一般 公衆浴場業-2001年
1 概況
2001年
 事業所傾向
(1) 小規模事業所数が大幅に減少、半面、増加率著しい中規模層
  平成11年における全国の一般公衆浴場の事業所数は7,499件で、8年と比べ830件減少、10.0%減となっており、減少が続いている。従業者数は232,7974人で平成8年に比べ2.9%減となり、事業所数、従業者数とも減少している。1事業所当たりの従業者数は4.4人(8年4.1人)となっており、零細性が強い。
  ヘルスセンターは、平成11年は2,010件で平成8年に比べ21.6%増と急増している。2年以降のバブル崩壊期でも毎年の増加率は5〜10%で安定した成長路線をたどっており、一般 公衆浴場と対照的な推移を示している。ヘルスセンターの増勢は、一般 公衆浴場を「体をきれいにする」「温まる」といった生活習慣のために利用していた者が、「気分転換」「ゆとり」「リフレッシュ」といった付加価値を求める人が多くなっているためと考えられる。
  サウナ風呂の施設数は、平成11年は2,583件で8年に比べ11.5%減となっている。過去、順調に増加してきたサウナ風呂は6年以降、傾向的に減少している。
  平成8年から11年までの新設事業所数は230件で、一方、廃業事業所数は1,016件と廃業事業所が新設事業所を786件も上回って推移している。開業率1.0%、廃業率4.4%となり、廃業率が開業率に比べを3.4ポイントも多い。このように新規参入が少ないため新陳代謝が乏しいことが指摘できる。また、廃業率が高いのは住宅環境の改善による自家風呂の普及、風呂付きアパートの増加に伴って、利用者が減少したことによる営業不振、あるいは相続税等の税制面 の理由などにより転廃業が進んだためである。参考までに、総務省「住宅統計調査」によると、住宅の浴室保有率は昭和58年88.3%が平成10年には95.4%に上昇している。また、先の外部条件に加え、長時間労働という過酷な労働条件のため後継者難から経営者の高齢化が進んだことや、施設の老朽化、人手不足などの内部の問題も廃業を加速する要因となっている。
  平成11年の法・個人別事業所数は、個人が4,879件(構成比66.9%)、法人は2,412件(同33.1%)となり、8年に比べ個人が12.9%減、法人は2.7%減と個人の減少率が高い。
  従業者規模別に事業所数をみると、4人以下の家族労働中心の小規模店が全体の78.0%となっており、平成8年79.2%と比べ減少しているが、小規模店の退出が原因となっている。従業者数4人以下の全体に占める割合は、下記の表に見られように調査年ごとに減少している。従業者規模別 の事業所の推移を平成11年と3年との比較でみると、小規模店の減少は一目瞭然である。1〜4人層は平成3年に8,355件あったものが、その後の8年間で2,205件も減少、約30%がこの業界から退出している。   その一方で増加しているの10人〜99人層で、このうち10〜19人層は3年219件が11年には328件(1.5倍)に、20〜29人層は3年42件が11年には95件(2.3倍)に、30〜49人は3年19件が11年65件(3.4倍)に増加しており、10人〜99人規模の範囲内でみる限り、規模が大きくなるにつれて伸び率が拡大する傾向にある。これらからみて、小規模層の減少、中規模層の拡大という構造変化が明らかに生じていることが読み取れる。

事業所数の推移
(単位:件、%)
  
(参考) ヘルスセンター、

サウナ風呂の施設数

(単位:件)
調査年 従業者規模 合計
1〜4人 5人以上
平成3年 (81.7)
8,355
(18.3)
1,874
(100.0)
10,229
平成6年 (83.2)
7,644
(16.8)
1,549
(100.0)
9,193
平成8年 (81.7)
6,596
(18.3)
1,733
(100.0)
8,329
平成11年 (78.0)
5,850
(22.0)
1,649
(100.0)
7,499
ヘルス
センター
サウナ
風呂
1,246 2,942
1,480 2,947
1,653 2,920
2,010 2,583
資料: 1 総務省「事業所・企業統計調査」
2 ヘルスセンター、サウナ風呂は、厚生省労働省「衛生行政業務報告」による。
(注) ( )内は構成比である。
(2) 半数以上が兼業、法人に比べて多い個人の兼業「無し」
  一般公衆浴場業以外の事業経営「有り」の施設割合は「有り」が56.5%、「無し」は43.3%で、「有り」が半数を超えている。「無し」を法・個人別 に見ると、個人が49.0%と法人に比べて多くなっている。「有り」と回答した施設の事業内容を見ると「コインランドリ−」が24.0%と最も多く、次いで「アパ−ト・マンション経営」が20.3%となり、3番目以降の「駐車場経営」8.6%、「貸店舗・貸事務所」7.4%などに比べ、圧倒的に多い。〔厚生労働省「公衆浴場業(一般 公衆浴場)の実態と経営改善の方策」(平成11年3月)〕
(3) 後継者「無し」が「有り」を若干上回る
  後継者の有無も営業を存続するかどうかの大きな鍵を握っているが、経営者の年齢が50歳以上の施設についての調査では、後継者「有り」が44.8%、「無し」が47.8%で「無し」の方が若干多い。後継者「有り」を年齢階級別 に見ると、50〜59歳33.8%、60〜69歳39.6%、70歳以上が63.9%となり、高齢化になるほど後継者を確保している。つまり、後継者が決まっているから、高齢に達するまで安心して事業が継続されているといえよう。一方、後継者「無し」では、50〜59歳56.4%、60〜69歳52.4%、70歳以上が32.2%となっており、高齢になるほど少なくなっている。〔厚生労働省「公衆浴場業(一般 公衆浴場)の実態と経営改善の方策」(平成11年3月)〕
(4) 就業規則の整備が少ない個人経営
  就業規則の有無は従業員を確保する上で大事であるが、就業規則「有り」は16.4%で、「無し」が74.2%となっており、)就業規則の整備が進んでなく、前近代的な経営体が圧倒的に多い。これを法人・個人別 に見ると「有り」は個人経営10.4%、有限会社25.6%、株式会社47.0%であり、「無し」は個人経営77.7%、有限会社70.0%、株式会社51.8%であり、株式会社ですら「無し」が過半を超えており、業界全体にとって組織や労務管理体制の強化が望まれる。〔厚生労働省「公衆浴場業(一般 公衆浴場)の実態と経営改善の方策」(平成11年3月)〕
入浴の支出金額激減は利用回数の減少が影響
(1)   「家計調査年報」(総務省)により、1世帯当たり年間の入浴への支出金額をみると、平成12年は822円で前年の703円比べ16.9%増となっている。また、利用回数は2.5回で前年の2.2回を若干上回っている。ただし、料金は315円で前年に比べ5.4%上昇している。
  入浴料の支出金額は10前の平成元年には1,712円であったものが、その後傾向的に減少、一方この間の入浴料金は上下変動があるものの、すう勢として上昇をたどっている。これは、入浴料金が「物価統制令」の対象となっており、各都道府県知事が定めることになっており、利用客の減少、人件費の上昇などにより、毎年のように入浴料金の改定が行われているためである。
 入浴料金は制度上の下支えにより毎年底上げされるものの、問題は入浴回数の減少である。入浴回数を長期にわたり5年ごとにみると、昭和55年27回、60年15回、平成2年7回、7年4回、11年2回と激減しており、昭和55年の27回は隔世の感がある。この変化は、主に持ち家住宅の増加による自家風呂の普及による需要の減退によるものであり、一般 公衆浴場業は住宅分野の構造変化の影響をもろに被っている。したがって、景気が回復から上昇に向かえば利用回数も増加するという性質のものではない。
(2)   〔厚生労働省「公衆浴場業(一般公衆浴場)の実態と経営改善の方策」(平成11年3月)〕によると、一般 公衆浴場における平成8年度の利益額の対前年との増減要因の構成比(一つのみ回答)は、「客数の減少」が69.1%で最も多く、2位 の「客数の増加」4.1%、3位の「料金の値上げ」4.0%を大きく引き離している。それ以外の要因はいずれも1.5%以下で分散しており、いかに利益面 に客数の減少が影響しているかが表われている。この傾向は先に見たように、入浴回数が長期的な減少トレンドにあるので、今後ますます利益面 に与える傾向が強まると思われる。
(3) 銭湯のファンは高齢者
  同調査により世帯主の年齢階級別の入浴料をみると、最高支出階級は65歳以上で、年間支出は1,381円で各世帯平均の703円の約2倍弱となっている。次いで60〜64歳970円、55〜59歳、50〜54歳が760円から780円台で続く。一方、少ないのは、25〜39歳層で100円から140円台の支出に過ぎない。これからみて、銭湯のフアンは高齢者であるといえよう。
2 最近の動向
      
(1)
自家風呂の保有者を引き付ける銭湯づくり
  総務省「住宅統計調査」によると、住宅総数に占める浴室保有住宅の割合は、平成10年で95.4%と、ほとんどの住宅が浴室を備えているなかで、自家風呂を持たない人々に対して入浴を提供するだけでなく、自家風呂保有者を積極的に引き付ける経営方針を打ち出した銭湯づくりが注目されている。いままでは「体をきれいにする」、「温まる」などが一般 公衆浴場を利用する主な動機であったが、最近では「疲れをとる」「くつろぐ」といった「リラクゼーション」の観点による動機も大きなウエートを占めるようになっており、これらを念頭においた経営が自家風呂保有者を引き付けるうえで重要な要素となっている。泡風呂やハーブ湯、薬湯といった多機能的な浴槽を用意して利用を楽しませたり、個人のプライバシー保護を考慮し、入口を番台方式からホテルのフロント方式にしたり、BGMを流して明るい雰囲気づくりをするなどの試みで、入浴回数の回復に向け努力している。
 また、最近では、都内にユニ−クさを売り物にした個性的な銭湯が、地域で存在感を示している。ラウンジにパソコンを置いたり、銭湯の3階にある専用のレッスンル−ムでプロ歌手のカラオケ指導が受けられる銭湯が登場している。
(2)
高齢者、障害者への福祉入浴援助
  高齢者世帯、障害者が安全かつ容易に入浴できるよう、段差の解消のためのスロ−プの設置、浴槽、トイレ等への手すりの設置、滑りにくい床への改良等バリアフリ−を推進する銭湯が増えてきている。このような一定条件に伴う改造を加え、さらに入浴介助等を伴う入浴事業を行うことは福祉入浴援助事業と呼ばれる。この事業を行う一般 公衆浴場は、平成10年4月より固定資産税の軽減措置の対象に認定された。
(3)
コミュニティ施設としての公衆浴場
  一般公衆浴場は、ただ入浴するだけの施設ではなく、地域住民相互の対話の場であるといわれている。そのため、浴場施設内に集会場、休憩室をもうけ、ふれあいの場、情報交換の場として提供し、利用者の増加を図っている浴場もある。
3 経営上の問題点
(1)
山積する切実な問題点、強まる外部圧力による経営圧迫
  経営上の問題点について10の項目を設定し回答(複数回答)を求めた結果 によると、1位は「利用者の減少」で88.2%、2位は「施設・設備の老朽化」50.5%、3位 は「ス−パ−銭湯の出現」34.5%であり、4位が「後継者難」26.1%となっている。〔厚生労働省「公衆浴場業(一般 公衆浴場)の実態と経営改善の方策」(平成11年3月)〕
  同じ経営上の問題点を国民生活金融公庫生衛企画部の「生活関連企業の景気動向等調査」のアンケ−トの回答(複数回答)でみると、設問項目の設定の違いがあるので同列には比較できないが、1位 は「利用者の好みの変化」51.0%で、2位「大企業進出による競争の激化」34.0%を大きく引き離している。3位 は「後継者難」23.5%、4位は「店舗施設の狭隘化・老朽化」20.9%となっている。当該アンケ−トの設問には「利用者の減少」がないので、「利用者の好みの変化」に利用者の減少を代替させて回答していると思われるが、両調査を併せてみると、後継者難以上に現状維持ができるかどうかの切実な問題に直面 している。しかも回答の上位を占めるのは「利用者の減少」「大企業(ス−パ−銭湯)進出による競争の激化」など外部からの圧力が強まっているだけに深刻である。
(2)
多い将来の悲観的な見方
  経営上、切実な問題点に直面しているが、経営者は将来性をどのように考えているのだろうか。一つのみの回答でみると「利用者減で悲観的」が最も多く66.4%、これに「後継者難で悲観的」5.7%を合わせると悲観的が72.1%と大きな割合を占めている。一方、「今の方法で有望」はわずかに2.0%しかない。「多様化、多角化すれば有望」10.0%、「今と代わらない」が10.8%であり、業界自体が将来、楽観できない状況にある。〔厚生労働省「公衆浴場業(一般 公衆浴場)の実態と経営改善の方策」(平成11年3月)〕
(3)
もう一つ決め手に欠ける現在の対応策
  では、このような厳しい経営環境下にあって、これまでどのような対策がとられてきたのかを、上記の調査でみてみよう。複数回答でみると1位 は「入浴券、サ−ビスデ−導入」38.6%、2位が「付帯設備の充実」28.7%、3位 が「宣伝・広告の強化」17.3%、4位「美観、清潔感の増強」17.3%となっている。「経営の多角化、多様化」は15.3%で5位 と順位は予想外に低い。同調査による設備投資の目的をみても「経営の多角化、・多様化」は4位 で2.4%と少ない割合であり、1位を「老朽設備等の補修」61.9%が占め、2位 に「設備改善等で売上げ増大」11.6%がきており、これらからみて、目前に差し迫った本業の設備改善に追われ、付随業務への設備投資をするまでの余裕がないことがうかがわれる。この回答の中で「特になし」が25.1%で2位 「付帯設備の充実」に次いで多いが、問題点が山積しているのに、何ひとつ対応策を取ろうとしない経営手法では、ますます取り残されざるを得ないといえよう。
4 経営上のポイント
(1)
多様化するニ−ズへの対応には独自のコンセプト(着想)の明確化で
  最近の一般公衆浴場の利用者の声としては「浴槽が大きくリラックスできる」「良く温まる」など、大きな浴槽の効果 を評価するものが最も多い。次いで「時間をゆっくりかけて、ゆっくり入れる」や「好きな時間に入れる」など入浴時間が気兼ねなく、自分の思う通 りに使えるという声が多い。また、「薬湯が利用できる」「サウナに安く入れる」など変わり湯の利用を楽しみにしている層や、「親子で一緒に入れる」「近所の人とのふれあいができる」など多種多様である。従来のように単に身体をきれいにすることを目的に銭湯に行くことから、いまやニ−ズは「疲れをとり、気分転換を図り、リフレッシュするため」のものへと、明らかに変化している。
 このようなニ−ズの変化が意味することは、健康やゆとりを一般公衆浴場に求めているといえよう。このニ−ズに適応した経営を行うのには、現代の顧客の感性に合う独自のコンセプト(着想)が設備、雰囲気、サ−ビスなどに具体的に表現され、開放的で憩いの雰囲気にひたれる一般 公衆浴場を目指すことが求められている。
〔(財)東京都生活衛生営業指導センタ−「環境衛生営業に係る消費生活調査」平成9年度〕
(2)
新規顧客誘致には、銭湯の良さの売込みが必要
  住宅の浴室保有率の上昇に伴い、一般公衆浴場について全く無関心の層が増え、事実、いま入浴料金がいくらなのか、あるいは、いろいろな種類の浴槽や露天風呂が設置されているなどの変化を知らない住民が少なくない。待っているだけでは、新規の顧客は誘致できない。いかに、周知を図るかが重要であり、ただ組合任せでなく、自分の創造的な発想で顧客誘致の方法を展開すべきある。銭湯はPRは不要と考えている経営者も少なくないと思うが、昭和55年の27回のように利用回数が望めない現状においては積極的なPR活動の実施は、新規顧客の開拓と既存顧客の維持確保のために不可欠である。
  それには、一般公衆浴場の良さや変わり湯などいろいろな種類の風呂が増えていたりして、昔に比べていかに銭湯が変化しているかを強調すべきである。また、「清潔さ」をアピールする必要がある。その際、文字だけに比べ施設内部を目ビジュアルに訴える方が効果 的であるので、写真を用いることが望ましい。また、ネットの時代を迎えているので、ホ−ムペ−ジを作成すれば、施設の特性を十分に周知することが可能である。
  最近、マイナスイオンが身体によいとして人気を集めているが、銭湯には、このマイナスイオンが豊富に含まれていることが検証されている。このような科学的な面 からみた一般公衆浴場の優れた点を積極的にPRすべきである。季節ごとのイベントやサ−ビスの具体的な内容なども、より一層タイムリ−に地域住民に周知することが必要である。特に未利用者向けは、銭湯の良さを十分にアピ−ルすることが重要である。
(3)
進まぬ施設、設備の改善
  厚生労働省「公衆浴場業(一般公衆浴場)の実態と経営改善の方策」(平成11年3月)では経営上の問題点の2位 は「施設・設備の老朽化」となっており、経営の維持に支障を来すだけに放置できない大きな問題である。同調査により、新築または改築後の経過年数をみると、30年以上の建物が全体の47.3%と半分近くを占め、木造建築物ならすでに耐用年数を経過しており、施設、設備の改善を実行しなければならない状況にある。 しかし、設備投資予定の内容では「施設の改装」は51.0%(複数回答)であり、「施設の改築」も19.8%に過ぎない。事業継続の不透明、後継者の問題などで、設備投資を実施する意思決定に迷っている経営者も少なくない。現実には、独自のコンセプト(着想)を明確化にしても、大がかりな設備の改善は容易でなく、いきおい資金を多く必要としないソフト面 でコンセプト(着想)を定着させるような方向性を求めざるを得ないと思われる。
  今後、高齢化時代の進展に伴って、高齢者に配慮したバリアフリ−の施設が社会的に要求されるが、先の調査によるとこれらの設備の設置は、現状では全体の24.1%が保有しているのに過ぎず、一方保有なしは70.9%にも昇る。今後、時代の要請による設備改善への対応力にも問題が待っている。
  さらに、顧客用の駐車場は顧客確保のために、必要不可欠な営業施設になっている。近くのスーパーへも車でといった傾向がみられるように、周辺客を確保するのみならず、商圏を広げるためにも重要な施設であり、自家風呂所有者を引き寄せるためには必要視される。そうはいうものの、敷地に余裕がない浴場が多く、対応が容易に進まないのも事実である。
〔厚生労働省「公衆浴場業(一般公衆浴場)の実態と経営改善の方策」(平成11年3月)を参照にした〕
5 工夫している事例
☆ "へんし〜ん"公衆浴場が喫茶・郷土のおみやげ店に
  外観をみると一見、相変わらず銭湯をやっていると思うが、銭湯の入口の外側には、地元の特産品が雑然と山積みになっている不可思議さが通 行人を引き付ける。雑然さが観光客の目を引くようだ。「男湯入口」、「女湯入口」は昔のままで、たたきのタイルも古いものが残っている。店の中に入ると元の脱衣所あたりにも、地元の特産品が所狭しと置いてある。あの懐かしい脱衣箱は片側だけ残っている。番号が記入してある大判の木札も付けたままである。元の洗い場や浴槽部分は喫茶店になっているが、形式にとらわれないスペ−スという造りで、地元の特産品売場との敷居もない場所に、雑然さに似つかわしい、簡単なテ−ブルセットが無造作に置いてあるだけだ。しかし、観光客らしい中高年の女性たちで混み合っており、時を忘れたかのように、ゆったりとコ−ヒ−を飲んでいる。帰りがけに特産品をお土産に買う人も見受けられる。
  尾道は古くから瀬戸内海沿岸を代表する商業・港湾都市であると同時に、多くの古寺、史跡に恵まれた観光・文化都市でもある。また、本州・四国連絡橋の尾道・今治ル-トの「しまなみ海道」の開通 により、観光に一層力を注いでいる都市である。しまなみ海道の市営定期観光バスは、サンフランシスコのケ−ブルカ−型レトロバスで運転するなどレトロ調の演出が似合う街であり、この事例の「大和湯」もレトロの盛り上げに一役買っているといえよう。
  廃業した銭湯を観光客の郷愁を誘う演出で見事に活性化し、市の観光行政の促進にも一役買っている事例である。廃業銭湯の活用は都市の性格、立地条件などによりいろいろな用途での開発が可能であると思われる。観光資源のほか、○○ミニ博物館、貸ミニコンサ−トホ−ルなどの文化施設などに転用する方法があるのではなかろうか。廃業施設を見事に活性化したユニ−クな事例である。
【業界豆知識】
☆ スーパー銭湯
   スーパー銭湯とは、規模が大きく、ロビーを持ち、露天風呂、ジェットバス、薬草湯等10種類以上の浴槽、サウナなど健康ランド並みの設備を備えた浴場施設である。大きな特徴は、自家用車での顧客吸引を狙っているため広い駐車場を確保していることと、料金が健康ランド並みの施設を備えている割に安いことである。まさに、公衆浴場のス−パ−式経営である。
 愛知県のある施設の場合、平日で大人350円(休日400円)、県内の銭湯(340円)とあまり変わらず、週末ともなると家族連れ、若い女性のグループで駐車場は満車状態が続く。平成2年に愛知県のボウリング場経営者によってオープンされたものが元祖といわれており、最近2〜3年でサウナ業からの模様替えをはじめ、パチンコ店や繊維会社といった遊休地を抱える異業種からの新規参入が相次ぎ、愛知県内では早くも過当競争が指摘されるほどである。
 公衆浴場として許可を受けているものは、物価統制令の適用を受ける「一般 公衆浴場(銭湯)」と健康ランド、サウナ風呂などの「その他の公衆浴場」に区分されるが、スーパー銭湯は、そのうち「その他の公衆浴場」に属する。環衛公庫の貸付対象者は、物価統制令の適用を受ける「一般 公衆浴場業」と、都道府県の環境衛生営業指導センターから意見書の交付を受けた「サウナ営業」を営む者に限られるため、スーパー銭湯は、現在のところ貸付の対象とはならない。


資料

  1. 総務省「事業所・企業統計調査」
  2. 総務省「家計調査年報」
  3. (財)東京都生活衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成7年度)」
  4. 全国生活衛生営業指導センタ−「成功事例調査」
  5. 金融財政事情「企業審査事典」
  6. 中央法規「生活衛生関係営業ハンドブック2001」(生活衛生関係営業資料)
  7. 厚生労働省「公衆浴場業(一般公衆浴場)の実態と経営改善の方策」(平成11年3月)
  8. 国民生活金融公庫生衛企画部「生活関連企業の景気動向等調査」
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