クリーニング業-1996年
1.概況
1996年

 

(1) 取次店・リネンサプライ業は増加 〜減少する小規模店〜
 平成6年における、全国のクリーニング業の事業所数(取次所を含む。)は、97,490件で、平成3年に比べると、607件、0.6%の減少となっている。従業者総数は391,196人で、1事業所あたりの平均従業者数は、4.0人となっている。次に、従業者規模別 の状況をみると、従業者4人以下の事業所が全体の84.7%を占め、従業者9人以下では、93.0%に達する。また、事業所数の推移をみると、「4人以下」の層は、61年をピークに実数、構成比ともに減少している一方、「20人以上」の比較的規模の大きい層では増加傾向にある。
 業態別の事業所数の状況をみると、普通洗濯業(いわゆる一般 家庭の需要を中心にしたクリーニング所及び取次所)は、93,267件でクリーニング業全体の95.7%を占め、リネンサプライ業は、4,223件4.3%となっている。また、事業所の推移をみると、普通 洗濯業が、平成3年に比べ減少するなど、やや頭打ちの状態であるのに対し、リネンサプライ業は、昭和56年以降増加の一途を辿っている。なお、厚生省「衛生行政業務報告」により、普通 洗濯業の内訳別の推移をみると、「処理施設を有する一般クリーニング所」は昭和50年以来一貫して減少している反面 で、「取次所」は対照的に平成2年末を除き一貫して増加していることから、いわゆるクリーニング所は、小規模店を中心にかなりの減少基調にあることが推測できる。取次所を含めた大手企業を中心とする大量 集荷・大量処理方式による資本集約的業態の台頭により、労働集約的な小規模店が淘汰されてきていることがうかがわれる。
(2) 1世帯当たりの消費支出は3年連続減少
平成7年における、1世帯あたりのクリーニング代は、17,103円となっており、前年に比べると4.4%の減少(消費支出全体では、1.4%の減少)となり、平成5年から3年連続の減少となっている。
事業所数の推移
(単位:件,%) (単位:円)
調査年
従業者規模別
合 計
従業者数
1〜4人
5〜9人
10〜19人 20人以上
昭和56年
(87.4)
77,184
(8.1)
7,179
(2.8)
2.445
(1.7)
1.497
〈 100.0〉
88,305
288.941
昭和61年

〈87.0〉
83,601

〈7.6〉
7,330
(3.1)
3.007
(2.2)
2.139
〈100.0〉
95,077
326.161
平成3年
〈84.6〉
80,994
〈8.7〉
8,513
(3.8)
3.739
(2.9)
2.851
(100.0)
98,097
380.953
平成6年
(84.7)
82.581
(8.3)
8.084
(3.8)
3.721
(3.2)
3.104
(100.0)
97.490
391.196
資料:「事業所統計調査」(平成6年は「名簿整備調査」)
(注)〈 〉内は構成比である。
2.最近の動向

 

(1) クリーニング店離れ現象
 

  近年家庭用洗濯機の大型化、機能の高度化(「つけおき洗い」、「浮かし洗い」、  シャワーすすぎ」等デリケートな素材・衣類に適応した方式の開発)、ドライマク対  応型の洗剤の開発により、家庭洗濯の領域が拡大傾向にある。

 また、広い駐車場スペースをもち、店内に仕上台・染み抜機等を備え、日中はイン  ストラクターのアドバイス付きの24時間営業型セルフランドリー・ドライチェーン  店の増加もみられる。

 さらに、ここ2〜3年形状記憶・形態安定の衣類が登場(対象の衣料素材もポリエ  ステル混から綿・麻製品さらに絹・毛製品へと拡大してきている。)したことから、少なからずクリーニング店の一般 家庭需要は減少傾向にある。

(2) 洗濯物滞留品問題への対応
 

  仕上げから1ヶ月を経過しても引取りのない洗濯物を業界では、「滞留品」と定義  している。

  「平成7年度クリーニングに関する消費者2万人意識調査」においても、「1ヶ月  以上洗濯物を取りに行かなかったことがある」との消費者の回答は、3割を超えており、特に、布団・毛布・ジュータン・カーペット、コート類等の重量 洗濯物の滞留が目立つ。

  滞留洗濯物は、店内のスペースをとり作業能率を低下させるだけでなく、洗濯物の日焼け・変色等の品質管理上のトラブルを生じることにもなり、クリーニング業者の経営に問題を投げかけている。顧客管理の徹底(受付用コンピュータの活用)、品物受付時の顧客指導の徹底、滞留品に対する保管料の徴収等、業者の対応が必要となっている。

(3) 環境保全への対応
 

 テトラクロロエチレン及びトリクロロエタンについては、水質汚染防止法等により排水及び廃棄物の規制が設けられており、クリーニング所における使用管理及び処理  の適正化が求められている。

 また、ドライクリーニングの溶剤として使用されているフロン113、トリクロロエタンについては、オゾン層保護の観点から溶剤の転換(製造は、平成7年度末で全  廃)を円滑に進めるべく融資・税制等において各種施策が講じられきている。

 さらに、コインランドリー等の多様化に伴い、営業施設の衛生管理においても、有機溶剤を使用するコインドライを中心に、各自治体における条例・要綱の制定による規制強化、特別 管理産業廃棄物管理責任者の設置を義務づけるなどの動きが広がりつつある。

 

3.経営上のポイント
(1) 「クリーニング」から「衣類の総合サービス業」へ
 

 「洗濯・乾燥・仕上げ」といった狭い概念で自店の事業領域をとらえることから一  歩脱皮し、衣料等の保全にかかる総合的なサービス業として、「安心を売る商売」、自分(利用者)たちの生活を支援してくれる商売」といったコンセプトの確立による事業領域の再構築→高付加価値経営への転換が、今後の経営の一方向といわれている。

 具体的な取組みとしては、衣類の素材に合わせた適切なクリーニングメニューの充実、「店・従業員の質の向上」を通 した「衣料素材による取り扱い方法の習得」、「消費者の服の取扱い方法の相談・コンサルティング」によるクリーニングプラスアルファの付加価値を店の魅力づくりに取り入れていくことなどが挙げられる。

(2) 脱価格競争〜小回りをきかした技術・サービスの提供
 

 「平成4年度環衛業に係る消費生活調査報告書」((財)東京都環境衛生営業指導センター)によると、クリーニング店の選択理由の上位 3項目は、「近くにある」(  利便性)、「仕上がりがよい・安心できる」(品質への信頼感)、「出来上がりが早い」(スピード)であり、「価格」の要因に対する選好度は必ずしも高くない。さらに、「クリーニング店に特に頼みたいもの」と利用者の本音の部分をみると、「特別 に早い・特別に丁寧なクリーニング」、「衣類の補修」、「プリーツ・防水等の特殊加工」等の要望が上位 にきており、小規模店特有の小回りをきかしたきめの細かいサービスへのニーズの高さがうかがわれる。

 一般クリーニング店は、積極的な情報伝達による技術PR等をとおした「品質」の提供により、大手業者の価格を中心にした競争戦略と差別 化を図っていける可能性を示唆している。

4.個別企業の事例
(1) コンピュータを活用した顧客満足経営の実践
 

  A店は、販売促進・広告宣伝を毎月1万枚の新聞折り込みチラシに頼っていたが、  受付用コンピュータで顧客の利用状況を分析したところ、チラシによる効果 は、普段  来店しない顧客の、一過性の利用に止まっており、常連客の来店は広告宣伝と相関関係がないことが判明した。また、お客様カード発行先のうち約1割の顧客で、売上の50%を占めている状況であった。こうしたことから、販売促進をお得意様へのタイミングを捉えたDM(例えば、衣替えや毛布洗いの時期に利用実績のあった顧客への情報提供を含めたDM)へ切り替えたところ、年間200万円近くの販売促進費用の大半が節約でき、得意先を中心に売上の増加にも結びついた。

  クリーニング業は、特定した小さな商圏に住む、特定した顧客が繰り返し利用することにより成り立つビジネスであるといわれるが、自社の経営の現状をコンピュータを通 し分析し、効率的・効果的なマーケティング方法を確立し、成果を収めた事例である。

(2) 大手チェーン店との差別化
 

 店周の取次店等の増加により、既存のクリーニング店が、料金の値下げ競争に巻き込まれるケースは多々あるが、B店もその一つであった。しかし、値下げ実施の効果 もなく、売上はピークの3割減の状態となり、再度、経営方針を見直す必要に迫られることとなった。値下げ品は、ワイシャツ等薄利多売商品が中心であったが、来店顧客に、このサービスが「安かろう・悪かろう」の店のブランドイメージを植えつける ことになり、高級衣料等利幅のある品物の受注が減少するなど、一顧客当たりの売上単価の減少に結びついてしまったことが、業績低下の大きな原因となっていたのである。

  対策として、値下げを中止し、品目、素材、デザイン、洗い方法等により明確な料 金テーブルを作成、また、受付伝票(洗い方ごとに伝票を色分け)を、染みの有無(染みの原因)、はっ水加工の有無、ボタンの破損、付属品の有無等きめ細かな受注商品の情報が記入できる形式に改めるなど、顧客サービスの向上と作業の効率化に目を向けた、カウンターサービスの充実に努めた。さらに、新興住宅地で、核家族中心のニューファミリー層が主体であることに目をつけ、情報チラシを作成し、ワイシャツの上手な仕上げ方やアイロンの使い方等、顧客へ生活の知恵を提供することにより、顧客との信頼感を強化させることにも成功し、業績は大幅に回復するまでに至っている。

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