クリーニング業-2005年
1 概況
2005年
(1) 予想以上に複雑な営業形態
  クリーニング業のサービス提供行為は、家事労働の代替サービスを専門的に行うことにある。これにより、消費者は衣料や住生活などに関して衛生的で快適な生活の確保に加え、家事労働時間を省力かすることができ、クリーニング業は国民大衆の衛生水準の向上に、長年にわたって貢献してきている。ただし、予想以上に複雑な営業形態であるので、クリーニング業の概況を述べるのには、最初に多種多様な営業形態から説明することが望ましい。日常の生活面 では「クリーニング屋さん」で通っているが、クリーニング業法からみると、営業形態は単純なものではない。
(2) 取次店・リネンサプライ業は増加
 クリーニング業法によるクリーニング業に該当する営業形態としては、普通 クリーニング店、リネンサプライ、ホールセールなどがある。また、同法に基づくクリーニング業に該当しないクリーニング業の類似的な営業形態として、クリーニング取次店、コインランドリーなどがある。ただし、これらの業態は営業施設の衛生措置等の法的規制を受ける。そこで、個々の業態について、以下それぞれの特徴を掲げてみよう。
 普通クリーニング店は、自家処理施設を有し、主として家庭から出される洗濯物を扱うクリーニング店を指す。営業の中身は黒物のドライクリーニングと白物の水洗いによるランドリークリーニングからなる。一般 的には両者を扱う業者が多いが、近年小規模店では、白物はホールセールへ外注に出す店が多くなっている。
 リネンサプライは、総務庁の日本標準産業分類の定義によると、「繊維製品を洗濯し、これを使用させるために貸与し、その使用後回収して洗濯し、さらにこれを貸与することを繰り返して行う」事業となっている。リネンサプライの需要分野は、ホテルのシーツ、タオル、バスタオル等、病院のふとんのほか毛布、毛布カバー、シーツ等のほか、事業所の作業服、飲食店の貸おしぼり等多岐に及ぶが、主力はホテルリネンと病院リネンである。
 ホールセールは、主に普通クリーニング店等から委託を受けた洗濯物を専門に処理する業者で、現在はワイシャツなど量 的処理の白物が受注の主力になっている。が、なかには、毛皮、皮革などの特定な洗濯物の処理をする業者もある。
 クリーニング取次店は、自らはクリーニングをしないで、顧客とクリーニングを処理するクリーニング業者との間に立ち、洗濯物の受取り、引き渡しのみを行う店舗をいう。取次だけの業務だが、洗濯物を扱うため「クリーニング所」としての一定水準の衛生措置が義務づけられている。
 コインランドリーは、硬貨投入式の自動洗濯機および乾燥機を設置して、顧客自身が洗濯機を自由に操作して洗濯を行うセルフサービス方式の店で無人店が多い。公衆浴場の兼業としての参入が目立つ。最近では、コインランドリー内に「コイン・スニーカー・ランドリー」として、スニーカーが洗濯できる洗濯機を設置している店もある。都道府県単位 で、条例または要綱などにより衛生管理等面で規制、指導の対象となっている。
(3) クリーニング所の施設数は平成9年度、取り次ぎ所は10年度ピークに減少
 クリーニング所の施設数(厚生労働省調べ)は、戦後増加の一途をたどってきたが、平成元年155,786店を境に4年まで減少、1年平均659店減少している。しかし、4年153,810を底に再度増加に転じ、9年度には164,225店と過去最高の施設数になった。1年平均2,083店の増加である。が、9年度をピークに再度減少、16年度には150,953店と昭和62年の水準にまで後退している。この間の1年平均減少数は1,896店である。このように、平成に入ってからは、施設数は増減を繰り返しながら、減少傾向にある。
 クリーニング所の施設数のうち取次ぎ所は急テンポで増勢をたどってきたが、10年度115,896店をピークに減少に転じ、16年度には108,089店になっている。この間の1年平均の減少数は1,301店である。平成16年度のクリーニング所施設数のうち取次ぎ所数は、71.6%も占め、取次ぎ所が多いことを示している。(厚生労働省調べ)
(4) 大幅減少の普通クリーニング所の新規開業
 普通クリーニング所の新規開業は、昭和51年以降毎年1万件から1万1千件台で推移していたものが、平成9年度以降7千件台、6千件台、5千件台と年を追うごとに減少幅が拡大傾向にあり、16年度は5,032店となっている。平成に入ってからの最高件数である元年11,494件に比べると6,462件も減少している。
 クリーニング師の免許件数も平成6年1,684を境に減少をたどってきたが、14年度980件(前年比23件増)、15年度1,059件(同79件)、16年度1,138件(同79件増)と、3年続いて増加している。
 従業クリーニング師数は昭和50年には92,894人もいたものが、それ以降多少の増減はあったものの、傾向としては減少しており、平成16年度には68,750人と、昭和50年に比べ24,144人も減少している。しかし、前年に比べ15年度は504人増(前年比0.8%増)16年度2954人増(同4.5%増)と2年続けて増えている。(厚生労働省調べ。(平成8年までは暦年、9年以降は年度の数字)
(5) 家庭での洗濯代支出は平成4年以降減少
 一方、家計調査(総務省)によると、1世帯当たり年間の洗濯代支出は、バブル絶頂期直後の平成4年19,243円をピークに、以後続けて減少している。これは、サラリーマン世帯の収入の先行き不透明による節約が、クリーニング持ち込み縮小に向けられていることや、家庭で洗濯ができ、しかもアイロン掛け不要の形状安定型ワイシャツの急速な普及などが影響している。また、ドライ関連も持ち込み数が減少傾向にある。これはシングル女性や若い世帯の主婦の間には、ドライ洗濯可能の洗濯機を購入し自宅での処理を行う傾向が増えていることが指摘されよう。さらに、ドライ対応の洗剤の開発・販売がこれを後押ししている。加えて、クリーニングに適さない新素材などによる繊維製品の増加も、持ち込み減少の一因となっている。これらにより、長い間家事代行の重要な役割を担ってきたクリーニング業にかげりが見え初めている。問題は、この傾向が今後も続くかであり、構造変化の兆しなのか、動向に注目する必要がある。
 (注)1 施設数などの数字は、厚生労働省「衛生行政報告例」による。平成8年までは、暦年(1月から12月まで)、9年度以降は年度(4月から3月まで)の数字である。
2 「クリーニング業法」で見るクリーニング業界の仕組み
 戦後、クリーニングが次第に大衆化されるに従い、公衆衛生の維持・向上の定着を図る目的から、昭和25年2月にクリーニング業法が施行された。以下、クリーニング業法により、クリーニング業界の仕組みを見てみよう。
(1) クリーニング業の定義
 クリーニング業法によるクリーニング業の定義は「溶剤または洗剤を使用して、衣類その他の繊維製品または皮革製品を原型のまま洗濯することを営業とすること」となっている。この定義にある"洗濯"には、「繊維製品を使用させるために貸与し、その使用済み後はこれを回収して洗濯し、さらにこれを貸与することを繰り返して行うこと」を含むとし、リネンサプライがクリーニング業であることを明記している。
 この定義から、クリーニングの対象物は、衣類のみでなくシーツ、毛布など寝具類、カーテン、絨毯、床マットなどのインテリア、化学雑巾、モップなどの清掃用品、暖簾、旗、飲食店へのレンタルおしぼりなど、取り扱うサービスの範囲は多種多様である。
 なお、クリーニング行為には、水洗いやドライクリーニングのみでなく、受け取り、選別 、プレス、染み抜き、乾燥、仕上げ、引渡等一連の付帯行為も含まれる。したがって、これらのうち一部の行為だけを行う場合も、都道府県知事にクリーニング所の届け出をしなければならない。しかし、クリーニング業は原型のまま洗濯することが要件となっているので、着物などをほどいて洗濯し、板などに張り付けてしわを伸ばす洗い張りなどは含まれない。
(2) クリーニング所
 クリーニング所は、一般クリーニング所と取次所に分かれている。一般 クリーニング所には、洗濯機、脱水機などを設置、クリーニング師も置かなくてはならなく、洗濯物の処理ができるのは一般 クリーニング所のみと定めている。取次所は洗濯物の処理を行わず受け取り、引渡しのみを行う。クリーニング所を開設・廃止するときは、都道府県知事に届出をしなくてはならない。またクリーニング所は、使用前に都道府県知事の検査確認を受けることが義務付けられている。
(3) クリーニング師
 クリーニング師の免許は、中学校以上を卒業した者で、かつ都道府県の試験に合格した者に与えられる。クリーニング師は、業務に従事後1年以内に都道府県知事の指定した研修を受けなくてはならない。その後は3年を超えない期間ごとに、再度研修を受けなければならない。
(4) クリーニング業務従事者
 営業者は、そのクリーニング所の業務に従事する従業員5人に1人以上の割合で、クリニーニング所の開設後1年以内に業務に関する知識の修得・技術の向上に関する都道府県知事の指定した講習会を受講させなければならない。また、3年を超えない期間ごとに、同様に受講させなければならない。
(5) 閉鎖命令等
 都道府県知事(保健所設置市または特別区にあっては、市長または区長)は、必要に応じ従業員等に対する営業停止、環境衛生監視員による立ち入り検査、措置命令、営業停止、閉鎖命令、クリーニング師の免許停止処分をすることができる。
3 最近におけるクリーニング業界の動向
(1) 従業者規模別の事業所数等の動向
 全国のクリーニング業の事業所数(取次店・リネンサプライを含む−総務省調べ)は82,398店で、生衛18業種のうち事業所・企業統計調査(総務省)に掲載さている16業種の中で5番目に多い。これを13年に比べる8,122店減少(9.0%減)している。なかでも常用雇用者なしの事業所数(総務省調べ)は、平成13年には40,786店だったものが、16年は36,131店で13年に比べ4,655店も減少、減少率は11.4%と高く、店主ないし、店主夫婦のみの店舗の減少が目立つ。
 このうち普通洗濯業は78,095店で13年に比べ7,941店減少(9.2%減)している。リネンサプライは4,303店で、13年に比べ181店減少(4.0%減)と、わずかの減少にとどまっている。昭和56年以降増加の一途をたどっていたものが、11年を境に減少に転じ、13年、16年と引き続き後退している。
(2) 減少に転じたリネンサプライの従業者数
 従業者数は16年379,742人で13年に比べ4.8%減少している。内訳をみると普通 洗濯業は275,844人で13年に比べ5.4%減、リネンサプライは103,898人で3.1%減少、13年が11年に比べ6.7%増だったのに比べ様相が変化している。1事業所当たりの従業者数は全体で4.6人(13年4.4人)であり、これを内訳でみると、普通 洗濯業3.5人(13年3.4人)、リネンサプライ24.1人(13年23.9人)となろ、普通 洗濯業リネンサプライ業とも、わずかではあるが増えている。
(3) 変動が激しい新規開業件数、なぜか少ない大阪府
 新規開業の施設使用確認件数(厚生労働省調べ)は、平成16年度は5,032件で13年度に比べ394件(7.3%)減少している。平成6年の1,362件(暦年調査)をピークに減少に転じ、一旦、10年度に増加したものの、再度11年度から減少に転じ、14年度は前年比16.4%も増加したが、15年度は13.3%も減少しており、新規開業は不安定な状態にある。
 都道府県別に16年度の新規開業件数を見ると、1位は東京605件、2位 宮城県430件、3位神奈川県315件、4位愛知県280件、5位 千葉県253件、6位大阪府238件で、大阪府の劣勢が目立つ。
(4) 個人の減少の半面、目立つ法人の増加
 平成16年のクリーニング業全体の法・個人別事業所数(総務省調べ)は、個人が51,703(構成比62.7%)、法人は30,695店(同37.3%)となり、個人企業が圧倒的に多い。これらを13年と比べると、個人は10.6%減、法人は8.9%減増と個人の減少の半面 、法人の増加が目立つ。
(5) 進む小零細企業の後退、進む大規模化
 クリーニング業全体の16年の事業所数を13年と比べると8,122店減少している。が、これを従業者規模別 に見ると、このうち全体の8割強を占める1〜4人の減少が大きく影響している。ちなみに、16年の1〜4人規模は68,294店で13年比7、267店(9.6%)と大幅に減少している。
 1〜4人の増減数の推移は、次の通りであるが、平成8年以降減少に転じ、16年は13年に比べ、大きく減少しているのが目立つ。
 3年対8年比−2,417店増加(3.0%増)
 8年対11年比−4,801店減少(5.8%減)
 11年対13年比−2,650店減少(3.4%減)
 16年対13年比−7,267店減少(9.6%減)
 この推移から見て、洗濯需要後退に伴う過当競争の激化を背景に、クリーニング業界は小零細規模層の整理淘汰の時代を迎えているといえよう。
 5人以上は13年に比べ5.7%減少しているが、なかでも10〜29人層が458店減少し、減少率が9.0%と高いのが目立ち、中間規模的な層にも競争激化の波がひしひしと押し寄せている。一方、30〜49人層は13年に比べ29店増(2.9%増)また100〜199人層が26店増(14.7%増)と、中規模、大規模店が増えている。
(6) 取次店数の減少強まる
 平成16年度の取次店数は108,089店で全年に比べ2.7%減となっている。
 取次店数は昭和50年以降順調に増加し、平成11年度対昭和50年(平成9年から歴年調査が年度調査に変更)でみると、3.0倍となり、一般 クリーニング所施設数の1.7倍を凌ぐ勢いで増加してきた。しかし、13年度以降には減少に転じ、特に16年度は前年に比べ減少幅が拡大している。
クリーニング業の事業所数および従業者数の推移
(単位:店、人、%)
調査年 従業者規模別 合計 従業者数
1〜4人 5〜9人 10〜19人 20人以上
平成8年 (83.7)
83,012
(8.7)
8,640
(4.1)
4,035
(3.5)
3,423
(100.0)
99,110
420,516
  11年 (83.4)
78,211
(8.7)
8,137
(4.2)
3,959
(3.7)
3,428
(100.0)
93,735
403,587
  13年 (83.5)
75,561
(8.8)
7,928
(4.1)
3,715
(3.6)
3,316
(100.0)
90,520
398,768
  16年 (79.0)
68,294
(9.1)
7,498
(4.1)
3,380
(7.8)
3,226
(100.0)
82,398
(95.2)
379,742
注1 ( )内は構成比である。
  2 リネンサプライ、取次ぎ店を含む。
(注)( )内は前回調査比である。
資料:総務省「事業所・企業統計調査」

4 進むクリーニング代節約、最多支出層は50〜59歳世帯
 総務省「家計調査年報」によると、平成17年の1世帯当たりクリーニング代支出金額は、9,483円で前年比330円(3.5%減)となっている。クリーニング代支出金額は4年19,243円をピークに14年間下落し、4年に比べ17年は9,800円も減少、半減している。また、消費支出全体に占めるクリーニング代の割合は、平成4年0.48%をピークに傾向的に後退しており、174年は0.26%と過去最低を更新している。
最多支出は50〜59歳世帯
 同調査で世帯主の年齢階級別支出をみると、最多は50〜59歳世帯で12,391円、次いで40〜49歳が9,756円、60〜69歳9,624円の順となっている。一方、最少支出は29歳以下の5,694円である。次いで30〜49歳6,054円である。最多支出の50〜59歳世帯は全世帯平均の1.3倍であり、最少支出の29歳以下は全世帯平均の69%台の水準である。
 都市別では、1位川崎市15,217円、2位金沢市15,175円、3位 東京都区部の順となっている。最小支出は那覇市で3,582円、次いで高知市5,956円、大阪市6,687円となっている。最多の川崎市は全国平均の1.6倍であり、最小の那覇市は全国平均の38%の水準である。概して、静岡以西は九州地方を含めて支出は少ない傾向にある。
5 最近の動向
(1) クリーニング業についての消費者利用行動など
 消費者モニター事業調査報告書(東京都生活衛生営業指導センター平成15年3月)により、クリーニング業に対する消費者の利用行動を見てみよう。
クリーニング店の利用状況
 「月1〜3回程度」28.7%、「週1回以上」22.7%、「3ヶ月〜半年に1回程度」22.6%、「2ヶ月に1回程度」13.4%で、 「月1〜3回程度」が最も多く、予想外に利用頻度が低い。
利用しているクリーニング店のタイプ
 「自分の店でクリーニングを行う店」49.1%、「クリーニング取次店」46.1%で、約半々であり、これまで取次店が増加してきた状態を反映している。
クリーニング店に出している洗濯物
 「スーツ・礼服」83.2%、「コート」80.4%、「ズボン・スラックス」63.6%、「セーター」52.5%、「ワイシャツ」47.7%、「スカート」47.1%、「ブラース」24.9%であり、クリーニング店のみしかできない専門分野の重衣料が圧倒的に多い。
クリーニング店の利用増減傾向
 従来に比べ「変わらない」52.0%、「減った」36.8%、「増えた」8.1%であり、自家ドライ洗濯機の普及を反映してか「減った」が多い。
利用しているクリーニング店に対する不満
 「特に不満はない」61.5%、「汚れ落ちが悪い」18.7%、「仕上げが悪い」11.7%、「伸縮していた」6.1%、「洗濯物を紛失した」4.5%であり、不満が少なく、クリーニング店は顧客の満足度を充足している。
クリーニング店での各サービスの利用意向
 クリーニング店での各サービスの利用意向について、「利用したことがある」の中身をみると、「クリーニングの自宅集配サービス」21.7%、「衣類等のリホーム・修理」11.5%、「季節衣料の保管」7.5%、「クリーニング知識の講習等」4.6%、「衣類のリサイクルや処分」4.6%となっている。
(2) 大手企業の参入、既存企業の規模拡大、取次店は供給過剰
 近年、クリーニング業関連の機械開発が進むにつれ業界の機械化が促進され、労働集約的な業態から機械化による規模の拡大が可能な業態へと変化がみられる。これにより、作業工程の専門化などにより、従業員1人当たりの作業効率のアップが可能となり、費用削減で低料金販売が可能となった。このような規模の利益が働くことに着眼した大手企業の参入や、既存企業の規模拡大が相次いでいる。規模大企業の供給能力の拡大のはけ口を取次店の増加に求めてきた。
 取次店数は平成10年度まで増勢を続けたのに対して、洗濯代への支出(「家計調査年報」総務省)はバブル崩壊後の平成4年をピークに11年までの7年間に28.4%減少。しかし、取次店はこの間に13,562店(13.3%増)も増え、需要面 の後退に比べ取次店は明らかに供給過剰であった。取次店の供給過剰は、料金の値崩れを広げる引き金になっている。取次店は、13年度以降減少に転じているが、減少率は14年度1.1%減、15年度1.4%減、16年度2.7%減と、減少幅が鈍く、依然として供給過剰の状態に変りはない。
(3) ドライ対応洗剤の普及、相次ぐ新素材の開発で持込み数減少
 近年、家庭用洗濯機の大型化や、「つけおき洗い」「浮かし洗い」「シャワーすすぎ」等デリケートな素材・衣類に適応した方式の機能高度化の洗濯機の普及が漸次広がりを見せている。さらに、ドライマーク対応型の洗剤の開発が家庭洗濯の領域拡大を加速している。なかには、駐車場スペースをもち、店内に仕上台・染み抜機等を備え、日中はインストラクターのアドバイス付きの24時間営業型セルフランドリー・ドライチェーン店の増加もみられる。
 さらに、形状記憶・形態安定の衣類の浸透(対象の衣料素材もポリエステル混から綿・麻製品、さらに絹・毛製品へと拡大)、相次ぐ新素材の開発でクリーニングに適応しない衣料品の増加や、Gパン、トレーナー、Tシャツ等の軽衣料の女性愛用者が増え、スーツ、ワンピースなどのフォーマルな衣服の着用が少なくなったことなどが原因で、一般 家庭のクリーニング店への持込み減少に拍車をかけている。
(4) 環境保全への対応
迫られる改正容器包装リサイクル法への対応
 改正容器包装リサイクル法(容り法)が平成19年4月1日から実施される。それに伴って、クリーニング店で使われているポリエチレン製の包装袋の処理をどうするかが、業界として喫緊の問題に浮上してきている。日本クリーニング環境保全センターとクリーン協会は、平成15年5月の総会において、平成17年は両団体ともポリ袋の自主回収システム構築を重点事項とすることを決めた。回収ルートの全国的な整備、再資源化プラントの確保、消費者へのPR方法などの重要課題を取り上げ、ワーキング委員会を設けるなど、早期にシステムを確立していく予定である。
水質汚染防止法等への対応
 テトラクロロエチレンおよびトリクロロエタンについては、水質汚染防止法等により排水および廃棄物の規制が設けられており、クリーニング所における使用管理および処理の適正化が求められている。また、ドライクリーニングの溶剤として使用されているフロン113、トリクロロエタンについては、オゾン層保護の観点から溶剤の転換(製造は平成7年度末で全廃)を円滑に進めるべく、これまでに融資・税制等において各種施策が講じられてきている。
 さらに、コインランドリー等の多様化に伴い、営業施設の衛生管理においても、有機溶剤を使用するコインドライを中心に、各自治体における条例・要綱の制定による規制強化、特別 管理産業廃棄物管理責任者の設置を義務づけられている。
6 最近の経営上の問題点
(1) 最近の経営上の問題点
 国民生活金融公庫の「生活関連企業の景気動向等調査」によるクリーニング業の最近の経営上の問題点は、1位 が「仕入れ価格・人件費等の上昇を価格に転嫁が困難」であり、生活衛生関係の調査対象15業種の中でも群れを抜いている。平成15年以降の石油価格の急騰の影響を、同業者間の競争が激しく料金に転嫁できない悩みが、以前1位 の「顧客数の減少」に代わり、平成18年4〜6月以降急浮上している。2位 は「顧客数の減少」、3位は「客単価の低下」である。2位「顧客数の減少」、3位 は「客単価の低下」の問題点は、平成5年以降大手企業チェーンの取次店の急増に伴う低価格攻勢等により顧客離れの加速化が背景にあるといえよう。
(2) 営業面における基本的な問題点
 「クリーニング店に対する意見、要望、不満など」についての実態調査は、平成8年度の「環衛業に係る消費生活調査報告書」以降行われていない。しかし、この報告書の中の消費者側のニーズは、時代が変わろうと経営側にとって重要な情報なので、基本的な問題点として掲げることにした。
クリーニング技術についての要望
@汚れをきれいに落して欲しい
A信頼できる技術を磨いて欲しい
B仕上げを丁寧にして欲しい
 これらのニーズからいえることは「汚れがよく取れている」「仕上がりがていねいで美しい」「仕上がりが早い」というクリーニング店本来の機能が十分に発揮されていないことである。クリーニング業の基本である"工程・品質管理"の徹底を常に念頭に置くことが重要である。
受付、応対、受渡しについての要望
(ア)接客態度が悪く不愉快な思いをした
(イ)受付時に汚れの落ち具合などについて、十分な説明をして欲しい
(ウ)受渡し時間の延長、コンビニでの受付、日曜日、夜間の受渡しを行って欲しい
 取次店の従業員は、主婦や女子高生など営業に関してはパートの素人が多いだけに、マニュアルを作成して、基本的な動作を十分に指導すべきである。単に受付、受渡しさえすればよいとの傾向が多く見られるなど、経営者自身がもっと顧客への応対などについて従業員管理を徹底する必要がある。また、最近は様々な繊維製品が販売されているので、それらについて見分ける"目利き"研修を行うことが必要もある。
トラブルなどへの対応についての要望
(ア)事故の際はスムーズに補償して欲しい
(イ)保管に責任をもって欲しい
 「トラブルがよくあるので、大手の店に変えた。距離的には少し遠く、値段も少し高いが応対もよく、トラブルの際の補償制度もしっかりしている」との意見の記入があったが、トラブルが多ければ固定客が逃げてしまう。工程面 でのチェック体制の整備を徹底し、常にレベルアップを心がけトラブル防止を重視すべきである。保管については、「在庫が多すぎて見つけられないことがある。在庫管理をしっかりして欲しい」という要望があるが、在庫保管方法や滞留品の管理を普段から徹底しておく必要がある。
 ちなみにトラブルの発生について「クリーニング業の実態と経営改善の方策(厚生省労働省平成13年)で見てみよう。調査年がやや古いが、実態は大きな変化がないと思われる。
 クリーニング所のトラブルの発生率は29.4%である。しかし、トラブルの内容は種類が少なくない。1位 は「変退色」44.7%、2位「紛失」30.7%、3位「破損」28.6%、4位 「伸縮」28.1%、5位「風合い変化」26.1%である。これらの構成比(複数回答)が、1位 から5位まで大きな隔たりがなく分散していることは、トラブルが何らかの形で発生する確率が高いことを意味している。
 事故率が3割にも及ぶことは、事故防止管理体制が依然として徹底されていない企業が多いこと、また新たな素材に対する知識の吸収、事故の未然防止についての研修など基本的な取り組み体制の強化策が実施されていないことを物語っている。
 また、取次所のトラブルの発生率は30.4%と高く、クリーニング所と大差ない。取次所のトラブルの発生源の多くはクリーニング所に起因しているだけに、トラブル率は高くならざるを得ない。トラブルの主な要因(複数回答)としては、1位 「クリーニングミス」38.3%、2位「衣料品の欠陥」33.5%が突出、トラブル要因を2分している。トラブルの内容は、1位 「破損」34.9%、2位「変退色」34.4%、3位「紛失」であり、クリーニング所に比べ、順位 は異なるが内容は大同小異である。
 クリーニング所、取次所とも「紛失」が多いのは、顧客の大事な商品を預かっているという責任感不足、工程面 での商品管理不足などに起因するだけに、本腰を入れた改善対策に早急に取り組むことが喫緊の課題である。
料金についての要望
(ア)料金をもっと安くして欲しい
(イ)料金表を外に表示して見やすくして欲しい
 料金については、季節の変わり目などで一度に品数を多く出すときや、ワイシャツなど毎日出すものについては、価格を下げて欲しいという要望が強い。また。「安くてしかも早ければもっと利用する」「店によって料金に差がありすぎる」という意見もあった。最近は多くの店で店の入り口のガラス戸などに料金表を掲げ手いる店が多いが、それでも「店舗の外部に料金表を掲示して欲しい」という要望があり、未だに顧客志向の経営を行っていない面 がうかがわれる。
 また、素材の変化についての知識不足による不適切な料金扱いの指摘もある。例えば、「最近は様々な素材による繊維製品が出回っているのに、シャツという分類だけで料金を均一にするのはおかしい。第一、店員にそれらを見分ける"目利き"の目がないので店員教育を徹底し、適正な料金を取るようにして欲しい」という手厳しい指摘である。
環境問題についての要望
(ア)環境に悪い薬品を使わないようにして欲しい
(イ)ハンガーの回収方法を徹底して欲しい
 薬品につては、「仕上がり品に薬品独特の匂いがし、環境に悪い薬品を使っているのか不安」や「抗菌などやたらに恐ろしい薬品を使用しないで欲しい」など環境や身体に及ぼす品質の悪い薬品の使用を懸念する声があった。また、ハンガーは回収方法を組合で統一して欲しいとの提言があった。地球環境問題は1業者のみの問題でなく、組合が組織的に対応措置を講じることが望ましいといえよう。
      
7 転換を迫られるクリーニング業界
(1) 「クリーニング」から「衣類の総合サービス業」へ
 最近、クリーニングに対する消費者側の意識として、単なる家事代行業だけではなく、もうひとつレベルアップした期待感が生まれてきている。代表的なのは「洗濯に関して安心感の追求」「利用者を支援してくれる商売」というニーズである。特に、近年は家庭用洗濯機の機能の高度化、新たな素材使用の衣料品の増加、女性用アウターの装飾品の複雑化から、クリーニング店に持ち込まれるものは、従来見られなかった処理の難しいものが多くなっており、洗濯専門業に対するニーズの高まりは当然である。クリーニング業にかかわらずどの商売にもいえることだが、世の中の変化を掴み、その変化に迅速に対応していくことが肝要である。とにかく、変化が早いテンポで生じている。
 消費者の満足度の要求の高まりに対応するためには、今後の経営の一方向として「洗濯・乾燥・仕上げ」といった狭い行動範囲の事業領域にとどまらず、従来の経営方式から脱皮し、事業領域の再構築を行うことが必要視されている。つまり、衣料等の保全にかかる総合的なサービス業として、高付加価値経営へ積極的に取り組むという転換の時代を迎えているのである。
 具体的な取り組みとしては、衣類の素材に合わせた適切な「クリーニングメニューの充実」や「従業員の質の向上によるコンサルティング業務の拡充」を行うことである。それには「衣料素材による取り扱い方法の習得」や「消費者の服の取扱い方法の相談・コンサルティング」などを目的に、経営者はじめ従業員の質の向上を図らなければならない。今後、消費者に受け入れられるクリーニング店とは、「洗濯・乾燥・仕上げ」プラス・アルファの付加価値を、どのようにして店の魅力づくりに取り入れていくかにかかっている。
(2) 脱価格競争、小回りを利かした技術・サービスの提供
 先の「環衛業に係る消費生活調査」によると、クリーニング店の選択理由を多い順に示すと、1位 「近くて便利」(利便性)、2位「汚れがよく取れている」(技術・品質への信頼感)、3位 「料金が安い、割引がある」(価格)となっている。クリーニング業は、店舗周辺の住民に持ち込みの利便性を提供しており、住民側もこの利便性を利用することを望んでいるという消費者側の意識が浮き彫りにされている。
 これに対して、経営側の意識では低価格が競争の最大に武器としている傾向が、店先の料金表からうかがえるが、この調査で見る限りは消費者は「価格」よりは「利便性」や「技術」が優先している。利便性で固定愛用者層を確保するのには、顧客との対面 による会話でコミュニケーションを図ることが大事であり、一方では、高品質の仕上げによる技術・品質への信頼感を得ることが、経営存続への王道であるといえよう。
 また、「クリーニング店に特に頼みたいものは」の質問に対して「プリーツ・防水・撥水等の特殊加工」「アイロン掛けだけ」「シーズンオフ衣料品保管」「衣類の補修」等の要望が上位 にきており、クリーニング店に対するニーズの変化が浮き彫りにされている。なかには、入り口のガラス戸に、クリーニングのほかに衣類の補修などを表示した店を見かけるようになっているが、これを見てこれまで持ち込んでいた店を変えたい衝動に駆られる消費者も少なくないと思われる。また、老若を問わず単身世帯がふえており、ワイシャツのボタン付けなどのサービスや、ワイシャツの糊付けの要望への対応なども、固定客作りに欠かせないであろう。小回りを利かしたきめの細かいサービスを、街のクリーニング店の得意分野にすべきである。
 クリーニング店は、サービス料金の表示のみでなく、積極的な情報伝達による技術PR等、自店の特色あるサービスについて積極的に行い、大手業者の価格を中心にした競争戦略との差別 化を図っていくことが、生き残りのための可能性を示唆している。
      
8 工夫している事例
(1) 企業概況
所在地:東京都下、東京区部に隣接、新宿から私鉄で最速15分
都市の特徴:人口増加率(平成17年3月末対平成2年3月末比)6.17%で全国24位 。人口密度13位、同一商圏の狛江市は4位。
創業:昭和39年(後継者が従事)
店舗数:7店舗
従業者:5名(ほかにパート40名)
(2) 経営環境
立地条件:開業の昭和39年時には周辺は野原。宅地化に伴い大手銀行、商社の独身寮が増加。が、近年は銀行の統合などで独身寮はマンションに鞍替えなどにより顧客層が変化している
競合状況:低料金を売り物の大規模チェーン店の進出が激しく、経営の存続が脅かされるまでに追い込まれたほどの激戦地
経営上の目標:大規模チェーン店を巻き返すこと
経営戦略:「低価格を求める顧客には低価格で、きめ細かなサービスを求める顧客には、そのサービスにふさわしい料金で対応」
(3) 大規模チェーン店に対抗するために工夫している事例
大規模チェーン店には、真似できないきめ細かなサービス
例えば、ワイシャツの糊付けを柔らかくなど特別な要望に対しては、別 料金で対応。
細かくニーズを把握して対応していくと、結果として通常料金になっていく。
低料金攻勢に負けない価格の設定
大規模チェーン店の常識はずれの低料金には必ずそれを可能にする仕掛けがあるはず。その仕掛けについて徹底的に情報収集し、研究を重ね対抗策を打ち出す。
チエーン店の動向を見ながら、自社所有の簡易印刷機を使いチラシを作成し、地域の家庭に配布している。
大規模チェーン店に低料金が蔓延している地域で対抗するのには、「品質」の向上だけでは勝ち目はない。ある程度の低料金化は競走上やむをえない面 がある。低料金を可能にするのには、量的処理によりコストダウンが不可欠である。処理量 を高めるため、2年に1店舗の割合で多店舗化を進めてきた。今後も同じペースで店舗を増やし、工場の量 的処理を増やし、コストダウンを行う計画である。
現在の工場は処理能力の限度一杯の稼動で、処理工場の増設を検討中である。
大規模チェーン店が打ち出した低料金には、場合によっては多少の出血を覚悟で、それを下回る料金で対抗せざるを得ない
(4) 顧客のニーズに応じ2面戦略を展開
 世帯密集度の高まりに応じ、大規模チェーン店の新規参入が目白押しで、全国屈指の激戦地であり、極めて商売の難しい地域である。大規模チェーン店の低料金に屈したら「負け組」となり、市場からの撤退を余儀なくされる。生きるか死ぬ かの毎日の戦いである。
 経営戦略とは、俗な言い方をすれば、顧客を競争相手から勝ち取る競争のための策略であるが、当社では「低価格を求める顧客には低価格で、きめ細かなサービスを求める顧客には、そのサービスにふさわしい料金で対応」と、顧客のニーズに応じ2面 戦略を打ち出している。しかし、一面では大規模チェーン店が打ち出した低料金には徹底的に対抗する姿勢は崩さない。もちろん、近隣の同業組合員から批判を浴びたが、「座して死を待てばよいのか、それとも相手を根負けさせ生き残るか」の1つを選択するよりほかに、道はないことを強調し説得した店舗所在地は、新宿から私鉄で最速15分と交通 至便で、集合住宅が多くなり人口も増加しているため、今後とも大規模チェーン店の新規参入は予断を許さない。当社を中長期的に成功に導く基本的な策略が、ますます重要性を帯びてくる。中長期的に掲げる目標の明確な策定と、それをいかに追及するかの方策の模索が、限りなく必要となってくる。

 

資料:国民生活金融公庫「後継者による生活衛生関係営業の経営革新事例」編集のため、収集した資料を参照


資料
  1. 総務省「事業所・企業統計調査」    
  2. 総務省「家計調査年報」    
  3. 厚生労働省「衛生行政報告例」    
  4. (財)東京都生活衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活調査報告書」平成8年度
  5. 金融財政事情「企業審査事典」    
  6. 中小企業リサ−チセンタ−「日本の生活関連サ−ビス業」    
  7. 中央法規「生活衛生関係営業ハンドブック2005」中央法規
  8. 国民生活金融公庫「生活関連企業の景気動向等調査」
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