興行場(映画館・劇場・寄席)-1998年
1 概況
1998年
(1) 興行場の分類
 広義の興行場は、日本標準産業分類では、娯楽業(映画・ビデオ製作業を除く)となっており、映画、演劇その他の興行および娯楽を提供し、または休養を与える事業所並びにこれに付帯するサ−ビスを行う事業所が掲げられている。具体的な内容を次に示してみよう。
映画館
 アトラクションのあるなしにかかわらず、商業的に映画の公開を行う事業所をいう。
劇場
 演劇を提供する劇場およびその付属の劇団、歌劇団、オ−ケストラ並びに劇場を持つ興行団をいう。主として劇場を賃貸する事業所も含む。
興行場
 落語、講談、野球、相撲などの娯楽を提供する興行場および興行場を持つ興行団をいう。寄席、演芸場、野球場(プロ野球興行用)、相撲興行場等。
劇団
 契約により出演または自ら公演し演劇を提供する劇団、俳優および演劇興行を請け負う事業所をいう。劇団、歌劇団(いずれも独立のもの)、芸能プロダクション、コンサ−ト・ツア−業等。
楽団および舞踊団
 契約により出演または自ら公演する楽団および舞踊団をいう。楽団、バンド、舞踊団(いずれも独立のもの)、歌謡歌手業(フリ−のもの)等。

ここでは、大衆性が強いものの、需要分野が大きく変化している映画館に焦点を当てるとしよう。
(2) 変化する興行形態
 映画館は、かつては新作品を真っ先に上映するロ−ドショ−館を筆頭に、一般 封切館、下番館からなっていた。下番館は、ロ−ドショ−館、一般封切館の上映後、上映するシステムになっているが、2番館から26番館間で存在し、いわゆる「場末の映画館」と呼ばれる映画館が、全国津々浦々にあり、小さな町にも最低1館はあった。しかし、最近では、この下番館の多くが姿を消し下番館の意味をなさなくなったことや、プリントを多くして拡大封切をするケ−スが増えたため、これらの区別 は実際上解消しつつある。現在では、下番館の役割を普及の著しいビデオが補う形になっている。
 また、近年ではショッピングセンタ−などと一体化した複合施設としての映画館や、まだ数は少ないがビデオシアタ−、ドライブインシアタ−、客席数が100〜200のミニシアタ−といった新業態の映画館が現われている。また、1館で複数のスクリ−ンを持ち、多数の映画を同時に上映できる映画館として注目を集めているシネマコンプレックス(複合映画館)が、外資系企業を中心に全国各地に出現している。日本の配給会社でも、すでに松竹が乗り出し、日本ヘラルドも開業を予定している。この複合映画館は既存型の映画館にとってかわり、次世代の新しい潮流になるのか、映画関係者の関心が集まっている。ある大手映画会社の会長は、「いまから5年後には、映画館数は現在の2千からさらに増えて3千に達し、年間の観客動員数も2億人になると予想している。このうち、外資系のシネマコンプレックスは全国に70〜90ヵ所まで増え、1ヵ所10スクリ−ンとすると、700〜900スクリ−ンを持つことになる」と述べている。
(3) 戦後の混乱期に果たした映画の役割
 戦後の混乱のなか娯楽が少ない時代に、いち早く復興したのが映画産業であった。終戦直後、敗戦の暗さを救った「りんごの唄」は、昭和20年製作の映画「そよ風」であった。24年のさわやかな青春ものの「青い山脈」、ベネチア映画祭グランプリを受賞した昭和25年の黒沢明監督の「羅生門」、26年の「カルメン故郷に帰る」、27年の「西鶴一代女」、28年「東京物語」、そして29年の「七人の侍」など、戦後の混乱期の中で、数々の名作が生まれたことや、輸入映画では目新しいタ−ザン映画や西部劇なども映画フアンを増加させ、大衆娯楽に飢えていた国民の各層を映画館に引き付ける役割を演じ、国民に生きる希望を与えた。
入場者数、映画館数の推移

昭和30年 昭和35年 昭和40年 昭和45年 昭和50年 昭和55年 昭和60年 平成元年
入場者数(万人) 86,891 101,436 37,267 25,479 17,402 16,442 15,513 14,357
映画館数(館) 5,184 7,457 4,649 3,246 2,443 2,364 2,137 1,912
 

平成2年 平成3年 平成4年 平成5年 平成6年 平成7年 平成8年 平成9年
入場者数(万人) 14,600 13,833 12,560 13,072 12,299 12,704 11,957 14,071
映画館数(館) 1,836 1,804 1,744 1,734 1,747 1,776 1,828 1,884

 

(資料)(社)日本映画製作者連盟

(4) 長期的に著減の入場者数と映画館数が回復へ
 昭和30年以降の入場者数と映画館数は上記のとおりで、映画全盛時代の昭和33年には映画館の入場者数は、当時の日本の人口9,100万人の12.4倍に及ぶ年間11億2,700万人という驚異的な数字に達した。映画館も昭和30年代前半には7,000館を超えていた。
 その後、両者の減少に拍車をかけたのが、昭和28年に始まったテレビ放送の早いテンポの普及であった。とくにカラーテレビ放送が始まるとその動きは加速し、毎年1億人以上も減少していった。入場者数は昭和33年をピ−クに5年後の38年には5億1,100万人に半減し、48年以降は1億人台に落ち込んでしまっている。しかし、平成4年を底に一進一退で推移している。映画館数も入場者数の減少とほぼ平行して減少の一途をたどり、35年の7,457館をピークに減少し、平成5年には1,734館まで後退した。しかし、平成5年に長期低落の底を打って増勢に転じ、その後緩やかな回復をたどりだしている。
2 業界の動向
(1) 勢いづいた最近の入場者数、映画館数も増加
 平成9年の映画館への入場者数は、日本映画製作者連盟によると1億4,071万人で前年比17.7%と久しぶりの大幅な増加となった。底であった平成4年に比べると12.0%増で、1、511万人も増加している。10年も昨年より10%増の1億5,000万人に達する見込で、この傾向は2001年ころまで続くと予想されている。
 また映画館数は、新業態の複合映画館の参入などもあり、平成6年13館、7年29館、8年52館、9年56館と増加数を高め、9年には1,884館となり、平成元年の水準に近づきつつある。
(2) 高い映画鑑賞志向、だが映画館離れ
 昭和30年代のテレビ普及期には、映画そのものに対する需要が減退していったが、現在は必ずしも映画離れしているわけではなく、映画に対する需要は根強い。しかし、レンタルビデオによるアットホ−ム映画館が代替しているため、映画館に行かない傾向がみられる。レンタルビデオの映画をわずか300円〜500円で借りれば、半年前のロ−ドショ−として公開された映画がみられる。さらにその半年後にはテレビで放映される時代になっており、映画は映画館でみるものという社会通 念に変化が起きている。さらに、NHKや民放間の衛星放送の普及、都市型CATVの開局ラッシュも続いているためテレビチャンネルが多くなり、こうしたメディアが映画を目玉 にしていることも、映画館から足を遠のかせる一因となっている。
(3) 平成9年は大幅増加の興行収入
 平均入場料金はあまり上がっておらず、平成4年にようやく1,200円台になった。昭和50年代は、入場免税点1,500円というラインがあったため、料金をそれ以下に抑えざるをえず、なかなか値上げができなかった。昭和60年の入場税法改正で免税点が2,000円に引き上げられ、平成元年の税制改正で入場税が廃止されたが、それでも値上げは若干にとどまった。全国約1万店のビデオレンタル店との競合もあって値上げすると、客離れに拍車をかけるおそれがあるためである。
 興行収入は入場料金があまり上がっていないので、入場者数の増減に左右されるが、近年の傾向としては一進一退で推移してきた。しかし、平成9年は入場者数の大幅な増加に支えられ、前年に比べ19.0%も増収となり、バブル最盛期の平成2年の興行収入を3.1%も上回った。10年も「タイタニック」が累計で1,700万人近い観客を動員したことや、複合映画館の進出で観客動員数が増加しており、9年を上回る増収が予想されている。

平均入場料金と興行収入

平均入場
料金 (円)
前年比
(%)
興行収入
(百万円)
前年比
(%)
平成元年 1,161 3.8 166,681 2.9
平成2年 1,177 1.4 171,910 3.1
平成3年 1,181 0.3 163,378 △ 5.0
平成4年 1,210 2.5 152,000 △ 7.0
平成5年 1,252 3.5 163,700 7.7
平成6年 1,249 △ 0.2 153,590 △ 6.2
平成7年 1,243 △ 0.5 157,865 2.8
平成8年 1,245 0.2 148,870 △ 5.7
平成9年 1,259 1.1 177,197 19.0

(資料)(社)日本映画製作者連盟

3 課題と展望

(1) 映画館の長所を生かした生き残り策の展開
 国が豊かになり、国民の趣味・嗜好も多様化してきたが、映画鑑賞に対する需要は決して衰えていない。ただ、映像を見る場所がテレビやビデオ等の普及によって、映画館から家庭へと移ったのに過ぎない。迫力ある大画面 と質の高い音声でという映画館の長所を生かして、消費者に快適な空間と時間を提供すれば、映画館が生き残っていくことは可能であろう。この視点からソフト(作品)・ハード(施設)双方とも一層の充実が急がれる。たとえば、次世代の映画館といわれているシネマコンプレックス(複合映画館)では、座席は従来の映画館と異なり座り心地のよい椅子を設置し、音響関係も高音質の設備を整え、飲食部門も設備の充実が図られている。
(2) 魅力ある映画(作品)作り
 映画館は映画産業においては受け身の商売であり、興行価値のある(面 白くて新しい企画のもの)映画が数多く生まれないと、足も手も出しようがない。お客は建物を見にくるのではなくて、あくまでも映画を見にくるのである。「お客はお金を払って楽しみにくるわけだから、笑って面 白がって見ているうちに、なんとなくその映画のなかにのめりこみ、一緒に映画のなかの人達と喜怒哀楽をともにするようになり、終わった後ある感動を受けて出てくる」(黒沢 明監督)。最近の映画は、黒沢監督の持論を地でいくように、製作する側の主張を貫くこれまでの手法と異なり、観客本位 で作る映画が増えてきており、これが入場者数の増加に結び付いている。
 今後、魅力的な映画を作るためには『想いのこもった映画』を作れる人を発掘し、育てる努力を業界として行うことも必要であろう。
(3) 魅力ある映画館(施設)作り
 映画館は、家庭でビデオやテレビを見るのとは全く区別された非日常的な設備・環境が必要である。お客は快適な環境で、満足のいく作品を鑑賞したいと思っており、ゆったりとした座席と立体音響設備など家庭では味わえない場を求めて映画館を訪れるのである。映画鑑賞スペースとして魅力ある施設づくりが重要である。
 シネマコンプレックスといわれる複合映画館は、いわば「映画のデパート」として複数のミニシアターを設置することにより、(a)洋画や邦画など多くの顧客のニーズに応えられる、(b)各館の上映開始時間をずらすことによって、お客が自分の見たい映画にこだわらなければ、ほとんど待ち時間なしに映画を始めから楽しめる等の利便性を提供できる、(c)売店やトイレなどの効率的な利用が可能である等、顧客・経営者双方にメリットがある。また、映画館はその地域の繁華街にあることが多いので、建て替え等で複合ビルにするときは、総合娯楽センターとしてショッピングスペース、ゲームスペース、憩いスペース等を盛り込むことで集客力の向上が期待できる。たとえばショッピングセンター内への映画館の設置は、駐車場の問題の解消と共に買い物客との相乗効果 が期待できる。
4 成功している映画館経営の事例
 A映画館は大都市の主要幹線駅から徒歩5分の繁華街に立地し、シネマコンプレックス(複合映画館)5館を、自己所有の10階建ビル内にて経営している。成功の要因を掲げると次のようになる。
(1) 立地条件の良さを最大限に生かして、ゲームセンターを併設、キャラクター商品の販売も行う等、集客対策に注力している。
(2) シネマコンプレックス(複合映画館)であり、それぞれの映画館を効率的に配置しており、そのため、チケット販売が2ヵ所ですみ、人件費等経費の抑制ができる。
(3) 上映系統は、洋画ロードショー3館、邦画(松竹)1館、邦画(東映)1館で、上映成績に応じて上映館を変更するなど効率化が図れる。
(4) 顧客層は男性が65%と多いので、将来は女性客を増やすべく対策をたてる予定。また、シニア料金(子供料金並み)を設けて、オ−ルドファンの獲得にも意を注いでいる。
(5) 設備は最新のものを取り入れており、建物については清潔さを、また、接客面 については不快感をお客に与えないようマナーに十分留意している。
【業界豆知識 】
(1) 映画館の系列による分類
  映画館を系列により分類すると、(a)東映、東宝、松竹の邦画大手製作映画会社である3社が直接経営する直営館、(b)特定の邦画大手製作映画会社と契約している契約館、(c)興行会社などが直接経営する独立館の3形態に大別 される。これらのうち、全国130館余りの直営館は、封切作品を中心に上映している。また、契約館も契約先である大手が配給する作品を原則として上映することとなっており、それ以外の作品が上映されることはほとんどない。とくに大都市ではこの傾向が強く、大手3社と系列映画館の間で確固たる基盤が築かれているケ−スが多い。
(2) 映画フィルムの流通経路
  邦画は、大手3社や独立プロで制作されるが、最近は独立プロの製作本数が多い。各社で製作された映画フィルムは、映画館の需要に応じた本数がプリントされる。映画館への配給は、大手3社の作品については同社により配給され、独立プロの作品は全国的な配給網を有する大手3社やその他の配給会社によって配給されるシステムとなっている。邦画の配給は、大手3社の邦画は邦画館に配給されるが、洋画配給のルートに乗った作品が例外として洋画館で上映されることもある。一方、洋画は主に洋画配給会社が輸入し洋画館に配給する。輸入配給会社には、国内専業者として東宝東和、日本ヘラルド映画などがあり、外資系としてはUIP、ワーナー、コロムビアといった米国メジャー系の配給会社が主力となっている。洋画の配給ルートは、邦画のような制約がなく比較的自由であり、配給会社の配給は映画館の系列にとらわれず行われている。

資料
  1. (財)全国環境衛生営業指導センタ−「成功事例調査」
  2. 金融財政事情「企業審査事典」
  3. 経営情報出版社「業種別業界情報」’98年版

 

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