氷雪販売業-2005年
1 概況
2005年
 氷とは、水が氷点下の温度で固体状態になったものをいうが、現代のわれわれの生活にとっては、いまや欠かすことができない商品の一つである。それだけに、氷雪販売業は国民の食生活、あるいは飲食店の業務用などに氷の提供を通 じて大きく貢献してきている。しかし、国民の食生活等の向上により氷への需要が高まっているものの、家庭用電気冷蔵庫の普及や、飲食店等営業施設において小型業務用自動製氷機の導入に伴い自家製氷が進み、氷雪販売業に対する氷の需要は減少してきている。特に、最大の需要先である飲食店等の廃業の増加が経営面 に大きな打撃となっている。
 氷雪販売業は小零細企業が多く、加えて売り上げの季節的変動が極端なこともあり、本業以外の商売を兼業している店舗が多い。企業自体では、売上高減少に伴う利益水準の低下、先行きの維持に対する不透明感などを反映して、施設・設備の更新が進まず、老朽設備に甘んじている企業が少なくない。経営者の高齢化や継者難に人手不足も加わり、年々転廃業が進み施設数が減少している。氷雪販売業を取り巻く現状は、厳しさが一段と増している中で、氷雪販売業界では、氷製造業者が製造した良質の"純氷"の販売促進により、需要回復に業界がこぞって努力している。
2 食品衛生法で見る氷雪販売業
(1)
食品衛生法の目的
 氷雪販売業が氷の取り扱いは、包装なしの商品で、しかも熱加工をしないで、直接口に入れるだけに、食品の中では、最も清潔で、かつ衛生的に取り扱うことが要求される。このため、氷雪販売業はもちろん食品衛生法の対象になる。食品衛生法とは、食品の安全性の確保のために、公衆衛生の見地から必要な規制や、その他の措置を講ずることにより、飲食に起因する衛生有縁の危害の発生を防止し、もって国民の健康の保護を図ることを目的としたものである。飲食に関する衛生についての規定は、主たる食品営業のほか、氷雪販売業が用いる器具、容器なども含まれる。
(2)
営業許可
 氷雪販売業を営むに当たっては、都道府県知事(保健所設置市または特別 区にあっては市長または区長)の営業許可が必要である。許可は5年を下らない有効期間の条件が付けられる。ただし、氷雪販売業を営む場合には、都道府県知事が、業種ごとに定めた施設基準に適合していなければならない。また、都道府県知事が定める基準により「食品衛生責任者」を置かなければならない
(3)
販売する食品、添加物、器具、容器包装等に対する規制
規格基準に違反した食品等の販売等の禁止
・添加物、器具・容器包装等
表示基準に違反した食品との販売等の禁止
・アレルギー食品材料、遺伝子組み換え食品
 指定外添加物の使用等の禁止や有害物資の混入防止等の措置基準は緒度95
3 氷雪販売業の特性
 氷雪販売業の特性を厚生労働省が実施した「生活衛生関係営業経営実態調査」(平成14年)で見てみよう。
(1)
経営主体 「個人経営」が57.8%と最も多く、ついで「有限会社」が22.5%、「株式会社」は17.2%と少ない。
(2)
経営者の年齢 60歳代が34.8%で三分の一強を占めている。50歳代以上の経営者で「後継者がいる」と回答している事業所は、33.6%と少ない。
(3)
専業・兼業割合 兼業が76.2%、専業は23.8%と兼業が約8割弱をしめる。兼業の内訳は、「燃料業との兼業」が49.5%と5割を占め、次いで「その他」が31.7%、「ドライアイス」が26.9%となっている。
(4)
従業者規模 従業者2人が33.2%で最も多い。従業者が10人未満の事業所は8割以上を占めている。1事業所当たりの平均従業者数は4.9人であり、このうち臨時雇用者は1.3人となっている
4 店舗数の推移
 平成16年の店舗数は2,838店で前年に比べ124店減少(4.2%減)となっている。10年度店以降も毎年店舗数は減り、10年度3,471店に比べ16年度は633店減少している。(厚生労働省「衛生行政報告例」)
氷雪販売業の施設数の推移
(単位:店、%)
  施設数   施設数
昭和 45年 7,938 平成 6年 3,953
50年 6,473 7年 3,830
55年 6,086 8年 3,706
60年 5,568 9年 3,566
平成  2年 4,602 10年度 3,471
  3年 4,388 11年度 3,414
4年 4,224 12年度 3,360
5年 4,078 13年度 3,223
(注)平成9年度から暦年を年度に変更
資料:厚生労働省「衛生行政業務報告例」
  平成16年度の氷雪販売業の新規営業許可施設数は55店と一段と少なくなっている。一方、廃業施設数は174店で、廃業店舗数が新規営業許可店舗数を119店も上回っている。(厚生労働省「衛生行政報告例」)
5 氷雪販売業の現状
 厚生労働省が平成12年3月に発表した「氷雪販売業の実態と経営改善の方策」の調査結果 によると、氷雪販売業の現状は下記のようになっている。
(1)
圧倒的に多い小零細規模層
 調査対象390店のうち、個人経営は58.2%、株式会社が14.1%、有限会社が22.6%で、法人形態をとるものが36.7%となっている。従業者規模別 では、1〜2人規模の施設が49.0%、3〜4人規模24.4%となっており、4人以下の小規模企業が73.4%を占めている。個人経営では、4人以下が87.7%、5人以上はわずか7.0%に過ぎない。株式会社では、4人以下が40.0%で、5〜19人規模が49.1%と過半を占める。有限会社では、4人以下が59.1%であり、5〜19人規模が39.5%となっている。
(2)
少ない専業者施設、多い兼業
 氷雪販売業専業全体での兼業割合は23.8%で、何らかの業種との兼業を営んでいる施設は75.6%である。個人経営では専業が30.0%であるのに、法人経営では16.8%と少ない。兼業の内訳をみると、「その他」36.6%を除いて多い順にみると、「燃料業」が30.8%、次いで「食品販売業」29.2%、「ドライアイス販売業」20.0%、「飲食店」11.2%、「運送業」2.4%、「貸しおしぼり」2.0%となっている。しかし、この分類に含まれない「その他」が36.6%と最も多いことは、氷雪販売業の兼業の範囲が多種類に及んでいるといえる。
(3)
圧倒的に多い業歴30年以上
 店舗開設後の年数は、30年以上経過が78.7%で圧倒的に多く、20〜30年未満ですら8.7%であり、開設後5年未満はわずかに2.8%に過ぎない。のれんの古い先発企業が良好な得意先をがっちり把握しており、需要分野が縮小し
(4)
高齢経営者
 経営者の年齢についてみると、最も多いのが60〜69歳で32.8%、次いで50〜59歳が29.5%、70歳以上が20.3%であり、50歳以上が82.6%と大半を占め、長老経営となっている。
 経営者の年齢が50歳以上の施設について後継者の有無をみると、「後継者がいる」は44.7%、「後継者がいない」が49.1%で、「後継者がいない」施設が若干多い。これを経営者の年齢階級別 にみると、「後継者がいる」は50〜59歳35.7%、60〜69歳42.2%、70歳以上が62.0%と、年齢が多くなるにつれて「後継者がいる」割合が増えている。
(5)
主な販売先の1位はバー・クラブ
 主な販売先で最も多いのは「バー・クラブ」39.0%、次いで「喫茶店・飲食店」25.1%、「その他」23.6%となっている。「料亭・割烹」「ホテル・旅館」が占める割合はそれぞれ1%以下であり「病院」は皆無である。
6 最近の動向
 最近の動向について厚生労働省「氷雪販売業の実態と経営改善の方策」(平成12年3月)により、以下みてみよう。
(1)
一般家庭の食生活で氷は必需品だが、多い不平、不満
 一般家庭の食生活では、85%の家庭で「電気冷蔵庫を使用して氷を作り」、同じく85%が「氷は食生活にとって必需品と思う」となっている。家庭内で作った氷の使用(複数回答)を多い順にみると、最も多いのが「ジュース等」70%、次いで「ウイスキー等の酒類」55%、「病気等に使用」が44%、「食品等を冷す」35%など広い範囲で使用されている。しかし、「レジャー、スポーツ関連に使用」は僅少に過ぎない。
 家庭内で作る氷の評価は、「手軽に作れる」が92%と、簡便さを高く買っているが、「味がうまい」は56%に過ぎない。「衛生的」は72%とやや評価が低い。味に関しては「まずい」が30%、固さでは「溶けやすい」が64%、美しさに関しては「不透明」61%、匂いでは「気になる」23%と、これらの項目については不平、不満度が高い。特に味については、20歳代の男女で「まずい」が突出しており、味への関心度が高い。このように自家製の氷については、多くの家庭で、いまだに不平、不満を多くもっている。
(2)
高まる純氷への評価
 製氷業者が製造した氷で、袋詰め等の形で販売される「純氷(じゅんぴょう)」について、「知っている」が61%で過半を超えている。純氷を知ったのは、「スーパー、コンビニエンストア等」84%だが「氷雪販売店」は8%と少ない。純氷を「買ったことがある」は81%で、買った場所は「スーパー、コンビニ等」が94%で圧倒的に多く、「氷雪販売店」は8%に過ぎない。
 では、純氷を買う理由は何かというと、「おいしい」が55%、「手軽」55%、「溶けにくい」43%、「衛生的」16%、「美しい」16%となっており、家庭で作る氷への不平、不満度が純氷購入の動機になっている。値段は、「適当」が75%であり、価格の面 では不満はないようである。純氷を買う場合の形状については、「ブッカキ」55%、「ダイヤ」26%、「角氷、板氷」15%であり、「ブッカキ」の人気が高い。「今後純氷を使用する」は43%、「わからない」が42%と二分されている。ただし、「買ったことがある」層の「今後純氷を使用する」は88%で、一度使用した経験者は引き続き購入する傾向が高い。
 消費者は純氷について評価をしているが、店舗数が少なく利用機会が少ない氷雪販売業店での購入は僅少であり、生活に密着したスーパー、コンビニにおける購入が圧倒的に多く、氷雪販売業者が業務用主体の営業にとどまり、消費者把握に目を向けていない姿が浮き彫りにされている。
7 経営上の問題点
 国民生活金融公庫の「生活衛生衛関係営業の景気動向」により、平成16年1〜3月以降の氷雪販売業者の経営上の問題点をみると、1位 は「顧客数の減少」、2位は「仕入れ価格・人件費等の上昇を価格に転嫁困難」の順となっている。これら以外では、従業員の確保、後継者難が調査対象15業種の中で上位 にある。
8 今後の対応
 氷雪販売店は、昔は一般大衆と密着していたが、いつの間にか庶民の生活から遠のき、特定の業務用のみを扱う店のイメージに変化してしまっている。消費者の生活水準が向上すれば、家庭の食生活で用いる氷についても、より上質の氷を求めることになる。業務用に比べ、一般 家庭向けなどは小口で非効率という考え方もあるかもしれないが、地域の業者として、小口需要にも気持ち良く対応することが望ましい。業務用も大事だが、一部の業態では事業所が減少し業務用需要が減少しているので、地域住民により身近な経営を行うことも重要である。氷雪販売店で良質の氷を買いたくても、小口で売ってくれるのかわからないし、店構えからして入りづらいので、敬遠してしまう消費者が多い。地域住民により浸透するためには、店の存在を広く周知し、小口需要の歓迎、良質の純氷取扱いや氷の上手な活用方法等の紹介など、積極的にPRすることが必要である。

資料
  1. 厚生労働省「氷雪販売業の実態と経営改善の方策」平成12年3月
  2. 厚生労働省「衛生業務報告例」
  3. 金融財政事情「企業審査事典」
  4. 「生活衛生関係営業ハンドブック2005」中央法規
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