氷雪販売業-2003年
1 概況
2003年
 (1) 厳しい業界を取り巻く環境、歯止めがかからない施設数の減少
 国民の食生活等の向上により氷への需要が高まっているものの、家庭用電気冷蔵庫の普及や、飲食店等営業施設での小型業務用自動製氷機の導入により自家製氷が進み、氷雪販売業における氷の販売は減少している。氷雪販売業は小零細企業が多く、加えて売上げの季節的変動が極端なこともあり、本業以外の商売を兼業しているケ−スが多い。また、長引く景気の低迷、取引先である飲食店等の廃業などに伴う売上げの縮小、人手不足、後継者難等の経営環境の悪化や、施設・設備の老朽化等のほか経営者の高齢化等により、年々転廃業が進み施設数が減少している。氷雪販売業を取り巻く現状は、厳しさが一段と増している。

  平成13年度末の全国の氷雪販売業の店舗数は3,223店で前年に比べ4.1%減となり、依然として減少している。昭和45年末には7,938件あったものが、平成13年度末(9年度から歴年を年度に変更)までに半数を超える4,715店が転廃業しており、減少率は59.4%に及んでいる。
 最近年は、9年度140店減、10年度95店減、11年度57店減、12年度54店減と年々減少数が次第に少なくなってきたが、13年度は137店減と減少数が再び拡大している。(厚生労働省「衛生行政報告例」)

氷雪販売の施設数

(単位:店)
  施設数   施設数
昭和 45年 7,938 平成 6年 3,953
50年 6,473 7年 3,830
55年 6,086 8年 3,706
60年 5,568 9年 3,566
平成  2年 4,602 10年度 3,471
  3年 4,388 11年度 3,414
4年 4,224 12年度 3,360
5年 4,078 13年度 3,223
資料:厚生労働省大臣官房統計情報部「衛生行政業務報告例」
(注)平成9年度から暦年を年度に変更

 

 平成13年度の氷雪販売業の新規営業許可施設数は79店となっている。一方、廃業施設数は201店で、廃業店舗数が新規営業許可店舗数を122店も上回っている。新規営業許可店舗数は、10年度90店、11年度87店、12年度63店と年々減少してきたが、13年度には79店と増えている。また、廃業店舗数は10年度188店、11年度144店、12年度124店と減少してきたが、13年度には201店と減少数が拡大している。新規営業許可店舗数から廃業店舗数を引いた純減数は、11年度は57店で、10年度98店に比べ減少したが、13年度には再び122店に増加している。
(厚生労働省「衛生行政報告例」)
2 氷雪販売業の現状
厚生労働省が平成12年3月に発表した「氷雪販売業の実態と経営改善の方策」の調査結果 によると、氷雪販売業の現状は下記のようになっている。
圧倒的に多い小零細規模層
 調査対象390店のうち、個人経営は58.2%、株式会社が14.1%、有限会社が22.6%で、法人形態をとるものが36.7%となっている。従業者規模別 では、1〜2人規模の施設が49.0%、3〜4人規模24.4%となっており、4人以下の小規模企業が73.4%を占めている。個人経営では、4人以下が87.7%、5人以上はわずか7.0%に過ぎない。株式会社では、4人以下が40.0%で、5〜19人規模が49.1%と過半を占める。有限会社では、4人以下が59.1%であり、5〜19人規模が39.5%となっている。
少ない専業者施設、多い兼業
  氷雪販売業専業は全体でみると23.8%で、何らかの業種との兼業を営んでいる施設は75.6%である。個人経営では専業が30.0%であるのに、法人経営では16.8%と少ない。兼業の内訳をみると、「その他」36.6%を除いて多い順にみると、「燃料業」が30.8%、次いで「食品販売業」29.2%、「ドライアイス販売業」20.0%、「飲食店」11.2%、「運送業」2.4%、「貸しおしぼり」2.0%となっている。しかし、この分類に含まれない「その他」が36.6%と最も多いことは、氷雪販売業の兼業の範囲が多種類に及んでいるといえる。
圧倒的に多い業歴30年以上
  店舗開設後の年数は、30年以上経過が78.7%で圧倒的に多く、20〜30年未満ですら8.7%であり、開設後5年未満はわずかに2.8%に過ぎない。のれんの古い先発企業が良好な得意先をがっちり把握しており、需要分野が縮小しているだけに、新規参入が極めて困難な業界である。
高齢経営者
  経営者の年齢についてみると、最も多いのが60〜69歳で32.8%、次いで50〜59歳が29.5%、70歳以上が20.3%であり、50歳以上が82.6%と大半を占め、長老経営となっている。
  経営者の年齢が50歳以上の施設について後継者の有無をみると、「後継者がいる」は44.7%、「後継者がいない」が49.1%で、「後継者がいない」施設が若干多い。これを経営者の年齢階級別 にみると、「後継者がいる」は50〜59歳35.7%、60〜69歳42.2%、70歳以上が62.0%と、年齢が多くなるにつれて「後継者がいる」割合が増えている。
主な販売先の1位はバ−・クラブ
主な販売先で最も多いのは「バ−・クラブ」39.0%、次いで「喫茶店・飲食店」25.1%、「その他」23.6%となっている。「料亭・割烹」「ホテル・旅館」が占める割合はそれぞれ1%以下であり「病院」は皆無である。
3 最近の動向
最近の動向について厚生労働省「氷雪販売業の実態と経営改善の方策」(平成12年3月)により、以下みてみよう。
(1) 一般家庭の食生活で氷は必需品だが、多い不平、不満
    一般家庭の食生活では、85%の家庭で「電気冷蔵庫を使用して氷を作り」、同じく85%が「氷は食生活にとって必需品と思う」となっている。家庭内で作った氷の使用(複数回答)を多い順にみると、最も多いのが「ジュ−ス等」70%、次いで「ウイスキ−等の酒類」55%、「病気等に使用」が44%、「食品等を冷す」35%など広い範囲で使用されている。しかし、「レジャ−、スポ−ツ関連に使用」は僅少に過ぎない。
 家庭内で作る氷の評価は、「手軽に作れる」が92%と、簡便さを高く買っているが、「味がうまい」は56%に過ぎない。「衛生的」は72%とやや評価が低い。味に関しては「まずい」が30%、固さでは「溶けやすい」が64%、美しさに関しては「不透明」61%、匂いでは「気になる」23%と、これらの項目については不平、不満度が高い。特に味については、20歳代の男女で「まずい」が突出しており、味への関心度が高い。このように自家製の氷については、多くの家庭で、いまだに不平、不満を多くもっている。
(2) 高まる純氷への評価
 製氷業者が製造した氷で、袋詰め等の形で販売される「純氷(じゅんぴょう)」について、「知っている」が61%で過半を超えている。純氷を知ったのは、「ス−パ−、コンビニエンストア等」84%だが「氷雪販売店」は8%と少ない。純氷を「買ったことがある」は81%で、買った場所は「ス−パ−、コンビニ等」が94%で圧倒的に多く、「氷雪販売店」は8%に過ぎない。    では、純氷を買う理由は何かというと、「おいしい」が55%、「手軽」55%、「溶けにくい」43%、「衛生的」16%、「美しい」16%となっており、家庭で作る氷への不平、不満度が純氷購入の動機になっている。値段は、「適当」が75%であり、価格の面 では不満はないようである。純氷を買う場合の形状については、「ブッカキ」55%、「ダイヤ」26%、「角氷、板氷」15%であり、「ブッカキ」の人気が高い。「今後純氷を使用する」は43%、「わからない」が42%と二分されている。ただし、「買ったことがある」層の「今後純氷を使用する」は88%で、一度使用した経験者は引き続き購入する傾向が高い。
 消費者は純氷について評価をしているが、店舗数が少なく利用機会が少ない氷雪販売業店での購入は僅少であり、生活に密着したス−パ−、コンビニにおける購入が圧倒的に多く、氷雪販売業者が業務用主体の営業にとどまり、消費者把握に目を向けていない姿が浮き彫りにされている。
4 経営上の問題点
  経営上の問題点(複数回答)の1位は「客数(注文)の減少」で77.2%、次いで「後継者難」が24.6%、「施設の老朽化」22.1%となっている。当面 の対応策は「特になし」が48.2%で最も多く、次いで「経営の多角化」19.0%、「施設・設備の改善等」16.4%、「転廃業」14.9%となっている。
5 今後の対応
 氷雪販売店は、昔は一般大衆と密着していたが、いつの間にか庶民の生活から遠のき、特定の業務用のみを扱う店のイメ−ジに変化してしまっている。消費者の生活水準が向上すれば、家庭の食生活で用いる氷についても、より上質の氷を求めることになる。業務用に比べ、一般 家庭向けなどは小口で非効率という考え方もあるかもしれないが、地域の業者として、小口需要にも気持ち良く対応することが望ましい。業務用も大事だが、一部の業態では事業所が減少し業務用需要が減少しているので、地域住民により身近な経営を行うことも重要である。氷雪販売店で良質の氷を買いたくても、小口で売ってくれるのかわからないし、店構えからして入りづらいので、敬遠してしまう消費者が多い。地域住民により浸透するためには、店の存在を広く周知し、小口需要の歓迎、良質の純氷取扱いや氷の上手な活用方法等の紹介など、積極的にPRすることが必要である。

 

6 工夫している事例
(1) 企業概況
  • 所在地    :東京都
  • 創業     :昭和5年、現代の経営者は2代目、三代目夫婦も従事
  • 経営形態   :株式会社
  • 店舗数    :1店
  • 従業者    :9人
  • 配達用冷凍車 :9台
(2) 先代、2代目とも進取の精神で苦境乗り切る
 東京都内には、現在約300店の氷雪販売業があるが、最盛期の3,000店に比べると10分の1に減ってしまっている。このような衰退の一途をたどっている業界の中で、当社は昭和5年以来、安定した経営を維持している。その背景にあるのは、先代、2代目とも進取の精神での経営への取り組みである。
  進取の精神で現在の営業基盤を築いたのは、先代の父親である。昭和5年に先代が開業したころは、一般 家庭と工場が主な顧客であり、飲食店を得意先に持つ同業者はあまりいなかった。このすき間に気付いた先代は、販売先のウェイトを飲食店専門に移していった。客層としては、一般 家庭や工場よりもリスクは大きいが、この英断が後に氷雪販売業継続の大きな要因となっていった。
 電気冷蔵庫、テレビ、電気洗濯機が3種の神器といわれだした昭和30年代半ばころから、一般 家庭や工場では、木製冷蔵庫に氷を入れて冷す旧式冷蔵庫に取って代わり、電気冷蔵庫が急速に普及し始めた。と同時に、家庭や工場に氷を配達していた氷雪販売業者の多くは廃業や転業を余儀なくされた。ところが、当社の場合、飲食店が主要な納入先であったため、電気冷蔵庫普及の影響を最小限に食い止めることができた。先代の英断がここで生きた。
  2代目の時代では、一時隆盛を誇ったスナックの店舗数が次第に減少しだし、飲食店の中には自動製氷機を設置し、自家製の氷を使うものも増え、需要が減少していくという経営環境の変化が生じた。このとき、2代目は飲食店への業務用の氷販売だけでは、氷雪販売業として先細りになる懸念を予感した。
(3) すき間需要の開拓に注力
  先代の先取の精神を受け継いでいる2代目は、先代同様、同業者があまり手をつけないすき間需要の開拓に乗り出した。ベ−カリ−レストランという新業態を開発し、零細レストランから1部上場まで上り詰め高収益をあげているサンマルクの片山社長は、「どんな事業でも誰も手がけない、がらあきのマ−ケットがある。ただし、そこには必ずネックがあるから誰も手をつけない。その業界の常識を捨て去れば手がけられるが、同じ業界の人には常識を捨て去ることができないから踏み込めない」と述べている。2代目は、このすき間を見つけ新しい顧客開拓に挑戦していった。
 2代目が手がけたのは、氷という基本事業を土台にした関連の商売への着手である。氷は飲食店の注文に応じて、機械でいろいろな形に切ったり、加工したりして配達している。キュ−ブアイス、ボ−ルアイス、クラッシュアイス、ダイヤアイス、角氷、かちわりなどである。このほか、日本料理店で使うかまくら、氷の皿、イベントやパ−ティで使われる氷中花など氷の彫刻なども作っている。
  氷の彫刻は、2代目自身が自から教室に通って技術を覚えたほどの熱の入れようである。様々なイベント会場に出向いて、その場で彫刻を仕上げることもある。また、氷中花をアレンジしたオブジェを制作して、イベントやCM撮影、テレビ番組制作にも協力するなど、単なる氷雪販売業からの脱皮を図っている。
 本業の氷の小売販売は、店頭売りにとどまらず、販売領域を拡大している。コンビニエンスストアで氷を売り始めたときに、一般 消費者が再び氷雪販売店の氷を買い求めることを察知し、都内各所に純氷の自動販売機を設置した。もちろん、当社前にも自動販売機を置き、純氷を販売している。地元のお客さまから「うちの主人は、純氷を買い求めてからは、うちの冷蔵庫で作った氷を使わないのよ」といわれるほど、純氷の評判が高い。
(4) 衛生面の管理にも配慮
 消費者へのアンケ−トによる氷屋さんのイメ−ジは、上半身はランニングの下着で、鉄の鋏で氷を挟んで運んでいる姿を連想するという。2代目は、このイメ−ジを払拭するため業界全体で衛生管理を徹底しなけらばならないと主張する。
  現在、当社は、飲食店の業務用の氷を配達しているが、飲食店用はお客様の口に入るもの、それだけに衛生面 の管理を徹底させている。毎日の配達先は、東京都内で飲食店が集中し飲食店街の拠点を形成している数カ所に及ぶが、配達には、衛生面 に十分配慮した8台の冷凍車を使用している。配達先に着くと、飲食店ごとに小分けした袋の氷を店まで走って配達する。このような地道な姿があるからこそ、顧客の信頼を得ているといえよう。
(5) 3代目には新しいニ−ズ対応の経営を期待
 業界全体が需要構造の変化で大きく後退してしまうと、業者全体が業界の行く末に悲観的になり、ただ横並び的な経営や後退的な経営行動を取りがちになり、ますます業界自体が衰退しかねない。しかし、2代目は氷雪販売業の市場の将来動向について悲観していない。3代目には、飲食店が求める新しいニ−ズに応え、3代目の目で見た新しい世界を築いて欲しいと期待する。本来、ヒトは創造的な活動を発揮する活力を生まれつきもっている。その活力をうまく生かせるかどうかは、独創性を重視した経営に挑戦することにかかっている。2代目は経営の実践の中で独創性を十分に発揮しているといえよう。そして、先代の進取の精神に加え、先見性を備えているのが、心強い。(全国生活衛生営業指導センタ−「生衛ジャ−ナル」2003年7月号引用、加筆)

資料
  1. 厚生労働省「氷雪販売業の実態と経営改善の方策」(平成12年3月)
  2. 厚生労働省「衛生行政業務報告」
  3. 中小企業リサ−チセンタ−「ケ−ススタディ・成長企業」
  4. 金融財政事情「企業審査事典」
  5. 中央法規「生活衛生関係営業ハンドブック2001」(生活衛生関係営業資料)
  6. 全国生活衛生営業指導センタ−「生衛ジャ−ナル」2003年7月号
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