中華料理店-1998年
1 概況
1998年
(1) そば・うどん店より多い中華料理店数
  中華料理のメニュ−は約3,900種類あるといわれている。一般 の大衆店ですら最低50品目のメニュ−の調理が可能であり、また、調理技術が千差万別 であるため味付けは調理人に付随しており、それぞれの店ごとに独自の味を打ち出すことができるという特性をもっている。このため他の外食産業に比べてメニュ−が豊富に揃えられ、味付けも同業と異なる差別 化が行いやすく、比較的小資本と家族従業員で開業できるため、新規参入が容易である。一方、消費者からはボリュ−ムや高い栄養価により、実用性を伴った料理として高いニ−ズに支えられている。
  全国の中華料理店の事業所数は日本人の日常の食生活で馴染みの多いそば・うどん店やすし店よりも多い。ちなみに平成8年の事業所数は61,814件とそば ・うどん店の34,996件を1.8倍も上回っている。一般飲食店に占める割合は13.5%と高く、そば・うどん店の7.7%、すし店の9.9%に比べても高い割合を示しており、いかに中華料理が消費者に支持されているかを物語っている。
小規模店の減少、進む規模拡大傾向

  平成8年の従業者規模別の事業所数は、従業者4人以下が全体の67.0%を占め、一般 飲食店の65.7%より若干多い。「事業所数の推移」の(注)欄に示されているように調査自体の連続性はないが、参考までに従業者規模別 の商店数の構成比の推移をみると、従業者4人以下の小規模店は昭和61年以降後退、逆に5人以上の店の構成比が次第に高まっており、傾向として規模の拡大が推測される。
事業所数の推移 (単位:件、%) (参考)一般飲食店全体
調査年 従業者規模 合計
1〜4人 5人以上
昭和61年 (78.1)
49,575
(21.9)
13,904
(100.0)
63,479
平成元年 (76.3)
45,798
(23.7)
14,245
(100.0)
60,043
平成4年 (73.5)
43,232
(26.5)
15,562
(100.0)
57,794
平成8年 (67.0)
41,386
(33.0)
20,428
(100.0)
61,814
従業者
1〜4人
合計
(78.6)
400,955
(100.0)
510,101
(74.4)
365,733
(100.0)
491,359
(71.7)
339,661
(100.0)
474,048
(65.7)
299,963
(100.0)
456,420
(注)  昭和61年から平成4年までは通産省「商業統計表(一般 飲食店)」によるが、一般飲食店の調査は平成4年で打切りのため、平成8年は総務庁「事業所統計」による。このため、調査自体の連続性はない。
 また「事業所統計」は、平成8年より「中華料理店・焼き肉店・東洋料理店」から「中華料理店」を分離したため、平成8年以前は単独の中華料理店の事業所統計はない。
( )内は構成比である。
昭和61年以前の調査については「その他の東洋料理」を含む。

 

2 最近の動向
(1) 固定観念から脱皮、新業態が花盛り

  一般に、消費者ニーズへの対応とは、料理のうまさや価格設定をイメージするが、最近は料理の提供の仕方に工夫したものが現われれている。従来の中華料理の固定観念にとらわれず、むしろ、料理は安定した需要が見込める中華料理に絞り込み、店舗や食器は洋風や和風でまとめたり、フランス料理にみられるフルコースメニューのように料理を提供して、消費者の支持を受けている店もある。また、「ヌ−ベル シノワズ」(「中華風現代料理」)と名付け、日本料理やフランス料理などをミックスした創作中華料理店や、居酒屋形式で中華料理を提供する「中華居酒屋」も見受けられる。
 カフェスタイルといえば料理は洋風だが、それを中華料理にする新業態も現れている。店内の一部をバ−風のカウンタ−にし、カクテル用洋酒瓶やバ−ボンウイスキ−など若者好みの洋酒をカウンタ−内にずらりと並べ、残りの面 積部分に角テ−ブルをいくつか並べて小宴会用に変形できるようにし、食べ物はメニュ−の種類が多い中華料理として、1点当たりの単価を抑えた、独自の店づくりによる「カフェ中華料理」の新業態が出現している。
(2) 米国からも新業態が進出、注目される日本国内でのFC多店舗展開

  米・カリフォルニア州パサデナ市に本部がある「パンダエクスプレス・チャイニ−ズグルメ」では中華料理の「プレ−トランチ」という新業態を、米国内やハワイなどで300店のFC展開をしているが、大阪・心斎橋や神戸・ハ−バ−ランドなどの京阪神地域の大型商業集積店内に上陸、すでに5店舗(平成8年10月末現在)を開設している。フ−ドコ−トと呼ばれる屋内の広場に設けられた席で軽く食事をする形式で、広場内にあるハンバ−ガ−店、ピザ店などのファストフ−ド店などの軽食店に混じり、調理済みの中華料理を保温しながら提供するカフェテリア形式の新業態である。保温ケ−ス内には10種類の中華料理品が並びその中からお客が指示してチャ−ハンか焼きそばを主食として一つ選び、残り8品の中から好きな料理を選択、プレ−トに盛りつけてもらう仕組みである。30種類あるメニュ−を適宜入れ替える。料金は主食+料理2品で500円、主食+料理3品で700円である。ボリュ−ムたっぷりの上、売場で買った中華料理がその場で温かい状態で手軽に食べられるとあって、若者や家族連れ、とくに20代の女性に人気がある。
(3) ファミリーレストランの進出

  最近、ファミリーレストラン系企業が、郊外のロードサイド立地という形態で中華料理業界に進出している。1,000円〜2,000円程度のリーズナブルな客単価で本格的な中華料理を気軽に食べることができる。店舗は、普通 のファミリーレストランや、喫茶店のような造りにしているものが多く、洋風の店舗のなかで中華料理を食べるという新鮮な感覚がうけている。日経レストラン(日経PB社)による調査でも「利用する理由」として、「中華っぽくない内装に好感がもてる」「開放感があって落ち着ける」「お客が明るく、皆楽しそうに食事をしている」「脂ぎったイメージはなく清潔感がある」「値段が手ごろで利用しやすい」などを挙げる者が多く、消費者ニーズにマッチした経営であることがうかがえる。

3 経営上のポイント

(1) ゆとりを持った店づくり

  「環衛業にかかる消費生活調査報告書(平成5年度)」((財)東京都環境衛生営業指導センター)によると、中華料理店の雰囲気に関する消費者へのアンケートの結果 、「隣席が近すぎて落ち着けない」「店内があわただしくゆっくりできない」といった意見があった。最近では洋風、和風の店舗で中華料理を提供し料理だけではなく、ゆったりとした雰囲気も楽しんでもらおうとする動きもあることから、今後は、店内の雰囲気も念頭においた店づくりを考えていく必要がある。
(2) ターゲットとする顧客の絞り込み

  経営者としては、消費者のどのようなニーズに応える店にするかを明確にしておかなければならない。老若男女すべての要望に応えてたくさんのメニューを揃えることは必要でなく、学生客中心の客層ならボリューム感と低価格に重点をおいたメニュー構成にしたり、年配客中心の客層であれば、漢方薬を用いた薬膳料理の提供で健康食をアピールしたりして、対象とする客層を絞り込んだうえで、その客層に合ったメニューや価格を設定することが重要である。
(3) 労働力の確保

  大型の中華料理店は別として、街の中華料理店では、人手不足で頭を痛めている店が多い。中華料理は、料理の特徴として大量 の熱と油を利用するため、かなりの重労働で、しかも一人前になるには経験と熟練を要することから、若者からは、敬遠されがちである。労働力確保のためには、個人営業であっても労働時間の短縮、休日の増加、従業員の住宅の確保など労働条件面 の改善で、若者を引きつけていく必要がある。また、何年間か勤めれば、将来独立して店を持たせるというように、働くことに夢を持たせる姿勢も大切である。

4 繁盛店の事例

(1) ソフトなサービスを重視

  住宅地にある中華料理店では、利用者の好みに合わせた経営に取り組むため、季節感、曜日別 に区分したメニュ−を作成したほか、喫茶メニュ−を加えたところ若者の利用客が増加している。注文は定食が売上高の70%に達し、調理場の効率化に寄与している。また、盛りつけについては、ただ盛りつけるだけでなく皿と料理品との配分の調和を図ったり、野菜の増加を好むお客にこころよく対応したり、食事中にお茶とおしぼりを2度出すようにしたり、予約来店者に対して礼状を発送したり、ソフトなサービスの実施も固定客増加の要因となっている。
 小規模店から出発し現在では従業者8名(内パ−ト3名)に増えているが、人材確保は新規の料理学校卒業者を対象にしている。店売りで手一杯なので出前を廃止、その代わりにテイクアウトができるように工夫し、利用頻度を高めるため食事券の発行もしている。
(2) 中華料理をフランス料理風にアレンジして提供

  A店では、「中華料理を日本人に合う形で提供する」というコンセプトから、家庭的な中華料理を和食器に盛りつけ提供することで成功している。中華料理と和食器という異色の取り合せが、お客には新鮮に映り人気となっているようである。料理は、小皿料理で9〜10品を提供し、「中華というと、脂ぎってゴテゴテした印象があるけれど、ここのはとてもさっぱりしている。品数は多いけど、一つ一つは少ないから、分量 もちょうどいい」(50歳代の女性客)と評判は上々である。メニューは、日替りランチが1,000円、夜のコースは4,000円と手軽な価格設定をしている。夜のコースはフランス料理のように、前菜から順番に10品の料理を提供し利用者がゆっくりとくつろげるような雰囲気にも配慮している。
(3) 気兼ねのいらない店舗への改造で家族連れ増加

  中小零細工場を抱える繁華街の一角にある中華料理では、付近の工場が次ぎ次ぎに移転したため客数が減少し宴会需要がなくなった。そこで、2階の宴会場を賃貸マンションに改造して店舗を1階のみとし、テ−ブル席でもゆったりとくつろげるようテ−ブルを通 常のものより大きくし、また、座敷も広くして気兼ねのいらない雰囲気づくりを心掛けた。主力商品を中華丼と中華定食に絞り込み、材料は従来のままにで、客単価を昼800円、夜1,000円程度に抑える価格を設定し、料理の提供も従来より素早くした。転換当初は、売上が減少したが、「気兼ねのいらない店舗」「高品質・低価格」「迅速」の経営方針が浸透し、客層は従来の工員に代わり家族連れが増加したため、景気の波に影響を受けることが少なくなり、客席40席の稼働率は5回転に向上している。

    資料

    1. 総務庁「事業所統計調査」、通産省「商業統計表(一般飲食店)」
    2. 総務庁「家計調査年報」
    3. (財)東京都環境衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成5年度)」
    4. (財)全国環境衛生営業指導センタ−「成功事例調査」
    5. 金融財政事情「企業審査事典」
    6. 中小企業リサ−チセンタ−「日本の飲食業」
    7. 経営情報出版社「業種別業界情報」’98年版
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