中華料理店-2003年
1 概況
2003年
(1) そば・うどん店より多い中華料理店数
 中華料理は、中国料理ともいわれるように中国で発達したものである。中華料理は大きく分けて北京料理、上海料理、四川料理、広東料理の4大料理系統からなるが、日本国内では日本独自の食文化に適応させた中華料理が見られ、長崎のしっぽく料理、中国式の普茶料理はその代表的なものである。特に最近は、ラ−メン店にその傾向が強く、地域名を冠したラ−メン専門店の展開が増えており、なかにはス−プに煮干しを使ったものなども現れている。  
 中華料理のメニュ−は、3,900種類もあるといわれ、一般の大衆店ですら最低50品目のメニュ−の調理が可能である。千差万別 のメニュ−に加え、なじみやすい味、ボリュ−ム感、高い栄養価などにより消費者の高いニ−ズに支えられている。また、店によって調理技術が多種多様であり、味付けは調理人に付随しているため、それぞれの店ごとに独自の味を打ち出すことができるという特性をもっている。  
 中華料理店は、横浜の中華街にあるような結婚式の披露宴や、大人数の宴会ができ本格的なコ−ス料理を提供する大型中華料理店、小宴会、歓送迎会などが行える中型中華料理店、おかゆなど独自のメインの料理を売り物にした専門料理店、大衆的な中華そば、チャ−ハン、餃子を主体にした大衆店など、規模、料理の内容など多種多様の店舗が揃っている。  
 経営面では、大衆店は比較的小資本と家族従業員で開業ができるいう利点があるので、新規参入が容易であり、特に、ラ−メンやギョウザ専門店にはこの傾向が強い。地方都市では、この利点を生かして特定の料理に絞り込んだ独立企業が次第に増加して集団を形成し、街の顔となっている事例が増えている。宇都宮市のぎょうざの街、佐野市のラ−メンの街など、中華料理の専門店の集団を地域活性化の起爆剤にしている地方都市が増えている。また、地方の大都市に大規模の中華レストラン街の展開がみられ、次第に増加しつつある。
 平成13年の全国の中華料理店の事業所数は62,989店で、日本人の日常の食生活でなじみの多いそば・うどん店の1.8倍、すし店の1.6倍と、すっかり大衆の食生活に溶け込んでいる。増加率は11年に比べ2.0%(一般 飲食店全体0.1%減)である。一般飲食店全体に占める割合は、14.2%と11年の13.9%に比べ拡大している。  
 従業者数は369,667人で、11年に比べ10.1%増(一般 飲食店全体6.5%増)と大幅に増加しているが、1事業所当たりの従業者数は5.9人であり、一般 飲食店全体6.6人よりも少ない。
 平成13年の法・個人別事業所数は、個人が45,389店(構成比72.1%)、法人は17,600店(同27.9%)となり、11年に比べると個人が2.2ポイント%減に対し、法人は2.2ポイント%増となっている。
 事業所数を従業者規模別でみると、4人以下の小規模店が全体の62.7%(一般 飲食店全体62.7%)となっており、平成11年の65.8%に比べ減少している。従業者規模別 に11年と比べてみると、1〜4人のみが1,147店減少(2.8%減)し、それ以外の規模はいずれも増加している。なかでも5〜9人では991店増(7.8%増)、10〜19人1,016店増(17.4%増)と両規模で2,007店増加している。この増加数は、1〜4人の1,147店減少を大幅に上回っており、5〜19人規模の新規参入や1〜4人規模からのシフトが多かったことがうかがえる。
事業所数の推移 (参考)一般飲食店全体
(単位:店、%) (単位:店、%)
調査年 従業者規模 合計
1〜4人 5人以上
平成8年 (67.0)
41,386
(33.0)
20,428
(100.0)
61,814
平成11年 (65.8)
40,624
(34.2)
21,103
(100.0)
61,727
平成13年 (62.7)
39,477
(37.3)
23,512
(100.0)
62,989
従業者
1〜4人
合計
(65.7)
299,963
(100.0)
456,420
(65.1)
288,426
(100.0)
443,216
(62.7)
277,694
(100.0)
442,883
(注) 「事業所・企業統計」は平成8年より、「中華料理店・焼き肉店・東洋料理店」から「中華料理店」を分離した。
( )内は構成比である。
資料:総務省「事業所・企業統計」
 総務省の「家計調査年報」によると、1世帯当たりの中華食の年間支出額(平成12年版から新設項目)は14年5,487円で、前年比6.3%減と後退している。一方、中華そばの支出は、5,641円と前年比で4.6%増加している。中華そばの支出は、昭和62年をピ−クに低下傾向にあったが、平成8年を底に再度増加に転じている。しかし、前年比増加率は9年7.4%増、10年7.5%増以降、11年0.2%増、12年1.9%増と微増だったものが、13年には4.6%増と増加率が高まっている。  
 中華食の年間支出額が5,487円に対して、中華食に比べ低単価の中華そばが5,641円と上回っているのは、日本人の中華そばへの嗜好の強さと、最近の中華そばブ−ムの再燃を反映しているものとみられる。
 同調査により都市別にみると、中華食の支出は1位 が予想外にも京都市で11,362円、2位は川崎市で9,882円、3位 は岐阜市9,828円となっており、京都市は全世帯平均の2.1倍と、京都の人たちの外食は“中華料理好み”の傾向がうかがわれる。半面 、支出が少ない順にみると、宮崎市が2,034円、次いで青森市が2,409円、山形市2,423円となっている。総じて、東北6県の調査対象都市は、全国水準からみて中華料理への支出は低位 にある。  
 逆に中華そばの支出は、1位は福島市11,001円、2位は宇都宮市10,842円、3位 は山形市で10,626円となっているが、4位秋田市、5位仙台市、9位 盛岡市と東北地方が10位内に5都市も含まれている。また、隣接の信越地方の新潟市が6位 、長野市が7位にランクされており、気温の低い地方の住民は外食に中華そばを好む傾向が支出の順位 に表われている。一方、支出が少ない順では、中華街があるのになぜか神戸市が最も少なく2,265円、次いで津市2,850円、鳥取市が3,599円となり、神戸市は1位 福島市の5分の1の支出に過ぎない。
2 最近の動向
(1) 加速する新業態
 一般に消費者ニーズへの対応とは、料理のうまさや価格設定をイメージするが、最近は料理の提供の仕方に工夫を施した店が現われている。従来の中華料理の固定観念にとらわれず、むしろ料理は安定した需要が見込める中華料理に絞り込み、店舗や食器は洋風や和風でまとめたり、フランス料理にみられるフルコースメニューのように料理を提供して、消費者の支持を受けている店もある。また、「ヌ−ベルシノワズ」(「現代風中華料理」)と名付け、日本料理やフランス料理などをミックスした創作中華料理店や、居酒屋形式で中華料理を提供する「中華料理居酒屋」も見受けられる。  
 カフェスタイルといえば料理は洋風だが、それを中華料理にする新業態も現れている。独自の店づくりによる「カフェ中華料理」の新業態である。店内の一部をバ−風のカウンタ−にし、カクテル用洋酒瓶やバ−ボンウイスキ−など若者好みの洋酒をカウンタ−内にずらりと並べ、残りの面 積部分に角テ−ブルをいくつか並べて小宴会用に変形できるようにし、食べ物はメニュ−の種類が多い中華料理として、1点当たりの単価を抑えている。
(2) ファミリーレストランや居酒屋の進出
 最近、ファミリーレストラン系企業が、郊外のロードサイド立地という形態で中華料理業界に進出している。1,000円〜2,000円程度のリーズナブルな客単価で本格的な中華料理を気軽に利用することができる。店舗は、普通 のファミリーレストランや、喫茶店のような造りにしているものが多く、洋風の店舗のなかで中華料理を食べるという新鮮な感覚がうけている。日経レストラン(日経PB社)による調査でも「利用する理由」として、「中華っぽくない内装に好感がもてる」「開放感があって落ち着ける」「お客が明るく、皆楽しそうに食事をしている」「脂ぎったイメージはなく清潔感がある」「値段が手ごろで利用しやすい」などを挙げる者が多く、多様化する消費者ニーズに適応した経営であることがうかがえる。  
 また、過当競争に陥っている居酒屋業界は、大手チェ−ン店が画一化からの脱出を図るため、他の飲食業界へ進出する傾向がみられる。甘太郎など居酒屋中心の直営店チェ−ンのコロワイド(東証1部上場)は、同一ビル内への複業態出店で異色経営を行っているが、平成15年10月に初の中華料理店を出店する。居酒屋は、大手の大量 出店で画一的なメニュ−が行き渡り消費者からは飽きられてきており、経営の見直しを迫られている。今後、他の大手チェ−ンの中華料理業界への新規参入も予想される。
(3) 激しい内外との競合
 経営上の問題点は、複数回答割合の多い順に、「他の飲食店との競業」38.6%、「諸経費の上昇」37.5%、「人件費の上昇」29.2%、「設備の老朽化」26.0%、「同業者間競争で客数減」23.8%となっており、外部的な要因である「他の飲食店との競業」が最も多く、また、「同業者間競争で客数減」が5位 を占めるなど、中華料理業界は、内外との競争への対応力が問われている。(厚生労働省「飲食店営業(中華料理店)の実態と経営改善の方策」平成10年3月)
 当面の経営方針は、最も多いのが「新メニュ−の開発」63.0%(複数回答)、次いで、「接客サ−ビスの充実」37.9%、「店舗設備の改善等」35.2%となっている。上位 を占めているのは、同業者への競争力強化や顧客獲得の対応策である。長期的な経営方針としては、経営合理化の基本的な課題である「施設、設備の充実」が38.1%と最も多く、次いで「パソコンなどの導入」が16.8%、「経営の多角化」が13.1%と続いている。長期的な経営方針のメドが立っている業者が少ない。(東京都生活衛生指導センタ−「平成12年度環境衛生関係営業実態調査報告書」)
3 経営上のポイント
(1) ゆとりを持った店づくり
 大衆向け中華料理店は、概して店内が狭い店が多く、「隣席が近すぎて落ち着けない」、「店内があわただしくゆっくりできない」といった意見が多い。最近では洋風、和風の店舗で中華料理を提供し、料理だけではなく、ゆったりとした雰囲気も楽しんでもらおうとする動きもあるので、極力店内の雰囲気も念頭においた店づくりを考えていく必要がある。
(2) 労働力の確保
 大型の中華料理店は別として、街の中華料理店では、人手不足で頭を痛めている店が多い。中華料理には、料理の特徴として大量 の熱と油を利用するため、かなりの重労働で、しかも、一人前になるには経験と熟練を要することから、若者からは敬遠されがちである。労働力確保のためには、個人営業であっても労働時間の短縮、休日の増加、従業員の住宅の確保など労働条件面 の改善で、若者を引きつけていく必要がある。また、何年間か勤めれば、将来独立して店を持たせるというように、働くことに夢を持たせる姿勢も大切である。

4 工夫している事例

(1) 企業概況

  • 立  地  :京都市内の住宅地
  • 創  業  :昭和3年、昭和38年に3代目として家業を承継
  • 店  舗  :1店   * 従業者数 :10名(うちパ−ト、アルバイト7名)
  • 経営理念  :「商売で財産を残すより、満足していただく客を残す」  
  • 具体的な経営方針 :京都人にマッチした中国料理店
(2) 京都風中華料理店に転換、他店では真似ができない独自性を発揮
 京都市は、総務省の家計調査(平成14年)によると、中華料理への支出が全国で最も多い。支出額は全国平均の2.1倍にも及ぶ。当店は中華料理好きの京都で、戦前から高級広東風中華料理店を経営していたが、3代目に当たる現在の経営者になってからは一般 的な中華料理に飽きたらず、中国料理の京都風化と健康に貢献する中国料理の提供を目的とした中国料理店に転向した。食材も一新し食源を厳密に選択、顧客の満足度を味と長寿化の両面 で高めるように工夫していった。  
 経営者は、薬膳料理をはじめとした中国料理の著名な研究家として名前が知れ渡っているが、大学在学中から家業を手伝いながら、単なる調理人を目指すだけでなく、もう一歩踏み込んで中国料理の奥義を極めることを目標に掲げた。昭和38年、22歳の時に家業承継、と同時に従来の高級広東風中華料理店から現在の中国料理の京都風化と薬膳料理の提供に営業方針を転換した。ただし、京都の老舗中国料理店としての伝統的な経営方法は維持している。顧客層の大半は、親、子、孫の3代に渡る常連客が多く、特に年配者が従来から多いが、営業方針を転換後も客層に変化なく推移してきている。
(3) 古風な京風建物で演出、料理は健康増進に留意
調理面
(ア) メニュ−の基本構成は、京風健康中国料理 まず料理を食する顧客の健康増進につながるかを基本に考え、料理一品ごとに味、カロリ−などのバランスを考   えたメニュ−構成に工夫を凝らしている。
(イ) 経営方針は京都人にマッチした中国料理店であるので、食材の多くは、京都の風土に合った食材の選択に留意している。例えば、聖護院かぶら、鹿ケ谷のかぼちゃ、九条ネギ、壬生菜など京野菜を多く用い、京都料理らしい形に整え、味も京風に仕立てるように配慮している。野菜は農家から直接仕入れ、無農薬野菜を使用している。
(ウ) 中国の伝統的な知力増強と健康増進の薬膳料理も京風に調理して食べやすいように工夫している。
雰囲気づくり
(ア) 昭和3年に建築の伝統的な京風家屋にて中国料理を提供。木造造りの6室は庭園内に点在式に配置、大庭園付きのゆったりした環境で食事ができる。客室内には有名な骨董品を置き、ゆったりした雰囲気でくつろげる高級店の演出に配慮している。
(イ) 京都らしさを醸し出すため、すべて座敷制であり椅子席はない。座敷制であるので、法要などの食事にも対応でき、事実、薬膳料理による法要の注文も多い。
 以上、中国料理店として特異な存在の企業の事例を見てきたが、京都にて経営し、先祖伝来の経営資源があるからこそできるという見方もあるだろう。しかし、この事例の中には、多くの教訓が含まれている。以下、それに触れてみよう。

  まず、第1にこの中国料理店には、昭和3年創業の「暖簾」を3代にわたり守り続けていることが指摘できる。暖簾は目に見えるものではなく、老舗として長い間の営業により培われたきた店の信用や格式、代々受け継がれたきた味付けなどの秘訣、あるいは長年その企業により培われきた独自の経営手法であるノウハウが存在する。  
 しかし、その暖簾を守るのは容易でない。なぜなら、同業者が多く現れ、既存の顧客、既存の商圏に安住している横並び的な経営だと、老舗ですら衰退しかねない時代である。また、顧客の嗜好の変化が、時代ごとに変化しており、時代の変化に応じた適切な対応に手をこまねいていると、老舗の屋台骨が揺るぎかねない。   暖簾を守るための重要なことの一つは、老舗として使用可能なる経営資源をいかに活用して、他の同業者との差別 化を図るかである。当店の場合、先祖伝来の経営基盤をベ−スに「新しい事柄を、新しい手法で行う、時代にあった新しい業態」を加え、時代のニ−ズへの挑戦を行っている。しかも、個性、異質、独創を発揮している。  
 第2に経営理念がしっかりと確立されていることである。「商売で財産を残すより、満足していただく客を残す」というように、顧客重視型の理念が打ち出されている。さらに、経営理念の具体的な行動指針であるビジョンが「京都人にマッチした中国料理店」と明確であり、地元の人々に対しての社会的な貢献を意図している。  
 第3に、京都そのものを強調することにより、京都を経営資源の一つとして活用していることが指摘できる。京都の風土に合った食材の選択、京都らしい雰囲気など、京都ならではを売り物にしている。地場を経営資源として活用することは、なにも京都だけではない。どこの地方にも地場の特性がある。それをいかに活用するかは、発想の問題である。  
 第4に、先祖伝来の高級広東風中華料理を京都風にアレンジすることに挑戦していることである。京都は伝統を重んじるところ、昭和3年以来続いた高級広東風中華料理店からの転換は、これまで2代に渡り長い間の顧客が付いているであろうし、恐らく相当のリスクがあったものと思われる。しかし、高級な店を売り物にしているだけでは独自性が乏しく、時代から取り残される危険がある。同業者との差別 化を図らなければ成長はおぼつかない。いかに、そのリスクを最小限に収めるか、計算がし尽くされていなければならない。そのリスクは、若いころからの中国料理と薬膳料理の研究により最小限に食い止められているし、逆にそれらが成長要因となっている。日常の学習と研究は、営業への活用を図れば、同業者との差別 化を図り、成長する大きな要因となる。  
 第5に、人物である。大学卒業直前に父親が死亡、22歳で承継したが、大学在学中から店を手伝っていたとはいえ、若輩であり相当の苦労があったことは想像に難くない。しかし、承継後の行動から、常に人間的な成長を求め続けていることがうかがわれる。また、明確な目標と自信と誇りをもっている。それは、「社会の健康台所を預かっている自負」という経営者の言葉に裏打ちされているといえよう。

 

資料

  1. 総務省「事業所・企業統計調査」
  2. 総務省「家計調査年報」
  3. (財)東京都生活衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活調査報告書」平成9年度
  4. 全国生活衛生営業指導センタ−「成功事例調査」
  5. 金融財政事情研究会「業種別貸出審査事典」第9次新版
  6. 中小企業リサ−チセンタ−「日本の飲食業」
  7. 中小企業動向調査会「業種別業界情報」2003年版
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