一般 公衆浴場業-1998年
1 概況
1998年
(1) 進む「銭湯離れ」、事業所数は減少の一途
  平成8年の全国の一般公衆浴場の事業所数は8,329軒で、平成3年と比べると、1,900軒減少(18.6%減)しており、1年当たり380軒、1日につき1軒が廃業している計算になる。これは、住宅環境の改善による自家風呂の普及、風呂付きアパートの増加に伴って、利用者が減少したことによる営業不振から転廃業が進んだためである。また、利用者が減少したことにより、それをカバーするための入浴料金値上げが、利用者の減少に一層拍車をかけているといわれている(下記の表参照)。
  一方、ヘルスセンターは、平成8年は1,653件で3年に比べ32.7%増と急増している。しかし、サウナ風呂の施設数は2,920件で同期の比較では0.8減とやや頭打ちの状態にある。ヘルスセンターの増勢は「体をきれいにする」、「温まる」といった生活習慣のために一般 公衆浴場を利用していた者が、「気分転換」「ゆとり」「リフレッシュ」といった付加価値を求める人が多くなっているためと考えられる。
 
事業所数の推移
(単位:件、%)
  
(参考) ヘルスセンター、

サウナ風呂の施設数

(単位:件)
調査年 従業者規模 合計
1〜4人 5人以上
昭和61年 (83.4)
10,335
(16.6)
2,056
(100.0)
12,391
平成3年 (81.7)
8,355
(18.3)
1,874
(100.0)
10,229
平成6年 (83.2)
7,644
(16.8)
1,549
(100.0)
9,193
平成8年 (81.7)
6,596
(18.3)
1,733
(100.0)
8,329
ヘルス
センター
サウナ
風呂
862 2,701
1,246 2,942
1,480 2,947
1,653 2,920
資料: 1 総務庁「事業所統計」(平成6年は名簿整備調査)による。
2 ヘルスセンター、サウナ風呂は、厚生省「衛生行政業務報告」による。
(注) ( )内は構成比である。
(2) 家族労働者を主体とした小規模点が中心
    家族労働を主体とした小規模店が中心事業所数を従業者規模別でみると、従業者4人以下の事業所が全体の79.2%を占め、家族労働中心の小零細企業が主である。近年では、新規参入がないため新陳代謝が乏しく、また長時間労働という過酷な労働条件のため後継者難で、経営者の高齢化が進んでいる。
(3) 入浴の支出金額激減は利用回数の減少が影響
    「家計調査年報」(総務庁)により、1世帯当たり年間の入浴への支出金額、利用回数、入浴料金をみると、入浴料金は長期間にわたって緩やかな増勢をたどっいるが、利用回数は急激に減少しており、支出金額の減少は、明らかに利用回 数の減少と高い相関関係にあることが、一目瞭然で分かる。
 平成9年の各種目を5年前の平成4年と比較してみると入浴料金は261円から292円に上昇し11.6%増となっているが、利用回数は6.6回から3.3回へと半減している。この結果 、支出金額は1,749円が981円へと43.9%も減少している。この間、入浴料金が11.6%上昇し、同期間の消費者物価の伸び率3.9%を大幅に上回り、実質の値上げになっているものの、料金そのものが少額であり、支出金額を増加させるまでにいたっていない。
 
1世帯当たり年間の支出金額、利用回数、入浴料金の推移
入浴料金(円) 支出金額(円) 利用回数(回)
昭和50年 74.78 4,009 53.609
51年 92.19 4,496 48.775
52年 106.52 4,963 46.594
53年 115.00 4,288 37.284
54年 125.75 4,234 33.669
55年 146.26 4,080 27.896
56年 166.54 3,902 23.429
57年 177.99 4,001 22.480
58年 186.62 3,110 16.667
59年 200.23 3,376 16.861
60年 199.22 3,042 15.268
61年 205.98 3,002 14.574
入浴料金(円) 支出金額(円) 利用回数(回)
昭和62年 217.16 3,021 13.913
63年 223.32 2,174 9.737
平成元年 230.84 1,712 7.417
2年 245.31 1,783 7.267
3年 253.17 1,903 7.518
4年 261.65 1,749 6.683
5年 274.12 1,477 5.389
6年 269.32 1,215 4.513
7年 275.59 1,271 4.611
8年 293.91 1,096 3.730
9年 292.05 981 3.359
資料:総務庁「家計調査年報」
(4)   同調査で平成9年の都市別の入浴支出状況をみると、都市別にかなりのバラツキがある。最多支出は京都市で年間9,233円で全国平均の9倍、2位 の大阪市が7,989円、3位が富山市の4,421円で、この3市が突出している。また、名古屋市、津市、大津市も比較的支出が多い。一方最少支出は、那覇市で年間22円、次いで宮崎市が27円、新潟市が43円と低水準にある。

2 最近の動向
(1) 自家風呂の保有者を引き付ける銭湯づくり

  総務庁「住宅統計調査報告」によると、住宅総数に占める浴室保有住宅の割合は、平成5年度で93.5%と、ほとんどの住宅が浴室を備えているなかで、自家風呂を持たない人々に対して入浴を提供するだけでなく、自家風呂保有者も積極的に引き付ける経営方針を打ち出した銭湯づくりが注目されている。いままでは「体をきれいにする」、「温まる」などが一般 公衆浴場を利用する主な動機であったが、最近では「疲れをとる」「くつろぐ」といった「リラクゼーション」の観点による動機も大きなウエートを占めるようになっており、これらを念頭においた経営が自家風呂保有者を引き付けるうえで重要な要素となっている。泡風呂やハーブ湯、薬湯といった多機能的な浴槽を用意して利用を楽しませたり、個人のプライバシー保護を考慮し、入り口を番台方式からホテルのフロント方式にしたり、BGMを流して明るい雰囲気づくりをするなどの試みが進んでいる。
(2) 高齢者への配慮

  高齢者世帯の増加により、今後一層の利用が見込まれる高齢者が安全かつ容易に入浴できるよう、段差の解消のためのスロ−プの設置、浴槽、トイレ等への手すりの設置、滑りにくい床への改良等、設備改善がみられる。
(3) コミュニティ施設としての公衆浴場

  一般公衆浴場は、ただ入浴するだけの施設ではなく、地域住民相互の対話の場であるといわれている。そのため、浴場施設内に集会場、休憩室をもうけ、ふれあいの場、情報交換の場として提供し、利用者の増加を図っている浴場もある。
3 経営上のポイント
(1) 清潔第一

  地域住民の公衆衛生を担う施設として、「清潔さ」はもっとも重要視すべき点である。
 全国公衆浴場業環境衛生同業組合連合会が行った一般公衆浴場の未利用者に対するアンケートによると、一般 公衆浴場へ行かない理由として「お湯の清潔さに不安」という回答が25%と第1位 であった。未利用者には「家庭風呂の方が清潔で安全」という考えが根強く、こうした人々に利用してもらうには、常に衛生面 への配慮を行うとともに、「清潔さ」をアピールするための説明書を作成したり、照明を工夫し雰囲気を明るくしたりする努力が必要である。
(2) 広告・宣伝活動への取り組み

  利用者のニーズに応える設備の拡充と並んで、広告・宣伝活動により自家風呂保有者をターゲットとした利用者の開拓が重要である。営業時間や菖蒲湯、柚子湯等のサービス内容についてチラシ、パンフレットを作成したり、近隣の同業者と協力しあい利用者向け浴場マップ(「東京銭湯マップ '94」)や情報誌の作成、タウン紙への掲載、また、マスメディアの活用(テレビやラジオで番組を特集)等、創意工夫した広告宣伝を行い需要の拡大に努める必要がある。
(3) 駐車場の確保

  最近では、自動車の保有率が増え、ちょっと離れたスーパーへも車でといった傾向がみられるように、車による利用客のため、駐車場の確保が必要である。このことは、周辺客を確保するのみならず、商圏を広げるためにも重要なことであり、自家風呂所有者を引き寄せるためには、必要不可欠である。ただし、敷地に余裕がない浴場が多く、対応が容易に進まないケースが多い。
4 繁盛店の事例
(1) 近代的な設備で豪華な雰囲気

  A店では、老朽化した従来の店舗を取壊して約1,000平方米大型店舗を建築した。その中には浴場、軽食コーナー、ゲームコーナー、子供の遊び場、休憩室を設置し、全体的に空間部分が大きく豪華な雰囲気が利用者の増加につながっている。浴室には大・中・小の浴槽や、マッサージバス、うたせ風呂、すわり風呂、寝風呂のほか、サウナも備えており、家族連れに好評である。また、料金の支払には、プリペイドカードを導入し利用者の利便性を図っている。
(2) チラシや看板広告でPR

  B店は、商店街の電柱に看板広告をするとともに、月1回は周辺部にチラシを入れ薬湯の種類やサービスデーの周知を行い、利用者の確保に成功している。入口はフロント方式で全体的に明るい雰囲気のつくりになっており、清潔さが感じられる。目玉 は休憩室と変わり湯である。休憩室は、地域住民のコミュニケーションの場となっており、マッサージ機3台を設置、平日は常連の老人たちで、週末は、家族連れで賑わっている。変わり湯は、菖蒲湯、柚子湯等入浴剤では味わえない、本物の変わり湯として好評である。

 

【業界豆知識】
スーパー銭湯

  スーパー銭湯とは、規模が大きく、ロビーを持ち、露天風呂、ジェットバス、薬草湯等10種類以上の浴槽、サウナなど健康ランド並みの設備を備えた浴場施設である。大きな特徴は、自家用車での顧客吸引を狙っているため広い駐車場を確保していることと、料金が健康ランド並みの施設を備えている割に安いことである。まさに、公衆浴場のス−パ−式経営である。
 愛知県のある施設の場合、平日で大人350円(休日400円)、県内の銭湯(340円)とあまり変わらず、週末ともなると家族連れ、若い女性のグループで駐車場は満車状態が続く。平成2年に愛知県のボウリング場経営者によってオープンされたものが元祖といわれており、最近2〜3年でサウナ業からの模様替えをはじめ、パチンコ店や繊維会社といった遊休地を抱える異業種からの新規参入が相次ぎ、愛知県内では早くも過当競争が指摘されるほどである。
 公衆浴場として許可を受けているものは、物価統制令の適用を受ける「一般 公衆浴場(銭湯)」と健康ランド、サウナ風呂などの「その他の公衆浴場」に区分されるが、スーパー銭湯は、そのうち「その他の公衆浴場」に属する。環衛公庫の貸付対象者は、物価統制令の適用を受ける「一般 公衆浴場業」と、都道府県の環境衛生営業指導センターから意見書の交付を受けた「サウナ営業」を営む者に限られるため、スーパー銭湯は、現在のところ貸付の対象とはならない。

資料
  1. 総務庁「事業所統計調査」
  2. 総務庁「家計調査年報」
  3. (財)東京都環境衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成7年度)」
  4. (財)全国環境衛生営業指導センター「成功事例調査」
  5. 金融財政事情「企業審査事典」
  6. 経営情報出版社「業種別業界情報」’98年版
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