情「企業審査事典」    
  2. 日本映画製作連盟「日本映画産業統計」    
  3. 国民生活金融公庫「生活関連企業の景気動向等調査」    
  4. 国民生活金融公庫「後継者による生活衛生関係営業の経営革新事例」平成17年3月
  5. 中央法規「生活衛生関係営業ハンドブック2005」中央法規
  6. 厚生労働省「興行場営業(映画館)の実態と経営改善の方策」平成14年6月
× 閉じる