クリーニング業-2003年
1 概況
2003年
(1) 多様な営業形態
   クリ−ニング業の営業形態は多様であり、法律上のクリ−ニング業に該当する業態と非該当業態とに分けられる。法律上のクリ−ニング業に該当する営業形態としては、普通 クリ−ニング店、リネンサプライ、ホ−ルセ−ルなどがある。また、法律上のクリ−ニング業に該当しないクリ−ニング業の類似的な営業形態として、クリ−ニング取次店、コインランドリ−などがある。ただし、これらの業態は営業施設の衛生措置等法的規制を受ける。
 普通クリ−ニング店は、自家処理施設を有し、主として家庭から出される洗濯物を扱うクリ−ニング店を指し、営業の形態は黒物のドライクリ−ニングと白物の水洗いによるランドリ−クリ−ニングとに分かれる。ただし、小規模店では近年になって、白物をホ−ルセ−ルへ外注に出す店が多くなっている。
  リネンサプライは、総務庁の日本標準産業分類の定義によると、「繊維製品を洗濯し、これを使用させるために貸与し、その使用後回収して洗濯し、さらにこれを貸与することを繰り返して行う」事業となっている。リネンサプライの需要分野は、ホテルのシ−ツ、タオル、バスタオル等、病院のふとんのほか毛布、毛布カバ−、シ−ツ等、事業所の作業服、飲食店の貸おしぼり等多岐に及ぶが、主力はホテルリネンと病院リネンである。
 ホ−ルセ−ルは、主に普通クリ−ニング店等から委託を受けた洗濯物を専門に処理する業者で、現在はワイシャツなど量 的処理の白物が受注の主力になっているが、毛皮、皮革などの特殊洗濯物の処理をする業者もある。
  クリ−ニング取次店は、自らはクリ−ニングをしないで、顧客とクリ−ニングを処理するクリ−ニング業者との間に立ち、洗濯物の受取り、引き渡しのみを行う店舗をいう。取次だけの業務だが、洗濯物を扱うため「クリ−ニング所」としての一定水準の衛生措置が義務づけられている。
 コインランドリ−は、硬貨投入式の自動洗濯機および乾燥機を設置して、顧客自身が洗濯機を自由に操作して洗濯を行う、セルフサ−ビス方式の店で無人店が多い。最近では、コインランドリ−内に「コイン・スニ−カ−・ランドリ−」として、スニ−カ−が洗濯できる洗濯機を設置している店もある。都道府県単位 で、条例または要綱などにより衛生管理等面で規制、指導の対象となっている。
(2) 取次店・リネンサプライ業は増加
  平成13年における全国のクリーニング業の事業所数(取次店・リネンサプライを含む)は90,520店で、11年に比べ3,215店減少、8年対11年比の5,375店減少に比べれば減少数は少なくなっている。減少率は3.4%減で、8年対11年比5.4%減よりも縮小している。このうち普通 洗濯業は86,036店で、11年に比べ3,318店減少(3.7%減)している。リネンサプライは4,484店で、11年に比べ103店減少(2.3%減)しており、昭和56年以降増加の一途をたどっていたものが、11年を境に減少に転じ、13年も引き続き後退している。   従業者数は398,768人で、11年に比べ1.2%減に止まっている。内訳をみると、普通 洗濯業は291,507人で、11年に比べ3.8%減、リネンサプライは107,261人で6.7%増となっている。1事業所当たりの従業者数は4.4人で、内訳でみると、普通 洗濯業3.4人、リネンサプライ23.9人とリネンサプライは普通 洗濯業の7.0倍となっている。   なお、厚生労働省の「衛生行政報告例」でみると、従業クリ−ニング師数は、平成5年(暦年調査)71,749人をピ−クに減少しているが、平成13年度末は66,871人と11年度末67,708人に比べ1.2%減となっている。
 厚生労働省の「衛生行政報告例」によると、新規開業の施設使用確認件数は、平成13年度は5,371件で前年度に比べ1,279件も減少している。平成6年の1,362件(暦年調査)をピ−クに減少に転じ、一旦、10年度に増加したものの、再度11年度から減少に転じ、13年度は前年度比19.2%減と大幅な減少となっている。
  平成13年の法・個人別事業所数は、個人が60,752店(構成比67.1%)、法人は29,758店(同32.9%)となり、個人割合が圧倒的に多い。事業所数を11年と比べると個人は4.8%減、法人は0.3%減と個人の後退が目立つ。
 洗濯業全体の13年の事業所数を11年と比べると3,215店減少、このうち全体の83.5%を占める1〜4人の減少が大きく影響している。ちなみに、1〜4人規模の増減数の推移をみると、3年対8年は2,417店増加(3.0%増)したものの、8年対11年比では4,801店減少(5.8%減)、さらに11年対13年比で2,650店(3.4%減)と減少しており、洗濯需要後退に伴う過当競争の激化を背景に、小零細規模層の整理淘汰の時代を迎えているといえよう。   さらに従業者別規模で増減率をみると、50〜99人3.9%増、200〜299人横ばいを除きすべての規模で減少している。特に、減少率が高いのは10〜19人6.2%減、30〜49人9.0%減であり、これに20〜29人3.9%減を含めると10〜49人層は6.1減となり、全体の減少率3.4%の倍近くになる。中間規模層にも競争激化の波がひしひしと押し寄せている。

  厚生労働省の「衛生行政報告例」でみると、平成13年度の取次店数は113,953店で1.6%減となっている。取次店は昭和50年以降、順調に増加し、平成11年度対昭和50年(平成9年から歴年調査が年度調査に変更)でみると、3.0倍となり、一般 クリーニング所施設数の1.7倍を凌ぐ勢いで増加してきた。しかし、11年度には減少に転じ、前年に比べ193件減少(前年比0.2%減)の115,703件となり、12年度はほぼ横ばいで推移したが、13年度には再度減少に転じている。なお、一般 クリーニング所1施設当たりの取次店数は、13年度0.7店であり、昭和50年の0.4店に比べ倍近くに増え、取次店数同士の競争が激しくなっている。   参考までに処理施設を有するクリーニング施設数の推移をみると、長い間増勢をたどってきたが10年度に減少に転じ、前年に比べ226店減少(0.1%減)した。その後は、11年度972店減(前年比0.6減)、12年度680店減(0.4%減)が、13年度には2,546店減(1.6%減)と激減している。

 

クリーニング業の事業所数および従業者数の推移
(単位:店,人,%)
調査年 従 業 者 規 模 別 合 計 従業者数
1〜 4人 5〜 9人 10〜19人 20人以上
平成6年 (84.7)
82,581
(8.3)
8,084
(3.8)
3,721
(3.2)
3,104
(100.0)
97,490

391,196
平成8年 (83.7)
83,012
(8.7)
8,640
(4.1)
4,035
(3.5)
3,423
(100.0)
99,110

420,516
平成11年 (83.4)
78,211
(8.7)
8,137
(4.2)
3,959
(3.7)
3,428
(100.0)
93,735

403,587
平成13年 (83.5)
75,561
(8.8)
7,928
(4.1)
3,715
(3.6)
3,316
(100.0)
90,520
398,768
「事業所・企業統計調査」
(注)1〈 〉内は構成比である。
     2 リネンサプライ、取次ぎ店を含む。

 

(3) 強まるクリーニング代の節約
  総務省「家計調査年報」によると、平成14年の1世帯当たりクリーニング代支出金額は、10,825円で前年比1.9%減となっている。クリーニング代支出金額は4年19,243円をピ−クに下降し、4年対比で14年は8,418円も減少(43.7%減)と激減している。また、消費支出全体に占めるクリーニング代の割合は、平成4年0.48%をピ−クに傾向的に後退しており、14年は0.29%と過去最低の割合となっている。
最多支出は50〜59歳世帯
  同調査で世帯主の年齢階級別支出をみると、最多は50〜59歳世帯で14,626円、次いで60〜69歳が11,333円となっている。一方、最少支出は29歳以下の4,965円である。最多支出の50〜59歳世帯は全世帯平均の1.4倍であり、最少支出の29歳以下は全世帯平均の46%と少ない。
  同調査により都市別にみると、最多支出は東京都区部で15,860円、次いでさいたま市14,904円、金沢市14,717円となる。一方、支出が少ない順では、那覇市4,350円、高知市6,400円、鳥取市7,478円となっいる。総じて年間支出が少ないのは九州であり、福岡、佐賀、大分の3市を除いた5都市はいずれも8,000円台から9,000円台と少ない。   最多の東京都区部は、全国平均の1.5倍であり、最小支出の那覇市は40%の水準に過ぎない。東京都区部の支出は那覇市の3.6倍となっている。
2 最近の動向
(1) 最近の動向
 近年、クリーニング業関連の機械開発が進むにつれ業界の機械化が促進され、労働集約的な業態から機械化による規模の拡大が可能な業態へと変化がみられる。これにより、従業員1人当たりの作業効率のアップが可能となり、このような規模の利益が働くことに着眼した大手企業の参入や、既存企業の規模拡大が相次いでいる。一方、取次店は、これまでの増勢をたどった勢いに衰えの兆しが見え始めている。家計調査の洗濯代への支出がバブル崩壊後の平成4年をピ−クに年々減少しているのに反し、取次店数は逆に10年度まで増勢を続けた。洗濯代への支出は、4年から11年までの7年間に28.4%減少したのに対して、取次店はこの間に13,562店(13.3%増)も増え、需要面 の後退に比べ明らかに供給過剰である。取次店は、11年度になりようやく減少に転じているが、今後の整理淘汰の前兆であるのか微妙な段階に差しかかっている。また、取次店の供給過剰は、料金の値崩れを広げる引き金になっている。
(2) ドライ対応洗剤の普及、相次ぐ新素材の開発で持込み数減少
  近年、家庭用洗濯機の大型化や、「つけおき洗い」「浮かし洗い」「シャワーすすぎ」等デリケートな素材・衣類に適応した方式の開発機能の高度化のほか、ドライマ−ク対応型の洗剤の開発により、家庭洗濯の領域が拡大傾向にある。また、広い駐車場スペースをもち、店内に仕上台・染み抜機等を備え、日中はインストラクターのアドバイス付きの24時間営業型セルフランドリー・ドライチェーン店の増加もみられる。   さらに、形状記憶・形態安定の衣類の浸透(対象の衣料素材もポリエステル混から綿・麻製品、さらに絹・毛製品へと拡大)、相次ぐ新素材の開発でクリ−ニングに適応しない衣料品の増加や、Gパン、トレ−ナ−、Tシャツ等の軽衣料の女性愛用者が増え、ス−ツ、ワンピ−スなどの着用が少なくなったことなどが原因で、一般 家庭のクリーニング店への持込み減少に拍車をかけている。  (財)東京都生活衛生営業指導センタ−「環衛業に係る消費生活調査」(平成8年度)によると、クリーニング店への「依頼が減った」は18.7%で「依頼が増えた」の15.3%を上回っている。減少した理由としては、「自宅でのクリーニングを増やした」が87.3%に及んでいることが指摘できる。また、自宅でのクリーニングを増やした理由としては、「家計費を節約したい」が56.7%(複数回答)で最も多いが、2位 は「全自動洗濯機で十分可能である」が41.4%、3位は「家庭用ドライ洗剤を使っている」が28.0%を占めており、家庭洗濯の領域が拡大傾向にあることを裏付けている。
(3) 圧倒的に多い固定客
 かつてクリーニングは、集配人が各家庭を訪問し集配するのが一般 的であったが、人手不足、人件費高騰に伴い集配は減少し、逆にクリーニング店への持込みがほぼ当たり前になってきている。先の「環衛業に係る消費生活調査報告書」(平成8年度)によると、「クリーニング店に出向く」が80.4%で大半を占め、「自宅へ集配人が訪問してくれる」は15.0%に過ぎない。  クリーニング依頼先は「いつも特定の決まった店を利用している」が85.3%であり、「衣類の品目によって複数の店を使い分けている」は、わずかに9.2%しかない。また、「店を決めていない」は3.9%と極めて少なく、固定客が圧倒的に多い。  では、クリーニング店を選ぶ理由はというと、「近くて便利」が58.7%で最も多く、毎日の生活に密着した利便性が優先されている。2位 は「汚れがよく取れている」が42.6%、3位は「料金が安い、割引がある」が36.6%、4位 は「仕上がりがていねいで美しい」33.4%、5位の「仕上がりが早い」32.6%と続く。   男性・女性別に特徴を見ると、女性は、「汚れがよく取れている」「仕上がりがていねいで美しい」など品質に加えて「料金が安い、割引がある」への関心が強い。男性は、「近くて便利」の割合が最も多く、次いで「仕上がりが早い」となっており、男性は品質よりは利便性、迅速を優先させている。  クリーニング店の競争はますます激しくなっているが、競争に生き残るには、価格競争よりも「汚れがよく取れている」「仕上がりがていねいで美しい」「仕上がりが早い」というクリーニング店本来の目的である“品質”向上に取り組むべきであろう。その上で合理化などでコストダウンを図り、適正な値下げが可能になれば、それに越したことはない。単なる価格競争の展開は、長期的には自滅への道をたどるだけであり決して好ましい経営手法でない。
(4) 洗濯物滞留品問題への対応
  最近、クリーニング店や取次ぎ店の店先に、「仕上げ予定日から1週間以内にお引取り下さい」とか、「期限内を超過した場合は1点につき100円いただきます」などの貼り紙が多くなっている。これは共稼ぎ世帯の増加や、単身世帯の増加を反映して受け取りの長期化傾向に悩まされているためである。仕上げから1ヵ月を経過しても引取りのない洗濯物を業界用語で「滞留品」と定義しているが、特に、布団・毛布・ジュータン・カーペット、コート類等の重量 洗濯物の滞留が目立つ。   滞留洗濯物は、店内のスペースをとり作業能率を低下させるだけでなく、洗濯物の日焼け・変色等の品質管理上のトラブルを生じることにもなり、クリーニング業者の経営に問題を投げかけている。このため、顧客管理の徹底(受付用コンピュータの活用)、洗濯物の受付時の顧客指導の徹底、滞留品に対する保管料の徴収等、業者の顧客への対応の工夫がますます必要となってきている。
(5) 環境保全への対応
 テトラクロロエチレンおよびトリクロロエタンについては、水質汚染防止法等により排水および廃棄物の規制が設けられており、クリーニング所における使用管理および処理の適正化が求められている。また、ドライクリーニングの溶剤として使用されているフロン113、トリクロロエタンについては、オゾン層保護の観点から溶剤の転換(製造は平成7年度末で全廃)を円滑に進めるべく、これまでに融資・税制等において各種施策が講じられてきている。
  さらに、コインランドリー等の多様化に伴い、営業施設の衛生管理においても、有機溶剤を使用するコインドライを中心に、各自治体における条例・要綱の制定による規制強化、特別 管理産業廃棄物管理責任者の設置を義務づけられている。
3 経営上の問題点
(1) 最近の経営上の問題点
  国民生活金融公庫の「生活関連企業の景気動向等調査」によるクリーニング業の最近の経営上の問題点は、1位 が「客単価の低下」である。2位は「値上げ難」、3位は「利用者の好みの変化」であり、4位 は「大手企業の進出による競争の激化」である。調査対象である生活関連業種15業種の中で「客単価の低下」が最も多く、一般 家庭のクリ−ニング店の持込み件数が減少していることが端的に現れている。また、同じく15業種の中で、「値上げ難」が3番目に多いことからみて、過当競争の影響で諸経費が増えても料金が値上げできず、逆に過当競争による値崩れが激しい面 がうかがわれる。
(2) 営業上の問題点
 先の「環衛業に係る消費生活調査報告書」(平成8年度)の中の「クリーニング店に対する意見、要望、不満など」により、消費者側から見た営業面 の具体的な問題点を取り上げてみよう。
基本的な技術の提供について
(ア)汚れをきれいに落して欲しい
(イ)信頼できる技術を磨いて欲しい
(ウ)仕上げを丁寧にして欲しい
  これらのニ−ズからみて「汚れがよく取れている」「仕上がりがていねいで美しい」「仕上がりが早い」というクリーニング店本来の機能が十分に発揮されていない傾向がうかがわれ、クリーニング店経営の最も基本である“品質管理”の徹底を図ることが必要である。
受付、応対、受渡しについて
  (ア)接客態度が悪く不愉快な思いをした
(イ)受付時に汚れの落ち具合などについて、十分な説明をして欲しい
(ウ)受渡し時間の延長、コンビニでの受付、日曜日、夜間の受渡しを行って欲しい   取次店の従業員は主婦、女子高生など営業に関しては素人が多いだけに、マニュアルを作成して、基本的な動作を十分に指導すべきである。単に受付、受渡しさえすればよいとの傾向が多く見られるなど、経営者自身がもっと、顧客への応対などの従業員管理を徹底する必要がある。また、最近は様々な繊維製品が販売されているので、それらについて見分ける研修を行う必要もある。
トラブルなどへの対応について
  (ア)事故の際はスム−ズに補償して欲しい
(イ)保管に責任をもって欲しい
  「トラブルがよくあるので、大手の店に変えた。距離的には少し遠く、値段も少し高いが応対もよく、トラブルの際の補償制度もしっかりしている」との意見の記入があったが、トラブルが多ければ固定客が逃げてしまう。工程面 でのチェック体制の整備を徹底し、常にレベルアップを心がけトラブル防止を重視すべきである。保管については、「在庫が多すぎて見つけられないことがある。在庫管理をしっかりして欲しい」という要望があるが、在庫保管方法や滞留品の管理を普段から徹底しておく必要がある。
料金について
  (ア)料金をもっと安くして欲しい
(イ)料金表を外に表示して見やすくして欲しい
  料金については、季節の変わり目などで一度に品数を多く出すときや、ワイシャツなど毎日出すものについては、価格を下げて欲しいという要望が強い。また。「安くてしかも早ければもっと利用する」「店によって料金に差がありすぎる」という意見もあった。「店舗の外部に料金表を掲示して欲しい」という要望もある。また、「最近は様々な素材による繊維製品が出回っているのにシャツという分類だけで料金を均一にするのはおかしい。第一、店員にそれらを見分ける目がないので店員教育を徹底し、適正な料金を取るようにして欲しい」という、手厳しい指摘もあった。
環境問題について
(ア)環境に悪い薬品を使わないようにして欲しい
(イ)ハンガ−の回収方法を徹底して欲しい
  薬品につては「仕上がり品に薬品独特の匂いがし、環境に悪い薬品を使っているのか不安」や「抗菌などやたらに恐ろしい薬品を使用しないで欲しい」など環境や身体に及ぼす品質の悪い薬品の使用を懸念する声があった。また、ハンガ−は回収方法を組合で統一して欲しいとの提言があった。地球環境問題は1業者のみの問題でなく、組合が組織的に対応措置を講じることが望ましいといえよう。
(注)「環衛業に係る消費生活調査」は、平成8年度以降行われていない。

4 経営上のポイント
(1)
「クリーニング」から「衣類の総合サービス業」へ
  最近、クリーニングに対して、「安心を売る商売」「利用者である消費者の生活を支援してくれる商売」という意識が消費者側に生まれてきている。そこで、今後の経営の一方向として「洗濯・乾燥・仕上げ」といった狭い考えで自店の事業領域にとどまらず、消費者のニ−ズに対応するためには、従来の経営方式から脱皮し、事業領域の再構築を行うことが必要視されている。つまり、衣料等の保全にかかる総合的なサービス業として、高付加価値経営へ積極的に取り組むという転換の時代を迎えているのである。   具体的な取り組みとしては、衣類の素材に合わせた適切な「クリーニングメニューの充実」「店・従業員の質の向上」を通 した「衣料素材による取り扱い方法の習得」「消費者の服の取扱い方法の相談・コンサルティング」によるクリーニング・プラス・アルファの付加価値を、店の魅力づくりに取り入れていくことなどが挙げられる。
(2) 脱価格競争、小回りを利かした技術・サービスの提供
 先の「環衛業に係る消費生活調査」によると、クリーニング店の選択理由の上位 3項目は、「近くて便利」(利便性)、「汚れがよく取れている」(技術・品質への信頼感)、「料金が安い、割引がある」(価格)であった。これでみる限り、「価格」よりは「利便性」や「技術」が優先している。また、「クリーニング店に特に頼みたいものは」の質問に対して「プリーツ・防水・撥水等の特殊加工」「アイロン掛けだけ」「シ-ズンオフ衣料品保管」「衣類の補修」等の要望が上位 にきており、小規模店特有の小回りを利かしたきめの細かいサービスへの消費者のニーズの高まりがうかがわれる。
  これらは、普通クリーニング店が、積極的な情報伝達による技術PR等を通 した「品質」の提供により、大手業者の価格を中心にした競争戦略との差別 化を図っていける可能性を示唆している。
5 工夫している事例
(1) 企業概況
  • 所在地  :北海道・東北地区
  • 創業   :昭和43年
  • 店舗数  :1店(取次店なし)
  • 従業者  :6名(うち家族従業員4名、従業員1名、パ−ト1名、ただし、6名のうちクリ−ニング師3名)
  • 設備状況 :ドライ機1台、水洗機1台、プレス機2台、ワイシャツプレス機1台、仕上台2台
  • 駐車場  :10台収容可能
(2)
経営環境
立地条件 : 地方都市の駅の近くで国道に面し、バスタ−ミナル周辺にある。商業・住宅混合地帯で経営環境は良好
競合状況 : 市内の営業区域には同業者30店のほか、大手企業チェ−ンの取次ぎ店約40店もあり競合は激しい。特に大手チェ−ンの取次ぎ店は、地域の標準単価の約25%も下回る低廉料金で営業しており、苦戦を強いられている。現在は家庭用衣料のクリ−ニング専門店化しており、配達・外交による営業が70%と多い。持込みは30%に過ぎない。固定客である約700世帯は、配達・外交による便宜性サ−ビスの提供で流出防止に努めている。
(3)
経営上の問題点
   10数年前から大手企業チェ−ンの取次ぎ店の進出が始まり、低価格攻勢等により顧 客離れが次第に加速化し、新規顧客を獲得しても料金面 から低価格店に流れがちであり、一時は売上げが20%も減少するなど、大きな影響を被っている。
(4) 問題点解決に向けての経営者の取り組み方針
    まず、経営理念として「良い仕事を顧客に還元する」ことを再確認することにした。
  この経営理念に基づいた具体的な行動指針としては、「料金は割引せずに、顧客のニ−ズに応えるために何をしたらよいのか」を考えた。その答えとして技術、接遇の改善、高能率の設備の導入、店舗のイメ−ジアップ、環境問題への対応などに取り組み、これまでの経営を一新することを決めた。
  これらを具体的に行うのには、経営者一人だけの見識、情報力だけでは限界があるので、改善に必要な最新情報の収集や、最先端の技術、機械の状況を知るために、東京、大阪などの繁盛店の見学を行った。さらに、これからの経営には、異業種からの情報が欠かせないと判断し、後継者の息子を青年会議所に入会させることにした。
  問題点解決に向けての経営者の取り組み方針は、短絡的に思いついたものを取り入れるのではなく、経営理念として掲げた「良い仕事を顧客に還元する」を常に念頭におき、顧客の立場に立ち、総合的な視点から改善に挑戦する試みが高く評価される。
(5) 問題点解決のために実施した具体的な対策、工夫の内容
 

問題点解決のための具体策は、順次一つずつ実施に移していった。以下、年次ごとにその展開状況をみてみよう。

平成8年 外観の整備 店頭を拡張し、その内回りも改装し、来店客が良い印象を持つように改善
  工場の改善 作業効率が向上するようにレイアウトを変更
  外 交 強 化 工場の機械稼働率を高めるため、外交を強化し受注量を拡大
平成9年 接遇の改善 後継者の従事を機会に接遇の改善に取り組む
平成10年 能 率 向 上 洗濯から乾燥まで30分で仕上げるホットマシ−ンを一千万円で導入し、作業効率の一層の向上を目指した。
  公 害 防 止 環境問題への対応からビニ−ル付きハンガ−の使用を取り止めた。また、包装資材をビニ−ルから紙質主体の資材に切り替えた。
  P R 店舗全面に売り物としている「クイック」等のPRを実施
  イメ−ジアップ作戦 FM放送、地元新聞、折り込みなどの広告宣伝を媒体として、当店のイメ−ジを売り込む作戦を開始
  差異性アピ−ル FM放送で「クイック」、「朝受けて、夜渡し」、「良いものは良い技術で」などをキャンペ−ン
  相 談 クリ−ニングに関する消費者向けアドバイスを実施
平成11年 顧客管理と窓口業務効率化のために業務用パソコンを2台設置
(6) 対策、工夫の効果について
  店舗は外見、内部ともに、すっきりとあかぬけした好印象を与えるものとなり、従業員の接客態度も改善されている。また、受け付けから引渡しまでの期間は平均2日に定着。顧客の要望があれば、1日で仕上げるスピ−ド処理も可能となっている。スピ−ドアップはホットマシ−ンの導入によるところが大きいが、この機械は臭気、ガスを外気に放出せず溶剤に還元させるため、公害防止の環境対応にも役立っている。
  さらに、FM等マスメディアを活用したイメ−ジ戦略は、顧客層に「あの店なら大丈夫」という効果 を発揮している。

資料
  1. 総務省「事業所・企業統計調査」   
  2. 総務省「家計調査年報」 
  3. 厚生労働省「衛生行政報告例」  
  4. (財)東京都生活衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活調査報告書」平成8年度 
  5. 全国生活衛生営業指導センタ−「成功事例調査」
  6. 金融財政事情「企業審査事典」
  7. 中小企業リサ−チセンタ−「日本の生活関連サ−ビス業」   
  8. 中央法規「生活衛生関係営業ハンドブック2003」   
  9. 国民生活金融公庫「生活関連企業の景気動向等調査」   
  10. 国民生活金融公庫「経営の工夫事例集」(クリ−ニング業)平成12年度  
  11. 中小企業動向調査会「業種別業界情報」2003年版
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