氷雪販売業-1998年
1 概況
1998年
(1) 厳しい業界を取り巻く環境

国民の食生活等の向上により氷への需要は高まっているものの、家庭用電気冷蔵庫の普及や飲食店等営業施設での小型業務用自動製氷機の導入により自家製氷が進み、氷雪販売業における氷の販売量 は減少してきている。また、景気低迷に伴う売上げの減少、営業費用の高騰、人手不足、後継者難等に見られる経営環境の悪化や、施設・設備の老朽化等に加えて、経営者の高齢化等により年々転廃業が進んで施設数が減少するなど、氷雪販売業を取り巻く現状は極めて厳しいものとなっている。
(2) 施設数は年々減少傾向

  厚生省「衛生行政業務報告」による施設数をみると年々減少し続けている。昭和45年末には7,938店であったものが、平成9年までの間に半数を超える4,372店が転廃業し、減少率は45%に達している。8年から9年にかけても140件減少しており、9年末の施設数は3,566件になっている。
氷雪販売業施設数の推移
(単位:店)
昭和 45年 50年 55年 60年 61年 62年 63年
施設数 7,938 6,473 6,086 5,568 5,442 5,253 5,025

平成 元年 2年 3年 4年 5年 6年 7年 8年 9年
施設数 4,798 4,602 4,388 4,224 4,078 3,953 3,830 3,706 3,566
資料:厚生省「衛生行政業務報告」

2 氷雪販売業の現状
 厚生省生活衛生局指導課が平成7年3月に発表した「氷雪販売業の実態と経営改善の方策」の調査結果 (平成5年12月末現在)によると、氷雪販売業の現状は次のようになっている。
(1) 小規模零細で専業店が少ない経営

  経営主体をみると、個人経営が61.5%で法人経営よりも個人経営が多く、従業員規模別 の構成比は下表のとおりで、4人以下での経営規模が67.2%と3分の2以上を占め、全体的に小規模零細な経営となっている。
 
従業員数(人) 5〜9 10〜19 20以上 不詳
施設数割合(%) 12.4 26.9 16.5 11.4 19.1 8.8 4.4 0.5
   また、氷雪販売業を専業としている施設は20.9%と非常に少なく、専業経営は難しいことがうかがえる。兼業施設のうち兼業種目の主なものは「食品販売業」(32.6%)、「燃料業」(31.9%)、「ドライアイス」(18.8%)、「飲食業」(14.1%)などとなっている。
(2) 氷雪販売業の経営内容
   総収入に占める氷雪販売業収入の割合をみると、「氷雪販売業収入が20%未満」の施設数が50.0%と過半数を占め、次いで「20%以上〜50%未満」の施設数が24.7%、「50%以上〜90%未満」の施設数が17.2%、「90%以上」の施設数が6.2%などとなっている。他の業種と比べ経営環境が大変厳しく、経営として氷雪販売業だけでは成り立ちにくい状況となっている。
 また、共同購入、共同宣伝等については、未実施施設が約9割を占めており、協業化の推進など効率化面 での遅れが目立っている。
(3) 主要販売先
    主要販売先は、「バー・クラブ」が37.0%、「喫茶・一般飲食店」が26.1%と飲食店関係営業が過半数を占めているが、「ホテル・旅館」「料亭・割烹」ではそれぞれ1%の割合しか占めておらず、元来、消費量 の多いこの業種では、その大半が自家製氷で賄われているものと思われる。
(4) 経営者が抱える問題点
  全体で最も多かった問題点が、「注文の減少」で76.0%を占めている。次いで「施設の老朽化」が20.9%、「原材料等諸経費の上昇」が20.4%となっている。また、従業員20人以上の企業では、「人件費の上昇」が76.5%と大半を占め、「注文の減少」等は、相対的に少なくなっている。
3 最近の動向
(1) 高まる純氷へのこだわり

 近年における家庭用電気冷蔵庫や小型業務用自動製氷機の普及、およびスーパーマ−ケットやコンビニエンスストア等の進出などにより、氷そのものの需要は伸びているものの、氷雪販売業者の取り扱う氷の需要は減少している。
 しかし、最近の消費者はミネラルウォーター等の良質の水にこだわると同様に氷にもこだわりを持つ傾向にあり、製氷業者が製造し、袋詰め等の形で販売される純氷(良質の氷)の評価が高まっている。
(2) 純氷販売の主力はスーパー等、販売力弱体の専門業者

 「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成8年度)」〔(財)東京都環境衛生営業指導センタ−〕のアンケ−ト調査の結果 によると、「純氷を知っている」は60.8%を占めている。周知経路は「ス−パ−、コンビニエンスストア等で知った」が84.5%、「氷雪販売業で知った」は8.0%のみで、純氷の周知はもっぱらス−パ−、コンビニエンスストアが主体となっている。また「買ったことがある」が81.3%と高率を占めている。
 ただし、買った場所は「氷雪販売業で」はわずか8.9%しかなく、「ス−パ−、コンビニエンスストア等で」が94.7%、「酒類販売店で」が23.9%となっており、「氷雪販売店」を利用していないのが現状である。店舗数が少なく利用機会に乏しい氷雪販売業に比べ、圧倒的に店舗数が多く、しかも利便性を売り物にした、コンビニエンスストアやス−パ−における購入が、定着している実態が調査結果 に現われている。
(3) 需要開拓が望まれる氷雪販売業者

  氷業者が袋詰めの氷を直接スーパーマーケット、コンビニエンスストア等へ卸している現状や、需要面 でみても純氷が消費者に評価されている状況からみて、純氷は氷雪販売の有力な市場として今後に十分期待ができるといえよう。となれば、氷雪販売業者にとって需要開拓の余地が十分残されており、今後多様化する消費者ニーズに対して的確に対応していくことが必要であろう。
(4) 食生活で氷は必需品、変化する氷の使用状況

  資料は若干古いが「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成4年度)」〔(財)東京都環境衛生営業指導センタ−〕によると、氷を購入する理由については「パーティー」「レジャー」等が67.2%と高く、購入理由には「特殊性」が強いことが分かる。また、「美味しい」「解けにくい」が44.0%と「質」にこだわる消費者も多い。同調査の平成8年度版によると、飲食に対するこだわりが進むなかで、「食生活で氷は必需品と思う」は84.9%を占め、家庭生活でほぼ不可欠の商品となっている。氷を利用する目的は、「飲食・ジュ−ス等」が70.6%、「ウィスキ−等の酒類」が55.3%に比べ、氷本来の機能であった「食品等を冷やす」は35.9%、また、「病気等に利用」は44.2%と飲食面 への使用に比べ少なくなっている。
4 「氷雪販売店」の今後の対応
 消費者の間には、「水道の水はまずい」という考えが浸透してきており、ミネラルウォーターブーム、さらには、浄水機の普及へとつながっている。同時に家庭で作る氷は「美味しくない」「匂いが気になる」「解けやすい」という不満が多いものの、家庭で作る氷には、「手軽さ」があり、この「手軽さ」と「美味しい」良質の氷とのギャップを埋める対策を講ずる必要があるものと思われる。
 また、消費者が氷を購入する理由は「パーティー用」「レジャー用」等「特殊性」が強いが、販路拡大のためには多様化する消費者ニーズの動向を的確にキャッチし、また日常、一般 的な家庭でのニーズにどう応えていくかであろう。たとえば、「純氷」のPRを積極的に行い、多様な商品の品揃えや、自由な発想による新たなサービスの開発を行うなどして家庭で作る氷の「実用性」に消費者の高級、良質志向を的確にとらえながら食い込んでいく必要があろう。
 近くに氷雪販売店があれば「買いたい」と考えている人は5割に達していることなどを考えると、「良質の氷」への潜在需要は十分あると考えられるので、郊外の量 販店等が賑わう車社会でもあり、もっと積極的に店の存在を広く地域住民にPRし、併せて良質の氷の上手な利用方法等を紹介するなどして認知を高める広報を徹底する必要がある。消費者の「氷雪販売店は特定の業者のみが利用する店」という意識を払拭し、「もっと身近な存在である氷雪販売店」を広める努力が必要であろう。
5 繁盛店の事例
・顧客管理の徹底と一括集積による効率の向上
 S商会は個人企業でありながら、市内の飲食街の一般大衆向け居酒屋、スナック等をはじめ600件の顧客数を有して発展している企業である。
 氷の需要が多様化するなかで、パソコンによって、顧客別の売上管理、商品の売れ筋管理、その他の経営管理全般 を行い、顧客の定着化を実現している。
 また、配達の順路や時間を計画的に組み合せて効率化を図り、郊外に事務所、冷凍保管庫、破砕・袋詰め作業工場、配送基地を一括集積して経営の効率を向上させた。
 従業員への対応については、社会保険、住宅、有給休暇などの福利厚生対策を充実して定着化を促し、就業意欲の高揚を図っている。

資料

  1. 総務庁「事業所統計調査」
  2. (財)東京都環境衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成4年度および平成8年度)」
  3. (財)全国環境衛生営業指導センター「成功事例調査」
  4. 金融財政事情「企業審査事典」
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