クリーニング業-1998年
1 概況
1998年
(1) 多様な営業形態
(ア)  クリ−ニング業の営業形態は多様であり、法律上のクリ−ニング業に該当する業態と非該当業態とに分けられる。法律上のクリ−ニング業に該当する業種としては、普通 クリ−ニング店、リネンサプライ、ホ−ルセ−ルなどの業態がある。また、法律上のクリ−ニング業に該当しない業態として、クリ−ニング業の類似的な営業としてクリ−ニング取次店、コインランドリ−などの業態がある。ただし、これらの業態は営業施設の衛生措置等法的規制を受ける。
(イ)  普通クリ−ニング店は、自家処理施設を有し、主として家庭から出される洗濯物を扱うクリ−ニング店を指し、営業の形態は黒物のドライクリ−ニングと白物の水洗いによるランドリ−クリ−ニングとに分かれる。ただし、小規模店では近年になって、白物をホ−ルセ−ルへ外注する店が多くなっている。
(ウ)  リネンサプライは、総務庁の日本標準産業分類の定義によると、「繊維製品を洗濯し、これを使用させるために貸与し、その使用後回収して洗濯し、さらにこれを貸与することを繰り返して行う」事業となっている。リネンサプライの需要分野は、ホテルのシ−ツ、タオル、バスタオル等、病院のふとんのほか毛布、毛布カバ−、シ−ツ等、事業所の作業服、飲食店の貸おしぼり等多岐に及ぶが、主力はホテルリネンと病院リネンである。
(エ)  ホ−ルセ−ルは、主に普通クリ−ニング店等から委託を受けた洗濯物を専門に処理する業者で、現在はワイシャツなど量 的処理の白物が受注の主力になっているが、毛皮、皮革などの特殊洗濯物の処理をする業者もある。
(オ)  クリ−ニング取次店は、自らはクリ−ニングをしないで、顧客とクリ−ニングを処理するクリ−ニング業者との間に立ち、洗濯物の受取り、引き渡しのみを行う店舗をいう。取次だけの業務だが、洗濯物を扱うため「クリ−ニング所」としての一定水準の衛生措置が義務づけられている。
(カ)  コインランドリ−は、硬貨投入式の自動洗濯機および乾燥機を設置して、顧客自身が洗濯機を自由に操作して洗濯を行うセルフサ−ビス方式の店で無人店が多い。最近ではコインランドリ−内に「コイン・スニ−カ−・ランドリ−」としてスニ−カ−が洗濯できる洗濯機を設置している店もある。都道府県単位 で条例または要綱などにより衛生管理等面で規制、指導の対象となっている。
(2) 取次店・リネンサプライ業は増加
  (ア)  平成8年における、全国のクリーニング業の事業所数(取次店を含む)は、99,110件で、平成3年に比べ3,437件増え、3.6%の増加率となっている。従業者規模別 では、従業者4人以下の事業所が全体の83.8%を占め、従業者9人以下では92.5%に達する。また、増加率でみた事業所数の推移では、9人以下は2.9%増に過ぎないが、規模が大きくなるにつれ増加率が高まっている。
  (イ)  業態別の事業所数の状況をみると、普通洗濯業(一般家庭の需要を中心にしたクリーニング店および取次店)は、94,647件でクリーニング業全体の95.5%を占め、リネンサプライ業は、4,463件%となっている。事業所の推移をみると、普通 洗濯業は平成3年に比べ8年は2,973件増えたものの増加率は3.2%に過ぎず、やや頭打ちの状態である。それに対し、リネンサプライ業は11.5%増と大幅に伸び、昭和56年以降増加の一途をたどっている。
 事業所統計には、普通洗濯業について「処理施設を有する一般クリーニング店」と「取次店」の内訳がないので、厚生省の「衛生行政業務報告」で両者の最近の伸び率をみると、前年比で前者は平成7年1.3%増、8年1.0%増であり、後者は7年2.6%増、8年1.9%増と「取次店」の方が伸び率が高い。
   
クリーニング業の事業所数および従業者数の推移
(単位:件,人,%)
調査年 従 業 者 規 模 別 合 計 従業者数
1〜 4人 5〜 9人 10〜19人 20人以上
昭和56年 (87.4)
77,184
(8.1)
7,179
(2.8)
2,445
(1.7)
1,497
(100.0)
88,305

228,941
昭和61年 (87.0)
83,601
(7.6)
7,330
(3.1)
3,007
(2.2)
2,139
(100.0)
96,077

326,161
平成3年 (84.6)
82,994
(8.7)
8,513
(3.8)
3,39
(2.9)
2,851
(100.0)
98,079

380,953
平成6年 (84.7)
82,581
(8.3)
8,084
(3.8)
3,721
(3.2)
3,104
(100.0)
97,490

391,196
平成8年 (83.7)
83,012
(8.7)
8,640
(4.1)
4,035
(3.5)
3,423
(100.0)
99,110

420,516
資料:「事業所統計調査」(平成6年は「名簿整備調査」)
(注)〈 〉内は構成比である。
(3) 強まるクリーニング代の節約
  「家計調査年報」により、1世帯当たり年間のクリーニング代支出金額と消費支出に占める推移をみると、支出金額は昭和55年以降ほぼ一様な増勢をたどってきたが、平成4年をピ−クに下降している。また、消費支出に占める割合は、多少の変動を示しながら推移しているが、平成4年を境に傾向的に減少しており長引く不況下でクリーニング代の節約が次第に強まっている。平成9年の1世帯当たり支出金額は15,429円で前年比5.4%減となっている。また、消費支出に占める割合は4.3%で昭和53年以降最低の割合となっている。
(4) 生きている「にっぱち」の閑散期
 
クリーニング業は、季節性が極端に顕われる業種である。家計調査年報の平成9年の月別 の支出動向により、支出の多い順にみると4月、5月、3月となる。これらの月は、冬物の衣替えのシ−ズンで、しかも金額の張る黒物が多いため、この3カ月間に年間支出の36%が集中する。一方、支出が少ない順では1月、2月、8月でこの3カ月間の支出は年間支出の17%と前者の半分に過ぎない。
 
クリーニング支出と消費支出に占める割合
−1世帯当たりの年間支出−

クリーニング
支出(円)
消費支出に占
める割合(%)
昭和51年 11,308 6.3
52年 14.543 5.8
53年 12,043 5.8
54年 13,011 5.8
55年 12,333 5.2
56年 12,714 5.1
57年 13,362 5.0
58年 13,742 5.0
59年 14,477 5.1
60年 15,415 5.3
61年 15,729 5.4
 

クリーニング
支出(円)
消費支出に占
める割合(%)
昭和62年 16,158 5.5
63年 16,158 5.4
平成元年 11,308 6.3
2年 17,236 5.4
3年 18,716 5.4
4年 19,243 5.5
5年 18,834 5.3
6年 17,883 5.1
7年 17,103 4.9
8年 16,304 4.6
9年 15,429 4.3
資料:総務庁「家計調査年報」
(5) 支出の多い東日本、少ない九州
 同調査により平成9年の都市別支出状況をみると、支出がもっとも多いのは、日本でのクリーニング発祥の地である横浜市で、次いで札幌市、3位 が東京都区部になっている。反面、少ない順では那覇市、高知市、宮崎市である。最多支出の横浜市の23,447円に対して那覇市は7,116円、高知市では11,273円で、横浜市の30%〜48%しか支出がない。都市別 では概して東日本勢の支出が多く、九州、中国・四国は少ない。調査対象都市の平均支出金額でみると、東日本の17,588円に対して九州圏は13,539、中国・四国圏では14,045円と3,500円〜4,000円の差がある。
2 最近の動向
(1) クリーニング店離れ現象
   近年家庭用洗濯機の大型化や、「つけおき洗い」「浮かし洗い」「シャワーすすぎ」等デリケートな素材・衣類に適応した方式の開発機能の高度化のほか、ドライマ−ク対応型の洗剤の開発により家庭洗濯の領域が拡大傾向にある。また、広い駐車場スペースをもち、店内に仕上台・染み抜機等を備え、日中はインスラクターのアドバイス付きの24時間営業型セルフランドリー・ドライチェーン店の増加もみられる。
 さらに、ここ2〜3年形状記憶・形態安定の衣類が登場(対象の衣料素材もポリエステル混から綿・麻製品さらに絹・毛製品へと拡大してきている)したことから、少なからずクリーニング店の一般 家庭からの需要は減少傾向にある。
(2) 洗濯物滞留品問題への対応
   仕上げから1ヶ月を経過しても引取りのない洗濯物を業界では、「滞留品」と定義している。「平成7年度クリーニングに関する消費者2万人意識調査」において、「1ヶ月以上洗濯物を取りに行かなかったことがある」との消費者の回答は、3割を超えており、特に、布団・毛布・ジュータン・カーペット、コート類等の重量 洗濯物の滞留が目立つ。
 滞留洗濯物は、店内のスペースをとり作業能率を低下させるだけでなく、洗濯物の日焼け・変色等の品質管理上のトラブルを生じることにもなり、クリーニング業者の経営に問題を投げかけている。このため、顧客管理の徹底(受付用コンピュータの活用)、洗濯物の受付時の顧客指導の徹底、滞留品に対する保管料の徴収等、業者の対応が必要となっている。
 (3)  環境保全への対応
 テトラクロロエチレンおよびトリクロロエタンについては、水質汚染防止法等により排水および廃棄物の規制が設けられており、クリーニング所における使用管理および処理の適正化が求められている。また、ドライクリーニングの溶剤として使用されているフロン113、トリクロロエタンについては、オゾン層保護の観点から溶剤の転換(製造は平成7年度末で全廃)を円滑に進めるべく融資・税制等において各種施策が講じられてきている。
 さらに、コインランドリー等の多様化に伴い、営業施設の衛生管理においても、有機溶剤を使用するコインドライを中心に、各自治体における条例・要綱の制定による規制強化、特別 管理産業廃棄物管理責任者の設置を義務づけるなどの動きが広がりつつある。
3 経営上のポイント
(1) 「クリーニング」から「衣類の総合サービス業」へ
   最近、クリーニングに対して、「安心を売る商売」「利用者である消費者の生活を支援してくれる商売」という意識が消費者側に生まれてきている。そこで今後の経営の一方向として「洗濯・乾燥・仕上げ」といった領域にとどまらず、消費者のニ−ズに対応するため事業領域の再構築を行うことが必要である。
 つまり、衣料等の保全にかかる総合サービス業として、高付加価値経営へ積極的に取り組むという転換の時代を迎えている。
 具体的な取り組みとしては、衣類の素材に合わせた適切なクリーニングメニューの充実、「店・従業員の質の向上」を通 した「衣料素材による取り扱い方法の習得」「消費者の服の取扱い方法の相談・コンサルティング」によるクリーニング・プラス・アルファの付加価値を店の魅力づくりに取り入れていくことなどが挙げられる。
(2) 脱価格競争、小回りを利かした技術・サービスの提供
   「平成8年度環衛業に係る消費生活調査報告書」〔(財)東京都環境衛生営業指導センター〕によると、クリーニング店の選択理由の上位 3項目は、「近くて便利」(利便性)、「汚れがよく取れている」(技術・品質への信頼感)、「料金が安い、割引がある」(価格)であった。利便性や技術が優先しており、「価格」の要因に対する選好度は二の次となっている。
 さらに、「クリーニング店に特に頼みたいものは」の質問に対して「プリーツ・防水・撥水等の特殊加工」「アイロン掛けだけ」「シ-ズンオフ衣料品保管」「衣類の補修」等の要望が上位 にとなっており、小規模店特有の小回りをきかしたきめの細かいサービスへのニーズの高さがうかがわれる。
 これらは、普通クリーニング店が、積極的な情報伝達による技術PR等を通 した「品質」の提供により、大手業者の価格を中心にした競争戦略と差別 化を図っていける可能性を示唆している。
4 個別企業の事例
(1) コンピュータを活用した顧客満足経営の実践
   A店は、販売促進・広告宣伝を毎月1万枚の新聞折り込みチラシに頼っていたが、受付用コンピュータで顧客の利用状況を分析したところ、チラシによる効果 は、普段来店しない顧客の、一過性の利用に止まっており、常連客の来店は広告宣伝と相関関係がないことが判明した。また、お客様カード発行先のうち約1割の顧客で、売上の50%を占めている状況であった。こうしたことから、販売促進をお得意様へのタイミングをとらえたDM、たとえば、衣替えや毛布洗いの時期に利用実績のあった顧客への情報提供を含めたDMへ切り替えたところ、年間200万円近くの販売促進費用の大半が節約でき、得意先を中心に売上の増加と収益増にも結びついた。
 クリーニング業は、特定した小さな商圏に住む、特定した顧客が繰り返し利用することにより成り立つビジネスであるといわれるが、自社の経営の現状をコンピュータを通 して分析することにより、効率的・効果的なマーケティング方法を確立し、成果 を収めた事例である。
(2) 大手チェーン店との差別化、きめ細かさと知恵が勝負
   店周の取次店等の増加により、既存のクリーニング店が、料金の値下げ競争に巻き込まれるケースは多々あるが、B店もその一つであった。しかし、値下げ実施の効果 もなく、売上はピーク時の3割減の状態となり、再度、経営方針を見直すことが必要となった。値下げ品は、ワイシャツ等薄利品が中心であったが、来店顧客に、このサービスが「安かろう・悪かろう」の店のブランドイメージを植えつけることになり、高級衣料等利幅のある品物の受注が減少するなど、一顧客当たりの売上単価の減少に結びついてしまったことが、業績低下の大きな原因となっていたのである。
 対策として、値下げを中止し、品目、素材、デザイン、洗い方法等により明確な料金テーブルを作成、また、受付伝票(洗い方ごとに伝票を色分け)を、染みの有無(染みの原因)、撥水加工の有無、ボタンの破損、付属品の有無等きめ細かな受注商品の情報が記入できる形式に改めるなど、顧客サービスの向上と作業の効率化に目を向けた、カウンターサービスの充実に努めた。さらに、新興住宅地で、核家族中心のニューファミリー層が主体であることに目をつけ、情報チラシを作成し、ワイシャツの上手な仕上げ方やアイロンの使い方等、顧客へ生活の知恵を提供することにより、顧客との信頼感を強化させることにも成功し、業績は大幅に回復するまでに至っている。

資料

  1. 総務庁「事業所統計調査」
  2. 総務庁「家計調査年報」
  3. (財)東京都環境衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活調査報告書 (平成7年度)」
  4. (財)全国環境衛生営業指導センター「成功事例調査」
  5. 金融財政事情「企業審査事典」
  6. 中小企業リサ−チセンタ−「日本の生活関連サ−ビス業」
  7. 経営情報出版社「業種別業界情報」’98年版
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