中華料理店-2001年
1 概況
2001年
(1) そば・うどん店より多い中華料理店数
   中華料理は、メニュ−が千差万別ながら豊富であるうえに、ボリュ−ム感や高い栄養価などにより、実用性を伴った料理として消費者から高いニ−ズに支えられている。中華料理のメニュ−は約3,900種類もあるといわれているが、一般 の大衆店ですら最低50品目のメニュ−の調理が可能である。これに加え調理技術が千差万別 であるため味付けは調理人に付随しており、それぞれの店ごとに独自の味を打ち出すことができるという特性をもっている。このため、他の外食産業に比べ、同業と異なる差別 化が行いやすい。また、比較的小資本と家族従業員でも開業ができるという利点があるので、新規参入が容易である。特に、ラ−メンやギョウザ専門店にはこの傾向が強い。
   平成11年の全国の中華料理店の事業所数は61,727件で、日本人の日常の食生活でなじみの多いそば・うどん店やすし店よりも多く、そば・うどん店の1.8倍、寿司店の1.5倍に達する。また、一般 飲食店全体に占める割合は13.9%と他の飲食店に比べ最も高い。従業者数は335,649人で8年に比べ2.4%増(一般 飲食店全体0.3%増)となり、事業所数は微減ながら、従業者数は小幅な増加となっている。1事業所当たりの従業者数は、5.4人であり、一般 飲食店全体6.2人よりも少ない。
   平成8年から11年までの新設事業所数は9,622件で、一般 飲食店全体の中で喫茶店の11,143件に次いで多い。一方、廃業事業所数は9,822件であり、一般 飲食店全体の中で喫茶店18,377件、一般食堂13,468件に続き3番目に多く、新陳代謝が激しい業界である。開業率は5.7%(一般 飲食店全体5.0%)、廃業率は5.8%(同5.9%)となり、廃業率の方がわずかに高くなっている。
   平成11年の法・個人別事業所数は、個人が45,884件(構成比74.3%)、法人は15,833件(同25.7%)となり、8年に比べると個人が1.9%減に対し、法人は5.5%増となっている。
   従業者規模別でみると、4人以下の小規模店が全体の65.8%(一般 飲食店全体65.1%)となっており、平成8年の67.0%に比べ減少している。従業者規模別 に8年と比べた増減率でみると、9人以下と100人以上の層を除いた中間層の各規模がいずれも増加しており、なかでも20〜29人 10.3%増、30〜49人 18.1%増、50〜99人 9.6%増と中間層の拡大が目立つ。
 
事業所数の推移 (単位:件、%) (参考)一般飲食店全体
調査年 従業者規模 合計
1〜4人 5人以上
平成元年 (76.3)
45,798
(23.7)
14,245
(100.0)
60,043
平成4年 (73.5)
43,232
(26.5)
15,562
(100.0)
57,794
平成8年 (67.0)
41,386
(33.0)
20,428
(100.0)
61,814
平成11年 (65.8)
40,624
(34.2)
21,103
(100.0)
61,727
従業者
1〜4人
合計
(74.4)
365,733
(100.0)
491,359
(71.7)
339,661
(100.0)
474,048
(65.7)
299,963
(100.0)
456,420
(65.1)
288,426
(100.0)
443,216
(注)  平成4年までは経済産業省「商業統計調査」(一般 飲食店)によるが、一般飲食店の調査は平成4年で打切りのため、8年以降は総務省「事業所・企業統計」による。調査自体の連続性はない。
「事業所・企業統計」は平成8年より、「中華料理店・焼き肉店・東洋料理店」から「中華料理店」を分離したため、8年以前は単独の中華料理店の事業所統計はない。
〈 〉内は構成比である。
 総務省の「家計調査年報」によると、1世帯当たりの中華食の年間支出額(平成12年版から新設項目)は12年5,684円で、中華そば支出の5,304円をわずかに上回るのに過ぎない。中華そばの支出は、昭和62年をピ−クに低下傾向にあったが、平成8年を底に再度増加している。しかし、前年比増加率は9年7.4%増、10年7.5%増から11年0.2%増、12年1.9%増へと伸び率が鈍化しているのが目立つ。

2 最近の動向
(1) 固定観念から脱皮、新業態が花盛り

  一般に、消費者ニーズへの対応とは、料理のうまさや価格設定をイメージするが、最近は料理の提供の仕方に工夫したものが現われれている。従来の中華料理の固定観念にとらわれず、むしろ、料理は安定した需要が見込める中華料理に絞り込み、店舗や食器は洋風や和風でまとめたり、フランス料理にみられるフルコースメニューのように料理を提供して、消費者の支持を受けている店もある。また、「ヌ−ベル シノワズ」(「中華風現代料理」)と名付け、日本料理やフランス料理などをミックスした創作中華料理店や、居酒屋形式で中華料理を提供する「中華居酒屋」も見受けられる。
 カフェスタイルといえば料理は洋風だが、それを中華料理にする新業態も現れている。店内の一部をバ−風のカウンタ−にし、カクテル用洋酒瓶やバ−ボンウイスキ−など若者好みの洋酒をカウンタ−内にずらりと並べ、残りの面 積部分に角テ−ブルをいくつか並べて小宴会用に変形できるようにし、食べ物はメニュ−の種類が多い中華料理として、1点当たりの単価を抑えた、独自の店づくりによる「カフェ中華料理」の新業態が出現している。
(2) 米国からも新業態が進出、注目される日本国内でのFC多店舗展開

  米・カリフォルニア州パサデナ市に本部がある「パンダエクスプレス・チャイニ−ズグルメ」では中華料理の「プレ−トランチ」という新業態を、米国内やハワイなどで300店のFC展開をしているが、大阪・心斎橋や神戸・ハ−バ−ランドなどの京阪神地域の大型商業集積店内に上陸、すでに5店舗(平成8年10月末現在)を開設している。フ−ドコ−トと呼ばれる屋内の広場に設けられた席で軽く食事をする形式で、広場内にあるハンバ−ガ−店、ピザ店などのファストフ−ド店などの軽食店に混じり、調理済みの中華料理を保温しながら提供するカフェテリア形式の新業態である。保温ケ−ス内には10種類の中華料理品が並びその中からお客が指示してチャ−ハンか焼きそばを主食として一つ選び、残り8品の中から好きな料理を選択、プレ−トに盛りつけてもらう仕組みである。30種類あるメニュ−を適宜入れ替える。料金は主食+料理2品で500円、主食+料理3品で700円である。ボリュ−ムたっぷりの上、売場で買った中華料理がその場で温かい状態で手軽に食べられるとあって、若者や家族連れ、とくに20代の女性に人気がある。
(3) ファミリーレストランの進出

  最近、ファミリーレストラン系企業が、郊外のロードサイド立地という形態で中華料理業界に進出している。1,000円〜2,000円程度のリーズナブルな客単価で本格的な中華料理を気軽に食べることができる。店舗は、普通 のファミリーレストランや、喫茶店のような造りにしているものが多く、洋風の店舗のなかで中華料理を食べるという新鮮な感覚がうけている。日経レストラン(日経PB社)による調査でも「利用する理由」として、「中華っぽくない内装に好感がもてる」「開放感があって落ち着ける」「お客が明るく、皆楽しそうに食事をしている」「脂ぎったイメージはなく清潔感がある」「値段が手ごろで利用しやすい」などを挙げる者が多く、消費者ニーズにマッチした経営であることがうかがえる。
(4) 今後の支出動向が注目される中華そば

  総務省「家計調査年報」によると、1世帯当たりの中華そばの年間支出は、平成11年は5,207円で前年比0.2%と微増にとどまっている。昭和62年をピ−クに継続して下降をたどったが、9年には前年比8.9%増と10年ぶりに盛り返した。引き続き10年も7.5%増と増加したが、しかし11年には0.2%増とが鈍化しており、今後の支出動向が注目される。
3 経営上の問題点
 経営上の問題点は、重複回答割合の多い順に、「他の飲食店との競業」38.6%、「諸経費の上昇」37.5%、人件費の上昇29.2%、「設備の老朽化」26.0%、「同業者間競争で客数減」23.8%となっており、外部的な要因である「他の飲食店との競業」が最も多く、また「同業者間競争で客数減」が5位 を占めるなど、中華料理業界は、内外との競争への対応力が問われている。(厚生省生活衛生局指導課「飲食店営業(中華料理店)の実態と経営改善の方策」平成10年3月)
 今後の経営方針(当面)としては、「新メニュ−の開発」56.7%、「接客サ−ビスの改善」37.8%、「店舗設備の改善等」35.4%、「料金の改定」26.1%、「広告・宣伝の強化」21.9%の順となっており、同業者への競争力強化や顧客獲得の対応策が上位 を占めている。ただし、長期的な経営方針としては、経営営合理化の基本的な課題である「施設、設備の改善・充実」が37.5%と最も多いが、2位 が「特になし」32.5%であり、長期的な経営方針のめどが立っていない業者が少なくない。(東京都生活衛生指導センタ−「平成8年度環境衛生関係営業実態調査」)
4 経営上のポイント
(1) ゆとりを持った店づくり

  「環衛業にかかる消費生活調査報告書(平成5年度)」((財)東京都環境衛生営業指導センター)によると、中華料理店の雰囲気に関する消費者へのアンケートの結果 、「隣席が近すぎて落ち着けない」「店内があわただしくゆっくりできない」といった意見があった。最近では洋風、和風の店舗で中華料理を提供し料理だけではなく、ゆったりとした雰囲気も楽しんでもらおうとする動きもあることから、今後は、店内の雰囲気も念頭においた店づくりを考えていく必要がある。
(2) 労働力の確保

  大型の中華料理店は別として、街の中華料理店では、人手不足で頭を痛めている店が多い。中華料理は、料理の特徴として大量 の熱と油を利用するため、かなりの重労働で、しかも一人前になるには経験と熟練を要することから、若者からは、敬遠されがちである。労働力確保のためには、個人営業であっても労働時間の短縮、休日の増加、従業員の住宅の確保など労働条件面 の改善で、若者を引きつけていく必要がある。また、何年間か勤めれば、将来独立して店を持たせるというように、働くことに夢を持たせる姿勢も大切である。
5 工夫している事例
(1) おいしい味が低料金で食べられる店づくり
  • 立地: 静岡市、中心街からやや離れた商業、工業、住宅の混在地
  • 創業: 昭和46年(2代目)
  • 主力商品: 中華麺類、中華飯類
  • 従業者数: 7名(うちパ−ト、アルバイト3名)
  • 現在の稼働率: 平均4回転
  • 経営理念: 『誠意をもち、お客さまを暖かく迎えれば「誠」が天に通 じる』
 工夫している事例を掲げると、@「本物の味へのこだわり」、A低料金で家庭的なサ−ビスを心がける、Bくつろぎと清潔感を重視、C固定客づくり、D駐車場の確保となる。
@ 「本物の味へのこだわり」
 本物の味にこだわり、インスタント食品は一切使わず、料理の味の均一化をはかり、いつでも「おいしい味」が提供できるように努めている。
A 低料金で家庭的なサ−ビスを心がける
 「おいしい味」を「低料金」で味わえ「家庭的なサ−ビス」を提供し続けるように努めている。
B くつろぎと清潔感を重視
 店内は客席を広くとっている。また、坪庭をつくり、ゆとりのあるくつろいだ雰囲気づくりに努めている。また、中華料理は、油を多く使うので店内を常に清掃し、清潔感を打ち出している。
C たまにの高額のお客より、毎日の低料金の固定客の確保
 1回に高額支出の顧客よりも、低料金の一杯のラ−メンで毎日来てくれる顧客を大事にしている。一度、来店したお客の顔は覚えておき、常に話題作りに努め、固定客化に努めている。
D 食材は品質本位で仕入れ
 食材は確実に良い物を品質本位で仕入れており、均一化して余分な物を仕入れず毎日消化してしまい、ロスが出ないように努めている。食材の仕入れは長年の取引で信用のおける業者から電話一本で仕入れており、急な注文にも無理が利くようにしている。
E 駐車場の確保
 マイカ−による家族連れのお客が増えてきたことに伴い、10台収容の駐車場を確保している。
 先代が開業した当初は、出前を主体とした営業であったが、配達の時間帯と来店客とが重なり、店内でのサ−ビスが行き届かなくなったので、当初は不安であったが、思い切って出前を止め店内一本に絞った。この決断がその後繁盛するきっかけとなった。出前を止めた代わりに、心のこもった味、低価格、家庭的なサ−ビスに努めた結果 お客に喜ばれ、口コミにより来店客数が増え、藤枝市、清水市など遠方から来店するお客も多く、いまでは常連客が70%以上を占めている。経営者の経営理念である『誠意をもち、お客さまを暖かく迎えれば「誠」が天に通 じる』が、営業面で実践されている事例である。
(2) 徹底した顧客志向による業態変更で伸びる

  • 立地: 愛媛県松山市 郊外のロ−ドサイドが主力
  • 創業: 昭和52年(2代目)
  • 主力商品: ラ−メン、ギョウザなど大衆的な中華料理
  • 店舗数: 9店
  • 従業者数: 79名(うちパ−ト、アルバイト31名))
  • 現在の稼働率: 平均5回転
  • 経営理念: @顧客のニ−ズとよろこびを真剣に追求、A地域社会から真に支持され、地域社会に貢献できる飲食店経営を考え続ける、B深い友情を基盤として、仕事を通 じ幸せな生き甲斐のある人生を追求し続ける
先代から事業を継承後、継承時の1店舗を県外を含めて9店舗に急成長させた要因を探ると、次のようになる。
@ 店舗をファミリ−・レストラン形式に変更
 中華料理を少人数でも気軽に利用してもらうためと、消費者ニ−ズの変化に対応するため、店舗はファミリ−・レストラン形式に変更し、店舗配置を市街地から郊外のロ−ドサイへ配置換えを行った。全店に20〜30台収容可能な大型駐車場を設けた。店舗施設、大型駐車場は同業他社に比べ水準が高く、差別 化の一因となっている。
A 1人の顧客への満足度の追及
 顧客のニ−ズに合わせ、均一性と品質向上の両立を図ることにより、1人でも食べられるセットメニュ−の充実を図っている。
B 一定の価格帯によるメニュ−組み立てと品揃え
 来店客の的を絞って800円から1,200円の価格帯にメニュ−を組み立て、品揃えを行っている。
C ラ−メン専門店開発
 顧客のニ−ズが専門店への志向が強まっているのを察知し、ラ−メン専門店の開発を行い、顧客のニ−ズの多様化に対応している。
D 体系的な人材育成制度の導入
 従業員の能力向上策として、ゼミナ−ルへの参加、ス−パ−バイザ−による社内勉強会の実施、パ−トタイマ−には、店長が中心となってロ−ル・プレイングやOJTを実施している。新規のパ−ト・タイマ−は、早期戦力化を図るために作成したマニュアルにもとづき定形サ−ビス主体に実践させ、サ−ビス向上を図っている。
E 顧客ニ−ズ把握の研鑽
 経営コンサルタントから顧客ニ−ズの変化について積極的に情報を入手している。特に東京など先進地域の顧客動向の変化については、たえず研究している。
 事業を先代から承継した以降、顧客ニ−ズの変化に対応して意識改革を行い、店舗の配置換えをはじめとし、中華料理の満足度を高めるメニュ−の工夫、体系的な人材育成制度の確立など、徹底した顧客志向による業態変更により、1店舗を9店舗までに発展させた成長事例である。


資料

  1. 総務省「事業所・企業統計調査」、通産省「商業統計表(一般飲食店)」
  2. 総務省「家計調査年報」
  3. (財)東京都生活衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成9年度)」
  4. 全国生活衛生営業指導センタ−「成功事例調査」
  5. 金融財政事情「企業審査事典」
  6. 中小企業リサ−チセンタ−「日本の飲食業」

 

 

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